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キスしませんか?【二年前の後悔】

作者: ざきみや

「キスしませんか?」


目の前にいる可憐な少女は確かにそう言った。辺りを見渡すが人は一人としていない。そこでやっと僕に対して、言ったのだと理解する。


「え、えっと君は??」


「私は友樹先輩が通ってた高校の三年生で橋田天音(はしだあまね)です。天音って呼んでください。今は先輩が通ってる大学をめざし、日々精進しています」


「僕は君と面識がないと思うんだけどなんで僕が通っている大学とか知っているの?」


当然の疑問だ。面識がないのに知られているのは恐怖でしかないだろう。ならば個人情報が行き渡っている理由をしるしかない。


「佐川友樹、十九歳。都内の有名大学の一年生。高校から二年にかけ付き合っていた彼女とは別れてしまった。と、高校の先生や私の友達から聞きました」


「は、はぁ」


高校時代、様々な先生や後輩とは仲が良かった。となると納得が行く。だがプライベートというものは無いのだろうか。


「とりあえずそれについては分かったとして最初に言ってたキスしませんかっていうのは?」


「そのままの意味です。私とキスしませんか?まだギリギリ鮮度が良いjkですよ」


可憐な少女にキスできるとは一見魅力的な事に聞こえてくるがなぜ僕なのだろうか。きっとそういう事が好きな子で単純に誰でもいいのだろう。


「ごめん。キスはできない」


「ふむ、では私と付き合ってくれませんか?」


「は?」


果たして今目の前にいる少女は何を考えて言っているのだろうか。付き合えばキスができると思っているのだろうか。


「まだjkですよ?それにエッチな子とかキスしてもらいたいだけとか思っているかも知れませんが私はちゃんと友樹先輩の事が好きで言っているんです。過去の女は忘れてjkの私に乗り換えませんか?」


真剣な眼差しで言う天音は嘘をついているようには見えない。しかし、どうにも信じられない。


「丁度一年前の十二月、私は可愛いせいで変な先輩に絡まれていました。しかもその変な先輩はなんか怖くて逃げ出すにも逃げ出せなくて困ってたんです。そんな時に友樹先輩は変な先輩に話をして止めてくれました。そして助けたことを理由に近づこうともしない友樹先輩に私は逆に興味をもったんです。ーー助けてくれたこと覚えていますか?」


「言われてみればそんなこともあったような気がする」


一年前に絡まれていた子がおり、止めにはいった記憶がある。その時の子だとは気づきもしなかったが。


「私はそれから先輩の事を好きになりました。でも先輩には彼女が居ました。でも私は先輩のことが好きなんです。だから一年間ずっと、友樹先輩に彼女が居なくなるのを待ってたんです!!」


その想いは本物だ。天音は本当に僕のことが好きなのだ。一年もこの機会を待ち、その間学校が違ってもずっと想いを募らせてきたのだ。


「私は友樹先輩が好きです。ーー私と付き合ってくれませんか?」


気づけば天音の美しい銀色の瞳に涙が浮かんでいた。だが、こんなにも想いがあるのに現実は残酷である。


「ごめん。僕は当分の間、付き合いたいと思えない」


僕はまだ別れたばっかだ。付き合おうとは到底思えない。それに付き合っていた彼女にはまだ気がある。そんな状態で付き合ったら失礼に当たるだろう。


「そう……ですか。ではせめて友達になってくれませんか?」




***********************




あれから二年が経った。

天音とはあれから仲良くなり、今では無類の友人だ。天音もゲームが好きでよく一緒にやるのだ。


「友樹先輩。また来週の休みも遊びに来て良いですか??連れ込む女もいないでしょうし」


「う、辛辣だけどその通りだし良いよ」


二年経った今でも誰とも付き合ってない。むしろ告白されたのは天音にされたのが最後でそれからはされていない。だが二年も経てば彼女は欲しくなるものだ。


「あ、じゃあその時に新発売のゲーム持ってきますね?一緒にやりましょう」


「おう、気おつけて帰ってね」


そう言って見送り、家のドアを閉める。静かになった部屋はどこか虚しく、切なく、寂しい。この二年間で僕は天音の事を好きになってしまった。だからこそ一緒に居る時間はとても楽しく、一人になると余計に寂しい。ただ二年前、天音の告白を断ってしまった。そんな中で僕は天音に告白する権利はないだろう。


「はぁぁ」


深い溜息をつきながらソファに座り、テレビをつける。


「緊急ニュースです。〇〇区で殺人事件が起こりました。被害者はまたもや女子大学生で犯人は未だに特定に至っておりません。警察は同一犯の事件と断定をし捜査しておりますがーー」


〇〇区とは僕が住んでいる✕✕区のすぐ隣の区である。〇〇区は徒歩で行けるほどの距離だが狙われているのは女子大学生らしいため僕には関係はない。ただ、天音には気おつけるように連絡をしておこう。天音はニュースを見ないため、こういう情報には疎いのだ。


「何も無いといいんだけど」




**********************



私は橋田天音、20歳です。友樹先輩と同じ大学に通う女子大学生です。私は友樹先輩が好きです。しかし、二年前告白したら振られてしまいました。それでも私は未だに想いを募らせています。友樹先輩にはそういう気があるようには思えないのに一緒に遊んだりするたびに期待してしまう馬鹿な女です。そんな友樹先輩から一週間前、連絡が来ました。友樹先輩から連絡が来るなんてほとんどないためなんだろうと思って期待してみたらーー


『天音、なんか〇〇区女子大学生殺人事件が多発しているみたいだから気おつけて 』


まったく期待させないでください!それでも心配してくれたことは嬉しいですしドキッとします。それでももうちょっとこう好きだよとか会いたいよとか寂しいよとかないんですか。私は好きですし毎日会いたいですし絶えない寂しさがあります。それでも今日、先輩の家にゲームしに行く約束をしています。もう先輩が住んでいるマンションの目の前まで来ているのでもうすぐで会えると思うと少し寂しい気持ちが楽になります。会ったら完全に寂しいという気持ちは無くなるのですが。


「すみません、この辺りで鍵を落としたと思うんですが知りませんか?」


突然マスクをした男性に話しかけられてしまいました。早く友樹先輩に会いたいですが困っているようなのでちょっとだけ手伝おうと思います。


「ごめんなさいまったく知らないです。どんな鍵ですか?一緒に探すの手伝いますよ??」


「ほんとですか?実はこんな感じの鍵を探していましてーー」


そう言って男性がポケットから取り出したのはーーナイフだ。そこで先輩が言っていた女子大学生殺人事件を思い出す。その事件の犯人が今目の前の人だと分かった。


「きゃぁぁぁぁぁーーっ!ぁ」


一瞬の事だった。なにかするでもなく、刺されてしまった。


「ぁぁぁ」


声がでない。痛い、苦しい。火であぶられているかの痛いような感覚痛いが絶え間なく痛い続いている。ここで痛い死にた痛いくない。私痛いは先輩痛いまだ痛い会痛い痛いえて痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーー先輩痛いよ、助けて。




***********************



今日は天音が来るのだが、約束の時間が過ぎている。今までこのようなことも無く、むしろ早く来るほうだったのだ。電話を掛けるも繋がらない。


「緊急ニュースです。✕✕区で殺人事件が起こりました。被害者は女子大学生でーー」


その瞬間、すぐに立ち上がり気づけば家を飛び出していた。テレビの緊急ニュースを聞き、顔を上げるとテレビの画面に映っていたのはこのマンションのそばにある路地だったからだ。そして女子大学生が被害者というのも物語っていたからだ。それでも無事を祈ってしまう。思いすごしであって欲しいと願う。だが現実は残酷であるのだ。それを誰よりも分かっていたはずだった。


「天音ッ!!」


人混みを掻き分け、救急車に乗せられていく天音を見つけ近寄っていく。


「せん……ぱい?」


「そうだ、先輩だ。どうか死なないで」


気づけば涙が零れていた。


「なかないで……せんぱい」


「そんなの無理だ。お前が生きてくれないと僕はーー」


「ぼく……は?」


「寂しくて生きていけなくなる」


言う資格はない。それでも今だけは、今だけは想いを伝えるのを許して欲しい。


「僕は天音が好きだ。天音が居ないとだめなんだよ」


声に力が入ってないのが自分でもわかる。それもこれも泣いているせいだ。嗚咽が漏れる。泣きたいのは天音の方なのに泣いてしまう。そんな自分に嫌気がさす。


「うれしい。わたしもせんぱいが……すきです」


想いをずっと溜め込んでいたのだ。その想いを吐き出し初めたら止まらなくなっていた。


「僕と付き合ってください。そして一緒に生きよう」


「はい。いっしょに」


ここを乗り越えたら改めてきちんと告白しよう。そう、心に決める。


「ねぇせんぱい?わがままいってもいいですか」


「?」


「きす……しませんか?」


そう言って目を閉じる天音に唇を重ねる。死にかけとは思えないほど天音の唇は柔らかかった。

そして天音は搬送されていく。救急車に乗せてもらい同伴する。その間も手を握り天音をひたすら応援する。やがて病院に着き、手術が行われる。

ーー突然、手術中のランプが消える。それと同時に医師が一人出でくる。


「無事終わりましたか!?」


すぐさま立ち上がり、医師のそばに駆け寄る。


「手術するも死亡してしまいました。刺されたところが悪く、死因は出血死かと思われます。ご期待に添えず、すみません」


ただひたすらに後悔した。二年前のあの日に戻れたらと後悔した。

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