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異世界遊園地で働くことになりました  作者: 左内
最終章 異世界遊園地にさようなら
44/47

44.純白の剣

 押し寄せてくる兵士の怒号。

 それを聞きながら真尋は飛び退った。

 代わりにサリーが前に出る。


「みんな押さない駆けないしゃべらないーっ!」


 彼女を中心にぶわりと不可視の波動が広がった。

 それに触れた兵士が急に立ち止まり、後ろから来た者とぶつかり合って金属音を立てる。


「くそ! なんなんだ!」


 苛立ちの声が上がる。


「へっへーんだ。防災減災・おかしの呪法だよーんだ」


 またけったいな呪いを発動したようだが、とりあえず敵の侵攻は鈍った。

 その隙に真尋はさらに後ろに跳んだ。

 そのまま池に真っ逆さまに落ちていく――が。


 ぶよん。

 かすかな音を立てて生み出された泡ガニの泡が、真尋を包んで受け止めた。


「ありがとうございます!」


 礼を言って、能力を発動する。

 池の超噴水機構が動き出す。

 機構は真尋の入った泡を持ち上げて、一気に機械城の方へと吹き飛ばした。


 高所から見下ろす遊園地は、これから始まる長い一日に向かって今息を吹き込まれたところだった。

 真尋は大声で叫んだ。


「みなさーん! お客様入られましたー!」




◆◇◆




「……」


 開園時間になっても、ココはステージ裏の切り株で頬杖をついていた。


「リーダー、お客様入られたらしいっすよ!」

「ああ」


 猿の呼ぶ声にも生返事。

 ずっと遠くを見ていた。


「……リーダー?」

「すぐ行くよ」


 しっしっと後ろ手で追い払う。

 そして誰もいなくなった広場で、つぶやいた。


「……あたしも一緒に行けばよかったなあ……飢羅滅鬼」


 そして浮かび上がり、伸びをした。


「でも、ま、こうなった以上頑張りますか」


 遠くから敵の雄叫びが聞こえる。




◆◇◆




「あーあ。ぼくはただ人気者になりたいだけだっていうのに。どうして運命はぼくを嫌うのか」


 開園時間を過ぎ、ネロネロは早速同僚に愚痴っていた。


「こんなイベント割に合わないよ。痛い目に見るだけじゃないか」

「大将確か結構乗り気でしたよね?」

「流行りは刻々と変わるのさ。乗りこなせないとおいてかれるよ」


 グダグダとくだを巻きついでにとぐろを巻く彼に、その同僚は少し考えてから耳打ちした。


「でもカッコいいところ見せればエリザベスさんも惚れ直しますね」

「……」


 ネロネロは呆れたように同僚を横目で見た。


「ぼくがそんなことでそそのかされるとでも?」

「失礼かもですけど、はい」

「その通りだよ」


 ネロネロはいそいそと準備に入った。

 同僚はその背中を見て、そういう単純さもカッコいいかもな、と思った。




◆◇◆




 エリザベスは火山の中、静かに闇を見通していた。

 火山の火種が作る光と影。

 その合間をずっとにらんでいた。




◆◇◆




 そして真尋は。

 真尋は機械城の暗闇で、目を閉じて待っていた。

 そこは動力石があったあの部屋だ。

 ドーム状の、広い一室。

 しばらく黙して座っていると壁の一部が開き、光が差し込んできた。


「おや。ここにあると思ったんだが」


 革鎧の男。

 逆光の中すっくと立ち、部屋の中を見回している。


「何のことです?」


 真尋が訊ねると、男は抜き身の剣を見せつけるように提げたまま踏み入ってきた。


「そりゃこの遊園地の動力源だよ。莫大なエネルギーを持っているそれを、わが国に持って帰りたいんだ」

「それは大変な使命をお持ちですね」

「渡してもらえないかな?」

「ご要望には沿いかねます」

「ほう……」


 男の顔がにやりと歪む。


「それじゃあ力ずくでも奪って帰ろうかな……」

「それも残念ながら……僕たちの仕事はお客様に遊園地で楽しんでもらうことなので。そのためには動力石を渡すことはできません」

「そうわがまま言うなよ。お前に俺を楽しませるなんて不可能なんだからよ」


 男の歩みが止まった。

 真尋の正面。五歩ほどの間合い。

 こちらに剣を突き付け、恫喝する。


「さっさとよこせ、殺されないうちに」

「……」


 真尋はその剣先を見つめ。

 それから胸に手を当てた。

 掴み、引き抜く。


「……なに?」


 男のうめく声を聞きながら、真尋は取り出した純白の剣を手で撫でた。

 懐かしい、冷たい手触り。


「それは……」

「動力石です。これでお客様のお相手をします。楽しんでいただけるよう精いっぱい努力させていただきますのでどうかよろしく」

「ガキが……ふざけやがって」


 男が剣を構える。

 真尋もまた、剣を構える。


 にらみ合い。

 同時に踏み込んだ。

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