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異世界遊園地で働くことになりました  作者: 左内
第一章 異世界遊園地へようこそ!
3/47

3.名前はリオというらしい

 部屋を出ると無人の廊下が左右に伸びていた。灰色の壁と床。天井はうすぼんやりと白く光っている。

 少女は右に進んでこちらに手招きした。


「早く。こっちです」


 追いかけてついていくとつきあたりに扉があって、身体で押すようにして少女がそれを開ける。

 途端に風が吹き込んできた。


「この避難用の外階段を下りて行けば誰にも見つからずに行けると思います」


 確かに建物の側面を降りていく階段だった。

 ただ、いつの間に高い階に来ていたのだろうかと不思議ではあった。間違いなく洋館に入った時は一階で、しかももやに襲われて落ちた気までしたというのに。


「どうしたんですか?」


 階段の手すりから乗り出して真尋は周りを見回した。


「ここは、なに?」


 少なくともあの洋館ではない。

 それは一見すると巨大な塔に見えた。小さな部屋が寄り集まるようにして一つの構造物になっている。

 あちこちから飛び出す太い煙突。近くにあったそのうちの一つから、蒸気がプシューと噴き出した。何かが上の方で重い音を立てて回転している。よく見ると大きな歯車だった。

 少女が不思議な顔をする。


「お城ですけど……なにか?」

「お城……」


 工場かと思った。


 真尋は下りていく彼女に続きながら、下に広がっている風景に目をやった。パッと見には元の遊園地に見えた。だが何かがおかしい。


 まず人がいる。閉園している遊園地なのに。

 アトラクションも稼働しているようだ。気球らしきものが空へ飛びたったところだった。その向こうに黒い煙を上げる山。腹に響く音と共に噴石を打ち上げた。


「うわ……!」


 高く舞い上がる塵。

 それを目で追っていると、空に長大な何かががくねくねと飛んでいるのを見つけて真尋はぎょっとした。


「あ、あれはなに?」


 振り向いた少女は、真尋の視線を追ってああ、とうなずいた。


「スカイスネークのネロネロさんです。今日も頑張ってますねぇ」

「が、頑張ってる?」

「お客さんに楽しい空の冒険をお届けするのがネロネロさんのお仕事です。この遊園地一番の人気アトラクションなんですよ」


 なぜか最後の一言だけその表情が曇った。

 真尋は何だろうと引っかかりを覚えたが、訊ねる前に彼女は身をひるがえした。


「さ、行きましょう。ぐずぐずしてると見つかっちゃいますよ」

「あ、うん」


 降りた先はお城の裏手だった。木がまばらに林立していて、人気はない。


「こっちです。ついてきて」


 左手に灰色の壁がそびえている。見たところ十メートルほどもありそうな本当に高い壁だ。

 それに沿うように走っているらしい。


「ね、ねえ、どこに向かってるの?」

「入場ゲートです。そこから出てしまえば後はどうとでもなるはずです」

「そんな簡単に出られるの?」

「入るのはチケットが必要ですけど、出るだけなら堂々としてれば多分……」


 途端に自信なさげな顔になるが、はっとこちらの表情に気づいて慌てて言い直した。


「だ、大丈夫ですよ。問題ないです。絶対です!」


 そのまま不気味な屋敷の裏を抜けて進む。

 もう一つ、ドンドコドンドコと妙な太鼓の音が聞こえてくる大きな建物があったが、その裏を抜けると、賑やかな人の気配がしてきた。


「この先です。出られますよ。あとちょっと――」

「リオ!」


 その時突然声が聞こえた。

 少女の足がびくりと止まった。


「リオ! いるんだろ。リオ!」

「あわわ……」


 急に少女が慌てだす。

 こちらの手を引いて物陰に入った。

 それと同時に声の主が姿を現す。


「ったく、どこだリオの奴。間違いなく気配はするのに」


 真尋は目を見張った。

 やってきたのは身の丈二十センチにも満たない小さな女性だった。

 しかも宙に浮いている。背中には薄く半透明な羽。


「妖精……?」

「ココさんだ……」

「リオ! この、リオ! 隠れてないで出てきな! メイルのコンサートが終わっちゃうでしょうが!」


 真尋は少女の方を見た。


「リオっていうのは……君?」

「はい……あ、そういえば言ってませんでしたっけ。リオです。よろしくです」

「あ、うん」


 物陰からのぞくが、先ほどの妖精(?)にその場を離れる様子はなかった。


「どうしよう……」

「あの。ボク、出て行こうと思います」

「え?」


 見ると、リオは真っ直ぐにこちらを見つめていた。


「ボクがあの人の気を引くので、その間に逃げてください。入場ゲートはこのすぐ先ですから」

「でも……」


 リオはかぶりを振った。


「大丈夫。マヒロさんならできますよ、きっと」


 出て行こうとするその背中に真尋は声をかけた。


「そういえばお金……」

「いいです。今回はツケってことで。そういうお客さんも割と多いです。また来た時にでも多目に払ってくれれば。ほら、急いで」


 彼女に背を向けて、反対方向に真尋は忍び足で歩き始めた。背後からはぞっとするほど激しい怒鳴り声と必死で謝る声が聞こえた。


 入場ゲートが見えてきた。

 大きな門からたくさんの人が入ってくるのが見える。楽しそうな雑談、遠くを指さして歓声。子供が風船を手に奥へと走っていく。


 それだけなら普通の遊園地の光景だった。

 違ったのは、それらの人たちが『人間ではなかった』ということだ。


 例えば翼の生えた人がいる。大きく重そうなそれを背中でしっかりと折りたたんでいる。頭がトカゲの人もいた。まぶたのない目で周りを見回し、機嫌良さそうにチロチロと舌を出し入れしていた。狼もいた。直立二足歩行している狼を狼と呼んでいいものかは謎だけれど。そういえば先ほど駆けていった子供は、肌が緑色を帯びていた気がする。

 つまり、人間ではない人ばかりがそこにいた。というよりそもそも人の形をしていないのも多かった。


「な、なんなんだ……?」


 ふと見るとゲートの先にアーチがあった。上に掲げられた看板には不気味な字体で『ようこそ獄楽ランドへ!』とある。


「本日は全ての生きとし生けるもののためのテーマパーク『獄楽ランド』へようこそ。わたくしどもはどんな種族のどなた様にも楽しんでいただけるよう心を尽くしております。どうか夢のようなひと時をお過ごし下さいませ……」


 アナウンスの声が響き、フェードアウトすると、軽快な音楽が流れ始めた。

 真尋は物陰から通りをのぞく。

 すぐ目の前を人外たちの集団が通り過ぎていく。


「うう……」


 頭をひっこめて真尋はうめいた。

 こんなの無理に決まってる。化け物たちの間を何食わぬ顔ですり抜けていくなんて。


 どうしてこんなことになってるんだろう。

 自分は家族を探しに来ただけなのに。


 殺されるなんて嫌だ。殺されるよりもっとひどい目にあうなんて嫌だ……


『大丈夫、マヒロさんならできますよ』


 ふいにリオの言葉が頭によみがえった。


 おどおどと気弱そうな子だった。こちらを見る瞳が揺れていた。

 だけどそれでも真尋を助けてくれた。

 入場料をツケにしてくれた。


「……」


 不思議と緊張が解けた。足が動く。

 ゆっくりと踏み出し、ゲートの方へと向かう。


(大丈夫、大丈夫……リオだって多分人じゃなかったけど、見た目は人間っぽかったじゃないか)


 なら人間のような姿の人外もきっと珍しくはないのだ。

 いける。


 通りに出た。

 喧噪の中に取り込まれる。

 思った通り、人外たちは特にこちらに注意を向けることはなかった。


 真尋はゲートに急いだ。

 走れば目立つので、ギリギリの早足で。

 このまま行けば何事もなく出られる。

 ……もし声をかけられていなかったら、本当に上手くいっていただろう。


「ちょっと待っておにーちゃん! もう帰っちゃうの?」

「……!」


 通せんぼするように現れたのは七、八歳ほどに見える少女だった。黒の長髪に白いワンピース。利発そうな目がこちらを見上げている。


「つれないなーもっと遊んで行ってよ!」

「あ、え、いや……」


 焦って舌がもつれるが、気づく。まだバレたわけではないようだ。


「ご、ごめん。急いでるから」


 無理やり脇を抜けようとする。が、少女はその先をさらにふさいだ。


「ダメダメ! 楽しまないうちは帰らせないよ!」

「も、もう十分楽しんだって……」

「嘘つき! じゃあ一番楽しかったアトラクションは!?」

「それは……」


 言えるわけがない。ここのことなど何も知らないのだから。

 少女は勝ち誇って笑った。


「ほらやっぱり! ならあたしに任せて。案内したげる!」

「いえ、本当にいいです! いいですから!」

「あ! 逃げたーっ!」


 真尋はたまらず駆けだした。

 ゲートはほんのすぐ目の前、ここまで来て失敗なんて絶対にごめんだ。死に物狂いで走る、走る。


「ちい姉ちゃんお願い!」


 少女の声が響く。

 もちろん無視だ。

 が。


「へぶ!?」


 真尋は何かに足を取られて顔から地面に突っ込んだ。


「よーし! ちい姉ちゃんナイス!」

「ぐぐ……」


 何とか起き上がろうともがく。ここでつかまるわけには……

 しかし、なぜか手が動かない。


「え……」


 その時真尋はようやく気付いた。

 細い布で身体がぐるぐる巻きにされていた。


「ヴァアァ……!」


 はっとして振り向くと、通りの先に人影があった。

 包帯まみれの体。ゆらゆらとした足取り。隙間かららんらんと眼球が輝く。


「み、ミイラ……!」


 真尋は必死にもがいて逃れようとした。だが包帯は全くびくともしない。這って逃げようとするもほとんど進まない。


「誰か、助け……助けて!」


 叫んでみるが、一方で分かってもいる。周りで見ている者の中に人間はいない。一人も。味方がいない。

 目の前から声がする。


「もうあきらめよ? 楽しもうよ」


 先ほどの少女の生首がそこにあった。


「うわあああああああ!?」


 真尋はたまらず悲鳴を上げた。

 慌てふためいて愛犬の名をわめく。


「ジョン、ジョン……!」

「ジョンってだあれ? 大事な人?」

「帰る! 帰らせて……!」


 ガシャ。

 その時妙な音がすぐそばでした。

 見ると、少女の首のわきに、足があった。

 骨のように白い足。というか骨の足だ。


 視線をゆっくり上げていくと、からっぽの眼窩がんかと目が合った。

 骸骨のあごがけたけたと鳴る。


「だい姉ちゃん、笑ったらダメだって。かわいそうだよ」


 ズルリ、と地面から体を引き抜いて少女が言う。

 半透明のその体の向こうに入場ゲートが透けて見えた。


「でも、まあ確かにちょっとオモロだよね」


 真尋はその声を遠くで聞いていた。


「あれ、大丈夫?」


 のぞきこんでくる少女に返事もできない。

 あまりにわけのわからない出来事の数々にパンクした脳を抱え、真尋は気を失った。

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