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異世界遊園地で働くことになりました  作者: 左内
第三章 スカイスネークは困った奴
19/47

19.プレゼント代はツケで

「で、だ」


 心底呆れたようにネロネロがため息をついた。


「それで君たちはおめおめと逃げ帰ってきたってわけかい?」


 おめおめと逃げ帰ってきてネロネロハウス。

 焼け焦げた制服の端っこを恨めしげにいじりながら、リオは彼を見上げた。


「でもネロネロさんの言葉はちゃんと伝えましたよ」

「何を言ってるんだい! 伝えるなら赤ちゃんや卵でもできるだろう! 問題は伝え方だよ。怒らせてどうするんだ」

「だってマヒロさんの命がかかってたんですもん……」

「わけの分からない言い訳するんじゃない!」


 まあ彼にはどうでもいいことだろうが。


 とりあえずネロネロの言うことには一理ある。

 言葉は伝えればそれでいいというものではない。

 相手の心を動かしてこその言葉なのだからそれなりの伝え方というものがあるのだろう。

 とはいえ、と真尋はつぶやく。


「ネロネロさん、滅茶苦茶嫌われてましたよ。伝え方で何とかなる問題じゃあ……」

「何度も言わせないでくれよ。人気者は嫌われない」

「えーと……」


 ここにも伝え方ではどうにもならない相手が一人。

 真尋はにわかに痛んできた頭を押さえた。


「諦めるってのは……」

「馬鹿馬鹿しい! 好かれてるのに!」

「しばらく様子見……」

「放っておいたらエリザベスちゃんがかわいそうだろう!」

「……じゃあどうします?」

「それを考えるのが君たちだってば。使えないなー。つっかえつっかえ。ゆーじふるさのかけらもない」


 なんだか好き放題言っている。


「まあ仕方がない。仕事ができるオスはちゃんと次善の策も考えている。君たちも見習うがよいよ」


 そう言って尻尾をこちらに伸ばす。

 その先に握られたメモ用紙をリオが受け取った。


「作戦その一、プレゼント爆撃であの子のハートを撃ち落とせ?」

「作戦その二、厚い熱いラブ・レター、君の心にポストイン……」


 リオと二人で冒頭を読み上げて。


「なんですかコレ」

「名付けて! 恋の爆裂大作戦! ~あなたの心は誰のもの~」

「副題まで」

「完璧なプランだよこれは。彼女を落とすための方策をずらり百個は挙げてある」


 ネロネロはニコニコとそう言うが。


「どうしましょうマヒロさん、四個目から下は字が細かすぎて読めません……」

「読めるところにしたってほぼほぼ冗談みたいな作戦しかないし……」


 催眠術ってなんだ。

 遠隔式剛力恋愛呪法ってなんだ。


「ああ見えて案外必死なんでしょうか……」

「と、言うわけで!」


 ネロネロが勢いよく尻尾を振り上げる。


「行くがよいぼくの恋のキューピットども!」


 出発する前に、真尋は一応訊ねておいた。


「あの……プレゼント代は」

「? どういうこと?」


 彼の中では何の矛盾もなくこちらが払うということになっているらしい。

 まあやっぱりな、と思いながら出口のドアを開けた。




◆◇◆




「あのあのこれとかどうですか?」


 商品棚から星飾りのヘアアクセサリーを持ち上げてリオが言った。

 場所は物販コーナーの店先。

 ネロネロハウスでの困った顔から一転して、どことなく楽しそうな声だ。


「……どこに留めるの?」

「あれ、見ませんでした? エリザベスさんて実はまつ毛生えてるんですよ」

「……へえ」

「せっかくですから奮発して五、六個買っちゃいましょう」

「……」


 その他花束香水女子にバカウケ特製スイーツ等々を次々買い込んでいくリオの背中に、真尋は少し迷ってから声をかけた。


「結構ノリノリだね」

「なんだかワクワクしてきちゃいました!」

「僕はよくわからないけど」


 そう言うと、リオは振り向いて目をぱちくりさせた。


「人の恋って応援したくなりません?」

「え?」

「あれだけ必死なんですもん。ボクはうまくいってほしいなって思います」


 リオはまた品定めに戻る。

 真尋は何となく次に言う言葉を見失って立ち尽くした。

 両手にはリオが買いこんだ荷物の山。

 遠くからは何かのアナウンスが聞こえる。


 リオがぽつりと言った。


「実を言うとボクも他人事じゃないからなんですよね」


 物色の手が止まる。


「好きな人がいました」

「え……?」


 往来の喧噪の中で、リオのその声はなぜかよく聞こえた。


「ボクはここに来る前、ずっと昔、ご主人様たちと一緒に暮らしていました。ボクはご主人様が大好きで……でも身分も何もかもが違ったからどうしたところで結ばれることはないと分かってもいました。そのうちにご主人様とは離れ離れになってここに来て、それっきりです」


 その肩が震えるのが見えた気がした。


「気持ち、ちゃんと伝えればよかった……」

「リオ……?」


 かけるべき言葉が見つからなかった。

 そのうちにリオは勢いよく首を振った。


「よし、次行きましょう!」

「え?」

「あっちに良さそうなのがありそうです。こうなったら絶対エリザベスさんを落としちゃいますよ!」


 駆けていってこちらを振り返る。

 その笑顔からは彼女の胸の内を読み取ることはできなかった。

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