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異世界遊園地で働くことになりました  作者: 左内
第三章 スカイスネークは困った奴
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17.スカイスネークの頼み事

 結局ネロネロが休んだ分は風船ダコたちが肩代わりしたらしい。

 いつもよりも回転数を増やして対応に当たってくれた。

 働き者の彼らは文句も言わずに休憩時間を返上して空へと飛び、お客も先ほどの騒動で毒気を抜かれたのかあれ以上の混乱はなかったようだ。


 ただ、スカイスネークアトラクションのスタッフには訊かれた。


「一体どうしてうちの大将は急にサボりを決め込んだんだ? 聞いてない?」

「さ、さあ……?」

「まったく勘弁してほしいよ。いっつも気分で仕事したりしなかったりなんだから」

「あの、このまま何日ぐらいもちそうですか?」


 彼は難しい顔で腕を組んだ。


「大将これでも園の看板だからね……二日、長くて三日かな」

「そうですか……」


 ありがとうございます、と頭を下げて歩き始める。


「……どうしましょう」

「なんだか妙なことになったね」


 道を歩きながら真尋はうんざりと頭をかいた。


「なんで普通に仕事したら恨まれなきゃならないんだろ」

「ネロネロさんもショックだったんでしょうねえ。ちょっとかわいそうです」

「……」


 優しいのかやっぱり無自覚に嫌味っぽいのか。

 少し判断しかねていると、リオが不安そうにこちらを見上げてきた。


「で、どうします?」

「あの頼みごとのこと? どうするも何も受けるしかないし受けちゃったけど……」

「でも、怖いです……」

「エリザベスさんだっけ……そんなに?」

「不機嫌の塊です……っていうか不機嫌の権化です……」

「うーん……」


 まだあったことのない火竜の姿を思いながら真尋は顔をしかめた。


「もういっそのこと無視して放っておいたらどうかな。ネロネロさんすごく目立ちたがりっぽいし、三日も注目されない生活が続くなんて耐えられないと思うんだけど。どう?」

「……」


 リオは考え込んだようだった。

 が、きっぱりと言った。


「いいえ、やっぱりやりましょう」

「どうして?」

「人が困ってるなら、力になってあげたいです」


 やることになった。


 メイルのコンサートが終わって昼過ぎ。

 真尋とリオは湖沿いの道をぐるっと回って、火山のふもとにいた。

 山頂からの煙を見上げてリオが眉尻を下げる。


「……不機嫌ですねえ」


 そういえば煙の具合で機嫌が分かるとのことだった。


「まずい感じ?」

「話しかけ方次第では消し炭にされます」

「げ……他の日にしない?」


 かなりやる気をそがれながら言うのだが、リオは首を振った。


「時間がありません。それに今日はいい方ですよ?」

「……消し炭で?」

「はい、口にさえ気を付ければ意思疎通できるんですから。エリザベスさんには珍しいことです」

「ええ……機嫌いい日ってないの?」

「数十年前に一度あったらしいですけど……」

「そっか。うん、分かった……」


 行くしかないらしい。

 腹をくくってリオの後に続く。


 山には決められた登山ルートがある。

 あまり高くもないので登山というには少し違和感もあるが。

 とにかく山肌を巻くように登っていくと、火口が口を開いているらしい。


「でもそっちのルートではエリザベスさんには会えません。こっちから行きます」


 別ルートで少し登ったところで横にそれた。

 切り立った崖があるだけで何もないように見えたが、リオが岩肌に触れるとそこがガコンと口を開いた。

 隠し扉だったようだ。奥からは生暖かい風が吹いてくる。


「覚悟はいいですか? 行きますよ」


 扉をくぐって壁に手を突きながら奥へと進む。

 向こうにぼんやりとした明かりが見える。

 近づくにつれて頬に当たる風がどんどん熱くなってくるのを感じる。

 最後にはとうとう噴き出してきた額の汗を拭きながら、明かりの中へと踏み込んだ。


 着いた場所は、岩をくりぬいてできたような広い空洞の中だった。

 見回すと空間の中心には赤々と燃える炎があって、それが先ほどまでの明かりと熱の源だったようだ。


「この火山の火種です」


 リオが小声で教えてくれた。

 上を見ると、頭上に穴が開いていて、遠く上の方に空が見えた。

 火口か。

 と。


「誰だい」


 声が聞こえた。

 低く、腹に響く声だ。

 慌てて見回すと、奥の暗がりに何かがうずくまっているのが見えた。

 鋭く光る切れ長の目も。


 ずずず……と何かを引きずる音。

 一瞬強く吹き付ける熱風。


「見覚えのあるチビと、見覚えのないやせっぽちか。土足で人の寝所に入るとは度胸があるね。死にたいのかい?」


 明かりの中に進み出てきたのは、巨体を引きずる大トカゲだった。背中には翼もある。

 まさしくファンタジーのドラゴンだ。

 その開いた口から炎が漏れる。

 勢いは弱くない。


「あ、あのあの、エリザベスさん」


 前に出たのはリオだった。


「お休み中のところ起こしちゃってごめんなさい。そのことについては心から謝ります。ですけどもしよければ話を聞いてもらえませんか?」

「人の眠りを邪魔してまで聞かせる話なんてろくなもんじゃないね。それでうんと言ってもらえる思ってるなら能天気もいいとこだ」


 火竜はこちらを厳しく睥睨する。


「あの世で後悔しな。今度生まれるときは燃えない体になれるといいね」


 その口がカッと開いた。

 リオが目をつむって叫ぶ。


「エリザベスさんとデートしたいって人がいるんですけど!」


 火竜が炎を吐きかけたその格好のまま硬直した。

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