14.アトラクションは僕の思いのまま?
「ご迷惑をおかけしました」
救護室で、女性が深々と頭を下げた。
あれから数十分後。
助けられた子供の怪我や体調の確認、服を提供しての着替えなどが終わって、今ようやく落ち着いたところだった。
「ありがとー」
母親の隣では手を握られて、女の子がふくふくと笑っている。
新しい風船のひもを手に握ってご満悦なのだろう。
その足はどうやら早く外のアトラクションへと向かいたがっているようだった。
「あなたもごめんなさいしなさい。こんなことになったのは誰のせいだと思ってるの」
「むぅー」
「あはは……あんまり気にしないで下さい。幸い怪我人も出なかったことですし」
苦笑してリオが言う。
「引き続き当園を楽しんでいっていただければ嬉しいです」
「本当にありがとうございました」
「お姉ちゃんまたね!」
他のスタッフに案内されて親子は救護室から出て行った。
子供に振り返していた手を下ろして、リオはため息をついた。
「よかった、大事にならなくて……」
「こっちにもやっぱり管理責任とかそういうのあるの?」
「もちろん。専属の弁護士さんもいますよ」
「いるんだ……すごいね」
となると裁判所もあるのだろうか。
なんだかやっぱりいまいちよく分からない世界だなと思っていると、リオの視線に気づいた。
「……なに?」
「マヒロさんって魔法使いなんですか?」
「魔法使い?」
「だってさっきの……」
言われて思い出した。
さきほどの水柱は真尋の声にこたえるようにして上がったのだ。
「マヒロさんのおかげで助かりました。でも、あんな力があったなんて」
「い、いや違うよ。あれは……あれ?」
なぜできた?
疑問が浮かぶが同時に答えもそこにある。
できると思ったからできた。
できるのが当然だと思った。
「でも、僕は魔法なんて……」
その時救護室の開いた窓から、大きな音が聞こえてきた。
外をのぞくとあの湖からまた水柱が上がっているのが見えた。
「あ……そうかウォータースプラッシュ!」
リオが手を打つ。
「あれは園のアトラクションの一つなんです。泡ガニさんの作った泡の乗り物を水で押し上げるっていう……」
「じゃあもしかしてさっきのも?」
「多分そうです。でも、マヒロさんが動かしたんですか?」
「そんなはずは……」
ふと思い立って真尋は空を指さし念じる。
「……あ!」
どこからともなく打ち上がった花火が、真尋の指さした先で弾けた。
二人並んで目を見開く。
「すごいすごい! でもなんで……?」
「もしかして、動力源の石がここにあるからとか……」
腹をさすりながら唾を飲みこむ。
一週間近くたった今も、この中に異物があると意識するだけで気持ちが悪い。
呪いの紋様もセットなのでなおさらだ。
「なるほど、マヒロさんの意識とリンクしてるってことですか……」
口元に手を当ててリオが何かを考え込む。
「何かに利用できないですかねえ」
「何か?」
「ああいえ、マヒロさんの呪いを解くのに使えないかと思って。あの石はすごい大きなエネルギーを持ってますから」
「そうなの?」
リオはうなずいて、ぐるっと遊園地全体を示して言った。
「ここのアトラクションの動力は全部あの石がまかなっています。園を外から守る防護壁とかも。明かりや水道の諸々細かい設備も全部動力源由来です」
「それで支配人の人たちはあんなに必死だったのか……」
「それだけ莫大なエネルギーですから、使い方によっては呪いなんて簡単に解けると思うんです」
「使い方……」
腹をもう一度見下ろす。
が、すぐに途方に暮れて顔を上げる。
「……どうやって?」
「さあ……そこまでは」
勢いを失ってリオが眉尻を下げる。
「で、でも、諦めないで行きましょ? 元気出してください」
あとそれから、と彼女は続けた。
「気を付けないといけないことが二つほどあります」
「? なに?」
「動力源のエネルギーは無限ではありません。使い方には注意しなければいけないということ、それからもう一つは――」
「ごめん、ちょっと待って」
「? なんですか?」
真尋は向こうにできている人だかりに目をやった。
「なんかあっちの様子が変だ」
「また迷子ですか?」
「どうだろう」
言いながらもそれはなさそうな気はしていた。
何やら殺気だった気配が伝わってくる。
「あそこには何が?」
訊ねるとリオは、
「ネロネロさんのアトラクションです」
と答えた。