第一章・磯鶴高校船釣り部・その五
本日の釣果。
歩はウミタナゴ五尾、マハゼ三尾、シロギス二尾、イシモチ一尾。
小夜理がウミタナゴ四尾、マハゼ七尾にハオコゼ一尾(放流)。
風子はウミタナゴ三尾にシロギス一尾と木っ端ガレイ(カレイの稚魚)が一尾(放流)。
八尋、ウミタナゴ二尾とショウサイフグ一尾(放流)。
「今日はタナゴばっかりだったなぁ」
結局誰も五目釣りを達成できませんでした。
「いいじゃないですか。おかずには多すぎるくらいですよ」
釣り研究部員の四人は釣行を終えて、オンボロ部室小屋の前に集合しています。
「ウミタナゴっておいしいの~?」
八尋のショウサイフグを除けば、今回最も大きな魚を手に入れたのは風子でした。
堤防で二十五センチを超えるシロギスなんて、滅多に上がるものではありません。
「味は薄めですけど、身がプリプリしておいしいですよ」
「わ~い!」
「でもこいつら、どうやって食う?」
夏場のウミタナゴは、大きくてもせいぜい十数センチしかありません。
「お刺身と煮つけにして、残りは開き干しにしましょう」
「ハゼはどうする?」
「焼き干しにして保存ですね」
「保存?」
ただ干すだけならわかりますが、焼いてから干すなんて聞いた事がありません。
「三日から一年くらい干して、雑煮や汁物にするんだ」
「一年も干すの?」
「冬場の保存食なんだ。さすがに一年モノは食った事ねぇけど、いい出汁が取れるんだぜ」
「へえ……」
八尋はお正月の部室小屋で、みんなで炬燵を囲んでお雑煮を食べる姿を想像しました。
「…………暑そう」
真夏に想像するものではありませんでした。
「そんな訳で、八尋くんも手伝ってくださいね」
「いいの⁉」
前回は釣ったキュウセンを捌かせてもらえなかった八尋です。
「いまは正式な部員ですから。それにウミタナゴなら失敗しても惜しくありませんし」
いくらでも釣れるので、タイやメジナといった側扁形の魚を捌く練習台にうってつけなのです。
「わたしもやる~!」
面白そうだと思ったのか、風子もやる気を出しました。
「じゃあ椅子とテーブル持ってこようぜ。小夜理は魚を洗ってくれ」
「ついでに粗塩も持ってきてください」
ハゼは塩でヌメリや鱗を揉み落とさないと調理ができません。