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つりみこ2 ~八尋・誘拐~  作者: 島風あさみ
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第一章・磯鶴高校船釣り部・その二

「私は風子ふっこさんと離れた場所で釣りますね」

 人数が多いと釣りを教えるのに都合が悪く、何人も固まっていると釣果ちょうかにも影響するので、小夜理さよりはチーム分けを提案しました。

「よっしゃ~、今日はとことんつきあうよ~!」

 風子は飲み屋にしけこむ中年オヤジみたいなノリで小夜理のあとを追います。

「さて、準備を続けようぜ。ほら手を動かせ」

「はふぅっ⁉」

 あゆむから二人羽織スタイルでレクチャーを受ける八尋やひろですが、両手をにぎられるのと、背中に当たる大きな胸の感触で、なかなか集中できません。

「あとはチョイ投げやハゼ釣りと一緒だ。仕掛けがちょいと長めだから、キャスティングは大振おおぶりで行け」

 餌づけが終わって、よくやく離れる歩。

 八尋もどうにか集中力を取り戻します。

「ところで五目釣りってなに?」

 胴突き仕掛けの説明があっただけで、五目釣りに関しては、なにも教えられていません。

「釣果の数だけじゃねえ。種類を集める遊びだ」

「そっか、五種類釣るから五目釣りなんだね」

「もちろん、もっと釣ってもいいんだぜ?」

「頑張る」

 不器用な八尋ですが、堤防や甲板で散々仕掛けを投げてきたので、キャスティングはどうにかマスターしています。

 いつもより仕掛けが長いものの、先端のナス型オモリのおかげで糸がからみにくく、テンビン仕掛けより投げやすいのが胴突きの特徴です。

「後ろの安全をを確認してから……ほえっと!」

 気の抜けた声で竿を振る八尋ですが、思ったほど遠くまで届きません。

 熟練者なら倍の百メートルは飛ばせます。

「じゅうぶんじゅうぶん。確かその辺にカケアガリがあったはずだ」

 カケアガリとは海底の段差に生じる傾斜で、水深が急激に変化するこの場所には、魚が集まる傾向があるのです。

「なんかきた~!」

 早速、風子に魚信アタリがきました。

「ハゼだった~」

「まあまあ、まずは一目いちもくって事でいいじゃないですか」

 小夜理がたしなめます。

「そうそう、五目釣りはあくまで個人の釣果で決めるからな」

 歩がキャスティングしながら新ルールを開示しました。

「うん、そんな気がしてたよ」

 先々週の悪樓あくる釣りで経験済みですが、海は同じ場所でも様々な魚がいるのです。

 汎用性の高い胴突き仕掛けなら、五目達成はともかく、三種類くらいは楽勝でしょう。

「おっ、こいつぁ……ちょいとゆるめとくか」

 歩の竿にも、なにかかかったようです。

「よっしゃ、かかった!」

 ガッと合わせてから、リールのハンドルを巻き始めました。

「ちょいとばかり引きがつえぇな。こりゃイシモチかぁ?」

 イシモチはシログチやニベの通称で、頭蓋骨の中にある大きな耳石が特徴の魚です。

 しかし巻いているうちに、魚が突然おとなしくなりました。

「もう静かになりやがった。あきらめの早ぇ魚だ」

 イシモチの中には、すぐに疲れてあっさりぐったり力尽きてしまう個体がいるのです。

 力強い引きがイシモチの魅力なので、歩はちょっとガッカリ。

「もうちょい頑張がんばって欲しかったんだけどなぁ……っと!」

 釣り上げた二十センチほどの魚は、コイとブラックバスの中間みたいな形をしていました。

「やっぱイシモチだったか」

 釣り糸にぶら下がってグーグーとうきぶくろを鳴らしています。

「なんか可愛い。それに、ちょっと柔らかそう……」

「こいつは塩焼きがうめぇ。あとで分けてやるよ」

「自分で釣るからいい。今日釣れなくても、いつか絶対釣るから」

 八尋にも釣り人のプライドというものがあります。

「いい根性だ」

「あっ、こっちにもきた!」

 プルッと竿先が震えました。

「まだ合わせんな。振動が伝わる程度に糸をゆるめて、ちょいと待て」

「わかった」

 プルッ……プルッ、プルルッ。

「ただし合わせのタイミングは自分で決めろ。これって結構運がいるんだ」

「うん……よしっ……ここだっ……!」

 なかなか竿を立てる勇気がきません。

 ブルルルルッ!

「きた!」

 手首をクイッと上げて合わせると……。

 ブルブルブルブルブルブルッ!

「かかった! かかったよ!」

「よっしゃあ! どんどん巻け!」

「ほりゃああああああああっ!」

 小型リールのハンドルを必死に回転させる八尋。

「あれ? これって引きがそんなに強くないけど、なんだかアレに似てるような……?」

 八尋の脳裏に浮かぶのは、ちょっとだけ黒くて平たい悪夢の魚。

「そろそろ上がるぞ」

 海面からタイの出来損できそこないみたいな魚が現れました。

「よかった……ババタレじゃない」

 魚形はイスズミに似ていますが、口吻こうふんとがっていて、色も赤味がかっています。

「ウミタナゴだ!」

 大きさは十五センチほどでタイのような形をしていますが、エンゼルフィッシュやティラピアに近いベラ亜目の魚です。

「これっておいしいの?」

「ちょいと淡泊たんぱくすぎるけど、そこそこうめぇ。開き干しや煮つけにすりゃ割とイケる」

 ギリギリ及第点といったところでしょうか。

「ちょっと氷締こおりじめにしてくるね」

 八尋は救命具のジッパーつきポケットから小型プライヤーを出して、ウミタナゴのふんにかかったはりを外してクーラーボックスに放り込みます。

 歩も自分のイシモチをポイッと入れました。

「エサがなくなってる……」

 仕掛けにいくつもついていたはずのオキアミが、全部なくなっています。

「タナゴはエサ取り名人だからなぁ。みんな食われちまった」

「いっぱいいるの? ハゼみたいに?」

「そう、ハゼみてぇに」

 それは、うまくやれば、すべての鈎にウミタナゴをかけられる、という意味でもあります。

「アタリがあったら合わせてもいいけど、慌てて取り込むな。待ってると他のタナゴが寄ってきて、かかった魚の真似して食いつくんだ。鈴生すずなりだって夢じゃねぇ」

「わかった。次は二尾を目指すよ」

「いや五目を狙おうな」

 他にも釣るべき魚はたくさんいるのです。

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