第四章・ベッドの上でお勉強しよう(意味深)・その一
目が覚めると知らない天井……というか、天蓋つきの大きな寝台に寝かされていました。
「やっと起きたね。このまま寝ているようなら接吻で起こそうかと思っていたよ」
八尋の隣に書生スタイルの男性が座っています。
「わあっ!」
飛び起きたら寝台から転がり落ちてしまいました。
「あいたたたた……あれ? ちゃんと服着てる……?」
八尋の記憶が確かなら、露天風呂で裸のまま眠ってしまったはず。
袖を見ると【なのりそ庵】と筆文字でプリントされていました。
「あっ、浴衣着せてくれたんだ」
なのりそ庵にしては部屋が洋風だなあと、八尋は呑気な疑問を感じます。
「ぼく、お風呂で逆上せちゃったの? でも術がどうとかいってたような……?」
「うん、僕が眠らせたんだ」
「ええっ⁉」
正直に悪事を告白されて驚きました。
「八尋くんがあんまり可愛いかったんで、思わず攫っちゃった」
「ええ~~~~~~~~っ⁉」
クラスメイトに頭をなでられたり抱きつかれたりした経験こそ豊富に持つ八尋ですが、ガチで誘拐されたのは、これが初めてです。
「じゃあここ、なのりそ庵じゃないの?」
和風旅館を改装して使っている【なのりそ庵】と違って、まるで西洋のお城みたいに豪奢な洋室でした。
少なくとも昔の刑事ドラマで誘拐犯がアジトに使っていた倉庫や廃工場には見えません。
「僕と抄網姉の居城だよ。本丸だけ洋風に建て替えたんだ」
本丸以外は和風の城でした。
表から見ないとわかりませんが、きっと凄まじく奇怪な建築物に違いありません。
「えっと……ぼく誘拐されたんだよね? この世界には裸できてるから財産なんて持ってないし、身代金はやっぱり玉網さんから取るの?」
「営利誘拐じゃないってば」
差し出された手を取って、寝台の上に引き上げてもらう八尋。
「常世に帰れなくなった八尋くんには、いろいろと知っておいて欲しくてね」
寝台の脇にある背高な電気スタンドを引き寄せて、分厚い綴じ込みを八尋の前で開きます。
「政治の道具にされるのは嫌でしょ?」
「それって玉網さんたちが信用できないって事?」
「念のためにね。皇族を信用するなんて馬鹿のやる事だよ」
「うんまあ、政治家みたいなものだしね……」
国のためなら嘘をつける人種、という意味では同じかもしれないと、八尋はとりあえず納得する事にしました。
ただし、それをいうなら目の前にいる人物だって皇族には違いありません。
これは眉に唾をつけて話を聞いた方がよさそうです。
「長くなるから寝っ転がって。古語や専門用語があるから、僕が掻い摘んで読み聞かせてあげるよ。座布団があるから使うといい」
「うん、ありがと」
八尋はクッションをお腹の下に敷いて、うつ伏せに寝て両肘をつきました。
「これは八百年ほど前の文献なんだけど……」
綴じ込みには古文書を映した大きな白黒写真が貼りつけられています。




