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つりみこ2 ~八尋・誘拐~  作者: 島風あさみ
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第三章・ピローファイト・その三

「わあっ近い近い近いったら!」

「あれー? 稲庭いなばきゅんって女の子だったっけー?」

 豪華な夕食のあと、お玉を持った小夜理さよりの牽制であゆむ風子ふっこに女湯へと引きずり込まれる心配もなく、無事に皇族専用風呂の【潮表しおおもての湯】で入浴を済ませた八尋は、蕃神専用の続き部屋である【隠根之間かくれねのま】で、浴衣姿の作江さくえせまられていました。

 四つんいで迫る作江の襟元えりもとから胸の谷間がチラチラ見えて、とても教育に悪そうなビジュアルです。

「当たり前じゃない。この世界は女子しかこれないって聞いたわよ?」

 八尋を布団に押し倒そうとする作江の帯をつかんで、他の布団へと放り投げる莞子かんこ

「歩が変態なだけよ。まさか女の子が好きとは思わなかったわ」

 蕃神ばんしん専用風呂【潮通しの湯】を前にした廊下での騒動は、莞子たちも目撃しています。

「でも稲庭いなばきゅん、教室じゃ男子の制服着てたよー? 象さんを確認してないから絶対男子とはいいきれないけどー」

 八尋はズボンを穿いても男子に見えません。

「ああ、それな。八尋はここにくると女になっちまうんだ」

「「「「ええ~~~~っ⁉」」」」

 驚く船釣り部一同。

 作江はともかく、他の三人は堤防にいた八尋を、あさがり丸から遠目で見ただけなので、てっきり女の子だとばかり思っていました。

「じゃあ、いまの稲場きゅんはモフってもいいんだよねー?」

 作江は八尋がみがまえるまえにおそいかかってきた!

「それもう俺がやって折檻せっかんされた」

 歩の牽制が作江をはねかえした!

「セクハラは私が許しません」

 小夜理はお玉をかかげた。

「わたしはお姉ちゃんだからモフってもいいんだよ~」

 風子はぶきみなわらいをうかべてとびかかってきた!

「姉弟でも嫌だよ!」

 八尋はひらりとみをかわした!

 風子は歩の影響でセクハラが悪質化している!

「稲庭くんは別室で寝るべきなんじゃない?」

 莞子は当然の疑問をとなえた!

「ええーっ⁉ いまは女の子だからいいでしょー⁉」

 作江にはきかなかった!

「むしろ……みんなと一緒に……寝るべき……」

 亜子あこはなかまをよんだ。

「モフモフ、モフモフ♡」

 千歌ちかはめがくらんでいる。

 室内の半数が、ショタだかロリだかわからない男児高校生との同衾どうきんを望んでいるようです。

「あと本当に女の子になったか確かめたいー!」

 作江はしょうたいをあらわした!

「それも俺がやって折檻された」

 歩はなにかをおもいだそうとしている!

さわったのー⁉」

「アレは触ってねぇけど、着つけの時に目視確認済みだ」

 歩の目がキラリと光ります。

「生えてねぇ」

「それいわないで!」

 八尋は顔を真っ赤にしてうずくまってしまいました。

「ずっと隠してたのに!」

 いままで風子がお風呂場に乱入しても、股間だけは死守してきた八尋です。

「前から知ってたけどね~」

 風子がニンマリ笑いながらいいました。

 自分がまだ生えていないのに、双子の弟に生えている訳がない、というのが根拠ですが内緒です。

「ううっ……ぐすっ……」

 八尋がベソをかき始めた、その時。

「枕投げをしましょう」

 突然、小夜理がレクリエーションを提案しました。

「それって、まさか……」

いにしえJK(ジョシコーセー)JC(ジョシチュー)が行ったとされる伝説の競技じゃん!」

「よし、やろう」

 歩は即断しました。

「ちょっとやめなさいよ! 修学旅行じゃないんだから!」

「いいねー。ドサクサにまぎれてモフるチャンスー!」

「賛成! 枕投げながら稲庭くんをモフろうじゃん!」

「モフモフ……モフモフ……♡」

 船釣り部員たちは、莞子の反対意見を当然のように無視しました。

「じゃあチーム分けは釣り研と船釣り部で決まりだなぁ」

「ええーっ⁉ それじゃ稲庭きゅんをモフれないじゃないー!」

 歩の提案に作江は猛反対。

「景品は八尋のモフり権でどうだぁ?」

「乗ったー!」

 意見のすり合わせに成功したようです。

「ちょっと待ってよ! なんでぼくが賞品扱いなの⁉」

 八尋の苦情は当然のように無視されました。

「じゃあ始め~!」

 風子が流れるような華麗なフォームで、フカフカの枕を八尋の顔に投げつけます。

「姉ちゃんぼく味方!」

 当たった枕を風子に投げる八尋。

 ひょろひょろ飛ぶのでパスも同然です。

「も~らい~! 八尋、覚悟しぼふんっ!」

 誰が投げたのか、枕が風子の顔に当たりました。

「やったな~!」

 八尋を賭けたバトルロイヤルの開催です。

 勝敗の基準がないので、当然ながら勝者なんて存在しません。

「うわ……わひゃっ! ほふぇっ!」

 怖がって座り込んだ八尋の頭上を、八つの枕が飛び交います。

「もうやめてよ! 障子しょうじとか破れたらどうするの⁉」

 枕の中身は羽毛らしく軽いのですが、それでも室内の備品を壊さないとは限りません。

「つきあってられないよ……」

 匍匐ほふく前進で敵前逃亡しようと布団の上で足掻あがく八尋でしたが……。

 ザバァッ‼

 突然、隠根之間に大量の海水がぶちまけられて、その勢いで八尋はふすまに叩きつけられてしまいました。

「あいたたたた……」

 もちろん大したダメージはありません。

 起き上がると、室内はびしょれになった布団や浴衣ゆかたが散らばっているだけで、歩たち七人の姿は消えています。

「しょっぱい……?」

 そして全身が吐瀉物としゃぶつで汚れていました。

「あれ? みんなどこ行っちゃったの?」

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