断章・その一
「ありがとう、おかげで腹一杯だよ!」
「あざーっす!」
「もうひと踏ん張り練習すっぞー!」
BBQパーティーが終わって男子バレー部が去っても、船釣り部員たちには後片づけが残っています。
「さすが運動部、凄い食べっぷりだったねー」
「骨まで食べちゃった……人もいたよ……」
「イサキの骨って硬いんじゃなかったっけ?」
人呼んで鍛冶屋殺し。
その昔、和歌山の鍛冶屋さんが、イサキの骨を喉に刺してお亡くなりになったといわれています。
「その骨が歯をさらに頑丈にするんだねー」
磯鶴高校の男子バレー部は弱小チームで、ようやく練習試合ができる程度の人数しかいないのに、三箱のクーラーボックスに入っていた二百尾弱のイサキとアジをすべて平らげてしまいました。
「結局、合コンの代わりにはなんなかったねー」
「そりゃそうじゃん。みんな彼女いるんだから」
「騙されたー!」
パーティーを開いてからの発覚です。
「うちのバレー部って……強かったっけ……?」
「弱いよ。だから女子とつき合う時間あるんじゃん」
「スポーツ系イケメン男子に……売れ残りはないか……」
「うちの部長は莞子が狙ってるしねー」
「性格は……もの凄くいいんだけど……あれはちょっと……」
噂の相楽光蔵部長は、水場でバーベキューコンロを一人で黙々と洗っていました。
ちなみに副部長の綱島莞子は、使い終わった炭の後片づけをしています。
「でも優良物件ではあるんだよねー」
三人がワイワイ騒ぎながら道具を片づけていると、三段になっている校庭の階段を、赤毛の成人女性が下りてきました。
「みんな遅くなっちゃってゴメンねぇ。明日の準備で忙しかったのぉ」
「あっ、由宇さ……いえ日暮坂先生!」
由宇先生はムッチリもっちりなナイスバディを揺らしながら光蔵に近づくと、コンロの金網を拾って蛇口に手を伸ばします。
「先生、いまさらなにしにきたんですか?」
すかさず莞子が割り込みました。
鼻息を荒げて敵意を剥き出しにしつつ、別の金網を拾って洗う莞子。
「んもうっ、莞子ちゃんったら変に可愛くなっちゃったわねぇ。まさか歩にもそんな感じなのぉ?」
「歩ならさっき会いましたよ。堤防で相変わらず小物ばかり相手にしています」
「まぁ、あの子はそうでしょうねぇ」
由宇先生はクスクス笑いながら金網に束子をかけました。
「みんな日暮坂センセーきてるじゃん!」
「わあ先生こんちゃー!」
「もう学校慣れた……? って……母校だったっけ……」
他の船釣り部員たちが続々と集まってきました。
日暮坂由宇フラウンダー。
ドイツ人クォーターで磯鶴高校の新任教師にして、船釣り部の新しい顧問。
そして歩の実姉です。
「丁度よかったわぁ。みんなに渡したいものがあったのぉ」
両手を振って水気を切ってから、由宇先生はポケットの中身を取り出します。
「うちのお守りなのぉ」
青地に金糸の刺繍で【磯鶴神社】の文字が入ったお守り袋でした。
「きっと楽しいご縁に恵まれると思うわよぉ」




