夢対決(5)レカン対ホルス
「おやじ!」
「父さん!」
「ホルス? それにユナかっ」
「来たぜっ」
「迎えに来たわっ」
「おやじ。急げ! 〈黒穴〉から……ちっ、だめだ。小さくなってやがる。おやじっ。何か、おふくろに印を。おやじに会えた印をっ」
レカンは〈収納〉から〈幸せの虹石〉を取り出すと、高い天井に開いた〈黒穴〉めがけて放り投げた。
もうずいぶん小さくなっていた〈黒穴〉は、虹石を飲み込むと、待ち構えていたようにさらに小さくなり、消えてしまった。
一同は、しばらくは言葉もなく、天井をみつめた。
最初に口を開いたのはレカンだ。
「肉は?」
「え?」
「小火竜の肉は持ってきたか?」
「おい、おやじ。再会して最初に言うのが、それかよ」
「持ってきたわよ、父さん。ユフ侯爵様がたくさん託けてくださったの」
「おおっ、そうか。さすがだ」
「だから、ほかに言うことがあるだろう」
「まずは肉だ」
レカンの負け。人として。
シーラ「たそがれてるねえ」
レカン「シーラか。何か用か」
シーラ「ごあいさつだね。座らせてもらうよ。よい、しょ、と。ふう。あたしは時々朝早く、隠れ家の一つから、千日前通を越えて、なんばパークスの辺りまで散歩してるんだけどね」
レカン「突然何の話だ。というか、その何とか通りとか何とかパークスというのは、どこにあるんだ」
シーラ「その通り道の一つに、ハラミ専門店てのがあるんだよ。店の開いてる時間じゃないから、なかに入ったことはないけどね」
レカン「ほう」
シーラ「そこのメニューに、ハラミの昆布締めってのがあるみたいでね、気になってるんだ」
レカン「詳しく教えてもらおうか」
シーラ「いいともさ。ところでレカン。あんたを迎えにホルスとユナがあっちに行ったとき、十年ぶりに息子と娘をみて、あんたどう思った?」
レカン「今さらどうしてそんなことを聞くんだ」
シーラ「いいからお言い」
レカン「そうだな。ユナの髪や顔つきをみて、ノーマに似てると思った。知性と勇気を備えた娘になった、と思った」
シーラ「へえ? それから?」
レカン「ホルスの目の光、体つき、それに気配は若いころのオレそっくりだと思った。そして真っ赤な髪はエダ譲りだと思った。まっすぐな気性に育ったんだなと、あの目をみて思った。いざというときの判断力もある」
シーラ「すっかり成長してるんで、驚いたんじゃないかい?」
レカン「ああ、驚いた」
シーラ「大丈夫だよ」
レカン「何がだ」
シーラ「あの子たちは、あっちでしっかりやってる。自分たちで選んだ道だ。毎日元気にやるべきことをやってるよ」
レカン「そうかな」
シーラ「そうともさね。何の心配もいらないよ」
レカン「そうか」
シーラ「あたしがそうだというんだから、そうなんだよ」
レカン「そうだといいなあ」
シーラ「やれやれ」




