夢対決(3)ヤックルベンド対レカン
「くけけっ。くけけっ。ついにできた。ついに完成。名づけて〈あたしのレカンにいちゃん〉。みかけは完全に人間。でも中身は史上最強の殺人人形。〈湯沸かし君〉でちまちま集めたレカンにいちゃんの体の一部を培養したんだから、ある意味これはレカンにいちゃんそのものよ。くけけっ、くけっ。そしてあたしの命令には絶対服従。こーんなことや、あーんなことも命令し放題。くけけっ、くけけっ。王宮なみの対魔法障壁に、大炎竜なみの物理耐性。そして〈炎槍〉そっくりの破壊光線。くけっ。一晩ゆっくりもてあそんだあと、これを王都で暴れさせちゃおうかなあっと。たーのしーな。楽しーなったら、たーのしーいな」
そのとき、ユフの神殿で、ライコレス神の神像の目がきらりと光った。
「あれ? なんでこんなとこに長腕猿が? えっ? 大剛鬼になった? しかもなに、この巨大さ。えっ? 毒も呪いも効かない? 刃物が通らない? 爆弾も平気? 魔法も効かない? あっ、あっ、あっ。やめてー! あたしのメイド人形ちゃんたちを壊さないでー! やーめーてー!! あたしの研究施設を破壊しないでーーーー!!!」
ジェリコの勝ち。
レカン「あのヤックルベンドというやつは、どういうやつなんだ?」
シーラ「うーん。もとはまじめで有能で、天才といっていいひらめきを持った技術者であり研究者だったんだけどねえ。長いあいだ大貴族の家でひどい扱いを受けたみたいでね。そのせいで、ちょっとゆがんじゃったんだろうね。大貴族の家が滅び、ワプド国がなくなって自由になったあと、妙な癖がねえ」
レカン「妙な癖?」
シーラ「普段は大丈夫なんだよ。普段はちょっとした底の浅い悪ふざけをのぞけば、そりゃもうまじめに労を惜しまず仕事をして、世の中に奉仕してるんだけどね。時々むしょうに、破壊と混乱をもたらしたくてたまらなくなるらしいよ」
レカン「いかんだろう、それ。そんな危ないやつを王都に置いておいていいのか?」
シーラ「王都じゃなきゃだめなんだよ」
レカン「なぜだ」
シーラ「あの王都の基本設計をして、王宮を造ったのは、ヤックルベンドなんだ。愛着のある場所なんだ。そしてあれは誓約によって、王都から出ることができず、王都を守り、国の発展に奉仕しなくちゃならない。王都があるから、ヤックルベンドは正気を保てるんだ」
レカン「そんな誓約を、よく強制できたな」
シーラ「強制なんかしてないよ。ヤックルベンドが自分から望んで結んだ誓約さ。あたしも力は貸したけど、あんな厳しい誓約は、本人が自発的に協力するんでなきゃ、成立しない」
レカン「どうしてそんな誓約をあいつは望んだんだ」
シーラ「自分のあやうさを知ってるからさ。正気のときにはね」
レカン「正気のときには、か。普段は正気なのか?」
シーラ「前はそうだったんだけどねえ。最近はほとんど正気じゃないほうだね」
レカン「おい」




