五話
「はっはっはっはっ!おおおお兄ちゃんなわけないじゃないか!」
「いや、焦り過ぎでしょ」
べべ別に焦って何か無いし!
「で、兄貴」
「·····」
ここは無視だ!無視するに限る!一応、虚偽の仮面は軽い認識阻害が付いてるはずなんだけど、こうも簡単に破られるか?いや、まだ確信したわけじゃないはずだ!
ここは無視!無視しよう!
「ねぇ、兄貴」
「······」
断固無視を決め込む俺に、優香は禁じ手を使った。
俺の目の前に歩いて来て、上目遣いで瞳をうるうるさせながら、こう言った。
「ねぇ、お兄ちゃん。私のこと、無視するほど嫌い?」
「大好きです!」
はっ!、嵌められた!余りの可愛さに、我を忘れてしまった!
「やっぱり、兄貴じゃん」
「そうだよ。お兄ちゃんだよ·····」
俺は大人しく観念することにした。
「で、兄貴に色々聞きたいことがあるんだけど·····」
『おいっ!今何かすっげぇ悲鳴聞こえなかったか!?』
やばい!人が来てしまう!こんな格好を見られたら、おそらく俺は、恥ずかしくて死ぬ!
しかし、優香を置いていくわけにも行くまい。となると·····
「優香、ごめん!」
「へっ?」
俺は、優香を抱える、所謂お姫様抱っこで抱え、《飛翔》を発動させた。
「えっ!えええええ!落ちる!落ちる!」
「ちょっ!優香怖いからって抱きつくな!当たってる!当たってるって!」
何が当たってるかは言わないが、当たってる!普通サイズであろう、確かな存在感を持つ、柔らかいアレが!
落ち着け!冷静になれ!無にならないと!此処でアレが大きくなったりしたら、完全に嫌われるッッッ!!!
「うおおおおおおお」
こうなったら大急ぎで帰るしか無い!
俺は大急ぎで空を駆けた。
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「はあはあ。何とか、着いたな·····」
「本当に何なの·····」
取り敢えず、装備を外す。
「よかった〜。いつも通りの兄貴だった〜」
そう言って俺の頬をぺたぺた触ってくる。ひんやりしていてくすぐったい。
しばらくすると、顔を赤らめ顔を触るのを止めた。
そして、真面目な顔つきになった。
「で、アレはどういうこと?」
「アレって言うとスキルのことか?あの、ドラゴンのことか?」
「両方」
面倒だが、俺の身に起きた事から、モンスターのことまで、全部喋らなきゃいけないみたいだな·····。
「はあ。面倒だな〜。許してくんない?」
「ダメ」
俺は観念して、優香に全てを話すことにした。
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「·····という訳だ」
俺の話を聞いた優香は信じられないって顔をしてる。
「じゃあ、兄貴はもう年取らないの?」
「まあ、そう言う事になるな」
おい、待て、妹よ。何故ガッツポーズをするんだ?
「まあ、暫くは危ないから優香は俺と一緒にいてもらう」
「ずっと?」
「ああ、嫌じゃないならな。嫌なら別の方法も考えるが?」
最悪、全員にステータスが手に入った場合、美鈴や刃には武術の心得があるから心配無いが優香はそうではない。
《精霊魔法》で守ってもいいが、魔王軍幹部級の奴が出てくれば止められないかもしれない。でも、今の俺なら魔王ですら二体までなら同時に倒せる!
つまり俺がそばに居るのが一番安全だ。
「最後に聞いとく。嫌じゃ、無いか?」
「ん。嫌じゃ無い?」
「そうか。なら一応旅の準備をして鞄に詰め込んで来てくれ」
「わかった」
優香は階段を走って登ると、自分の部屋に入って行った。
「何か嬉しそうだったな」
俺の気のせいでなければ、だが。
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