寒中の水浴び
「川…?」
女性兵士2人に連れられて、彼女が来たのは少し離れた河原だった。
「****、******」
バサバサと服を脱いでいく2人組にギョッとする。どうやら水浴びをするようだが、3人の後ろには監視・護衛役としてついてきた男がいる。女だけならばいざ知らず、この世界の住人は他者に裸を晒すことを気にしないのだろうか。
「*****」
「***、***」
脱いでいる途中の、腰巻のみの姿で兵士の1人が男の前に立ちふさがった。豊かな胸が空気に晒されているのも気にせず、手を目の前にかざし、ブンブンと振っている。ーーもしや、男は目が見えないのではないだろうか。
「見えないから気にするなってこと?」
ザバザバ体を洗い出した2人に習い、彼女ももぞもぞと服を脱ぐ。ちらりと男を見やれば、他者の目を気にする魔女のことを気遣ってか、背中を向けて座っていた。
ここに連れてこられてから、捕虜のように扱われてはいたが、体を拭く布と湯はたまにもらっていた。それで週に二度程度は体を拭けてはいたが、川とはいえ頭を洗えるのは素直に嬉しい。自分の体の匂いは鼻がやられて、もはやわからなくっていたが、きっとすごく臭いのだと思っていた。
「冷たい…でも、ありがたい」
顔をバシャバシャ洗って、布では落ち切っていなかったであろう垢を落とす。汗でベタつく体を流し、前屈みになって頭を水面に浸した。
「*****」
一生懸命髪を濯いでいれば、声を掛けられて固形石鹸のようなものを一つ渡される。泡だてて洗え、と言っているようだ。有り難くそれを受け取り、ギシギシとする髪の毛を洗う。全く泡立たないのは髪が汚れすぎているからだろう。
「ふぅ…」
ゴシゴシガシガシ洗い、やっと泡が立つようになった頃には、2人は川から上がっていた。彼女も慌てて泡を洗い流す。カラカラ笑いながら2人は大丈夫、というように手のひらをこちらに向けてひらひらと振った。
「どうもありがとう…」
乾いた布をもらい、濡れた体を拭く。さっぱりとした体に思考もクリアになった気がする。
「あの、見張り…ありがとうございました」
言葉はわからなくても見張りをしてくれていた男にも礼を述べる。頭を下げれば、揺れる空気で気付いたのか、小さく頷かれた。
「……私、これからどうしたらいいのかな」
ポツリと呟いた言葉に、女兵士2人が振り返るが何かを言うことはなかった。独り言だとわかったのだろう。歩きながら手招きされて、彼女も足早に歩き出す。
女達がいなくなっても、男はしばらくその場にとどまっていた。