異種族というもの
ジルは魔法が使えないのかと聞いてきたときは何事かと思ったが、きちんと説明をしていなかった自分が悪いのだ。
魔力は人間や一部の一族にしか使えないもので、竜人にも魔力は宿っているが、魔法使いのように自在には扱えない。
「竜体というのはその名の通り竜の体になることだ。私たちはあなたと同じように人間の姿にも、そして竜の姿にもなれる」
「えっ竜になれるの!?見たい!」
「…屋敷の中ではさすがに戻れないな。外に出よう」
そんなに大きいのかとはしゃぐ楓に、少しだけ安堵する。人間は竜の姿をもとれる竜人を気持ち悪いと思うことがあると聞くし、万が一にも気味悪がられるのではないかと、一瞬でも恐れた自分が恥ずかしい。
「少し離れてくれ」
庭に出てから楓と距離を取り、竜体になる。楓と出会ってからは久しく戻っていなかったので、少し骨が軋んだような気がした。たまには竜体に戻っておかないと、戻り方を忘れる、なんていう迷信もあるくらいだ。
「わ!すごい…大きい…!」
周囲をぐるぐる回って大きさを確認する楓を、万が一にも尻尾や足で払ってしまわないようにじっと動かずに耐える。いつの間に正面に回ったのか、竜の足先に触れるのは、彼女の小さな手。
「硬いね…」
≪これが竜体だ≫
硬い鱗に覆われているので触られてもあまり感じないはずだが、やはり番とは特別な存在らしい。楓が触れている箇所がどこか温かく感じられる。
「あ、ジルの声が頭に直接響く…すごい…」
≪この姿の時は声帯が異なるので、声を発することができないんだ≫
喋ろうとすると雄叫びになってしまう。竜同士ならば咆哮での意思疎通も可能だが、人間である楓にはただの騒音でしかないだろう。
竜人が持つ魔力はほとんどが竜体の時にしか使用しない。声を伝達するのも魔力を使用しているらしいが、実際のところ、どういう原理なのか、どうやって魔力を行使しているのかは本人たちもよくわかっていない。
「とても強そうだね、ジル」
番に強そうと褒められ、これほどまでにうれしいことはない。番にたいそう甘い竜人は、彼女が満足するまで、しばらくはこのままの姿でいようと思うのだった。