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改めまして




竜王の住む城から、ジルの家までは小型の竜が引く竜車(りゅうしゃ)に乗って向かうことになった。


馬車よりも遥かに揺れるので、初めて乗った者が乗り物酔いするは当たり前らしい。楓はまともに馬車に乗ったことはなかったが、もし次に乗る機会があれば竜ではなく馬がいいと心から思った。手すりに掴まっていないと、あちこちに体を強打してしまうくらいに竜車は激しく揺れた。


出発して十分も経たないうちに具合が悪くなった楓を見かねて、ジルが何回も休憩を挟んでくれたこともあり、ヘロヘロになりながらもなんとか目的地へ到着した。

車がかなり揺れるのは、フェルツ曰く“彼ら”がやんちゃだかららしい。このサイズの竜でおとなしい性格はあまりいないそうだ。


「はー…ジルってもしや超お金持ち?」


「そんなことはない」


大豪邸を前に、半開きになる口は仕方のないことだろう。王都にほど近く治安のいい土地を治めているとは聞いていたが、これほどまでに自宅が大きいとは思っていなかった。


「でも、すっごく大きい」


「それもあと少しだがな」


彼の住む家は代々領主が暮らすためのものらしいので、全部が全部ジルの資産ではないらしい。そして、タイミングを見て最果ての地へと引っ越しをしなければならない。


「兄に声を掛けてきますね」


「あ…」


竜を竜舎へ連れて行っていたフェルツが戻ってくるなりそう言った。フェルツの言う兄とはバレンツだろう。生き残ってしまった自分のことを、どう思っているのかと考えると身が竦む思いがする。


どうした?と不思議そうに首を傾げるジルに、何でもないと返して、楓は一歩踏み出した。












ジルに案内されるがまま屋敷へ入れば、玄関の扉を開けてすぐ脇に、双子が揃って立っていた。恐らく一卵性の双子なのであろう彼らだが、並んでみると違いがよくわかった。

フェルツはふわふわとした灰色の髪で、バレンツはサラサラのストレートの髪といったところか。


「カエデさん、僕の兄のバレンツです」


「こ、こんにちは…」


実際には初めましてではないので、なんと答えるべきか迷って無難に挨拶をすれば、目の前のバレンツの顔が歪んだ。


「その節は申し訳ありませんでした!!」


バッと頭を下げたバレンツに、目を円くしてしまう。


「バレンツ?カエデに会ったことが?」


「はい。……一度、牢に行きました」


どうやらこの件に関して、隠す気はないらしい。ジルにすべてを打ち明けてしまいそうな雰囲気に、楓も慌てて口を開く。


「バレンツさん、その件に関してあなたが謝ることはありません」


「しかし…」


「私が言うのもなんですが、考え方は違いましたが彼のためだったわけですし…お互い様ってことで…」


ジルが何か言いたそうにしていたが、二人のやり取りに口は挟まないでいてくれるようだ。番が――楓がいいと言うのなら、何も言うつもりはないのだろう。


「…はい、ありがとうございます」


一度きつく瞼を閉じたバレンツは、差し出された楓の手を握り返すのと同時に淡く微笑んだ。当たり前だが、笑うとフェルツによく似ている。


「改めまして、楓です」


「バレンツです。主にこの屋敷の管理をしています」


よろしくお願いします、と互いに微笑んだ。これから共に暮らすのであれば、ギスギスした気持ちのままでは互いに気まずいだろう。


「バレンツは料理上手なんですよ」


ほっとしたように笑うフェルツが、ダイニングへと案内しながらそう説明する。


「今日はカエデさんのために腕を揮って作ったんです。甘いものが好きだとお伺いしたので、デザートも」


「うれしい!ありがとうございます!」


「バレンツ…カエデが甘いもの好きだと知っているんだな」


二人がした会話はそんな世間話は全く含まれていないが、牢での出来事を知らないジルが眉を寄せた。番のことを誰よりも理解していたいのは竜人の(さが)だ。それを理解しているバレンツは、愉快そうに笑う。


「ジリアンさんがのろけ話の中でおっしゃってましたよ」


「………!」


顔を真っ赤にしたジルに、今度は楓とフェルツが肩を震わせて笑った。





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