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奇妙な魔法少女たち  作者: みずゆめ
8/22

六話 レイの噂

 俺が魔法少女となり、レイと一緒に黒い巨人を倒した次の日の昼。

 レイから、魔法に関することを一般人に話すのはダメだと言われていたので、いつもと変わらずに過ごすことにした。

 いつものように昼食を取ろうと友人に声をかける。


「おーい、カズキ。昼飯食おうぜ」

「おう。そっちに机つけるわ」


 そう言って、木下きのしたカズキは俺の机に自分の机を合わせるように動かす。

 いつもの昼時の陣形だ。


 彼、木下カズキは小学校からの友達で、親友と言っても差し支えない。

 他にも友達はいるが、付き合いの長さからかカズキが一番話が合う。

 ちょっと思い込みが激しいところもあるが、基本的にいいやつだ。


 そんなカズキと昼食に取り掛かろうとした時、校内放送がかかった。


「あー、あー。マイクのテスト中でーす。……よしよし」


 これは……レイの声か。あいつ放送部員なのか?一度も聞いたこと無いけど……。


「ぴんぽんぱんぽーん。えー、2年B組の相田ハジメ君。早急に屋上までお越しくださーい」


 まさかの呼び出し。

 クラスメイトたちの視線が俺に集まる。知らんぷりしようかな。


「5分以内に来ない場合、君が私のふとももをいやらしい目で見ていたことをバラしまーす」


 もうバラしてるようなもんじゃねえか! ふざけんな!

 ていうかそんな目で見た覚えはな……あー……なくは、ない、かな? うん。いいふとももしてたよな。


 クラスメイトたちの視線が突き刺さる。主に女子からの眼圧が半端じゃない。

 やったー。俺ったら人気者。


「それじゃあ待ってまーす。あ、場坂レイでしたー。ぴんぽんぱんぽーん」


 そう言って放送は締めくくられた。


 ……まずいな。これは、あれだ。冷やかされる。

 二人は付き合ってんの?とか。

 いつから?とか。

 どんな所が好きなの?とか。


 そんな関係じゃないと言っても、信じてもらえないだろう。

 名前が明かされなければ誤魔化せたかもしれない。

 いや、真実かどうかはあまり関係ないかもしれない。こういった話は騒ぐことができればいいのだ。


 どうやって切り抜けようかと思いながらクラスメイトたちを見ると。


「「「…………………………」」」


 全員、一言も発さずに俺から目を逸らしていた。

 あれっ、おかしいな。さっきまで視線を集めていたというのに。

 レイの名前が出た辺りでサッと目線が外れた気がする。

 親友のカズキですら、机を元の位置に戻し、一人で昼食を取ろうとしていた。


 ……嫌な予感がする。


 俺は震え声で、露骨に態度が変わった親友へと問いかけた。

 

「……カズキ、なんで机を元に戻したんだ? 飯、食おうぜ?」

「嫌だ。関わりたくない」


 ピシャリと言われた。カズキの額には脂汗が流れている。


「レイに、何をされたんだ……?」

「いや、何かされたわけじゃない。……噂だよ」


 話を聞くと、変な格好をしたレイに魔法少女にならないかと勧誘され、断ると世にも恐ろしい目に遭うと。


 ……すっげえ心当たりがある。


「でも、噂なんだろ? そんなに怯えることでもないだろ」

「……見たんだ。遠目にだけど、場坂レイがギラついた目で道端のダンボールの中に入り通行人に声をかけているところを」


 ……超心当たりがある。


「……どこで?」

「オレの家への帰り道の途中だ」


 カズキの家は俺とは反対方向だ。

 だとすると、その通行人は俺ではない。

 見られたわけではないと分かりホッとするも、レイが色んな所で勧誘をしていたその行動力にゾッとする。


 カズキは続けて言った。


「確かに噂だし、オレも何かされたわけじゃない。でも噂通りの姿で噂通りの事をしていたから、その噂は本当なんだって思って……」

「だから関わりたくない、と」


 カズキは頷いた。

 確かにその噂は真実に近いが、そこまで怖がることはないだろう。

 断ると世にも恐ろしい目に遭うってのは尾ヒレが付いたものだろうし、レイをフォローしておくか。


「あれだ、レイは意外と悪いやつじゃないぞ? ちょっとバカな所もあったり、ドジな所もあるし、一般人を巻き込むクズな所もあるけど……」


 ……良い所ねえな?

 いや、知り合って一日も経ってないからこんなものだろう。良い所はあるはずだ。ふとももとか。


「ともかく、案外いいやつだぞ? 怖がることはない」

「嘘だ! あいつに関わったやつはその一族が根絶やしにされるとも聞いたことがあるぞ!」


 カズキが半ば叫びながら新しい面白噂話を教えてきた。根絶やしって。

 それに触発されたように周りのクラスメイトたちもレイの噂を口にする。


「場坂レイがこの街の暴走族一団を壊滅させたって聞いたことがあるな」

「俺、素手でコンクリートの壁を木っ端微塵にできるっての聞いた!」

「勧誘するのは、どっかのヤクザに襲撃をかけるメンバーを集めるためなんだってよ」

「熊を背負い投げして倒したことがあるって聞いたわ」

「C組の吉田君、場坂さんに喧嘩をしにいったらしいんだけど、次の日には忘れてたんだって! 記憶が飛ぶほどの事があったのかも……」

「3年生の誰かが場坂レイに捕まって、それ以来下僕のように扱われてるらしいぞ」

「この間、場坂さんが……」


 次々と出てくるレイの噂話。こんなにあるのに俺はどれも知らなかった。まあそういうものに興味なかったしな。

 所々ホントっぽいのがあるのが気になるが、大半は真っ赤なウソだろう。

 まあ噂なんてそんなものか。面白ければいいのだ。俺も面白半分に聞いてるし。


 だが、そのせいで親友から避けられるのは嫌だ。

 レイの風評も正しておきたい。こんな噂が流れているのはちょっと気の毒だし。

 一度、カズキをレイに会わせて噂は嘘だと教えるのがいいだろう。


 そう思い、噂を信じて青い顔をしているカズキに話しかけようとした時、再び放送が流れた。


「ぴんぽんぱんぽん! ちょっとハジメ! 5分以内に来いって言ったでしょ! さっさと来ないとあんたのクラスに行って黒板消しをボフボフ叩くわよ! あんたのクラスのお昼ごはんを真っ白く彩ってやるわ! ぴんぽんぱんぽーんだ!」


 最悪なタイミングで最悪な放送が流れた。そりゃあんな噂も流れるわ。

 それを聞いたクラスメイトたちは阿鼻叫喚だ。


「うわああ! 場坂レイが来るぞ!」

「いやああ! きっと”これがあんたのお昼ごはんよ!”とかいって黒板消しを口の中に突っ込まれて窒息死させられるんだわ!」

「おい、相田! お前に用があるんだろ!? 早く行ってくれ! 俺達のために!」

「お願い相田くん! 私まだ死にたくない!」


 怖がられすぎだろ。レイは魔王か。


「おい、皆。レイは……場坂レイはそんなやつじゃないって。実は俺は助けられたことがあってな? ホントだぞ? カズキは信じてくれ……カズキ?」


 見るとカズキは白目をむいて気絶していた。

 思い込みの激しい親友は、レイが来ると聞いて殺されるとでも勘違いして気を失ったのだろう。

 こやつめ。なんてタイミングで気を失うんだ。状況が悪くなっちゃうだろ?


「き、木下あー! しっかりしろー!」

「ば、場坂さんの仕業だわ! 相田くんの関係者を抹殺する呪いをかけたのよ!」


 もう面白くなってきたな?


「相田お前、さっきから場坂の事を下の名前で呼んでるよな……もしかしてお前はもう場坂一味の一人なのか!?」

「やっぱりあの目付きの悪さは……」

「ひ、ひぃっ! 相田くんがそんな……。い、命だけはお助けを……」


 ……駄目だこりゃ。

 今度、クラスが落ち着いてる時にそれとなく噂は嘘だと広めよう。

 もしくは良い噂を広めよう。男子高校生の命を救い、新たな性癖の扉を開かせてくれたこととか。

 またはレイの口から噂は嘘だって言わせるのもいいかもしれない。

 ともかく、レイの風評をどうにかしないと、これからつるむことになる俺にも悪影響が出そうだ。もう出てるような気がするけど……。

 

 とりあえず今日のところはこのままレイのところへ行く――必要はなさそうだ。


「見つけたわハジメぇ……。ホントに来ないとはいい度胸ね。宣言通り、このクラスの昼食に吹雪を降らせて……って、どうしたの? 殺人鬼みたいな顔して」


 俺はのこのことやってきたレイを睨みつけた。

 でも殺人鬼って……。そんなに怖くはないだろ……多分。


「私何か変なこと言った? あ、吹雪よりダイヤモンドダストって表現のほうがよかった?」

「どうでもいいわ! お前の日頃の行いが悪いからこんな状況になったんだ! もっとお淑やかに生きろよ!」

「えええ!? いきなり生活指導!? さっき先生にも言われたからもうお腹いっぱいなんだけど!」


 言われたのかよ。まああんな放送すれば怒られるよな。


 ふと、あれだけ騒がしかったクラスメイト達が静まっていることに気がつく。怯えた目をしているのは、レイが来たからか。

 まあちょうどいい。噂は嘘だと本人に言ってもらおう。


「レイ、お前が暴走族やら熊やらを倒したって噂が流れてるんだけど、お前はそんな怖いやつじゃないよな?」

「お、私が流した噂はちゃんと浸透しているのね。よしよし……いだぁ!?」


 俺は諸悪の根源にデコピンをかました。成敗。


「痛いわね! なにすんのよ!? あ、ハジメの分の噂も流してあげようか? ドラゴンを倒したとか」

「何で俺のはファンタジックな噂なんだよ! いや、違う! なんで自分でアホみたいな噂を流したんだ! おかげでお前の知り合いである俺まで巻き込まれそうなんだよ!」

「ざまーみろ!」

「お前のほっぺた引きちぎるぞ!」


 レイの頬を強めにつねる。

 結構柔らかくてスベスベしているのがなんか腹立つ。


「いふぁい、いふぁい! ごめんあふぁい! 調子に乗りましふぁ! はなしてくらふぁい!」


 俺はレイを解放し、もう一度質問をする。


「それで、なんで自分で噂を流したんだ?」

「腕自慢が寄ってきそうじゃない? だからそういう子をアレに勧誘しようかなって」


 ああ、そういう意図だったのか。

 アレというのは魔法少女の事だろう。

 でもそれで寄ってくるか……?


「目的は分かった。が、別の噂にしてくれ。皆が怖がってるし、俺も親友に距離を置かれそうだ」

「むう、分かったわ。考えておく。まぁハジメが来てくれたから、がっつかなくても良いしね」


 俺一人増えた所で人員不足は解消されないんじゃないかと思うが、余計なことを言ってレイに変な火がついたら困るので黙っておく。


 そうだ。もう一つ、レイに正してもらいたいことがあった。


「レイ、お前の流した噂は嘘なんだよな? 熊やら暴走族やらはデタラメなんだよな?」

「当たり前じゃない。勝てるわけないじゃないの。そんなことも分からないの? ハジメって馬鹿なの?」


 この女……。


 まあいい。これでクラスの皆も噂が間違っていて、レイが暴力的で怖いやつじゃないと分かってくれただろう。……頭がおかしいやつだとは思われるかもしれんが。

 ともかく、誤解が解ければレイが来ただけで恐慌状態のようなことにはなるまい。

 俺も知り合いだからと怖がられることにもならないだろう。


 俺はクラスの皆を安心させるように声を上げた。


「な、皆! 噂は所詮、噂だったろ? コイツはちょっと変だが怖いやつじゃない! だから俺も……」


 教室に俺の声が木霊した気がした。

 机はあるが誰もいない。

 教室はいつの間にかもぬけの殻だった。


「ん? あんたのクラスメイトなら、私が来てちょっとしたら、こそこそ教室から出ていったわよ?」


 ……カズキもいない。

 誤解、解けるかなあ……。


 途方に暮れる俺に、気遣う様子もなくレイが話しかける。


「ハジメ、お昼ごはん一緒に食べましょ! あと、私の友達の魔法少女も紹介するわ!」 

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