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奇妙な魔法少女たち  作者: みずゆめ
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四話 魔法少女ハジメ

前回のあらすじ:魔法少女になったらおっぱいが生えてた。


「………………どういう事だ?」


 声が高い。自分が発した声とは思えない。


「……た、多分、私もハジメ君と一緒に、魔法少女の姿をイメージしながら宝石を握っていたから……私のイメージが反映されちゃった……のかも……」

「俺は……女の子に……なってるのか?」

「……はい」

 

 場坂が震えて冷や汗を垂らしながら気まずそうに目を逸らした。


 ……そうか。こいつが原因か。

 やってくれたな……。

 本当に。


「マジで、よくやってくれたな! 場坂! ナイス! グッジョブだ! エクセレントだ!」

「ご、ごめんなさい! わざとじゃないの……って、え!? なんて言ったの!?」

「よくやったと言ったんだよ! そうか! 女装が嫌なら女の子になっちまえばいいのか! その発想はなかったわ! 天才かよ場坂!」

「えええええ!? お、怒ってないの?」


 怒るなんてとんでもない。むしろ感謝だ。

 俺は場坂を褒め称えつつ、背中をバシバシと叩く。


「うわー! すっげえフリフリの服! きわどいスカート! でも問題なし! 女の子だもん! うっひょー!」

「ハ、ハジメ君? 落ち着いて! そんな動いたらパンツ見えちゃう……じゃなくて、魔物、そう! 魔物がいるから! 気を引き締めて!」


 黒い巨人を抑えていたマネキンたちは全滅しており、こちらへのそのそと近づき始めていた。


 しまった。本気で忘れてた。

 なんかシリアスなことやってたけど女体化で興奮してどっかいってしまった。

 いかんいかん。


「悪い、浮かれてた。じゃあ魔法を使うぞ! 場坂、動くなよ!」

「わかったわ! 期待してるわよ!」


 任せろ。使い方はなぜだか自然と理解できている。

 俺は杖の先端の宝石に魔力を込め、場坂に向けて魔法を放った。

 

 あ、魔法の名前ってどうしよう。が、すぐに思いついた。


「――ヒール!」

「……え? 傷が治っていく……! 回復魔法ってこと?」


 その通り。

 具体的な効果を願ったわけではないが、目の前の傷ついた女の子を助けたいと願ったからな。

 こちらの方は、俺の願いが反映されたようだ。


 場坂の傷が全快し、俺はちょっとした虚脱感のようなものを覚えた。

 今のが魔力を消費した感覚なのだろうか。


「すごい……。元通りよ! ありがとう! ハジメ君!」

「どういたしまして。じゃあ、行って来い! ばさ……いや、レイ!」

「おお、なんか下の名前で呼ばれるのは嬉し恥ずかし……待って、私だけ行くの?」


 レイは不安そうな顔で当たり前のことを聞いてくる。


「? 何言ってんだ。回復魔法の使い手だぞ。後衛に決まってるだろ。俺がやられたら誰がお前を治すんだ。」

「いやいやいや! 確かにその通りだけども! でも魔物はどうやって倒すのよ!? 私じゃ勝てないし、あなたは他に攻撃手段はないの?」

「いや、回復以外にも、実は能力強化の効果もあるんだ。自分の能力が上がった感じしないか?」

「確かに微妙に力が湧いてくる感じだけど……。で、他に攻撃手段はないの?」

 

 ……やべぇ。

 回復魔法は有用だろう。だが、それだけじゃ魔物は倒せない。

 攻撃力がありそうなのはレイの大剣だが、その重さで振ることができない。

 俺の魔法で能力強化したとは言え、レイは微妙だと言っていたし、大剣を振るほど強化されてはないだろう。


「落ち着け。何も俺達が倒す必要はないんだろ? 時間稼ぎに徹して、他の魔法少女の応援を待とうぜ」

「ここまで経ってこないってことは、向こうもなにかあったんだと思う。さっきのマネキンの魔法は知ってる子のなんだけど、追加も来ないみたいだし……。やっぱり何かあったんだと思うわ」


 応援は来ない。助けてくれたマネキンたちもいなくなり、その増援も来る気配がない。


 ――魔物を倒すすべがない。


 ……やっぱ逃げようかな……。いや、あんなにかっこつけた手前、敵前逃亡するわけにはいくまい。


「……心配するな。実は俺はシャイニング・マジカル格闘術の使い手で……」

「わあああああ! どうするのよ! 魔法少女二人揃って魔法ほっぽってステゴロで戦うの!?」

「しゃーねえだろ! デカブツももう近いし、覚悟を決めろ! 怪我なら治してやるから、倒すまで殴り掛かるぞ! 人海戦術だ!」

「人海って言っても二人なんだけど! 海ってゆうか滴なんだけど!」 


 半ば破れかぶれになりながら黒い巨人に特攻する俺とレイ。

 先に攻撃してきたのは黒い巨人。大きな腕を振り下ろしてきた。――思ったより遅い。

 横に転がるようにしてなんとか回避。俺はすぐさま起き上がり、隙だらけの黒い巨人の足に杖を叩きつける。


「シャイニング・スイング!」


 カァンと、小気味よい音を立て、狙い通り黒い巨人の細い足に当たる。

 手応えはあった。あったが……。


「全然効いてねえ……」


 隆々とした上半身に対してひょろっちい下半身を攻撃すれば、バランスを崩して倒れるんじゃないかと思って攻撃したが、そう甘くはなかった。

 

 黒い巨人は、足元の俺を捕まえようと、手を伸ばしてきた。

 俺は黒い巨人の背後に回ることで巨人の手から逃れる。

 

 そう言えば、黒い巨人の初撃を躱してからレイの姿が見えないな。

 辺りを見回すも、やはりレイの姿がない。

 ――まさか、逃げたのか……? そんなわけないか。

 

 再び黒い巨人が俺を捕まえようと手を伸ばす。

 俺は黒い巨人の足元に張り付き、脚の周りを回るようにして回避する。

 ――アクションゲームで、離れるよりも足元にいたほうが安全に立ち回れる敵がいたのを思い浮かべる。


「まさかゲームの知識がこんなところで役に立つとな。やっててよかったぜ、クリーチャーハンター」


 俺は黒い巨人が最初に俺達に攻撃してきた場所へ戻ってきた。

 黒い巨人に叩きつけられた地面は、凹み、ひび割れていて、あの腕には尋常ではない威力があると物語っている。

 あの攻撃を喰らっていたらと想像してゾッとするも、すぐに気持ちを切り替えて、レイを探す――いた。


 レイは黒い巨人の初撃を躱せなかったらしく、砕かれた地面の中心で倒れていた。


「お、おい! レイ! 大丈夫か!? ヒ、ヒールっ!」


 慌ててレイに回復魔法をかける。

 あの攻撃が直撃したのか……。まさか、死んでないよな……。治るよな?


「ぶああああっ! し、死ぬかと思った! 三途の川的なものが見えた! ……って、あら……っ!?」


 どうやら即死はしていなかったようだ。レイが頑丈で良かった。

 ホッと胸をなでおろしていると、倒れたままのレイが俺のスカートの中を凝視している。


「レイちゃんのえっち!」

「えっ!? ご、ごめん! でも、その、あの……ハジメ、君。お、お股に、違和感、とかない……かな?」

「は?」


 股? こんな時に何言ってんだこいつ。と思いつつ、自分の股に意識を向ける。

 慣れない女性用パンツの履き心地以外、特に違和感はない。

 

 ……違和感はない?

 それはおかしくないか? 俺は元々男だ。それが女体化したんだ。違和感がないはずがない。

 違和感がないのが違和感だ。


 ――気がついた。 

 股の違和感――つまり、男性の象徴が、女性になった体にそのままついている。

 棒と、玉が。


「………………女の子にも股に野球セットってついてるんだなぁ。知らなかったわ」

「ついてないわよ、そんなもの! 上にバレーボールが2つあるだけだから!」

「どういう事だよ! マジで! 女体化じゃねえのかよ! 息子に留守番頼んだはずなのに、いつの間にか出てきてついてきちゃったんだけど!」

「た、多分変身時に私のイメージが反映されたけど、やっぱり本人じゃないから、中途半端になったのかなって……わあああ! 危ない!」


 いつの間にか黒い巨人が俺達に攻撃をしかけていた。

 自分の体がとんでもないことになっていて泡ふためく俺を、レイが押し倒すようにして巨人の腕から回避させてくれた。

 紙一重で救出してくれたレイに感謝の意を示さないといけないところだが、未だに自分の体に愕然としてしまっている。


「ハジメ君! しっかりしなさい!」

「――っ。す、すまん、取り乱した。今は戦いに集中しなきゃだよな。ありがとう、レイ」


 レイに一喝され、なんとか動揺から立ち直った。

 そうだ、今はこの黒い巨人をどうにかしないと。


 レイはすぐに戦線に戻っていき、俺も続こうと立ち上がった時、右膝に痛みが走った。


「痛っ! ……さっきので擦りむいちまったか。とりあえず回復魔法を……あれ?」


 自分の擦り傷に回復魔法をかけるも、傷が治らない。


 ……何でだ? レイの傷はすぐに治せたよな……。


 魔法の使い方はなんとなく理解しているはずだが、よくよく考えたら発動の仕方しか分からないことに気がつく。


 魔力が足りないとか? いや、全然そんな感じはしない。実際魔法が発動した感覚はあった。

 大怪我じゃないとダメとかか? それも変な話だ。

 そう言えば、強化魔法がかかった感覚もない。


 もしかして……。


「よしよし、この黒いの、私が足を重点的に執拗に一心不乱にこれでもかと蹴り続けていたから流石に効いてるみたいだわ! ……お、回復ありがとうね」

「レイ、俺はここまでだ。ここでお前に魔法をかける機械になる」

「……はぁ!? 何言ってるのよハジメ君! 私とデュアル・マジカル格闘術でアイツを倒すんでしょ!?」


 俺の突然の前衛離脱宣言に戸惑うレイ。

 俺は意を決して理由を告げる。

 

「どうやら俺の魔法は、自分にはかけられないらしい。だから、大ダメージを受けたら終わりだ」

「………………うそーん。」


 泣きそうな顔でこちらを見るレイ。

 すまん。


「大丈夫だ! 幸いアイツの攻撃は遅い上に読みやすい! あと足元が弱点だ! お前ならいける!」

「ならアンタもやりなさいよ! ねえ嘘でしょ!? ホントに私一人で……」


「お前が倒れても俺が立たせる! 何度でも! お前は不死身の魔法少女になるんだ!」


「どちくしょおおおおお! 覚えてなさいよおおおおハジメええええ!」


 傷ついて倒れても回復して復活し、敵を倒すまでやり続ける。この戦法をアンデッド・場坂……いや、バーサーカーと名付けよう。

 アンデッド・バーサーカー

 レイが聞いたら怒り狂って本当に狂戦士になりそうだから口には出さないが。


 女の子に戦闘を丸投げして、俺は後方待機する。

 ……仕方ない、よな……? そういう戦法だし! 俺は大怪我負ったら終わりだし!


 俺は悪くねえ!


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