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奇妙な魔法少女たち  作者: みずゆめ
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三話 黒い巨人

 突如として現れた黒い腕は、先程まで俺が相手をしていた魔物を掴んでいた。

 黒い腕は、空中にある穴から伸びている。

 その穴はガラスのようにひび割れていることから、腕はまるで空間をぶち抜いて出てきたようだ。


 俺はただ呆然と黒い腕を眺めていると、黒い腕が膨れ上がり、掴まっている魔物が悲鳴を上げた。


「――っ!!」


 黒い腕に掴まれていた魔物が握りつぶされ、動かなくなった。


 あの腕も、魔物、なのか……?

 

 バキン、と音を立て空中の穴が広がっていく。

 穴はどんどん広がっていき、やがて黒い腕の持ち主が現れた。


 人によく似た姿をした5、6メートルはあるかという巨体で、筋骨隆々といった言葉が合う。

 だが、下半身にあたる部分は上半身とは反比例するように細く、アンバランスだ。


 そして、人の姿に似てはいるが……首がない。

 

 その黒い巨人は、魔物を掴んでいる腕を胸の辺りまで動かすと――

 黒い巨人の胸が左右に開き、その中に掴んでいた魔物を放り込んだ。

 中は赤く、その断面には歯のような尖ったものが複数生えていたため、おそらくあそこが口なのだろう。

 胸は閉じられ、中のものを咀嚼すように動いている。


「――うっ」


 異様な光景に思わず声が出てしまい。慌てて口を抑える。

 が、手遅れだったようで、黒い巨人は俺を次の獲物とみなしたようにこちらに向き直る。


 これは……やばい。

 そうだ、場坂はどこへ行った?

 と、今更ながら場坂の姿が見えないことに気がつく。

 

 助けを求めようと辺りを見回すと、遠く離れた場所に倒れている場坂を見つけた。

 場坂の服は汚れ、辺りには赤い点々が落ちている。


 ――ああ、そうか。あいつが助けてくれたのか……。

 おそらく、最初に黒い腕が出現した時、場坂が俺を突き飛ばして代わりに黒い腕の攻撃を受けたのだろう。

 かなりのダメージだったようで、場坂はまだ動かない。 

 駆け付けてやりたいが、黒い巨人はそんな暇は与えてくれなさそうだ。


「ハジメ……君。……逃げて」


 そんな声が聞こえてきた。

 よかった。場坂は生きている。

 最初は戦えと言っていたくせに……。つまり、それほど危険な状況なのだろう。


 なら、俺のすることは――


「場坂! なんとか時間を稼ぐから、そっちは態勢を立て直しておいてくれ!」

「な、何を……!」

「あと、復元よろしくな!」

「ま、待って! ダメ!」


 何かあっても復元できるとはいえ、正直半信半疑だし、怖くて足が震える。

 だけど、あいつは庇ってくれた。なら今度は俺の番だ。


「――――!」


 黒い巨人が、腕を振りかぶる。


「来やがれぇ! デカブツ! ――なっ!?」


 黒い巨人の攻撃を横に跳んで避けようとした瞬間、複数の人型のなにかが黒い巨人に飛びかかっていた。

 黒い巨人は、俺への攻撃を中断し、飛びかかってきた人型へ迎撃の体勢を取る。


「な……なんだ? ……マネキンか?」


 どこからともなく出てきた人型は、デパートで見るようなマネキンに似ていた。

 場坂が何かをしたのかと彼女の方を見たが、驚いている様子だ。彼女の仕業ではない。


 いや、今はマネキンよりも場坂だ。

 黒い巨人がマネキンに気を取られている間に、俺は場坂に駆け寄る。


「場坂、動けるか!?」

「うん……ごめんね、私が助けなきゃなのに……」


 会った時と違い、殊勝な事を言う場坂。よほど弱っているのか……。

 その体には多数の擦り傷があり、服にも血が滲んでいる。


「気にすんな、お前は庇ってくれた。それに、俺は復元できるんだろ?」

「違うの……復元にも限界があるって言ったのは覚えてる? 魔物に食べられちゃったら、復元できないの……」


 マジかよ……危ねえ。

 じゃあ最初の小さな魔物もやばかったんじゃねえか。知らずに戦っちまった。


「ああ、大きいのと違って、小さいのはかじる程度だから、復元できるわ。……でも、そんなの言い訳にもならないわね。ごめんなさい。……魔法少女失格ね」


 結構落ち込んでいるようだ。

 俺は自分が危なかったことよりも、場坂の様子に戸惑ってしまう。


「……アレだ。その、魔法少女失格だとしても、俺はしっかりお前に助けられたぞ。だから、えー、自信を持て、場坂」


 慰めようと思ったが、うまく言葉が思いつかず、しどろもどろになってしまった。

 そんな俺を見て、場坂はくすりと笑った。


「……いけそうか? あのデカブツはマネキン達が引きつけてくれてるみたいだから、今のうちに離れよう」

「……いいえ、もう持ちこたえられそうにないわね。だから、応援がくるまで、私がなんとかするわ」


 そう言って、場坂は足が震えながらも立ち上がる。黒い巨人からのダメージがまだ残っているのだろう。

 破けた服の隙間から、大きな痣が見えた。黒い巨人が出現した時にもらったものか。

 痣は変色していて、重症だ。

 こんな状態で戦うのは自殺行為でしかない。


 他の魔法少女がいるのは少し驚いたが、それを質問するより今は場坂を止めたほうがいい。


「バカ言うな! 足ガクガクじゃねえか! そんなんで戦えるのか!? ……剣も魔法も使えないんだろ?」


 落ち込んでいる彼女に対してキツイ言い方になってしまったが、そうでも言わないと場坂は止まりそうもなかった。


「そうね。でも魔物は大きくなると、人以外にも構造物、最後には空間まで食べると言われているわ」

「空間って……」

「空間が食べられちゃったら、その中にあるものは全部、復元なんてできないわ。だから魔物を放置なんてできない……。それに」


 場坂は自分の頬を叩き、こちらに振り向く。

 強い瞳をしている。


「悪と戦い、平和を守るのが魔法少女だからね!」


 魔法少女の勧誘に失敗したから男でもいいやとやけになったり

 自分の剣に押しつぶされたり

 剣が重いせいで振ることが出来ず、魔法すら使えなかったり

 一般人を戦闘要員に数えたりと散々だが。


 場坂レイは、魔法少女だ。


「……涙目だぞ。顔も引きつってる」

「こ、これはアレよ! そう! さっきほっぺを強く叩きすぎちゃってね? 思ったより痛かったの!」

「……足震えてるぞ。汗もすごい」

「なんだっけ、そう! 武者震いってやつよ!」


 黒い巨人と戦っているマネキンの数が、最初より少なくなっている。

 残っているのも傷だらけで、全滅するのは時間の問題だろう。

 他の魔法少女が応援に来てくれる様子もない。あのマネキンだけだ。


 魔法少女が人員不足というのは本当らしい。

 ダンボールに入って声をかけるという奇抜な勧誘のせいで、うさんくささが半端なかったが。


 危機的状況だというのに、俺は自然と笑みがこぼれた。

 俺の空気を読まない指摘のせいで、少しむくれている場坂に


「……戦力が必要なんだろ?」

「そうだけど、他の子はまだ来そうもな……まさか、ハジメ君……」


 覚悟は決まった。


「魔法少女、やってみるぜ」

「……いいのね?」


 ああ。

 なんだかんだ、魔法とかそういうものに憧れているのだ。

 女装することになるのは不本意だが、まあいいだろう。


「じゃあ、この宝石を握って。そして、変身後の自分の姿のイメージと、自分の願いを込めるの」

「願い?」

「うん、魔法少女になって何がしたいのか。それを実現できる魔法が使えるようになるって私の時は言われたわ」


 宝石を握っている俺の手を包むように、場坂が手を重ねてきた。

 

 ……集中する。 


 変身後のイメージは、シンプルなデザインの杖を持ち、黒いローブを纏った魔法使い。イメージ通りなら、女装しなくてもいいかもしれない。


 願いは……人を救う力を。目の前の、ポンコツだが立派な、魔法少女を助けられる力を。


 ――手の中の宝石が光を放ち始めた。

 光はどんどん大きくなり、俺の体全てを包み込む。

 体が包み込まれる寸前、場坂が微笑んだのが見えた。


 光は、暖かかった。

 

 光に包まれた時間はあっという間で、すぐに変身が終わった。

 右手に棒状の何かを掴んでいる感覚がある。


「終わったわね! さぁ、一緒に魔物を倒しましょ……う!?」


 場坂が何か驚いているようだが、右手で握っている物が気になる。

 握っていたのは――杖だ。

 装飾された棒の先端にハート型の宝石が付いていて、そこから天使のような羽が生えている。

 いかにも魔法少女って感じの杖だ。


 杖が自分の想像したものと違い、疑問に思っていると、足がやけにスースーしていることに気がついた。

 ……これは、もしかすると女装になってるんじゃ……。

 と嫌な予感がしつつ自分の足を見ようとするも、何故か足元が見にくい。


 視力が悪くなったわけではないだろう。場坂の顔は普通に見える。

 ……場坂って俺より背が高かったんだな。ん?そうだったっけ?


 自分の体の違和感を探っていると、胸に異変が起きているのに気がついた。

 ――胸。

 ――そう、胸がある。

 ――男にも胸があるが、これは違う。脂肪のという名の夢の塊だ。


 ――おっぱいがある。



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