09
――…
「まぁソラン、学校は?」
驚いた顔の門番をやりすごし、カインの部屋へ駆けていた。ちょうどいい。
「母さま、カインはどこへ?」
「カイン?お友だちかしら。それとも、子猫ちゃんでも拾ったの?」
ソランは絶望のあまりクラリとした。
「ソラン、あなたひどい顔色よ。少しお休みなさいな」
なんとか頷き、よろよろと廊下を進む。
階段を上っては下り、曲がり角をいくつか曲がり、やがて自室へ辿り着いた。
隣の部屋がカインの部屋。
開こうとしたが、鍵がかかっていた。通りがかった使用人に声をかける。
「ここ、開けてくれる?」
「…何もありませんよ?」
その言葉通り、そこには物が一つもなかった。
「もうずっと、使われてませんから」
カインは本当にやってのけたのだ。世界から、みんなから自分の記憶を消した。
「おれが双子だって知ってる?」
試しに言ってみる。
「…そのようなジョークが学舎で流行っているのですか?」
使用人は眉をひそめた。
ソランは肩をすくめて何もない部屋へ足を踏み入れる。
世界はカインを忘れてしまった
『カインが死んだら、おれも死ぬ』
ここはカインがいない世界。死んだ世界。
『カインはおまえの心に生きているじゃないか』
カインを忘れた世界で、まるでカインのように生きているソラン。
もし自分がカインとして生きたなら、世界にカインの痕跡を残すことになるだろうか。
「カインは死なない」
ソランが生きているかぎり。
ソランは凛とした眼差しで、色のない世界を見詰めた。