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終わりなき青  作者: ふゆしろ
8/13

08

 手の中からさらさらと砂が零れ落ちるように、掴んでいたものがなくなってゆく。


 鮮やかな日常。

 それは虚像だった?


 みんな、カインを見ていたのではないか。

 自分はいなくなってしまったカインの代わりだったのではないか。


 カインはどこへ行った?


 あんなに鮮やかだったのに、もう色がわからない。


 きらきらと眩しい光のような日々だった。

 けれど今、その光は全てどこかへ流されて、底なし沼のような空虚がぽっかり顔を覗かせている。


 カインはどこ?


 扉を開き、中へ入った。


「おれがいなくなったら、ソランは一人で生きるんだよ」


 廊下の先でカインが微笑む。


「いやだ、カインッ」


 走り寄り、その腕を掴もうとしたけれど、気づいたらカインの姿はなかった。


「おれの記憶は、ソランが生きる邪魔になるね」


 上の方からした声にハッと振り向く。階段の中ほどにカインがいた。


「カイン…」


「全部消してあげるよ。きみの記憶からも世界の記憶からも、全部」


「そんなことできるはずない」


 ふっと後ろに人の気配。


「できるよ。命を懸けて魔法をかければ、おれにはできる」


 ソランやカインは王族だ。王族は特に、強い力を持つ。


「カイン…」


 振り返ると、そこにはリュークが立っていた。


「ソラン、」


「リューク、おれはカインじゃない」


 リュークが好きなのはカイン。カインもリュークが好きだった。


「わかってる。おれはソランが好きなんだ。言ったろ?昔からおまえが好きだったって」


「うそだ」


「うそじゃない」


 リュークは強く言い、ソランの頬を優しく撫でる。


「ずっとおまえが好きだった」


 その瞳に隠しきれない想いを滲ませて。

 睫毛が震えた。その目を見ていられず、ソランはすっと視線を外す。


「ソラン、受け入れてくれ。おれと生きよう」


 リュークと生きる?


「ずっと側にいる。ぜったい離れないから」


 カインはどこへ行った?

 光が見つけられないんだ。空虚にとりつかれたこの心をどうしたらいい。


「ソラン、カインならおまえの心に生きているじゃないか」


 ソランは目を見開いた。ああ、頭が痛い。


「リューク…リュークは覚えてるんだ」


 ソランはリュークの腕をガシリと掴む。


「カインは?カインは本当に、」


 ズキリと頭が激しく痛んだ。

 リュークはソランの腕を外し、その体をそっと抱きしめる。


「ああ、そうだ。カインはもうどこにもいない」


 なに?頭に響く心臓の音がうるさくてよく聞こえない。

 いや、わかっている。だって誰も、カインを覚えていない。いや、母なら…父なら覚えているかもしれない。

 城にはカインの部屋があるはずだ。どこかで静養しているのかも。


「、ソラン!」


 ソランはリュークの腕から抜けだし駆けだそうとして、ガクリと膝から崩れ落ちた。


「ぅおっ」


 リュークがなんとか支えてくれる。

 頭が痛い。はぁはぁと荒い息をしている自分。体が熱い…。


「…ソランおまえ、すごい熱じゃないか」


 すぅっと意識が遠退いた。

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