08
『カインのいない世界なんて生きたくない。ダメなんだ、カインがいないと…』
ダメなんだ
カインは世界の中心だ。ずっと一緒で、カインのいない世界など考えられない。
ソランには、カインはなくてはならない存在だった。
「おれはもう長くない。ソランより先にいなくなるよ。それは決まりきったことだ」
知っていた。お医者さまが両親に話すのを、ソランも聞いてしまった。
あのときは足元が真っ暗になり、奈落の底に落ちてゆくようだった。
「おれがいなくなったら、ソランは一人で生きるんだよ」
「…いやだ」
ソランは流れる涙をそのままに、空色の瞳へカインを映す。
「カインが死んだらおれも死ぬ」
するとカインは眩しそうに目を細め、満足そうに微笑んだ。
カインはどこへ行った?
ソランは人見知りだったはずだ。それが今、周りはたくさんの友人がいる。
まるで自分がカインになったかのよう
「ソラン?リュークが探してたぞ」
ハッと振り返る。
友人…昔カインの友人だった、ルームメイトの彼がいた。
「なんだよ、どうかしたのか?顔色がわるい」
彼はどうして、いつから自分の友となったのだろう。
「…おれはソランだぞ?」
「はぁ?それはあれか?おれは王子さまだぞーもっと敬えー!って?」
「、ちがうっ」
だよな、ぜんぜんらしくない。
そう言って、彼はまじまじとソランを見た。
「なーんか最近、ちょっと変だよな、おまえ」
「変?」
カインと勘違いしているからじゃなかろうか。
「ぼうっとしてるし、妙なこと言うし」
彼は本当に、カインを忘れてしまった…?
ソランは動揺を露に口を開く。
「前はさ、おれじゃなくて、カインとよくいたよな」
すると彼は一瞬妙な顔をして、次にはソランの肩にそっと手を置いた。
「おまえ、本当にどうしたんだ?カインなんておれは知らない。変なゆめでも見たんだろう」
心配を通り越し、深刻な顔をされる。
「気分がわるいなら保健室に行った方がいい。一緒に行ってやるから」
うそだ。おかしい。そんなはずない。
ソランはその手を振り解き、駆けだした。