06
何かがおかしい。
さらさら流れてゆく日常。
たくさんの友人や好きな人に囲まれて
賑やかで、鮮やかで、楽しい日々だ。
かつてないほど素晴らしい日々だと思う。それなのに。
…ずっと身近にいたのにいなくなってしまった誰かがいる気がしている。
けれど、そんな誰かがいたような心の隙間を見せる人は誰もいないから。
わからなくなる。
「ソラン?どうかしたのか?」
緑の瞳がふと不安を映す。
「…いや。そういえばこないだの魔術工学のヤマ、大当たりだったな。さすがリューク」
「褒めても何も出ないぞ?それともご褒美にキスでもくれる?どうせならディープな方がいいな」
「あ げ ま せ ん」
たまにリュークから感じる焦燥感。
少し前から、なんとなく頭が痛い。窓から空を見上げる。
『ソランも頭痛?これは雨が降るな』
「降ってきた」
二人で合ったときの的中率は半端ない。
「ほんと、おまえたちはよく…」
おまえたちはよく当てる
リュークが言おうとした言葉。ソランはハッとしてその肩を掴む。
「今、おまえたちって言ったよな」
「、いや、」
リュークは明らかに動揺していた。肩を掴む手に力がこもる。
「おれと誰だよ?リューク、おれと誰なんだ?!」
誰か、その誰かのことを、自分はよく知っている。知っているはずなのに顔も名前も思い出せない。
ちらつく記憶。覚えている。誰かといたことを。
「誰なんだよ…」
誰も話題に出さない。現実には、どこにも痕跡がない誰か。自分は知っているのに。
わからない
「ソラン、落ち着け。ただの言い間違えだ。な?」
なぜリュークは隠そうとする?
「、ソラン!」
昔からよく一緒にいたリューク。彼なら知っていてもおかしくない。知っているのだ、彼は。
ソランは廊下を駆ける。
虚像の世界を生きているような、ふわふわした感じ。
誰も彼も、昔からずっとこんな風だったような顔をして。
記憶を辿っても穴はない。けれど。
ふと目についた鏡。近づいて覗きこむ。
この頃は鏡を見る気になれなかった。久しぶりに見る。
ソランはそこに映った自分の顔から目が離せなくなった。
『おれがいなくなったら、ソラン、どうする?』
ハッとした。
引き返して外へ向かう。開かれたままの扉を抜ければ雨はすっかり止んでいた。
きらきらと、木漏れ日が落ちている。
麗らかな日差し…ああ、そうだ。あのときも…