03
「ソランさんは親しみがあるよね」
「本当の王子さまなのにな」
「聞いてよ、ぼく、こないだお話しちゃった」
ソランはこの国の王子。国といっても、大陸のほんの一部でしかない。
大陸にはたくさんの国があり、それぞれ同盟を結んでいくつかの集合体を形成していた。
この学舎にはソランの他にも、同じ集合体に属する王子が何人かいる。
「ぼくはソランさんが一番好きだな。かっこいいし」
「あの方は美人だろ」
「えー?かっこいいよ!優しいしさ」
道の向こうから聞こえた会話に、リュークがふっと笑みを浮かべる。
「人気者だな、王子さま?」
「嫌みにしか聞こえない」
ソランは目をすがめた。
王子という響きは、ぜんぜん自分には似合わないと思う。
簡単に笑顔を振りまき手を振るリュークの方が、よっぽどそれらしい。
「ソラン、笑顔笑顔」
『ほら、笑ってソラン。そうすれば人が寄ってくるよ』
『…それができないから、こうなんじゃないか』
愛想笑いは苦手だ。がんばってやろうとすると頬が引きつる。
「それ、笑ってるつもりか?」
「うるさい」
眉根が寄った。
「もったいないなぁ」
『もったいない』
そんなに嬉しそうな顔で言う言葉?
『おれはいいんだ』
「おれはいいんだよ」
「ま、おれはおまえの可愛い笑顔、知ってるからいいけどな?」
リュークはそう言って甘い微笑を浮かべる。熱くなった耳を隠すようにそっぽを向いた。
「はぁ?目がおかしいんじゃないか?」
「照れるなよ」
わしゃわしゃ頭を撫でられた。
ソランは、橙に染まった世界でぼんやり口を開く。
「前もこんな会話、誰かとしたな」
斜陽が人々の顔を隠してしまい、誰も彼もわからない。
「誰としたんだっけ」
なんとなく隣に目をやった。
「おれは知らないぜ?」
その顔も、よく見えなかった。