12
リュークは口を開きかけ、閉じる。
短く息を吐き、ようやく言葉を紡いだ。
「カインはもう、どこにもいない」
空色の瞳が零れんばかりに開かれた。
「うそだ」
いや、わかってた。認めたくなかっただけだ。体が震える。気を抜いたら発狂しそうだった。
「…カインは、もうわずかしか生きられないとわかっていた。だから最後に、全ての力を使って術をかけたんだ」
世界から、人々の記憶から、己の痕跡を消した。
「…な、で…」
ああそれは、ソランが生きるため…。
リュークはもう、口を開けばため息を吐いてしまう。
「あいつは腹黒だって言ったろ?これはおれに対する壮大な嫌がらせだ」
術をかける前、カインは一人、リュークの元へやって来た。
「おれはもうすぐこの世界からいなくなる。全ての力を使って、おれが生きた痕跡を消すよ」
王族は特に強い力を秘めている。
その目を見たら、戯言ではないとわかった。
「なんでそんなことをする?ギリギリまで生きて、ソランの側にいてやれよ」
するとカインは笑みを浮かべた。
「リューク、おれが死んだらソランも死ぬよ。それでいいのか?」
リュークは息をのむ。ソランならあり得ると思ってしまった。
「おれは構わないけど、きみは違うだろう」
「…ソランがおまえの後を追って死なないように、痕跡を消すのか?」
カインは笑みを深める。
「おれの魔法も完璧じゃない。ソランの想いがおれの力を上回れば、きっと思い出してしまう」
思い出したら、ソランはやはり後を追うだろう。
「ソランは思い出すよ。精々がんばって思い止まらせるんだな」
もしかして、ソランがリュークを深く愛せば、カインがいなくても生きようと思うかもしれない。
「きみの記憶だけは弄らないでおく」
ソランがどちらを選ぶか楽しみだ
未来を確信したような笑みを残し、カインは消えた。