†①希望の誕生†
FATE〜四王の運命〜【本編】第15話を読み終わってから、読んだ方がおすすめです(*^_^*)一層面白くなります。
本編にも投稿しますが、BL要素が少ないため、スピンオフとしても投稿させて頂きます。
「ゼファー風王。嫡子がお生まれになったこと、心からお祝い申し上げます」
嬉しそうな声でしゃべったのは紫色の瞳を持っている少年。
「おや~バーナード、来てくれたか?」ゼファー風王と呼ばれた者は金髪と森の色の瞳を持つ紳士。人間ならば50歳ぐらいの中高年。彼は笑顔で、1700年のバーナードに挨拶した。
「ええ。お知らせを聞き次第、すぐ参りました。事前にご連絡しなくてお詫びを申し上げます」土帝国の嫡子は深くお辞儀をした。
「いやいや。堅苦しい言葉はやめてといつも言うのに。君も余の息子だよ」 ゼファー風王は暖かく少年を抱きしめた。
その暖かさは土帝国の嫡子に伝わってくる。
大四元素の四帝国は元素の魂を持っている王族によって支配されている。
王になる者は自分が持っている大元素の魂を解放して、巨大な力を得る。つまり、その力は王にとって「誇り」でもあり「証」でもある。
これまで風流殿はその力を持っている者はゼファー風王しか居なかった。
理由はこの万年以上、風王の嫡子がひとりも生まれていなかったからだ。
側室を望まないゼファー風王はいくら貴族らにすすめられても、女風王以外、誰も認めない。その愛の強さは四王の中でも一番熱いと言われている。
けれど、このままではいけない。
ゼファー風王は先代風王の一人息子で、兄弟もいない。また、ゼファー風王と女風王の親戚も風の魂を持っている者は居なかった。
次代の風王は風の魂を持っていない者に決して渡せられない。
ずっと悩んでいた問題は、とうとう昨年の冬に解決出来た。女風王がようやく妊娠されたからだ。
一方、バーナードは800年頃からある『きっかけ』で、ゼファー風王と出会った。子供がいない風王は、バーナードを自分の息子のように可愛がっていた。
「バーナード、余の義理息子にならないか?」ゼファー風王は1500年になった土帝国の嫡子に聞いた。
「何を仰っているんですか?ゼファー風王。ご冗談はお止め下さい」バーナードがいきなり聞かれて、驚いた。
「いや。余は本気で、君を息子にしたい。そして、風帝国の皇太子になってほしい」
「ゼファー風王!私は土帝国の王子でございます」慌てて答えたバーナード。
「別に。君は皇太子ではなかろう。頼む、バーナード。この王座は君以外、誰にも渡したくないんだ」ゼファー風王の声が真剣そのもの。これは冗談ではないという意味だ。
バーナードの父上であるディバー土王は二人の嫡子がいる。
一人はバーナードより4000年上の「バーリウス」。彼は他の帝国の嫡子と同じ、二千年に土の魂を解放して、土帝国の皇太子となった。
しかし、ディバー土王がすぐ王座から降りなかった。
その理由はディバー土王が若い時から土王になったからだ。早く結婚して、バーリウスが生まれた時、土王はまだ2100年だった。
自分の長男が2000年になった時、ディバー土王がまだ若く、王としてやり続けたいと述べた。
そして、バーリウス皇太子が生まれてからおよそ四千年後、バーナードが生まれた。 だが、バーナードが生まれても、ディバー土王はまだ王座から降りなかった。
時間が流れ、1500年になったバーナードは、ただの「土帝国の王子」のまま。
しかし、他帝国の王子だからといって、市民に納得出来るわけが無い。特に、土帝国と風帝国は昔からの敵でありライバルでもある。
ゼファー風王とディバー土王が例外に仲良いと言っても、無理に決まっている。
「申し訳御座いませんが、ご要望をお断りいたします。理由は言うまでもなく、私は風の魂も持っておりませんし、市民からの許可も受けかねます」バーナードはもっと強く拒否した。
「風の魂のことなら、余が君にあげる!」ゼファー風王は真剣な声で話した。
「ゼファー風王!!」今回バーナードが驚きほど叫んだ。冷静な彼は珍しいことだ。
「いいか、バーナード。余の風の魂を君にあげる。それなら、市民が認められるはず。ただ、一つだけ心配なのは君の体にある土の魂なんだ」ゼファー風王が少し心配そうな顔をした。
魂をあげるとは、昔からの物語。ある嫡子がいない王は自分の親戚に魂をあげた。勿論、魂をあげたとは「死」という意味でもある。
しかも、バーナードは風の力を持っていない。体の中には土の魂が眠っていることが分かったが、二千年になるまで自由に使えない。
「君が土の魂を解放する前にお願いしたい。土の力を封じ、余の風の魂をもらってほしい。勿論、君の身体にもかなり負荷をかけてしまう。死に至るかもしれない。だから断っても当然だが、余は君しかいないんだ、君にもらってほしい!」
ゼファー風王は繰り返して促した。
「『死』は問題では御座いません。恐がるものでも御座いません。しかし…私は適切では…」
その後バーナードは必死に否定していたが、ゼファー風王は全然変わる気がないようで、結局、バーナードは一つのことに約束した。
「では、御約束します。土の魂を解放する前に、もし嫡子が生まれなければ、私が風の魂を受け取ることにしましょう」
決心した声で答えたバーナードの約束を聞いて、ゼファー風王は少し安心した顔をした。
「しかし、風王からの約束も頂きたいと思いますが、如何でしょうか?」
「何の約束?」少し不思議そうな顔をした風王
「嫡子を諦めないことです。この500年の間、出来れば頑張って頂きたいのですが・・・」恥ずかしがりながら喋ったバーナードの姿が珍しくて、風王がしょうがなく爆笑した。
「ははは、わかったよ。バーナード。君に約束する。頑張ってみよう。意外と君もそういうことを言えるんだ」 ゼファー風王は少年をからかった。
「からかわないでください」少年のバーナードの頬が赤くなった。
その日、風流殿が久しぶりに風王の大きい笑い声が響いた。
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そして、その日からおよそ200年バーナードが願いし続けた日がやってきた。
「余はもう諦めた。バーナード、君のお陰だ」二人が女風王の寝室に向かって、歩きながら過去の話を話し合った。
「いいえ。私は何も役に立たなかったです」
200年の間、ゼファー風王は何回もバーナードを風帝国の王子として引き取ることをディバー土王に言いたかったが、いつもバーナードに止められた。
その時になるまで・・・
土帝国にとって、自分が風帝国の義理息子になっても、大した問題ではないと思っている。皇太子であるバーリウスがいるから。
しかし、バーナードにとって問題はそこではない。バーナードは兄上であるバーリウスと違い、王座を求めていない。
土王も・・・
風王も・・・
それで、この200年の間にバーナードはずっと願っていた。いつか風帝国の嫡子が生まれるようにと。それに、ゼファー風王は彼にとって尊敬している存在であり、恩人でもある。風の魂いをもらうとは恩人を殺すと同じ意味だ。決して避けたい。
昨年、女風王が妊娠されたお知らせを聞いた時、彼は誰よりも嬉しかった。また、今日生まれたばかりの嫡子の顔が見たくて、ここに飛び出した。
「バーナード、入って」先に寝室に入ったゼファー風王がバーナードを呼び出した。
この寝室は1700年のバーナードにとって初めてではない。以前子供の時、ある『きっかけ』で彼はここに来た。
寝室の中に、後宮の女官十人がベッドの周りに座っていた。ベッドの上にはラナー女風王が座って、赤ん坊は母上に抱かれて幸せそうに眠っている。
ラナー女風王はゼファー風王と同じぐらいの年齢で、優しいお方だ。今長い銀色の髪の毛は後ろで束ねている。妃がバーナードを見ると、すぐ声をかけた。
「バーナード殿、どうぞお入りくださいませ」いつもと同じように丁寧で優しい方。ラナー女風王もゼファー風王と同じで、バーナードが自分の息子だと思っている。
バーナードはお辞儀をし、寝室に入った。ゼファー風王は妃の近くに座りこんで、赤ん坊を母親の胸から取ろうとしたが・・・
「う…う…うわぁぁぁぁ」さっき幸せそうに眠った赤ん坊が大きい泣き声を出した。
「あらあら…ゼファー殿。いきなり抱くとびっくりさせられますよ」微笑みながら話した女風王。そして、妃が赤ん坊を抱き、子守歌を甘く囁くように歌った。泣いている赤ん坊が落ち着き、再び眠った。
一方、ゼファー風王は困ったような顔をして少しイライラした。
「すまない。ラナー。余は子供を触るのは初めてなんだ」一所懸命声を小さくした風王
この家族を見るだけで、バーナードの心は暖かくなってきた。
「バーナード殿、抱いて見ませんか?」ラーナ妃がずっとさっきから見詰めているバーナードに聞いた。
「是非抱いてみたいですが、泣かせるかもしれないので、やめた方が良いと思いますが・・・」
「いいえ。御遠慮せずに、是非抱いてみてください」そして、ラナー女風王が抱いている赤ん坊をバーナードに渡した。
軽い・・・
赤ん坊を抱いた瞬間、バーナードがそう思った。
バーナードの腕の中にさっきの母上と同じ幸せそうに眠っている。
「あら。バーナード殿を抱いても泣かないですね。意外とお上手ですね」ラナー女風王に褒められた。
それは勿論、確かにバーナードは末子だ。しかし、800年の時から炎帝国のラーカイン嫡子が生まれて、世話役として子供の面倒を見るのはもう慣れている。
彼は腕の中の赤坊をじっと見ていた。
小さな頭、顔、指・・・
赤い頬・・・
金色で柔らかい髪の毛・・・
「生まれてくれて、ありがとう」とバーナードが心の中に言った。
途端、眠っている赤ん坊が突然目を開けて、二人の目がピッタリと合った。
冷静で優しい紫色の瞳と、純粋なエメラルド色の瞳。
赤ん坊は泣くもせず、好奇心があるようにバーナードを見つめた。
「起きたか、『アルタイル』?」風王は赤ん坊が目覚めたことに気付き、名前を呼んだ。
「もう命名されたんですか?」バーナードが初めて名前を聞いた。
「そう。アルタイルは星の名であり、飛翔する鷲という意味もあるんだ。風帝国の将来は彼の手に入るからな。いい名前だろう。これからまた君に世話がやけると思う。遠慮なく、自分の弟だと思いなさい」
ゼファー風王はバーナードの頭を撫でた。
「はい。これからよろしくね。『アル』」バーナードは風王に頷き、赤ん坊に向け名を短くして呼んだ。
「ほう・・・『アル』か?じゃ・・・これからそれをこの子のあだ名にしよう」ゼファー風王がバーナードの言葉を聞いて、素早く決めた。
バーナードは自分が勝手な行動を反省して、すぐに謝る。
「私の勝手ですみません。つい・・・」
「ははは!良かろう!兄上からあだ名付けられるのは普通だ」ゼファー風王は答えながら何回もバーナードの頭を撫でた。
部屋中に幸せがいっぱいで、この幸せな時間・・・ずっと続けばと願ったバーナード
しかし、幸せの時間は早かった。
これからバーナードでもゼファー風王でも思わず悲劇が始まる。
皆さま、
はじめまして。月神紫苑です。
読んで頂いてありがとうございます♪( ´▽`)
今回FATE〜番外編をXアカウントだけではなく、一般アカウントのスピンオフとしても投稿させて頂きました。
分量が少ないのと、話が番外編でもある程度完結しているので、BL性描写が苦手な方は、番外編だけでも楽しんで頂ければと思います。
こちらの番外編は全部で6話あります。ほぼ毎日更新していますので、今週中に完結する予定です。
どうぞよろしくお願いします
月神紫苑
FATE本編はこちら【BL18禁注意】
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