第六十六話:フェイントを仕掛けよう
俺は、どうなった?
視界が昏い。目を瞑っているのか。あるいは、視界を奪われたか。
記憶を整理しなければいけない。
(俺は、死霊魔術を詠唱するパゴットに攻撃されて……どうなった?)
時間がどれだけ経ったかも分からない。
でも指の感覚はある。腕が動きもする。また瞼も痙攣していた。
(目が開く……)
視界の中で、修道院が燃えていた。俺が育った『狭い世界』だ。
その修道院では、シスターが孤児を教育しつつ狂気の実験も行っていた。
死者の身体と死者の魂。この二つを結びつけば不死性の怪物が生まれる。
では『生者の身体と生者の魂、これを入れ替えれば、どうなるか』という実験。
結果として、魂を削りながら身体が急速に修復する存在になる事が分かった。
それは生きながらにして『不死性』を手に入れたに等しい。
シスターは、この死霊魔術の秘儀を『アンリミデッド』と名付けた。
物心ついた頃にはその実験の助手をしながら、俺とパゴットは孤児としても教育を受けた。
シスターの狂気は理解しつつも、教育を受けさせてくれる彼女に感謝もしていた。
だがパゴットは、この狂っている平和な修道院を呪い続けていたのだ。
彼はある日、オーク族などを呼び寄せて修道院を焼いたのだ。
その時、俺とシスターは奴の剣で串刺しにされた。
全焼する修道院に全員が潰されようとしたその時、シスターは俺にアンリミデッドを使った。
パゴットと俺の身体と魂を入れ替えて、俺と奴に不死性を与えた。
その後、俺は生き続けて、今に至る。
瞳に映る燃え盛る修道院、それは過去の景色だ。
今だ、俺が知りたいのは、今この瞬間。
俺の身体を得てアンリミテッドとなった、パゴットとの戦いの瞬間である。
『なぁニィ? き、貴様ぁ……』
「へへへっ。もう一度、首ぃ、落としてみろやぁ」
走馬灯から醒めた俺の前には、パゴットの拳を受け止めるヌケサクが居た。
彼はその両手で持つ複数の盾で、奴の拳を止めている。
「ヌケサクッ」
「いつまでも調子に乗ってんな、逆恨み野郎が!」
将軍に『捕まえれば褒美をやる』と急き立てられ、俺を追う親衛隊達の盾。
それを、元野盗である彼は目にも留まらぬ速さで盗み、防御に使っていた。
幾らオーク族が頑丈と言っても、重ねた鉄の盾を殴ればただでは済まない。
『くっ。右手をやられたか、だがぁ』
「ふんごー(ギアガチャ、ギアガチャ、ギアガチャ! 全速力でインド人を右に!)」
『ぐわぁあっ』
再び痛みの声が上がる。パゴットの背中に、ツノの生えたヤギロボットが突進していた。
ポークの操縦する、自動郵便配達ロボットである。それを改造し、手動で動かしたのだ。
そのツノが奴の背中にぶっ刺さっている。
「ふんごー(よっしゃぁ。残虐行為手当は頂きじゃ)」
『ぐぐぅ、よくも……このクズどもがぁ』
「このコンビネーションッ。力の一号より、技の二号。これが俺の人生哲学モンクあっか!」
吼えるヌケサクとオーク族のポーク。
有効なダメージを与えたと確信し、二人は手放しに喜んでいた。
『……なんてな。無駄な哲学、ご苦労さん』
「へ?」
ヌケサクが一瞬で吹き飛ばされた。
縮地、か。武道家の奥義である、一気に間合いを詰める瞬間移動だ。
ポークのリモコンも、その中心線を手刀で切られる。
真っ二つになったリモコンの中身を撒き散らす彼の胴に、パゴットは前蹴りを入れた。
アッサリと気絶する二人。
『邪魔すんじゃねぇ。これからマルコに面白い提案をする所だったのに』
そう言って振り返るパゴットの顔面に、俺は右肘を叩き込んでいた。
顔面の骨を砕きながら、その肘の先が奴の脳髄へと到達する。
その直前、俺の右肘が消えた。
『捜し物は、これですか?』
俺の背後に縮地で移動したパゴットの手は、クルクルと俺の右腕を回していた。
ぐぅ、肘から先を、持って行かれたか。
『シスターは死ニ急ギ方でも教育シてたのか?』
「黙レ、シスターヲ侮辱スルナッ」
『だったら他人の話は最後まで聞け』
俺は無言でその先を促す。
切られた腕の大部分を持ち逃げされている以上、この治癒には時間が掛かる。
なにはともあれ、奴の言葉を聴いてでも、治癒時間を稼がねばならない。
『イイ子だ。提案ってのは他でも無イ。皆が幸せニなれる方法だ』
「ソンナ都合ノ良イ話ガ……」
『マルコよ。オマエ、王子の身体と入れ替われ』
……。
コイツ、ふざけてるのか。
『イんや? どうせ暗殺されて終わリ。そうイう先の長く無イ餓鬼だ』
だが、とパゴットは言葉を続けた。
『でもお前が王子の身体ニ宿れば、生半可な暗殺はくぐリ抜けるだろ』
「ソンナ事……」
『で、俺は俺の身体を返シて貰う。マルコ、お前の身体だよ』
「クッ」
奴がさっきアンリミデッドを使おうとしてたのは、やはりそれが目的か。
だが、ヌケサク達の活躍で、なんとか助かった。
「フンッ。ソノ理屈ダト、王子ノ宿ル肉体ガ無イヨウダガ。俺ノ身体ヲヤルツモリカ?」
『王子の身体は有用だが、彼の魂は既ニ屈服シ、死んでイる。元よリ員数外だ』
「魂ガ屈服シタナド、他人ニ向カッテ簡単ニ言ウナ」
それは他者の尊厳を汚す行為だ。そんな事、誰にも許されない。
俺は残った左腕で、パゴットに拳を向ける。
ニヤニヤ笑いを止めると、奴は大きな溜息を吐いた。
それを合図に、パゴットの全身から負の魔力が膨れ上がる。
シスター仕込みの死霊魔術、か。
『俺と貴様の格の差、まだ理解出来無イようだな。良イだろう、教育シてやる』
* * *
ゾンビが迫る度に円陣も縮まる。
勿論、兵士とて剣を振るってみたが、有効打は殆ど与えられなかった。
下手に構えば別のゾンビもこちらに気付き、近寄ってくる分だけむしろ危険が増してしまう。
万事休す。言葉通りの状況だ。
だが、そんな時でもフィーオだけは信じていた。
マルコが、必ず助けてくれると。今もまた、その為にどこかで戦っていると。
「助けて、マルコッ!」
フィーオの声が森にこだました。それはゾンビの呻き声を瞬間だけ静かにさせる。
きっと良く通る少女の声が、音の世界を浄化したのだ。
それもあと二、三回も瞬きをすれば、ゾンビだらけの音に戻るだろう。
一瞬の幻想が人の心を虜にしても、押し寄せる現実はビクともしない。
「マルコ……」
背の高い木々の枝がへし折れて、幾多の木の葉を撒き散らし、それは現れた。
巨躯のオーク族にして、エルフの森で十年以上も生きた森の住民。
数多の戦場を駆け抜けては、不死の身体から流れ出る血で鍛え上げた拳を振るう。
少女の呼んだマルコ、その人である。
ただし満身創痍で、完全に気を失っていたのだが。
* * *
「起きなさいよっ、この馬鹿マルコッ!」
ビシィッと顔面に強烈な痛みを感じた。
ぐっ、これは闘魂注入のビンタか?
「ブヒヒィ(いやその、フィーオ姐御。助けに来た人を足蹴にするのは、どうかと)」
「だって簀巻にされてるから、ビンタ出来ないじゃん。仕方ないよ」
「ブヒヒィ(せめてこう、もっと色っぽく踵のハイヒールを食い込ませるように)」
「そんなの履いてないわよ」
俺はふらつき、ジンジンとする頬の痛みを左手で擦って冷ます。
くそっ、かなり痛いぞ。というか、なんか泥ついてねぇか俺の顔。
「おはようマルコ。ギリギリまで頑張って呼んだら現れるとか、やるじゃない」
「何ノ話シダ。トイウカ、今ハフィーオニ構ウ余裕ガ……」
鼻の奥が疼く。なにか本能的な恐怖を、感じ取ったのだ。
フィーオを突き飛ばしつつ、俺は残る左腕で捻りながら上下に振るった。
直後、偶然にもその腕にパゴットの飛び蹴りが衝突する。
『運だけは良イなっ。だが偶然は続かんものだ』
捻りを加えた左腕の防御は、奴の攻撃を身体の外側へと弾き出す。
故に着地までの瞬間、パゴットにも隙が生まれるはず。
その、はずだった。
だが奴は俺の腕に足を乗せたまま、弾き出されもせず顔へとストンピングを食わえてきた。
「ナニィッ」
首と上半身の動きで避けるが、二発ほど良い奴を顔に受ける。
さっきの闘魂注入ビンタとは比較にならない激痛だ。
「ブヒヒィ(あぁっ、兄貴の頭が翼君の友達にされてしまう)」
ピッグの悲鳴を聞き流し、俺は左腕を上下逆にさせつつ横に薙ぎ払った。
すると流石の奴もジャンプして空中に退避し、離れた位置で着地する。
どうやら魔術でも何でも無く、パゴットは単なる自力で『俺の腕に乗り続けた』のだ。
「化ケ物メッ」
『修練不足を嘆くなよ。情けねぇぞ』
だが、それでも俺は勝たねばならない。
負ければ王子と身体を交換させられる、そんな事は最悪どうでも良い。
戦争になって、両国とも大きな被害が出る。それも時代の流れだろう。
修道院のシスターや、孤児達の仇討ちが出来ない。出来たとしても喜ぶのは俺だけだ。
俺が、絶対に勝たねばならない理由。
それは『自分の勝利を信じる人の為』に決まっている。
「来イ、パゴットォ! 最後ノ決着ダッ」
奴に切られた右腕も修復がほぼ終わり、感覚が鈍いだけだ。
これなら全力と行かなくても、フェイントで殴るくらいは出来る。
つまり、カウンター攻撃だけを考える。
右手を犠牲にしてでもフェイントを完遂し、左腕で奴の頭部を破壊する。
幾ら不死性が高くとも『死者では無い』以上、自由意志を破壊されれば動けなくなる。
自由意志、つまり脳である。
俺はその破壊だけ考えて、ひたすら構えを崩さない。
『ウボァァァアアア!』
「ひぃぃっ、来た来た、来たぁぁぁ」
なんだ、いったい?
その異常な悲鳴から、一瞬だけ視野を声の方向に向けた。
すると、そこには無数のゾンビが、今にも兵士に襲いかかろうとしていた。
「ナンダ? ゾンビ、ダト」
「ブヒヒィ(いま気付いたんですか!?)」
そりゃそうだろ。俺はずっとパゴットの相手をし続けているんだ。
周りを見る余裕など、あろうはずも無い。
「ウヌッ? シマッタァ」
視線をパゴットに戻す、時間にして僅かな0.5秒未満。
それでも、奴は姿を消していた。まずい、どこに跳んだ?
「きゃああぁ! 王子ぃ、王子!」
女性の声。
振り向くと口元に手を当てて叫ぶ王子の側近と、パゴットに羽交い締めされる王子が居た。
くそっ、人質を取りやがった!
「オーク、王子から手を離せ。貴様、我が軍の者ではないかっ。無礼だぞ」
「そうだよ。だから、将軍の魔の手から助けてやったじゃないか」
「世迷い言をっ」
側近から出た呪いの言葉は、だがしかし次の瞬間に声も無く掻き消えた。
歩兵たちの驚愕の声が、一斉に湧き上がったのだ。
「ゾ、ゾンビが、みんな倒れてるっ」
「なななな、なぜじゃあああ! なぜ倒れるんじゃぁぁあ!」
兵士の声と、死霊使いの声が重なって聴こえた。
軍隊を囲んでいたゾンビの、ほぼ全てが地面に倒れ伏している。
「貴様の仕業かぁ、オークぅ!」
「イヤ、俺デハ無イガ」
死霊使いが俺に指をビシっと突き指すが、何もしていないのは明白だ。
向こうの王子を人質に取ってる方だよ。なにかしたのは、多分。
『対魔術障壁ニよるゾンビの暴走、か。素人考えの間抜けなミス』
そこまで言って、パゴットは握り締めていた掌をスルスルと開ける。
意外にも、そこに入っていたのは『髑髏の破片』だった。
『そう思わせておイて、実際は身体ニ装飾した大量の髑髏の動キでゾンビを誘導する』
「くっ……なぜそれ、を」
『誘導できないならば、ここまで大量のゾンビを連れてこれるかよ。馬鹿め』
つまり暴走状態とされるゾンビを魔術以外で操る方法が、ある。
となれば、怪しくなるのは「無意味に見える髑髏の頭」だった。
『制御不能ニなった時の緊急対策も用意するのは、死霊魔術の嗜ミだシな』
「ハッ……! いつの間に、そんな、馬鹿なっ」
死霊使いの男は全身の髑髏を打ち砕かれて、周りに散らしていた。
それにより各髑髏で誘導されていたゾンビは、全滅したのだ。
暴走のフェイル・セーフの為、そうプログラミングしてあったのだろう。
「まだだ、これで勝ったと思うなっ。いけ、我が最も優秀なるゾンビっ」
巨大な人型は「ガォーーー!」と叫びながら、パゴットに襲い掛かる。
よく見れば、そのゾンビは空手の構えをしていた。生前の記憶か?
「駄目っ、オークは王子を盾にしてるのに」
『あらよっと』
パゴットは王子を羽交い締めしながら、掴みかかるモーションの両膝を蹴りで壊した。
前屈みとなり、その頭頂部までの背の高さが大きく下がる。
『鈍イんだよ、うすのろ』
最後に頭部を破壊する前蹴りで、巨大ゾンビは両腕と胴体を残して破壊された。
ゾンビ軍団の、完全敗北である。
「馬鹿な馬鹿なっうぉぉぉお!」
叫ぶ死霊使いに視線を重ねて、パゴットが何かをしようとする。
俺は嫌な予感がし、その背後まで縮地で移動すると攻撃を加えた。
だが、それが届く前に奴はまた、あらぬ方向へと移動している。
縮地同士の戦いは、ひたすら相手の移動地点を予測し、先読みして移動するしかない。
『なんだよ、邪魔すんな。貴様らニとっても敵だろ?』
「ソンナニ人殺シガ、シタイノカッ
『敵も味方も無シ、か。愚かな博愛者め。流石は不死者、言う事が違うな』
パゴットは王子を右腕で拘束し、俺に向けて指を突き出す。
『全生物を不死化させる理想郷など、シスターの妄想だ。敵味方で殺シ合うのが生物の本懐』
「不死ナド関係無イ。ドンナ自分デモ、俺ハ意思ヲ貫ク」
『ふんっ。なら俺の意思が、戦争を求めてイるってんだよぉ』
奴が跳ぶ。その移動先を読むんだ。
今、奴は右腕が使えない。となると、正面や俺の右側面はあり得ない。
俺の背後に跳んでの後ろ蹴りも、モーションの大きさから王子が邪魔になる。
となれば、左側面に移動して攻撃が、最も可能性が高い。
「ヌゥンッ!」
『ハズレだ』
空振る俺の左裏拳を、パゴットはしゃがんで避けていた。
移動先の座標は当たっている。しかし姿勢が違ったのだ。
「ソウ動ク事モ……」
裏拳を外した事で、俺の身体はパゴットと正面に向いている。
奴は足払いで俺を狙っている、その攻撃へ右膝を落とした。
激突し、奴は左足を、俺は右膝が壊れる。
「知ッテイタッ」
『き、貴様ぁ』
これでもう、奴も俺も縮地を使えない。
相手の機動力を奪うのは、高速戦闘の基本である。そこを読みきったのだ。
奴に仕掛けるには俺自身も隙を晒し、カウンターを決めるしか無かったが。
『だが、甘イんだよ』
「ウォッ」
言いざまに、パゴットが王子を俺に投げつけた。
それは軽くであるが、俺の動きを拘束するに充分な障害だ。
抱き締める俺へ、王子越しに奴が貫手を構えるのが、見えた。
苦しげに歪む王子の顔が、シスターの顔に重なる。
俺は、あの時に彼女から守られて、二人ともパゴットの剣で串刺しにされた。
何もかも同じ。
『心配するな。すぐに王子と入れ替えてやる』
「ウ、オォォ、オッ!」
同じで無い事があるとすれば、それは、俺も『百戦錬磨』だという事だ。
パゴットと王子と俺の身体が重なる。触れ合った三人の身体が、一つになる。
「マルコッ」
「王子ィ!」
「ブヒヒィ(キン肉マンさんっ!)」
フィーオと側近と、あと良くわからない声が響いて、止まる。
重なった三つの身体で崩れ落ちたのは、パゴットだった。
『馬鹿、な』
奴は王子を壁にし、貫手を放とうとした。
それにはどうしても、腕を引くモーションが生まれる。
俺は敢えて、王子の身体に手を添えたのだ。その状態からの、浸透勁。
触れた掌から体内のマナを爆発させて、打撃で無くダメージを浸透させる奥義。
「王子ノ身体ヲ傷ツケズ、浸透勁ダケヲ『通し』タノサ」
『そんな事が、可能なのかっ……』
「アノ時、シスターヲ守レナカッタ事実ガ無ケレバ、使エ無カッタサ」
浸透勁は触れた掌を発動源にする。俺は王子の『身体そのもの』を発動源にしたのだ。
「俺ノ、勝チダ」
倒れて動けないパゴットを見て、俺はフラフラと腰が抜ける。
遠くに居るフィーオ達が、俺に歓声を浴びせた。
彼らが駆け寄ってくるのを、なんとなく気配で感じる。
「やったわね、マルコッ!」
「ブヒヒィ(みんなで駆け出すのは名作の条件ッッッ)」
「王子、いま逢いに行きますっ」
まともに褒めてくれているのはフィーオだけかよ。
俺はやれやれと首を振って、座り込んだまま到着を待つ。
連戦に次ぐ連戦で、流石にアンリミデッドの身体でもボロボロだ。
「マルコ兄貴ィ!」
ふと気付けば、森の奥からヌケサクとポークも駆け寄って来ていた。
パゴットに倒されて気絶してから放置してたけど、どうやら目覚めたようだな。
「ヨォ、無事ダッタカ」
俺が右手を上げてヌケサク達に挨拶しようとする。
その俺の右腕が、肩から完全に消えて無くなった。
激痛が、遅れてやってくる。
「ナニッ」
『足を潰シて安心シたか? でも這イつくばれば……足は『三つ』だぜ』
視線を森の奥から足元に移すと、いつの間にかパゴットと王子の身体が消えていた。
奴の声は俺の背後。振り向いた先に、王子を抱えるパゴットが居た。
その足には、俺の右腕が巻き込まれている。
『両手で縮地を使って、足で攻撃シたのさ。間抜けめ』
「グゥゥッ」
『終わりだ、マルコ君』
目にも留まらぬ速度で、奴は得意の前蹴りを連打した。
防御するには腕が足りず、俺は奴の攻撃を受け続けるしか無かった。
それが俺の全身を蜂の巣の如く穿っていく。
「兄貴!」
「マルコォ!」
フィーオ達の声が遠くに聴こえる中、俺は奴のトドメの一撃を食らった。
第六十六話:完
格闘技やスポーツの試合だと「今のはフェイントですね」とか、そういう解説を良く聞きます。
しかし言われるから分かるのであって、実際に動きだけ見ても「どれがフェイント」かも分かりません。
これが小説だと「それがフェイントです」と自分で言わせるから成立するんですなぁ。
それでは、楽しんでいただけたなら幸いです。ありがとうございましたっ!
次回、ラスト! 投稿は、9月19日を予定しています。




