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第五十五話:木を切り倒そう

 森の管理、それをするのはエルフ族の仕事である。

 例えば生態系を乱す新たな生物が入り込んだりすると、影響の少ない場所まで移動させる。

 川の氾濫が起きそうだったり、池の拡大や減少も重要な監視対象だ。

 このように森をしっかり見張るからこそ『森の護り人』たるエルフ族のイメージがあるのだ。


「オイ、アソコニ居ルモンスターハ何ダ?」

「ありゃ巨大ワニですな。ちなみに、ワニを食っているのは巨大カバです」


 明らかに数メートルを超える大きさの生物が二頭、やたらド派手な生存競争している。

 ふっとぶ木片、波打つ湖。その水飛沫は、数十メートル離れている俺達の所にも届く。


『アンギャアアアア!』

『ギャオオオオオス!』

「ワニダロウガ、カバダロウガ、アンナ鳴キ声ダッタカ?」


 俺の言葉に、レポートを書くヌケサクが溜め息を吐いて答えた。


「そりゃもう、モンスターですからね。さぷらいずどゆうって感じの鳴き声です」

「平仮名の方だから、ヘタに進むと壁でも落ちてきそうね」

「そうそう、なんで一軒家の地下に迷宮なんかあるんでしょうな」


 ヌケサクの言葉に続いたのは、エルフ族の娘であるフィーオだ。

 俺達三人、ただただ狂獣の如く暴れる彼らを遠くから見守る事しか出来ない。

 うーむ、恐るべき森である。


 俺の住むこの森も、かつてはエルフ族が管理していた。

 しかし、エルフの里が森の環境保護を考えて、外縁へと出て行ってしまったのだ。

 その隙に俺は森にコッソリと住む事が出来たのだが、同時に森の管理も薄くなった。

 結果、多様な生物……モンスターの住み着く魔窟も生まれたのである。


「ハッキリ言ウガ、ムシロ環境悪化シテルダロ、コレ」

「やぁねぇ。昔からエルフ族に管理を任せておいて、いざ自分達が担う段階で文句言うなんて」


 環境保護云々というか、単に手を付けられなくなったから逃げ出したんじゃねぇか?

 そんな疑問をエルフ族の少女に投げかける無粋な真似はしないが、ちと思う所はあるぞ。

 ともあれ、今や森の管理は自己責任の時代だ。

 俺は自分の住む小屋の周辺だけは、しっかりと自主的な調査をしている。


「あ、ワニが『もう怒ったぞぅモード』に入りましたっ」

「負けるなヒポポタマスー。ツキが無くったって、運命は自分で切り拓けるのよっ」

「まぁ死んじゃうんですけどね、運が悪いから」


 なにその哀しい運命。

 だが彼らの予言通りなのか、カバはワニの尻尾を眉間に直撃させてしまった。

 それまで有利なはずだったカバが、一気に巨大ワニに逆転されていく。


「ああ、駄目だ。土曜日のカバだぁ」

「ナンデ曜日ガ関係スルンダ」

「え、マルコ知らないの? 仕方無いわね、説明したげなさいよヌケサク」


 こほんと咳払いし、ヌケサクが俺の疑問に答えようと口を開いた。


「では不肖ヌケサク、運の悪いカバの一週間を説明しましょう」

「フム」


 月曜日、運の悪いカバが生まれた。

 火曜日、優等生でエリートだった。

 水曜日、可愛いお嫁さんを……なんだっけぇ、忘れたァァァッワハハハハッ!

 木曜日、なんだっけなんだっけぇぇぇ! ウェヘヘヘヘヘヘヘ!

 金曜日、えっとなんだっけぇぇぇ! エヘヘヘヘヘ!

 土曜日、全然忘れたァァァァン! ワッハハハハハハ!

 日曜日、お墓に埋められた。


「よぉーく踏み固めておきなさいよ」

「オゥ、勿論ダ」


 俺はヌケサクを埋めた辺りをドンドンと踏み締めて、レポートに『墓』と記述した。

 ワニとカバの方も決着が着いたらしく、カバがムシャムシャとワニを咀嚼している。


「やっぱり水辺ではカバの方が強いのねぇ」


 そんな感想を漏らしつつ、フィーオはモンスター達の方を静かに見つめる。

 これで森を管理する種族としての誇りが身につくか、難しい所であろうな……。



 * * *



 動物だけが監視対象では無い。木々の管理も大事な仕事である。

 特に危険なのは倒木だ。根腐れや寿命、あるいは土砂崩れなどで地盤が緩み、樹木が倒れる。


 木が倒れる、それだけを聞けば「なんだそんな事か」と感じるかもしれない。

 だが両腕が回らない太さの、高さ数メートルもある巨大な柱。

 それが倒れてくると考えれば、その危険さも分かるはずだ。


「アノ木ハ、カナリ危ナイナ」


 俺の指差す方向には、既に腐った根の張り出す大木が一本あった。

 このまま雨などで根と土の隙間が緩み続ければ、一気に倒れてしまうはず。

 いや、むしろ今すぐにも処置が必要だろう。


「どうするの?」

「予メ、伐採シテオクシカ無イナ」


 倒木は気をつければ良い、という話では無い。

 その付近に近付かなくても、予想以上に木の倒れる勢いは強いのだ。

 まして十メートル以上もある巨木だ。視野外から一気に下敷きになるかもしれない。


「じゃあ斧と楔とロープを用意しますね」

「……ナンデ生キテルンダヨ、ヌケサク」


 何気なく現れるから、こいつはきっとモンスターか何かなんだな。

 ヌケサクから伐採用の道具を渡して貰い、俺は木に登ろうとした。

 まずは枝葉や絡まる蔦をある程度払っていき、大木自体を細くする。

 そうして倒し易くし、予想外の方向に倒れるのを予防するのだ。


「へー。安全かもしれないけど、面倒臭いものねぇ」

「安全ハ何ヨリ大切ダ。安全確認モ死ヌノモ一瞬ダカラナ」


 あと重心を調べて、別の木に引っかかり完全に倒木しない事が無いよう周囲の確認。

 また、なにより逃げ場の確保は最も大事である。


「受け口や追い口といった概念もありますし、結構難しいんですよね」

「大キ過ギル木ダト素人ニハ無理ダ。専門ノキコリニ任セルベキダナ」


 まぁ俺は伐採出来るがね。よし、早速準備を始めよう。


『なーーらーーんーー』


 と、頭の上から何やら声が聞こえてきた。

 その厳かな響きは、まるで森の神が如き神々しさを持っている。


『木を切っては、なーらーんー』

「神の声です。首を刎ねて不老不死の薬にしてやりましょう」

『そんな、酷いっ。祟るぞ、畜生ども』


 いきなり弱気になったな、神。

 俺は首を上に向けて、声のしてきた辺りを睨む。

 すると、そこには肌の黒い少年が、なにやら太い枝に腰掛けていた。


「ムッ、子供カ」

『クソォ、見つかったかぁ』


 途端に声が少年の物となり、厳かさは完全に消え失せた。

 ふむ、どうやら魔術で声音を作っていたようだな。


『バレたなら仕方無い。そのまま消えて貰うっ』


 少年は不安定な枝の上で立つと、抜群の安定感を見せながら両腕を振るった。

 その腕の間に、幾つもの球形をした闇が生まれてくる。

 攻撃用の魔術……しかも暗黒魔術だ。


「なんかヤバそうっすよぉ」

「精神ニダメージヲ与エル暗黒魔術ダ。完成サレタラ拙イ」


 俺はヌケサクからロープを奪い取ると、少年の腕に向けて全力で投げつけた。

 それはクルクルと腕に絡まって、少年の詠唱を邪魔する。


「ムゥン」

『あっ。しまった、うわぁぁぁ!』


 その絡まったままのロープを引っ張って、少年を枝から引き摺り落とした。

 詠唱中だった故、無防備のまま落下してくる少年。


「所詮、アイツは流れ星。墜ちる定めにあったのよ」

「勝手ニ殺シテヤルナッ! トォォッ」


 俺は素早く別の大樹に向けて飛び蹴りし、その反動で空中にある少年に向けて飛びつく。

 三角飛びからのキャッチをし、茂みをクッションにするべく受け身を取って着地した。


「ヨシッ、受ケ止メタゾ」

「マルコ兄貴っ、ダメじゃないですかぁ!」


 何がだよ。

 別に殺すつもりで、相手を落下させた訳じゃない。自信があったから、行ったまでだ。


「違いますっ。そんな事じゃなくて、掛け声は『キエエエエエエッ』ですよっ!」

「ナンノコッチャ」

「てか普通にキャッチしたら良いじゃない。なんで三角飛びするの」

「そりゃ、特殊な跳躍術からの刺激で脳震盪を発生させ、三年後に殺す秘技の為です」

「へー、そうなんだぁ」


 フィーオがヌケサクの言う事を真に受ける時、それは俺を困惑させたい時だけだ。

 敢えて俺は無視し、落とした少年の身体を地面へと横たわらせる。

 すると、彼の耳はエルフ族と同じく尖っている事に気付いた。


「あら、この子ったらダークエルフじゃない」

「ソノヨウダナ」


 ダークエルフ族とエルフ族は反目しあっている存在だった、らしい。

 だがそれも今は昔の話である。

 森の奥深くに住むダークエルフ族とは、結局のところエルフ族との接点も殆ど無い。

 生活圏が重ならない以上、互いを『珍しい隣人』としか感じなくなるのも時間の問題だった。


「しかし、何故ダークエルフがいきなり攻撃を?」

「サァナ。目覚メレバ教エテ貰オウ」


 木を切るな、とも言ってたしな。事情を知りたい所である。



 * * *



 俺達は切り倒す準備だけを粛々と続けていた。

 周囲の整理も終わり、万端を期して伐採する時を待っている。

 その頃になり、そうやく少年は「うぅーん」と呻き声を上げた。


「オ、目覚メタカナ」

『うぅっ。くそぉ、殺せっ!』

「殺スツモリナラ、助ケズニ落トシテル」

『くそぉ、俺にいやらしい事をするつもりなんだろっ!』

「なにそれ。ちょっと興味深いんだけど」

「ヤメナサイ」


 なぜかフィーオがやや盛り上がるが、それらを遮って俺は話を切り出した。


「オマエ、ドウシテ木ヲ切ルナ、ト言ッタンダ」

『それは……切るなっ』


 答えになってないな。

 だが話す直前、この子は一瞬だけ顔を伏せるような仕草で目を泳がせた。

 それは、子供が後ろめたい何かを隠している時の顔だ。


「切ってはいけない事情を言えっての、坊主」

『呪われるからだよっ、木を切ると』

「ホゥ。何ニ?」

『えぇ? 何にって……何だよ』

「木ヲ切ルト、何ガ呪ウンダ』


 俺は単純に聞き返し、次に具体的な聞き方をする。

 もし嘘を吐いているなら、複雑化された質問の方を繰り返し言うはずだ。

 そうする事で「自分が何を言っているか」を整理するのである。


『木を切ると、呪われるんだよ。森の神様にっ』


 ただの事実なら簡潔に述べれば良いのに、わざわざ言葉を繰り返して頭の整理を必要とする。

 それはつまり『嘘を吐いている』からだ。

 この子は何かを隠している。


「マジかぁ。呪いはヤバいっすね、アーマークラスが悪化しますよ」

『だぜっ。裸の王様同然と言っても過言じゃない』

「ひぃーっ! でもウルティマの王様ならばどうかなっ?」

『なにそれ。そんなゲーム、若い子は知らないよ、変なおっちゃん』

「ゲームって知ってるじゃないの、アンタ」


 どっちにしろ、俺には分からない話題だからな。

 ともかく、俺は聞いているフリをしながら頷いて、静かに少年へと話し掛けた。


「……木ヲ倒サレタクナイモノナァ」

『はぁ? 俺は別に倒されるとかなんて、どうでも良いっつってんの』

「神様ガ、ダロ」

『そ、そうだよ。神様が決める事なんだよ』


 神様を騙ってでも、この木を守りたいのだろうか。


「ドウスレバ、神様ハ許シテクレルンダ?」

『駄目だって! 呪われるからなっ。プリースト死ぬからなっ』

「うわぁぁぁ、ブラスターだけは勘弁してくれぇ!」

「メイジなら渡すわ、でもプリーストは許してよっ」


 変なトラウマの交換会か何かか。

 俺だって苦労して切りたい訳じゃない。だが、この木は限界だ。

 いつ倒れても不思議じゃない以上、先んじて処理しなければ危険である。


「ハッキリ言ウト、コノ木ハ間モ無ク倒レル。神様トヤラニ、ソレヲ伝エロ」

『え、えぇーっ。そんな事、いきなり言われても分かんねぇよっ』

「馬鹿ね。会ったばかりなんだから、いきなり言われるに決まってるじゃない」


 そりゃフィーオの言う通りだけど、もう少し言葉を選べんのかね。

 喧嘩を売るつもりは無いので、俺なりにフォローをする。


「悲シイガ、倒レルノハ唐突ダ。今スグ、コノ木ハ切ラネバ危険ナンダ」


 俺は斧を持って、木の前に立つ。

 それを遮るように、ダークエルフの少年は俺の前に陣取った。


『待って! せめて、もうちょっとだけ待ってよっ』

「イツマデダ?」

『それは……その、神様の事情次第って言うか』


 話にならないな。そして、今の言い方で大体分かった。

 この子は『木が大切な訳じゃない』のだ。別の要因がある。

 だがそれを理解した所で、理由も言えない事情を思いやってやる時間も無い。

 子供のわがままが、倒木で失われる命に繋がりかねないのを、見過ごす訳にはいかん。


「悪イガ、神ノミゾ知ル時間マデ待テナイ」

『分かったよっ。じゃあ、あと五分だけ! それだけ待ってくれよっ』


 そう言って少年がスルスルと木に登っていく。

 おいおい、俺の言ってた事を聞いてなかったのかよっ。


「危ナイゾッ。倒レルカモシレナイト、アレ程ニ言ッタダロウ」

『でもアレだけは、アレだけは絶対に……』


 そこまで言った時、地面の底から「みきりっ」と根の折れる嫌な音が聴こえた。

 耳障りな「バシバシバシッ」という連鎖的に引きちぎれる音も鳴り、俺は最悪の状況を察する。


「あれ、なんか地面が揺れてない?」

「おおっ。木も揺れてますよ。地震かな」


 さっき調べた段階での、倒れる方角を検討付けた。

 重心やツタの張り具合から見て、それは俺達のすぐ頭の上だ。


「フィーオッ、ヌケサクッ。歯ヲ食イシバレッ!」


 言うやいなや、二人を倒れる側とは反対方向に放り投げる。

 悲鳴を上げながら飛んで行く二人を見る頃には、既に木は大きく斜めに傾いていた。

 このままでは、ダークエルフの少年が巻き込まれるっ。


「間ニ合エヨッ」


 俺は少し傾いた木の幹に飛び乗ると、蔦を足の親指で握り締めながら駆け上るっ。

 幹を縦横無尽に張った蔦である。少年の登った場所まで届いているはず。

 もはやへし折れる轟音と化している空間へと、俺は縮地で飛び込んだ。

 瞬間移動の様に長距離を移動する、武闘家の秘技である。


『わっ、わっ、わっ……』

「見えたぁ!」


 縮地は、音速に近い現象を生み出す。俺の周囲の空間は完全に歪んでいた。

 この亜音速という空間内でのみ、俺は『自分の本当の声』を聞く事が出来るのだ。

 まぁ、要するに普通に話しているだけなのだがな。


「よしっ、今、助けるからな」

『まっ、ずっ、いっ……』


 俺に気付いていないであろう少年を引っ掴む。

 彼は木のてっぺん近い場所にある、洞の中に腕を突っ込んでいた。

 その洞の周りには、木切れや折れた枝で作られた足場がある。


「なるほど。秘密基地、か」


 それは倒されるのを嫌がるはずであるし、事情も詳しく言えないだろうな。

 だが今は何よりも命が大切だ。少年を秘密基地から引き剥がして、一気に跳んだ。

 縮地が解除されて、空間が通常の物理法則へと戻る。


「おわあーー!」

「わひゃーっ」

『ぎょわぁぁぁぁ』

「ーーーーーーーーーー」


 鋼鉄すらへし折れるかの勢いで、俺達とは反対の方向に大木が倒れていく。

 それでも蔦が絡まっている状態だ。どう転がるかは最終的に『運試し』である。

 地面に飛び降りた俺と少年、放り投げたフィーオ達の一か八かの幸運に賭けた。


「……」


 暫くして、静かになった。

 俺は顔を上げると、そこにはきっちり、反対側で横倒しになった大木があった。


「いてて……うっわー、木が倒れてるじゃないっすか」


 ヌケサクが今更な事を言っている。

 説明も無く投げ飛ばされたフィーオは、むしろ俺に文句を言いたげだ。


「ーーーーーーーーー」

「え? な、何よ。なんか早口過ぎるんだけど」


 ああ、しまった。縮地の時の喋る感覚でいた。

 俺は改めて「普通に」話し始める。


「説明スル暇モ無カッタンダ。見テノ通リ、間一髪デナ」

「ふぅん。ま、いいわ。それで、その子はどうなの? 死んだの?」


 俺は抱き締めていた少年を開放すると、彼は地面に崩れ落ちた。


『ハラホロヒレハレー』

「生キテイル」

「あらそー。まったく、子供は迷惑ばっかり掛けるんだから」


 そう言ってフィーオが気絶した少年に近づいた。

 手に布を持っているからして、彼女なりに介抱するつもりなのだろう。

 だが、なにやら怪訝そうな顔でフィーオが少年の手を見る。


「あら? なにか持ってるわよ、この子」

「フム。ソウ言エバ、探シ物ヲシテイル様子ダッタナ」


 少年の固く握り締められた手元にあったのは、一冊の本だった。

 強引に握りこぶしを解除し、その本を広げる。


 そこにはエルフ女性の、素っ裸の絵が描かれていた。


「……っ!? へ、変態ぃぃぃ!」

『ギャーーー!』


 フィーオのマッハ・ストンピングが少年に決まる。

 気絶している所への追い打ち、これはどっくーんと来たはずだな。


「後生大事に、何を持ってんのよこの子はっ!」

「アー、マァ秘密基地ダカラナァ」


 この木のてっぺんに秘密基地があった事を告げる。

 ヌケサクが涙ながらに頷いて、少年の頭に手を当てた。


「分かるぜ、ボーイ……いや、ソウル・ブラザー。秘密基地だもんなぁ、エロ本置くよな」

「えっちばか変態! 死んじゃえー!」


 怒鳴り散らすだけ怒鳴り、フィーオが駆け出した。小屋に帰るのだろう。

 その様子をヌケサクと俺が見て、ただただ嘆息する。


「女ノ子ニハ、理解サレナイダロウ」

「ええ、これは男の世界です。何歳になろうとも、ね」


 目を回したまま痙攣するダークエルフの少年、その胸元にエロ本を返してやる。

 神様は、きっとこの少年に微笑みかけている事だろう。うんうん。



 少年の秘密基地は崩壊した。

 だが、彼はきっと次も立派な基地を作る事だろう。

 沢山の夢と浪漫、そして秘密の思い出を詰め込みながら。


「ブヒヒィ(ダークエルフの坊っちゃん、これくらいの板切れで良いっすか?)」

『おう。そこに置いといてくれよ』

「ふんごー(坊ちゃま、網がありましたっ。何かに使えるっしょ)」

『いいねぇー。これはレーダーが作れそうだよ』

「ブヒヒィ(で、で、で……そろそろ報酬のエロ本をですね)」

『よしよし、じゃあ見せてやるからもう少し働け』


「「ふんごー&ブヒヒィ(イエッサー!)」」



第五十五話:完

秘密基地、それは人類に残された最後のフロンティア。

子供だから入れる木の洞とか、まさに最高の環境でした。

今でもあそこで遊んだダイヤモンドゲームの箱が残っているのか否か。

気になるけど確かめはしない、そんな気持ちの場所ですな。


それでは、楽しんで頂けたなら幸いです。ありがとうございましたっ!

次回の投稿は、8月22日を予定しています。

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