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第四十九話:出前を頼もう

 人の手が入らず、里として管理されなかった森林。

 効率的な伐採や運搬、植林を為されていない以上、その環境は一言で表すと混沌である。

 無論、悪い意味では無い。


「見ロ。アノ葛ガ多重ニ絡ンダ樹木ヲ」


 まるで万物の根源たる世界樹の如く、葛と樹木で捻れた二重螺旋が天高く伸びている。

 その雄大さは、管理された里山などでは決して見られない神秘だ。


 また他にも這いよる蜘蛛の様に、幾つも木の股を複雑に分かれさせた大樹。

 木の根が充分に育った頃、地盤沈下か洪水で土が流されたのだろうか。

 あたかも自然が生み出した巨大な鳥籠にも見える。


「森ハ美シイナァ、同ジ成長ハ二ツト無イ。奇跡ノ結晶ガ宝玉ニ育ツノヲ見守ルヨウダ」

「ちょっとポークっ! 私のお弁当から、食べ物を取らないで!」

「ふんがー(残念、それは私のお稲荷さんだ)」

「飯時に変な想像しちまう事、言うんじゃねぇーよ」


 エルフ少女のフィーオが、オーク族のポークに蹴りを入れている。

 どうやら弁当の中身を横取りされてしまったようだ。

 元野盗であるヌケサクやピッグも、地面に引いた敷物の上であぐらをかいて飯を食べている。

 俺達は日帰りのピクニックで、森の奥地へと出かけていたのだ。


「ブヒヒィ(まぁ弁当は奪い合いですよ。取って取られて取り返されて)」

「言いながら、俺のサンドイッチ食ってんじゃねぇよ」

「ふんごー(それも私のお稲荷さんだ)」

「俺のだっつってんだろ」


 ヌケサクのチョップを真っ向から受けるが、ポークは何の意にも介していない。


「ブヒヒィ(まぁこの勢いの時は、怯んだら負けですし)」

「マタ、何カノ変ナ話ナンダナ」

「じゃあ俺の弁当が稲荷寿司になっているのも……」

「ふんごー(無論、私のお稲荷さんだ)」


 ピッグとポークの連携に翻弄され、ヌケサクの弁当がどんどん空になっていく。

 そして代わりとばかりに積み上がっていく稲荷寿司……。

 なんだこれ。


「ブヒヒィ(稲荷寿司、千個食えば良いんですよ。ガハハ)」

「ソンナニ、食エルカ」

「もしや俺がデザートに残していた、木の実パイも……」

「ふんごー(私にそこまでのお稲荷さんは無い。ただパイは食べたがね)」

「ブヒヒィ(ごっつぉさん)」

「外道ォォ!」


 要はヌケサクの弁当が、稲荷寿司になったって話だな。これは。


「どうでも良いけど、お稲荷さんってなんなのかしらねぇ」

「ブヒヒィ(さぁ? 季語か枕詞みたいな物じゃないですか)」


 卑猥な隠語である事を教えたら半殺しにするつもりだったが、ピッグも誤魔化したようだ。

 しかし、せっかく森の奥地へと出掛けたのに、誰も自然を楽しんでいないこの始末。

 花より団子とは言うが、ちょっと寂しく感じてしまうな。


「なにガッカリしてるの、マルコ。後でちゃんと観光するわよ」

「正直、ここに来るまででヘトヘトになりましたからね。先に飯を食いたい気分でした」


 やや意気消沈していた俺を見てか、二人が程々のフォローをしてくれた。

 むぅ、まぁ彼らの言葉にも一理ある。

 住んでいる森の小屋から、おおよそ歩いて三時間だ。

 それだけの価値がある景色ではあるが、まずは腹ごしらえ。


 俺としては景色が最高の調味料。不可思議かつ獰猛な自然を眺めて食事をしたい所だ。

 ひたすら弁当の奪い合う四人と背を向けつつ、俺は弁当袋を開いた。

 コロリと稲荷寿司が出て来た他に、何も入っていない。


「ポーク、ココニ座レ」

「あ、それ私がスリ替えておいたわ」


 アッサリと白状するフィーオ。俺まで巻き込まないでくれよ……。

 仕方なくその稲荷寿司に齧りつくと、思いっきりガリゴリという歯ごたえ。

 うん、中身は石だコレ。


「ナニ石入レテンダヨッ」

「待ってっ! 怒っちゃダメよ、落ち着いて中の石を良く見て」


 フィーオがそう言うので、油揚げの袋から取り出して表面を見る。

 そこには『はずれ』と書いてあった。

 ゲラゲラ笑いながら、フィーオが全力で逃げていく。


「ハッハッハ。オ仕置キタイムダナ」

「ふんごー(いいえ。マルコ兄貴は今、ただ戦場で後ろから撃たれたんですよ)」


 フォローになってないぞ、ポーク。

 しかしアレだけ食べてたのに、俺のまで手につけるか……なんて食欲だ。

 くそっ、健康優良不良少女め。


「もう少し量を用意しておくべきでしたかねぇ」

「イヤ。有ルダケ食ウダロ、アイツラ」

「ブヒヒィ(とはいえ、このままじゃ兄貴の飯は石って事になりますね)」


 勘弁してくれ。俺だって景色で腹は膨れんぞ。


「ま、釣りでもしますか」

「殺生ハ良クナイ。釣ッタラ、リリースシテヤレ」

「……あの、マルコ兄貴の飯としての魚釣りなんですが」


 ああ、そういう意味か。

 丁重に断って、俺は木の実でも探してくると言い、一人で森へと分け入った。



 * * *



 とはいえ腹いっぱい食べるには、季節的にはあまり適切では無い。

 果実やキノコなどが良く実る秋でなければ、せいぜい草や木苺くらいしか採れない。

 森の恵みであるそれらを不満に思う事など全く無いが、空腹は如何ともし難い。


「サテ、ドウシタ物カ」

「ブヒヒィ(お困りのようですね)」

「ナンダ、着イテキタノカ」


 ピッグが両腕を組みながら、背中を木に預けて俺へと語り掛けて来た。

 やや伏せがちの顔に、皮肉げな笑みを浮かべて陰を落としている。


「ブヒヒィ(……『力』が欲しいか……)」

「エ? イヤ、別ニ」

「ブヒヒィ(つれないですなぁ。しかし、この力を君ならどう使う!?)」


 そう叫び、ピッグは懐から変な通信機を取り出した。

 魔導都市で一般的に使われている魔導具だが、なんでこんなの持ってんだ、コイツ。


「ブヒヒィ(もしもし、ちょっと頼みたいんだけど)」

「オッ、モシヤ……」


 出前かっ。というか、ピクニックに出前呼ぶのってアリなのか?

 そもそも、ここまで誰が運んでくれるんだっ。

 様々な疑問を抱く俺を他所に、ピッグは話を進めていく。


「ブヒヒィ(えーっと、スペクトルマン怪獣を殺せ。それで頼むわ。)」

「何ヲ頼ンデルンダ……」

「ブヒヒィ(うんうん。アイツを探せ、アイツを殺せのセットでお願い)」


 いかん、この魔道具は叩き壊した方が良いんじゃないか。

 そう悩んでいると、ピッグは通信機を腰に片付けた。


「ブヒヒィ(便利な世の中でしょう? こんな所でも出前が頼めるんですよ)」

「殺シ屋ノ手配ヲシテルト思ッタゾ」


 そう言う俺に、ピッグは心外そうな顔で見る。


「ブヒヒィ(ああ、スペ云々ってのはクーポン適用の合言葉です)」

「ドンナセンスノ店ナンダヨ、ソレ」

「ブヒヒィ(ネビュラって名前の店で、最近は急拡大中の大手チェーン店ですよ)」


 ピッグ曰く、近隣同業者は殺す、離れても殺すといった勢いで急成長しているとか。

 攻めと受けの両者を兼ね備えたネビュラのチェーン店、との事。


「ブヒヒィ(買収失敗して経営難になっても、兄弟の支援で不死鳥の如く蘇るとか)」

「タチ悪ソウダナ」

「ブヒヒィ(でも評判は良いみたいっす。取り敢えずオススメの『アイツをセット』にしました)」


 探せだの殺せだのを、食事のメニュー名にしてしまう店か……。

 なんだろう、美味しいと聞いても全然信用できない。というか原材料を知るの怖い。


「シカシ、ドレクライデ持ッテ来ルンダ」

「ブヒヒィ(三分以内だそうですよ)」

「早イナッ!」


 持って来る時間が無いのも当然として、調理するのも無理じゃないか、それ。

 そもそも俺達の足で三時間掛かる森まで、どうやって三分で運ぶんだよ。

 などを言い掛けた瞬間、ギャリギャリギャリィっと壮絶なブレーキ音が響いた。


 音の方へと振り向くと、そこには姿勢を低く静止しているエルフ女の姿があった。

 素足の先からは煙が吹き上がり、背後に何メートルもの黒く焦げたブレーキ痕が付いている。

 呆気にとられる俺達にそのエルフ女はゆっくりと顔を上げて、静かに呟いた。


「アイツを探せ、アイツを殺せセット、お持ちしましたー」

「非常識過ギルダロォッ!」

「えっ! マルコ様、どうして怒ってるんですかぁ?」

「ブヒヒィ(そもそもあのブレーキ痕は、何が焼き付いた痕なんですかねぇ……)」

「そんなの私が知る訳無いじゃない。アンタはさっさと金出しな」


 彼女は、かつてエルフ狩りギルドの頭目に育てられたエルフ女だった。

 過剰過ぎる修行により、単なる肉体的な機能として『俊足』を得た存在である。

 今はエルフの里で郵便配達をしているはずだが、いつの間に転職したんだろうか。


「俊足を買われてバイトしてるんですぅ。本職は郵便屋さんのままですよ」

「ホゥ。マァ出前アリガトウ。コンナ所マデ、ワザワザスマン」

「そんなのぉ、マルコ様の為なら当然ですっ。その代わり組手しましょうよ、組手ッ!」


 この子との組手か……あんまり、やりたくないな。

 なぜか無抵抗のまま乱舞を喰らって、恍惚とした表情で倒れたりするし。


「ソ、ソレハトモカク、結局コレハ何ノ店ナンダ?」

「知らないで注文したんですかっ」


 ピッグが勝手に注文したからなぁ。

 見た目は、ネビュラと書かれたロゴに二重の星印の絵が絡んでいる平たい箱だ。

 これで中身がミミズバーガーとかダンボール製の肉饅とかだと困るんだが。


「ブヒヒィ(それは開けてのお楽しみです。さぁ、レッツオープン)」

『変身・セヨッ』


 ボフンッと白い煙が吹き出して、ピッグの全身がそれに覆い隠された。

 尚も噴き出るそれに俺とエルフ女は思わず顔をかばい、一瞬だけ視界を失う。


「グッ。ナンダコレハッ! 蒸気?」


 だが熱は無い。単なる煙なのか……?

 煙が収まったのでかばう腕を下げて、改めて箱の方を見る。


 するとそこに箱を開けたピッグの姿は無く、ただピッグの服を着るゴリラが一匹居るだけだった。



 * * *



『うほっうっほほー!』

「あ、今回はゴリラかぁ」

「何ッ!? 何ヲ納得シテルンダッ?」

「ネビュラはコスプレ・デリバリー店ですよ。なんだと思ってたんですか?」

「エッ? メ、飯屋……」


 流石のエルフ女も、俺の間抜けな回答に一瞬だけ途方に暮れた様子だった。

 そして、ポンっと手を叩いて何かを思いつく。


『ウホホッホーイ』

「このゴリラを食べましょう」

「食ワンッ」


 彼女の害意に気付いたのか、なんか胸をドンドンと叩いてドラミング始めているし。

 うーむ、しかし何を考えてこんな店に連絡したんだろう、ピッグは。


「ちょっと彼の通信機を見てみますね。ふむふむ……あ、これネーブラに掛けるつもりだったかも」


 ネビュラとネーブラ。なるほど、間違ったのか……。

 クーポンとか調べる余裕があるなら、店の内容を調べておけよ。


「割引クーポンの特典優先するタイプの人は、メニューとかイチイチ確認しませんし」

「分カッタ分カッタ。デ、ソモソモ何ダ、アノゴリラハ」

「変身魔法ですよ。誰になるかは、開けてみるまで分からないんです」


 フリーだからコスプレの指名料金が掛からない為、お得になるんだそうな。

 うーん、分かるような分からんような。


「何になるか分からないから、好みのコスプレを探せって意味の『アイツを探せ』です」

「フーン……『アイツヲ殺セ』ッテノハ、何処ニ掛カルンダ?」


 俺がそう言うが早いか、ゴリラになっていたピッグが突然、強烈な雄叫びを上げた。


『ウホホッホー!』

「グアァ、ウルセェ!」


 それは興奮状態を呼び、落ち着きなく周囲を激しく徘徊する。

 やがて俺の方をクルリと振り向くと、ハァハァと荒い息で睨み出した。

 あ、なんか嫌な予感がする。


「箱を開けた時、一つの指令が来るんですよ。アレは……」

『ウホホーーーッ!』

「この種を食い殺せ、ですね」


 とてつもない勢いのタックルを、辛うじてスライディングで避ける。

 股の下を潜り抜けながら、その股間を蹴り上げた。


『ウホッ!』

「全ク手応エガ無イッ?」

「コスプレ中は性的機能が消滅します。変な事に使われたら大変ですから」

「喧シイワッ!」


 てかまだコスプレと言い張るか、これを。

 眼光が赤く染まり、歯を見せて威嚇し、垂れ下がった両腕は神経質そうに震えている。

 地面を激しく叩いたかと思えば、こちらに向けて唾まで吐いてきた。

 あ、威嚇行動に出てるな。他に排泄物を投げつける習性もあるが、それは勘弁願いたい。


「この種を食い殺せって使命だから、オーク族に無差別な怒りを覚えてます」

「迷惑ナ話ダナァ……」

「まぁ、あとちょっとで変身が切れますよ」

『ウホホー、ギャオギャオーーー!』


 だが変身が切れる前に、ゴリラとなったピッグの忍耐力の方が先に切れたようだ。

 無遠慮なまでの闘争心を見せて、再び俺に向けてズカズカと走り寄って来る。

 姿勢こそ物凄い猫背だが、その中に秘められたパワーを受け止めたくは決して無い。


『ウッホーーッ』

「危ネェッ!」


 ゴリラの振り回された腕が、太い木の幹を砕きながら吹き飛ばした。

 ちょ、ちょっとアレを防御したり捕らえたりするのは、素直にやめておきたい。


「マルコ様、頑張ってっ!」

「無力化スルノ手伝エヨッ」

「そんなマルコ様……もし代われるなら代わりたいですわ、本当に」


 こいつの場合、満面の笑みを浮かべながら突っ立って、そのままゴリラに殴られて死にそうだな。

 ええい、とにかく降りかかる火の粉は払わねばならぬ。

 俺は興奮するゴリラに向け、両手を広げた。

 アイツの攻撃を受け止めたり、捌いたりするのは危険だ。


「まさか、胸に受け止めてからのダブルバスターコレダー!?」

「何ノ事ダカ知ランガ違ウ。ゴリラノ習性ヲ利用スルンダ」


 俺はゴリラに向けて、身体を大きく見せるよう胸を逸らす。

 その胸に、握った両手を幾度も打ち付けた。ドラミングである。


『ウホッ!?』


 反応は早かった。俺の行動を『威嚇』と捉えたゴリラは、僅かに怯んで距離を取る。

 元より知能の高い動物は喧嘩をする際、可能な限り流血や怪我を避ける。

 ドラミングや地面を叩く仕草も、相手に対しての威嚇が目的である。

 故に俺の行為から単純な暴力欲求より、警戒心というゴリラの本能が刺激されたのだ。


「おおっ、マルコ様のドラミングでゴリラの攻撃色が消えていく……」

「コノママ、時間マデ警戒サセ続ケヨウ」


 だがゴリラとなったピッグは、予想外の行動に出た。


『ウホンッ!』


 突然真顔になったかと思うと、物凄い爆音が奴のケツから響いたのだ。

 あ、やったな……。


「あれ、やっちゃってますよね」

「ウム……」


 ゴリラは威嚇の際に『排泄物を投げつける』という習性もある。

 ただ今回の場合、これは本当に哀しい、とても哀しい習性となった。


 排泄物を拾おうと足元を探すゴリラ。だが、それは決して見つからないのだ。

 ピッグの服を着るゴリラは、不思議そうに足元を探し続ける。

 ああ、哀しみの森の紳士。


『ウホッ……ウホホー……ホー』


 警戒を続けるゴリラだったが、その姿を再び煙が覆った。

 どうやら、時間切れのようである。

 煙が晴れると、そこには気絶して倒れるピッグの姿が横たわっていた。


「終ワッタ。何モカモ」


 彼は目覚めた時、どんな顔をするのだろうか。

 自分が何をしたか覚えていない事を願いたいが、それはそれで哀しみの違和感が尻を襲うだろう。

 まぁ彼は捨て置こう。もはやどうしようも無いのだから。


「じゃ、私はこれで失礼しますね。またご利用くださーい」

「スルカイッ!」


 エルフ女は「たっきゅーどー」と叫んで、ばびゅーんっと駆け抜けていく。

 何かの呪文だろうが、もうそれを気にする余裕も無い。


「サ、流石ニ腹ガ減ッタナ」


 俺は仕方無く、無手のままフィーオ達と居た場所まで戻る事にした。

 まぁ歩いて数分の距離だから、空腹で行き倒れとはなるまい。

 帰り道の方は心配だが……。



 * * *



「あっ、やっと戻ってきたぁー」

「ふんごー(おかえりなさいませ、ご主人さま)」

「ソノ言イ方、ヤメイッ」


 ポークの頭をぱしんっと叩きつつ、俺は駆け寄ってきたフィーオに目を留めた。

 その手が後ろに回っており、何かを持っているようだ。


「ドウシタ? ソロソロ帰ル準備ダゾ」

「その前に……じゃーんっ」


 子供らしいあどけない顔で微笑みながら、フィーオは隠していた両手を差し出した。

 そこには小さいながらも、不揃いな形のサンドイッチが、幾つも並んでいる。


「コ、コレハッ」

「ふっふっふー。私が作っておいたのよ、これ」


 なんとまぁ……いつの間にこんな気の利く事をしてくれていたのか。

 フィーオから受け取って、カラカラの腹に入れるべく口へと運ぶ。

 野菜を多く挟んでいるそれは、パンが野菜の水気を吸ってしまっていた。


 だが、味なんて野暮である。ただ一言の「美味い」を言うだけの話だ。


「空腹は最高の調味料って奴ね」

「イーヤ、美味イ。美味イゾッ」


 照れ隠しの言葉だったのか、俺の言葉に舌を出してヒョイッと隠れてしまった。

 しかしまぁ、よくポークの食べられずに済んだ物である。


「ふんごー(それをお稲荷さんにすり替える程、恥知らずじゃありませんよ)」

「そもそも、オマエがアホな事を始めなければよかったんだよ」

「ふんごー(ごっつぉさんでしたー)」


 ヌケサクからも小突かれて、ポークは涙目のまま帰りの準備を始めた。

 色々と大変なピクニックではあったが、まぁ終わりよければ全てよし、だ。

 帰り道にも見どころは多いし、腹も膨れたら良い観光日和となるだろう。


「ふんごー(ところで、ピッグの姿が見当たらんのですが)」

「アア……マァ、ソットシトイテヤレ」



 結局、その日のピッグはあれから姿を消したままだった。

 翌日に「アレは味噌じゃ、アレは味噌じゃ……」と虚ろに呟き徘徊するのをヌケサクが発見する。


 彼の心に平穏あらん事を。



第四十九話:完

ゴリラの鳴き声って「ウホウホ」より「ギャオギャオ」って感じに聞こえる私です。

まぁ野生のゴリラを映すビデオだと、声を出すのは興奮している時ばかりなので、

落ち着いている時は「ウホウホ」なのかもしれませんが……どうなんでしょうね?


それでは、楽しんで頂けたなら幸いです。ありがとうございましたっ!

次回の更新は8月1日を予定しています。

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