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第三話:おにゃんこForest

 クィークィークィー……。

 森の鳥の鳴き声さえも空気に溶け込む、そんな静謐な朝が緩やかに始まった。

 小屋の外に作られた簡易ベッドから起き上がると、俺は川の水を汲んだ桶にジョウロを突っ込む。

 庭の十年月見草に水やりを済ますと、一息吐いて空を眺めようと首を傾けた。

 鬱蒼と茂った木々の枝。その小屋の経つ一角だけ、僅かに木漏れ日の抜ける場所がある。

 そこから見える青い空は、俺のお気に入りの景色だ。

「ウム、今日モ良イ一日ニナリソウダ」

 と呟いて、森に切り取られたその空を見上げる。

 そこにあったのは、青い空。白い雲。そして……。

 小振りな枝にしがみつき、今にも落ちそうになっているエルフ少女の姿があった。

「何ヲシテイル」

 俺がそう声を掛けると、少女はしがみついた姿勢のままピクリとも動かずに答える。

「その日、麗しきエルフ少女のフィーオは、芋虫の蛹となった自分に気付いた」

「蛹ノ中身ッテ溶ケテルカラ、振動スルト死ヌラシイゾ」

 ゆっさゆっさゆっさ。

「やめてぇ! 揺らすのダメェー! 落ちちゃう、落ちちゃうぅ!」

 大方、枝に実った果実を採ろうとして動けなくなったのだろう。

 全くネコみたいな奴だ。

「うぇぇん。登ってきて助けてよ、マルコォ」

「俺ノ体格デ、ソノ枝ニ登レル訳無イダロ」

 そう言って自分の腹をポンっと叩く。筋肉質ではあるが、それでも腹はポッコリと出ていた。

 別に不摂生をしているのでは無い。これが『オーク』の平均体型だからだ。

 そう、俺はオーク族のマルコ。あのエルフ少女の再教育任務にあった。

 オークがエルフを指導するなど、本当に不思議な縁もあった物だ。


「じゃあ飛び降りるから抱きしめてよ、銀河の果てまで」

「ソノ時デアッタ。全テハ因果地平ノ彼方ニ吹キ飛バサレタ」

「ちょ、ちょっと。なんでアッパーカットの構えなのよぉ」

 俺は対空技の予備動作を構えて、少女フィーオの投身を待つ。

 あれほど危険な事をするな、と教えているのにこの始末。

 一度は思い知らせないと、いつまで経っても躾けられまい。

「はっはっは、お困りのようですなぁ。お二人さん」

「ブッヒヒ」

「ふんごー」

 あ、三馬鹿が来た。

 人間のヌケサク、オークのピッグとポークが、森からスタスタと歩み寄ってきた。

 元野盗の三人組は、いつの間にかこの森に居着いた居候だ。

「教育時間ダ。邪魔スルナ」

「いけませんなぁ、体罰とは。子供の心にトラウマを残すだけですぞ」

 分かったような口を聞きながら、ヌケサクが両腕を開いてフィーオの下に立つ。

 飛び込んでこい、との仕草でウィンクする。

「さぁフィーオ殿、ウェルカム・トゥ! ウェルカム・トゥ! ウェルカム・トゥ・マイ・ハート!」

 ヌケサクがアイドルの様な最高の笑顔をフィーオに見せた。

「きもっ。近寄らんとこ」

「ぎゃわー! 待ってるにょぉーー!」

「ブッヒヒ(ヌケサク・ファザー、流石の俺らもドン引きです)」

「ふんごー(非モテの真髄、勉強になります)」

 転げまわるヌケサクを放置しつつ、俺は仕方無しにフィーオの肩に目掛けて小石を投げつける。

「あっ……きゃあー」

「ヨイショット」

 石は肩の力が抜ける急所に当たり、落ちて来た少女の体を受け止めた。そのまま下ろしてやる。

「びっびっ」

「合言葉は?」

「ビックリしたぁぁ……」

 立ち直っていたヌケサクの言葉を無視し、ヘロヘロと座り込む少女。

 この子は何かにつけて、いつもへたり込んでいる気がする。うーむ、メンタルが弱い。

 弱い癖に好奇心旺盛だから、要らぬ苦労をしているのだろうが。

「全ク困ッタ奴ダ。ソレデ、ナゼ木ニ登ッテイタ?」

「枝の先に動物が登っていて、そのまま降りれなくなってたの」

 どうせ木の実を摂る為だろう、と推理していた俺だが、少女は違う答えを返した。

 ふむ? この森で木登りが苦手な動物など居たかな?

「ホウ。ソレヲ助ケテヤロウト?」

「動かないし、捕まえたら食べられるかなぁって」

「ナンデモ食オウトスル癖、ヤメナサイ」

「なによ。育ち盛りなんだから仕方無いでしょ」

 まるで俺が食事を与えない虐待者みたいな事を言う。

 実際は山の幸盛り沢山なメニューを連日提供しているのだが。

「でも木に登ったら、いつの間にかその子が居なくなってて」

「何カノ見間違イデハ無イカ?」

「むぅ。居なかったらわざわざ、おだてられたって木に登るわけ無いじゃない」

「ブッヒヒ(え? おだてられたら木に登るよな?)」

「ふんごー(登る登る。喜んでヤシの木に登る)」

「黙れ豚ども」

「ぶひぃぃん……」

 フィーオの絶対零度な言葉にゾクゾクと身を震わせるオーク二人。

 なんだかなぁ、こいつら。


「ごっちそーさまー。食器置いてターンエンドっ! プレイヤーは遊びに行く!」

 そう言って小屋から飛び出るフィーオ。

 テーブルの上には、食べ散らかした朝食の跡だけが残っている。

「片付ケンナァ、イツマデ経ッテモ」

「ハァー、ハァー。フィーオちゃんの食べかす……」

 鼻息荒く舌を伸ばし、フィーオの皿に近寄るヌケサク。

 その舌にフォークを突き刺して、テーブルと一体化させた。

「いぎゃぁー! オーク・フォークが鋭く光り、テーブルに広がる地獄絵図っ!」

「ブッヒヒ(いかん、出血が酷い。首を絞めて止血しろ)」

「ふんごー(ヌケサク兄ィ! 傷は深いぞ、しっかり死ねぇ!)」

 大騒ぎの馬鹿共に雑巾を渡して、テーブルの掃除をさせる。

 俺は食後の皿洗いで時間を潰しながら、朝の一幕を思い出していた。

「ウーム、木登リノ苦手ナ動物カ」

 そんな奴、居た覚えはないなぁ。

 この辺りは普通の森より、かなり奥深い。故に独自の生態系による動物が生息している。

 しかしそれらの中で、木に登って降りられなくなる動物など思いつかなかった。

「獣には地面で捕らえた獲物を高所に運び、逃げられなくしてからゆっくり餌食にする物も居るとか」

「縁起デモ無イ事ヲ言ウナ……」

 舌に刺さったフォークをビヨンビヨンと跳ねさせつつ、器用に喋るヌケサク。

「ブッヒヒ(フィーオさんが奪うと勘違いし、来る前に持ち去ったとか?)」

「ふんごー(『何処を見ておる』『なに、いつの間に!?』『ワシはここじゃ、ここに居る』)」

 何と戦っているんだ、最後の奴は。

 ともあれ、否定はしたがヌケサクの言う事も一理ある。

 もし危険な獣が彷徨いているならば、フィーオに何かあっては非常に不味い。

「エルフ族ダシ、大丈夫ハ大丈夫ダロウガ」

「まだまだお子様ですからねぇ。獣と遊んであげているつもりで、噛まれて大怪我するかも」

「ブッヒヒ(獲物探してる獣にすれば、遊びでやってんじゃないんだよー! ってな物ですし)」

 うーむ、ヌケサクにしては珍しく正確な指摘だ。

 仕方ない、少し様子を見に行ってみるか。

「ふんごー(『師匠ォ! お会いしとうございました!』『男子たる者が何を泣く!』)」

 やかましい。


 * * *


 小屋から出た所で、フィーオが空を見上げているのを見つけた。

 なんだ、森の中へと遊びに行ったのかと思っていたぞ。

「あ、マルコ。いま呼びに行こうと思ってた所よ」

 そう言って少女は俺に『こっち来い』と手招いた。

 俺は促されるままフィーオの横に立つと、彼女はその手を今度は空に向けて指差した。

「にゃーーん」

 アレは、猫だ。

 銀色の毛を生やした猫が、今朝のフィーオと同様、枝の上で降りられなくなっている。

「ほらっ、ちゃんと動物が居るでしょ?」

「動物ト言エバ動物ダガ。猫ト言ッテクレレバ分カリ易イノニ」

「猫? 猫って言うんだ、アレ。ふーん」

 知らなかったのか。まぁエルフが動物をペットに飼う、というのも考え難いしな。

 それにしても、森に住む猫が木登り下手など聞いた事も無い。

「マルコの兄貴。ありゃあ多分、ヤマネコの類じゃありませんね。都会ネコかと」

「フム?」

 森に生息する猫類は、迷彩の掛かる斑な毛を生やしている事が多い。

 だが銀色の毛など、森では見つけてくれと言わんばかりに主張している色だ。

「森の捨て猫が、ここまで逃げ込んだんですかね。奇跡的だなぁ」

 見たところ小型の猫でもあるようだし、他の獲物の餌にしかならないだろう。

「猫って食べられるのかなぁ」

「ワザワザ愛玩動物ヲ食ウンジャナイ……」

 ヨダレを垂らすフィーオ。さっき朝飯食べたばかりだろうに。

「にゃんにゃんにゃーん」

 心細いのか、忙しなく鳴いている猫。

 あの姿と声を聴いて、可愛いなとか可哀想だとか、そういう感想を持たないのかね、この子は。

「くぁええのぅぅ! 兄貴ィ、猫って最高ですのぅ!」

 オマエが興奮してどうするよ、ヌケサク。

 そりゃ可愛いかもしれんが、男が可愛いを連呼してても見苦しいような。

「にゃぁーん」

 肉球を見せながら、顔を洗う仕草の猫。

「ブッヒヒ(ネコネコカワイイー! ヤッター!)」

「ふんごー(ブヒれるっ! これは幾らでもブヒれるぞぉー!)

 円陣を組んで飛び跳ねて喜ぶ三馬鹿。もう好きにしたら良いと思う、こいつらは。

「にゃん?」

 不意に猫が遠くを見つめる。そこで何かを発見したのか、俺は視線の先を追った。

 遥か空の果てに、翼を広げた鳥が辛うじて見える。

「……急降下シテ来テイルナ」

 恐らく、鷲だろう。この猫を見つけ、獲物にするべく襲い掛かっているのか。

 鷲は空飛ぶ最強のハンターだ。ひとたまりもあるまい。

 間も無くあの猫は鷲の餌食となるはずだ。

「サテ、ドウシタモノカ」

 もしかしたら、あの猫を飼えばフィーオの情操教育に役立つかもしれん。

 そう考えればみすみす鷲にやるのも惜しい気がするな。

 先に猫を発見したのは我々なのだ。権利はこちらにある。

「ヨシ、助ケルカ」

 そう言って、俺は猫を救う事に決めた。

 別に俺が猫をカワイイと思ったり、飼いたくなったわけじゃないがな。

 あくまでも、俺の横に居るフィーオが……あれ?


「動かないでよー、ジッとしててよー」

 フィーオの声は頭の上から聞こえてきた。

 あいつ、また木に登ってやがる。

「オイ、何ヲスルツモリダ」

「んー? もっと近くで見てみたいなーって思ってね」

 そう言って、猫の居る枝の傍までスルスルと登るフィーオ。

 俺から見れば危なっかしい、勢いだけで登る動作だ。降りられなくなる理由がよく分かる。

「ヨセ。俺ガ、ヤルカラ」

「へーき、へーき。私が獲ったら、足の一本だけ分けてあげるからねー」

「食ウナッテノ」

 舌なめずりして、フィーオが猫に腕を伸ばす。

 それを見て助けてくれると勘違いしたのか、猫も嬉しそうに飛び込もうと身構える。

 猫よ、生存本能で気付け。そいつは獣と同じだぞ。

「キュケェェェェ」

「ふえ?」

 ヴォォッッサァァァァ。

 とてつもない羽音と鳴き声。

「ふえぇぇぇー!」

 そこにフィーオの悲鳴が重なる。彼女の体が宙を飛んでいた。

 落ちているのでは無い。彼女の腰を、大鷲が両爪でしっかりと握っていたからだ。

「浮いてるっ、私、浮いてるぅ!?」

 しまった、フィーオが狙いだったのか!

 鷲は子鹿程度ならば持ち上げて、崖から落として始末する。

 フィーオは子鹿よりも小さいくらいだ。アイツにとっては軽い獲物に属するはず。

「不味イ、不味イゾ」

 相手は空を飛ぶ。このまま逃げられたら、もうフィーオを助けられん。

「ちっくしょー、俺だって空さえ飛べれば」

「ブッヒヒ(紅の翼とドッキングするまで耐えるしかない、ヌケサク君!)」

「ふんごー(いや、自由の翼で立体機動をだな)」

 慌てふためく三馬鹿は頼りになるまい。

 俺は地面に転がる石を掴み上げて、勢いよく大鷲に投げつけた。

「くけっ」

 ひょいっとホバリングで避けられる。くそっ、こいつ慣れてやがる。

「ちょっと危ないわね、私に当たったら死ぬわよ」

 当たらなくても死ぬぞ、そのままだと。

「クケェー」

 鷲が大きく羽ばたこうとした。ヤバイ、フィーオを攫われる!?

「ニャーーン!」

「ケェー!?」

 その瞬間、猫が鷲の翼にしがみついた。予想外の攻撃だったのか、体勢を崩す鷲。

 今しかないっ。俺はもう一度、石を掴んで、スナップを効かせて投げる。

「くけけっ」

 再び避ける大鷲だが、その動きは猫によって妨害されて、直後の姿勢制御が間に合わない。

「避ケルノハ、オ見通シダ」

 鷲に避けられた石は樹の幹に当たり……バックスピンによって更に反射する。

 そのまま跳弾した石は、姿勢を崩した鷲の背中に直撃した。

 ぎゅりぎゅりとした回転により、深く石が食い込む。

「グェェ!?」

「きゃあ~!」

 大鷲とフィーオの悲鳴が上がる。

 思わず爪を開いてしまったのか、掴まれていたフィーオが落ちて来た。

 それをキャッチし、俺は空を見上げる。鷲はどうなった?

「にゃあああーー」

 バササササッ!

 悲痛な猫の鳴き声と、翼の激しく羽ばたく音が辺りに響いた。

 森は一瞬にして静けさを取り戻し、鷲の居た空間には、ただの青い空しか見えない。

「猫が……助けてくれた?」

 フィーオの言葉に返事する者は居ない。

 鷲が消えたのと同じくして、猫の姿も消え去っていたからだ。


 * * *


「ごちそうさま……」

 スプーンを静かに置いて、フィーオは小屋から歩いて出て行った。

 晩飯のスープを半分程も残しており、いつも腹ペコな彼女らしくない。

「堪エテイルヨウダナ」

 俺はそう呟いて腕組みをする。

 あの猫を飼えばフィーオの情操教育に良かろうと思っていたが、まさかこんな形で影響を与えるとは。

 なかなか困った事になってしまったものだ。

「ペットロス症候群を癒やすのは、ペットを飼う事だけでありますからな~」

「ブッヒヒ(汝は幼女か。事案という名の滝をくぐり抜け、その奥に伝説のペットを求める者か)」

「ふんごー(ならば、我を求めよ)」

 全裸でリボンを巻いたオーク二人と『ぞうさんだよー』と体に落書きした裸のヌケサク。

「だめぇ! そんなに強くしたら割れちゃうっ! 象牙が割れちゃうのぉ!」

「ブッヒヒ(割れる……バリアーかっ?)」

「ふんごー(その通りだ)」

「俺ノ小屋ニ、下品ナ男ハ不要ダ」

 床で死屍累々と転がる三馬鹿を蹴り飛ばしながら、俺はフィーオの後を追った。


 小屋の外では、フィーオは森の切れ目の夜空を見上げている。

 昼、猫が居なくなった場所だ。今も、何かが居る気配はしない。

「風邪ヲ引クゾ」

 俺はフィーオにそう声を掛けるも、彼女はこちらを一瞥しただけで、また視線を猫の居た枝に戻した。

 やれやれ。

 大鷲にさらわれた猫が、どうなったかは分からない。

 爪では無く、翼にしがみついていた。だから、案外に上手く逃げ出せているかもしれない。

「ソウ考エレバ、希望モアルダロ」

「……本当に逃げられているかな?」

 フィーオの言葉は、俺の話を信じていないわけでは無いだろう。

「私、あの猫に助けられたの。食べようとしていたのに」

「ハッハッハ。全クダナ」

「もしマルコの言う通りに逃げていて、また逢えたなら……私、御礼を言うわ」

 そう言って、フィーオは俺に振り向いた。

 迷いの消えた、いい笑顔だ。

「助けてくれてありがとう、食べようとしてごめんねって」

「ソレガ良イダロウ。助ケタ甲斐ガアル」

「うん、そうする。借りを作りっぱなしじゃ、気高いエルフとして情けないしね」

 生きているかもしれない。その希望を胸に抱いて、フィーオは悩むのをやめた。

 スッキリとした様子で伸びをする。その仕草は、まるで猫のようだった。

「でもあの子マヌケだしなぁ。また木から降りられないで困ってるかも」

 オマエが言うか、それを。

「だから今度ね、私に木登りのちゃんとした方法を教えて欲しいの」

「ソレナラ、タヤスキ願イダ」

 俺が登れずとも、元野党のヌケサクを脅して教えさせれば良いだろう。

「うんっ!」

 狩るばかりが動物との触れ合い方では無い。

 それを理解してくれる事が、あの猫との出会いの意味だったのかもしれないな。

 俺はそう考えつつ、夜の星空をフィーオと一緒に見上げ続けた。


 * * *


 バサバサと翼を羽ばたかせて、大鷲が崖に舞い降りた。

 辺りは静まり返って誰も居ない。翼の中から「みーみー」と猫の鳴き声が聞こえるだけだ。

 鷲は首を大きく廻して、嘴を開いた。

「ディスペルッ」

 その嘴の奥から人間の声が響く。瞬間、鷲の姿は膨大な煙に包まれた。

 煙が晴れると、鷲の姿は消え去っていた。代わりにローブを着た人間が立ち尽くしている。

「くそっ。もう少しで族長のエルフ娘を誘拐できたものを!」

 フードで覆われた顔がどんな表情なのか、その声だけで分かる怒りと苦渋の色。

 そんな男の足元から、トコトコと猫が現れる。

「にゃー」

「クイーン、なぜ邪魔をしたぁー」

 猫の前で地面に突っ伏して、声を絞り出す男。

 クイーンと呼ばれた猫は、スッと二本足で立ち上がってその男の頭をポンっと叩く。

 肉球が気持ちいい。

「だって使い魔のオイラを置いて飛ぼうとしたじゃん。そりゃ、しがみつくでしょ」

 猫は流暢な人間の言葉でそう喋り、悪びれた様子を欠片も見せない。

「後で幾らでも迎えに行くだろぉー。クイーンを忘れるわけないじゃないか」

「どうだかね。エルフ狩りの元締めにあの娘を売っ払い、そのままドロンじゃないの?」

「違うよ、全然違うよ。大丈夫だよー」

 反論するローブの男を相手にせず、クイーンは顔を洗う。銀色の毛が風に揺れた。

 シクシクと泣きながらローブの男は立ち上がり、そしてマルコの小屋がある方角を睨む。

「おのれ、このままでは済まさんぞ。必ずあの子を誘拐し、大金持ちになってやる!」

 絶叫する男。それをつまらなそうに見る猫。

 崖に立つ二つの姿。それらを照らす月の明かりが、森に向けての長い影を落とすのだった。



第三話:完

こんな所に猫が居てごめんなさいっ!

という訳で謎のローブ野郎が登場です。いったいどの第一話に出て来た魔術師なんだ!?

そして、ようやく「動物=食べ物」以外の認識を始めたフィーオ。

成長の兆しを見せつつ、話は急展開を迎える……事も無い、はず!


それでは、楽しんで読んで頂けたならば幸いです。ありがとうございました。

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