第二十六話:夢を描こう
森における趣味の大半は、やはり森に帰依する。
採取や狩り、畑仕事、水汲み、柵の設置など、実に多彩な趣味の活動であろう。
「兄貴、それ趣味じゃなくて労役です」
「ブヒヒィ(押しても良いんだぜ? 懐かしいドラム缶をよっ!)」
「ふんごー(そのドラム缶……倍プッシュだっ!)」
その時、ピッグに電流走る。
「カンチョーもダメッ、受け身もダメ! 何やっても抜けられない! トキ相手にパーフェクトッ!」
「ブヒヒィ(死んだぁー!)」
なんなんだろうね、この人達は。
まぁ人間なのはヌケサクだけで、後のピッグとポークはオークではあるが。
俺も同じオーク族とはいえ、やはりコイツ等は今一つ理解できんな。
「趣味ってのは、こう、なんと言いますか……救われてなきゃダメなんです。独りで豊かで静かで」
「アア、即身仏?」
「ブヒヒィ(兄貴、確かに独りで豊かで静かですけど、それ容赦無く死にます)」
わがままな奴らである。
そもそも森の中で趣味を云々と言うが、生きていくのも大変な環境だ。
居候しているコイツラは、既に生活基盤の出来ている俺の小屋付近で好き勝手しているがな。
「森ヲ傷メナイ形デ住居ヲ開拓スルノニ、ドレダケ苦労シタカ分カルノカヨ」
「分かりますよ。森資源を食わないよう、ピクセル単位で開拓場や住宅地を設置する苦労は」
「ブヒヒィ(箱庭ゲームの醍醐味ですよねー。まぁ容赦なく線路で敷き潰しますけど)」
「まぁ苦労話は置いといて、この森にはもっと趣味を充実させないといけまんよ」
ヌケサクがそう切り出すと、小屋の前にドンッと大きい黒板を置いた。
その黒板のプレートには「平等の壁」と書かれているようだ。
「ズバリ、絵を描きましょう。落書き、それこそ生を受けた人々の始原の趣味であります」
「ふんごー(でもオイラたちに絵心なんてありませんよ、ヌケサク兄貴)」
「絵心も何も無くていい。自らのパトスをぶつけ、それを誰も否定しない事が大切なのだ」
「ダカラ、平等ノ壁、カ」
コクリと頷いて、ヌケサクはチョークや黒板消しを取り出す。
まず手始めに見本をば、と彼は白いチョークをカカカッと黒板に走らせる。
「うふふふふ……」
そこには芋虫の絵と共に『どーも、伊藤です』と描かれていた。たぶん意味は無いのだろう。
なぜかオーク二人は「いつ聞いても重たい一言じゃ」「感無量」とかほざいてるが。
「ナルホド、確カニ何デモ書イテ良サソウダナ」
「ふんごー(じゃあ次はマルコ兄貴の出番ですかね?)」
言いながらチョークを渡してくるが、まぁまだ手に取るには早かろう。
ここは他の出方を伺ってからにしたいものだ。
「あー、学校の引っ込み思案な子みたいな」
「ブヒヒィ(そういう子ほど、チョーク握ったら長いんですよね)」
「ふんごー(しかも周りが既に飽きてるのに、構わずずっと描いてるとか)」
「オマエ等、何カ昔ニ心ノ傷デモ負ッテルノカ」
遠い目をしながらそっぽ向いている三馬鹿に、俺はチョークを持たせた。
単純に絵心が無いから、あんまり書きたくないだけである。
「趣味ヲ求メタノハ、オマエ等ダ。マァ存分ニ遊ベ」
「ブヒヒィ(では遠慮無く……)」
ピッグはチョークで、オッサン二人がキスしているセクシャルな絵を描き出す。
その下には「攻め:ホーネッカー」「受け:ブレジネフ」とか良くわからんタイトルが置かれた。
「セクシャルっつーかポリティクスっつーか……平等の壁で題材がコレかよ」
「ふんごー(ウホッ! 掘リティクスッ!?)」
「ヤメイ」
いきなりなんつー絵を描くんだ、この馬鹿は。
変なスイッチの入ったポークが「俺も、俺も」とチョークをせがんでいる。
うぅ、描かせたくねぇな。
「平等の壁は全てを受け入れます。さぁ、そのパトスをぶつけさせましょう」
「ふんごー(うぉお! 芸術は爆発だー!)」
かくして、彼の前には「ちゅーりっぷ」が描かれた。
幼児が児童書に落書きする、あの極単純な絵である。
何かを恥じ入るように、ポークは顔を壁に垂らしている。
「ま、良いんじゃないですかね」
「牧歌的ダ」
「ふんごー(ちくしょー! 絵なんて描けなくても死にやしねぇ!)」
「ブヒヒィ(まぁまぁ、呑気な絵で良いじゃねぇか)」
「ふんぎー(出来る奴ほど甘い事を言いやがってぇー、ぬぐわぁー)」
これが持たざる者の嫉妬か、見苦しい。
まぁ俺も別に持ってはいないんだが……ここでは本当に気楽な絵で良いと思う。
ジタバタと暴れるポークからチョークを奪うと、俺も絵を書く事にした。
「トハ言ッテモ、簡単ナ物デ良イヨナ?」
「勿論ですよ。そういう趣旨ですし」
さて何を描くかと悩みそうになったが、こういう時は手の動くままが良い。
俺は多色のチョークで、自分の小屋の外観をサササッと描いてみた。
かなり抽象化しているが、まぁ見れば小屋だと分かるだろう。
「やりますね。みんな同じ愉快な家族が飛び込む例の家ですな」
「俺ノ小屋ハ形状記憶合金製デハ無イ」
「ブヒヒィ(割れるバリアーの有る研究所ですよ)」
「ふんごー(そうか。もしや建物じゃ無くて、エビの味がする怪獣だなコレ)」
分かってて言ってるから、コイツ等は始末におえない。
だがまぁ実際にやってみて分かったが、確かに絵を描くのはなかなか楽しいな。
上手い絵を描こうとすれば苦痛だろうけど、思うまま描く分には自由で良い暇潰しだ。
「フィーオニモ描カセテミルカ」
「ふんごー(でも遊びに出掛けましたし、暫く戻りませんよ)」
そういや、さっきから顔を見ないと思っていた。
まぁじきに帰ってくるだろう。
俺は夕飯の準備に移動したが、三馬鹿はずっと黒板の前で何かを描き続けているのだった。
「ほーら、俺の赤いチョークの線に囲まれた絵は、片っ端からバシシッて消しちゃうよ」
「ブヒヒィ(あー、俺のホーネッカーとブレジネフが赤に消されたぁー)」
「ふんごー(ボーナスステージは、黒板に十円玉マーカーを付けないといけませんね)」
なんか気にしたら負けだな、あいつらの騒動は。
まぁ趣味が増えるのは良い事だ。一芸よりも多芸に秀でた方が人生楽しかろうさ。
* * *
「ただいまー」
フィーオが帰って来たのは、日も暮れに暮れた夜だった。
ヌケサク達も既に自分たちの仮住まいへと戻っており、小屋には俺だけだ。
これは叱らねばなるまいと俺が小屋の入り口に顔を出すと、少女は汗だくで何かを抱えている。
叱る前に、もしかしたら事情があるのかと俺は「言うことはあるか?」と問う。
「うん。なんかね、その辺で行き倒れになってたの、コレ」
言葉に続けて、抱えた何かを俺の前にボスッと落とす。
それは一見、豚のような姿をした動物だった。
しかしよく見ると、前足が後ろ足よりも大きい。これは豚には無い特徴だ。
そして鼻も象のように長く、尾は牛のそれだった。
「キメラですかねぇ」
「イヤ、コレハ『バク』ダナ」
バクとは、夢を食う幻獣である。
あまり人前に姿を現さない東洋のモンスターで、これは珍しいモノと出会えたな。
しかしフィーオでも抱えられるコイツは、うり坊くらいのサイズでしかない。
本来は、もっと大型の幻獣なのだが。
「なんか弱っちゃってるし、無視するのも可哀想かなーって」
「食ベルツモリジャ無イダロウナ?
「んー。何のことかしら」
エルフ少女は目を逸らして、手をそわそわと組ませている。
肉料理が好きなエルフなんて、他に聞いた事も無いもんだ。
てか夢食う幻獣ってどんな味なんだ? そもそも草食なのか、雑食なのか。
少し気になったが、俺は頭を振ってそんな思考を頭から放り出す。
「コイツヲ助ケル為ニ帰宅ガ遅レタノカ。ナラ、叱ラナイデオコオウ」
「はいはい」
「返事ハ一回ダ」
「アラホラサッサー」
全く、コイツは……。
俺はくたびれてノビているバクに、とりあえず水を飲ませてやる事にした。
水の入った皿に、鼻先をチャポンと着けさせてやる。
『ピゥー』
そんな鳴き声を出しながら、バクはグイグイと水を飲み干していった。
あっという間に空となり、閉じられていたバクの瞳が薄く開いていく。
『ピゥッ。助かりましたぁ~』
「あ~あ、お肉がぁ」
「フィーオ、黙ッテロ」
バクとの挨拶もそこそこに、俺は彼が行き倒れになった事情を聞き出す。
もう夜である。あまり長く起きているのも健康に悪いからな。
『実は僕、夢を食べて生きる幻獣なんですけど』
「うん、知ってるよー」
『最近の街の人たちって、あんまり夢を見ないものでして……飢え死に寸前でした』
「アー。マァ、忙シイカラナァ」
徹夜で連勤とかしてたら、夢を見る暇も無い。
『それでエルフの方々ならば夢も見るかな、と思いまして。街から出て来たワケです。ピゥー』
「なんかさり気なく、エルフを怠け者って言われてないかな?」
人間の労働環境が、単に辛過ぎるだけじゃなかろうか。
そんな事も思ったが、俺はあえてフィーオに何も言わなかった。
どうせ「エルフの方が大変よっ。どこでランチしようか毎日考えなきゃだし」とか言われそう。
『ピュー。貴方達は琥珀色の男の夢、ちゃんと見てますか?』
「ナンカ妙ニ男臭イナ。悪イガ、俺ハアンマリ夢ヲ見ナイタチダ」
「私、見るよー。こないだも爆発するゾンビ研究所からヘリで脱出する夢を見たし」
夢で終わらせない感じだな、それ。
「目が覚める直前に『映画のような夢を』とか言われたけど胡蝶の夢的な何か?」
「知ラン」
「ハエ男のクロージングでそんな事言われても困るわよねー」
ぱーぱぱらーぱーぱーぱーぱーっと楽器演奏の真似をする少女から、バクに向き直る。
「エルフノ里マデ、モウ少シダ。今夜ハ泊マッテイケ」
『お申し出ありがたいです……ただ僕、正直、空腹の限界でして。ピゥー』
「フムー。フィーオ、オマエハ今日モ夢見レソウカ?」
「うん。二つの胸の膨らみは何でもできるはずだわ。夢見れば夢も、夢じゃ無くなるくらいにね」
「……ナラ期待デキナイナ」
殺意を込めて俺の足を蹴り続けるフィーオを無視しつつ、俺は対策を講じる事にした。
* * *
「まぁ大勢で寝れば、誰かしら夢を見るでしょうけどね」
「ブヒヒィ(だから、ねぇ、おやすみ。マルコォ)」
「俺ハ滅多ニ夢ヲ見ナイト言ッタダロ」
「ふんごー(しかしまぁ、見ようと思えば見なくなるモノですが……)」
小屋はフィーオが占領している。
必然、誰か夢を見れば良いと集められたヌケサク達は、思い思いの場所でゴロ寝だ。
俺は自分用の簡易ベッドで寝るがな。バクも俺の傍でうつ伏せになっている。
「ブヒヒィ(こんなに固い地面の上で寝たら、悪夢になっちまいますよ)」
『悪夢も食べますけど、やっぱり美味しいのは良い夢ですねぇ。ピゥー』
「夢は寝る前の気分や記憶で、質が大きく左右されると言いますな」
ふむ、となると出来るだけ明るい気分で寝れば良かろう。
何か気分転換になるモノは無いかと、俺はキョロキョロと見回した。
すると、目に入ったのが、昼に大騒ぎをした『平等の壁』こと落書き用の黒板である。
「コレヲ使ッテ、何トカ安眠出来ンカ?」
「なるほど、絵を描いて気分転換っすか。それはアリですよ」
乗り気になった俺達は、さっそく黒板を寝床まで運んできて、チョークを握る。
幸いにして月の明るい夜である。薄暗いが見えない事も無い。
「ふんごー(自分は逆にテンション下がりますよ。描くの苦手だし)」
「無理ニ描ク事ハ無イ。マァ気ガ向イタラナ」
「ブヒヒィ(じゃあ、今度は自分から描かせて頂きますっ。オスッ!)」
そう言ってピッグは、大鎌を構えて「ヒーホー」と叫ぶ死神の絵を描いた。
『悪夢確定じゃないですか、それ。僕にアイツと戦えと?』
「ブヒヒィ(ポルナレフ・ランド、楽しいですよ? ミミズクリームとかあるし)」
「もうミミズは勘弁してくれ……てか、あの遊園地ってポルナレフ・ランドだったのかよ」
「ふんごー(みんなで三月な磨臼でも探すんですかね)」
出費の多そうな遊園地だなぁ、おい。
俺は黒板消しでその絵をシャッシャッと消していく。
「ヤリ直シ。選手交代ヌケサク、モット夢ノ有ル奴ヲ頼ム」
「そっすねぇー。なら、明るく楽しいのにします」
そう言って、角の生えた白いお面を描き出した。
オーク達が「子供の頃の夢だな」「色褪せない落書きっすねー」と喜んでいる。
どうやら気分が高揚しているようだ。
「そう、皆に良い夢を見せられるのは俺だけだ! ベリッ!」
言いながら、お面の目と口の輪郭以外を全て塗り潰してしまった。台無しじゃねぇか。
ピッグとポークが「なに!!」と叫んで、そのまま何故か停止する。
『これじゃあ夢を見るどころか、虚無になってしまうんですけど』
「ソウイウ物ナノカ? ジャア起コスカ」
黒板をサッサと消すと、途端にヌケサク達の時間が動き出した。
「ふう。十年は夢のように過ぎてしまう所でしたよ」
「千年クライ止マッテロヨ、モウ」
『うぅ、お腹が減ったよぉ……』
こんな風に騒いでいる暇があれば、寝た方が早いかもしれんな。
俺が号令を掛けて寝るように言うと、意外にもポークがチョークを取った。
「ふんごー(俺に任せて下さい。一発で最高の夢見にしますよ)」
「イヤ、モウ良イヨ。眠イシ」
「ふんごー(まぁまぁ、これを見て下さい)」
周りが止めるのも聞かず、彼はチョークをカカカッと叩きつける。
出来たのは極めて抽象的ながらも、洋館とその周りを飛ぶ蝶の絵だった。
「何だよ、それ。黄金の魔女が一族郎党を皆殺しにするの?」
「悪夢ジャネェカ」
「ふんごー(いえ、夢見館で蝶になって、狩人に追われながら楽しく過ごすんです)」
「悪夢ジャネェカ」
「ブヒヒィ(でも続編では狩人を蝶達が助けるという、まさに超展開ですよ?)」
「悪夢ジャネェカ」
俺は黒板を地面に倒して「寝ろっ」と命じる。
途端に狸寝入りを始める三馬鹿ども。やれやれ。
* * *
焼けていく修道院。
鐘楼より狂ったように鳴り響く鐘の音も、やがて火の海に消えて落ちた。
逃げ出す人々やモンスターの子供達に襲いかかる、オークの群れ。
いつも俺を守ってくれたシスターの手が、真っ赤に染まる。
そして、俺の胸に突き立てられた剣……。
* * *
「グッ……」
俺は呻きながら、身体を起こした。
全身が汗だくで気持ち悪い。だがなによりも不快なのは、夢の内容だ。
「夢ヲ意識シ過ギタカ、全ク」
あまり夢を見たくないのに、そんな話しばかりしていれば見もするだろう。
もう朝だ。目を覚まさねばな。
辺りを見回すと、ヌケサク達も一様にうなされている様子で、険しい顔のまま眠っている。
おいおい、全員が悪夢かよ。
「オマエラ起キロヨ」
片っ端から頭を蹴って歩いて、目を覚まさせていく。
全員、やたら疲れている様子で「酷い夢だった」と連呼した。
「シルクハット被る爪生やした男に、死ぬまで追い掛け回されました」
「ブヒヒィ(うぅ、政府の手を逃れて恋人と田舎に逃げたはずだったのに)」
「ふんごー(溶けかけたアスファルトに、己が足跡を残しつつ……)」
なんか疲れ果てている三者三様に、掛ける言葉も見つからない。
「というか、悪夢だろうと何だろうと、バクは食うんじゃないんですか?」
「ダナ。夢ノ記憶ガ残ッテイルノハ不自然ダ」
もしや俺達が夢を見る前に、空腹で力尽きたのか。
俺はバクの寝そべっていた場所を探すが、彼の姿は無かった。
いったい、何処へ?
「おっはよー、マルコ。良く寝れた?」
『ピゥー。おはようございます』
小屋からやけに元気の良いフィーオが現れて、その陰にはバクも居た。
「俺達、夢ヲ見タンダガ。食ベナカッタノカ?」
『ピゥー。えっ? いえ、食べさせて貰いましたよー。遠慮無く』
バクはゲップ混じりにそう答える。
おいおい、どういう事だ。
「マルコ達は夢を見たんだ。私、昨夜は何も見れなかったよ。珍しくね」
『そりゃあ、快適なベッドで寝ていたから、悪夢の入る余地が無かったんですね』
不思議そうに首を傾げるフィーオに、バクがそう答えた。
と、言うことはつまり……。
「オマエ、俺達ノ夢カラ『良い夢だけ』ヲ食ッタンジャネェカ?」
結果として『食べカスの悪夢』だけが印象に残った、と。
俺はバクを睨みながら、一歩踏み出した。
その俺に怯えた様子でピゥッと鳴いて震え出す。
『だ、だって無理だよっ。僕、子供だよ? あんな怖い夢、食べられないよぉ』
「ブヒヒィ(ふざけんなぁ、俺のトラウマを刺激しやがって)」
騒ぎ出したオーク達から離れて、俺は切り株に座り込んだ。
俺も良い夢を見ていたんだろうか? それとも、たまたま悪夢を見たのだろうか?
考えても仕方の無い事ではあるが、珍しく夢を見た身としては気にもなる。
「マルコも悪い夢を見たみたいね」
俺の顔をひょこっと正面から覗き込みつつ、フィーオはそんな事を行って来た。
どうやら、俺の見た夢に興味があるようだが……。
「悪夢ノ続キハ、終ワッテナイサ」
「ふーん?」
だがその『悪夢の続き』も悪夢である、とは限らない。
フィーオのきょとんとした顔を見ていて、俺はそう感じるのだった。
いつかは、どんな夢も覚める。
その時、現実が幸せである事を願うばかりだ。
「ふんごー(てか、オマエが食った良い夢ってどんなんだったんだよ、いったい)」
いまだしつこいオーク達に問われて、バクはケロっとした顔で口を開いた。
『美女に囲まれてハーレム、酒池肉林。あと異世界で勇者してた』
「吐けっ! 返せ、俺の花と夢をっ返せぇぇぇ!」
バクの口を強引にこじ開けようとする、見苦しい集団から目を背ける。
夢とは一期一会である。
偉人曰く、夢の中で宇宙の真理を得たとしても、起きたら忘れてしまう。
『もう、じゃあ返しますよ。はい、片腕に銃を持つ宇宙海賊』
「え、いいのっ!? やったぜ!」
『……に、目を撃たれるギルドのお偉いさんの夢』
「バイケンじゃねぇかー! そっちじゃねぇよ、このアホォ!」
夢に掛ける情熱を、現実にも振り分けたいものである。
第二十六話:完
私は夢を見たり見なかったりするタイプ。しかも結構「これ夢だ」と気付きます。
ただ付いた所で、ちっとも夢の展開を制御出来ない残念な明晰夢です。
うぅ、ハーレムドリームゥ……。
それでは、楽しんで頂けたならば幸いです。ありがとうございましたっ!




