表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/80

第十四話:整頓してみよう

 俺の小屋は、オークである自分が住む為であるからして、人間サイズに合わせていない。

 茅葺き屋根と丸太や板を積んだり張ったりして作った、俺謹製の小屋だ。

 従って、エルフの娘っ子が一人暮らすと、非常に広々とした空間となる。


「ねぇねぇ、そこに転がってる石って捨てて良い?」

「駄目ダ。イズレ石工技術ヲ覚エタ時、最初二掘ル材料二スル予定ダカラナ」


 広々としているはずなのに、なぜか小屋はツマラナイ物で一杯になっていた。

 今では、俺の私物は全て「ねぇー、この箱捨てて良い?」と聞かれる始末だ。

 それ程に小屋の収容体積は限界を迎えつつあった。


「大体、何デ俺ノ私物ヲ捨テヨウトスルッ。殆ドフィーオノ物ダロウッ」


 フィーオ、それが俺の小屋を占拠しているエルフ娘の名前だ。

 この子が持ち込んだ小物は、俺の優に数倍である。


「だってー。マルコの持ち物なんて要らないのばかりだし」

「勝手二決メンナヨ。ドレモ大事ナ物ナンダ」


 いつか掘りたいと思っている、羽衣を脱いだ天女の形に見える石塊。

 小屋や畑を修復する際に使う大工道具や農具。

 冬の厳しさを乗り越える為の寝具類。

 もし遠くへ旅する必要が生まれた時の、旅行具。


 他にも生活に根ざした物ばかりで、趣味的なのは石の塊くらいだ。


「ソレニ比ベテ、オマエノハ何ダコレ?」


 俺が灰色をした八角錐の石らしき物を持ち上げる。やけに影が濃くて真っ黒だ


「ソルよ。気を付けて、それ数本で人類文明に壊滅的打撃を与えるわ」

「ドウヤッタラ、ソンナ事ニナルンダヨ」

「星空から落とすのよ、バラバラと」


 隕石を落とす魔術のメテオストームみたいな物だろうか?


「でも研究所だったりガンプのメモリーだったりもするのよね。結局どれが正解なの?」

「俺二聞クノカ、ソレ」


 他にもよく分からない物はある。


「ピンク色ノ帽子ヲ被ッタ、丸イ顔ノ等身大人形……」

「テープを再生して喋るの。小町の街角にあって、情緒が芽生えたら素敵じゃない」


「コノ『ちょうちょ、ちょうちょ』ト歌ッテル、床屋ミタイナカラーリングノ人形ハ?」

「リボンを作ってくれるの。誰かに物を贈る時に便利でしょ?」


「スクリーン二映ル映像ノ皿ヲ撃チ落トス銃。割ト、リアルナ出来ダナ」

「あー、私は連射できる奴の方が好きなのよねー。ファンタジックだけど」


 コイツが何を言っているのか、全然分からん。

 そもそも持ち込んだのはフィーオである。好きも嫌いも無いもんだ。


「小ぃさな事にこだわってちゃあ……いかんぜよっ」

「サヨケ」


 ともかく、こいつの言う「あると便利」ってのは、どれも必要無いって事だ。


「ふざけないでっ! あの日の全てが虚しい物だったなんて、誰にも言わせないわ」

「ソコマデ言ッテナイ。俺ノ『小屋』ニハ、要ラナイダケダ」

「それは、まぁその通りね」


 殴ったろか、この小娘。

 とにかく、小屋が埋もれてしまう前に一度外に出してしまおう。


「やめてよー。捨てないでー」

「物置二片付ケルダケダ」

「そう言って前に片付けた物、全然出してくれないじゃないー。捨てたんでしょー」

「煩イ。片付ケナイ、オマエガ悪イッ」


 ふえぇーんっと泣き真似をするフィーオの声を聞いてか、ヌケサクが入って来た。


「おっと。玩具が大きかった時代における、子供のトラウマの育つ音が聞こえますねぇ」

「大キ過ギルダロ、コレ」

『プーンッ……シュパッ……パシューンッ!』


 などと音を立てさせつつ、ヌケサクがクレー射撃のゲームを遊び出す。

 こんなもの、どうやって俺の小屋に持ち込んだんだよ。


「無理に捨ててはいけません。ここは本人自身に、物置で整頓させては如何がと?」

「フーム」

「ちゃんと片付けるから、捨てないでよぉ」


 まぁ、そういう事ならば良しとするか。

 元エルフ狩りの野盗の癖に、俺とフィーオの折衷案を出せるから侮れない奴だ。


『プーンッ……シュパッ……パシュッパシィ! カチッカチカチカチッ!』


 外してんじゃねーよ。あとそのバージョンは二発しか弾出ねぇよ、確か。



 * * *



「物置モ一杯ナンダヨナァー」

「なにこのカーレース。全然景色が変わらないじゃない。不良品?」

「フィーオ姉御、それロールになった切り絵を画面に投影してるだけです」


 無論、俺の持ち込んだ物の方が遥かに少ない。

 というか種籾の入った袋とか、畑の土から石を分離する篩とか、便利なのは全部俺のだな。


「明日の為にジジィの顔を打つべしっ、打つべーしっ君」


 サラッとめちゃくちゃ言ってるな。

 すぽーんっなどと叫びながら、フィーオが篩をユサユサと横に揺する。


「ソウソウ、ソウヤッテ使ウンダ」

「んで、使えない超人を振るい落とすのね」

「ソウイウ使イ方ハシナイカナ」


 篩を取り上げて、俺の荷物を一箇所に固める。

 作業の中で、ヌケサクの私物まで見つかりだした。

 その一つがカーレースゲームの玩具だ。なんでこんなの持ち歩いてたんだ。


「こういうのって好事家が高く買うんですよ。野盗時代の商品ですな」

「ナルホドナ。シカシドウセ盗ムナラ胡椒トカノ方ガ運ビ易ク、換金モシ易カロウ?」

「ごめんなさい、すみません。単なる趣味です」

「何故、尤モラシク嘘ヲ吐クンダ」


 コードの着いた銃を何気なく手に取って、俺はそのトリガーに指を掛ける。


「おっ、兄貴ガンスピンって知ってますか?」

「銃ヲ指デクルクル~ッテ廻ス奴ダナ」

「俺の時代は何故かクイックドローと呼んでましたが、まぁそれです」


 しかし、この銃だとトリガーガードが無いから、ガンスピンは出来ないな。


「でもそれでガンスピンする奴も居るんですよ、世の中には……」

「無茶ヲ言ウナ。何処デ引ッ掛ケルンダヨ。ッテカ、コード絡ムジャン」

「マジですってば……そういや、なんでトライなフォーメーションって原作名使わなかったんでしょうね?」


 今日は、やたらと俺に聞いてくるなどいつもこいつも。知らないっつってんだろ。


「ハイハイ、閉マッチャウカラネ」

「あーっ俺のピュアストーンがぁ! 立ちふさがる全てを突き抜けてぇ!」


 とにかくガラガラ~っと物置の奥に入れていく。

 他にも羽の生えた赤青緑色のラグビーボールや、真っ黒に塗られたメガネとか……。


「ソノ黒イ眼鏡、役二立ツノカ」

「あ、グラサンって言うんだよね」


 片付けをしているフィーオが、顔をヒョコっと出して言った。


「いえいえ、平面が立体的に見える眼鏡です。さぁ兄貴、掛けてみて下さい」

「エッ。イヤ、俺ハ良イヨ」

「遠慮せず、良いから掛けて下さいって」

「止メロヨッ」


 やけに絡んでくるヌケサクに、俺は思わず拳を入れてしまった。


「俺はアンタに立体視を楽しんで欲しいだけなんだっ!」

「ヨセッ、コノ野郎ッ!」


 なぜか殴り合いの喧嘩に発展してしまったが、所詮ヌケサクはヌケサク。

 彼を完全制圧し、結局、俺はグラサンを掛けずに物置に入れるのだった。


「あ、長い喧嘩だったねぇ。15分くらい?」

「ソンナニハ長クネェヨ」

「うぅ……80年代で立体視だぞ、80年代で。俺達は30年は先んじてるんだよっ」


 どうしたいんだよ、本当にもうコイツ。

 なんか変な生物と入れ替わってるんじゃねぇのか、中身が。


「ところで、じゃじゃーんっ。ちゃーんと片付いたわよ」


 見れば、フィーオの荷物が綺麗に整頓されていた。

 うむ、この子はやれば出来る子なんだ、いつも。

 やらないけど。



 * * *



「はて、あのランプは何ですか?」


 ヌケサクが物置の奥に転がっているランプを指差した。

 金色のメッキがされた、いかにもアラビアンなナイトのランプだ。


「イヤ、知ランナァ。フィーオノ物カ?」

「んーん。私のじゃないよ。ヌケサクのでも無いなら、なんだろ?」


 フィーオは奥に通じる狭い隙間を見つけると、左右に腰を振りつつ腕をねじ込ませた。

 そして、ランプを取り出すと、物置の中央に置く。

 ただそれだけで、ランプの蓋がカチャカチャと動き始めた。


「ポ、ポルターガイストっすか?」

「イヤ、中カラ何カガ出テクルゾ」


 それは煙だった。

 ランプからモクモクと煙が立ち上り、そこにターバンを巻いた男が現れる。


『パンパカパーンッ、パッパッパッ、パパパパパパーン!』

「うるせぇ」


 ヌケサクの素直なトーキックが、ランプをひっくり返す。

 なぜかターバン男もランプと一緒になって、ゴロゴロと転がっていった。

 ただの演出の煙と思いきや、煙そのものが彼の下半身でもあるらしい。


『ちょちょちょ、危ないじゃないですかっ』

「もう少し静かに出てこい。うるさくて堪らん」

「マァ、確カニ。デ、オマエハ……『ジン』カ?」


 俺がそう呼ぶと、ジンは大きく頷いた。


『ハァイ、私はランプの魔神ジン。しかしてその個人名は、ジュンでーす』

「チョーサクでーす」

「ミ……」


 魔神とフィーオから、パーンっと殴られるヌケサク。

 あまりにも早いツッコミの速度、レツゴーならぬ第四次無印版だな。


「デ、ソノジュンサンガ、ドウシタ?」

『私をランプから出してくれたお礼に、中途半端かつ望ましく無い形で、どんな願いも三つ叶えましょう』

「素直ダナ」

「どどどっどんな願いでも叶うんですかっ!?」

『はい、中途半端かつ望ましく無い形ですが』


 舌なめずりするヌケサクを止めるべきかどうか、俺は一瞬迷った。

 というのもこれは、魔神ジンという『モンスター』の常套手段だからだ。

 願いを叶え終えると、油断し切った主人に襲いかかり、食料としてしまう。


 このままではヌケサクの命が危ない。

 でもそれは、俺にとって特に問題では無い事にも気付いた。


 うん、黙っておこう。


「ヒャッハー! 最初の願いだぁー、汝ぃぃぃ、俺に美女を寄越せぇ!」

『パパラパァ』


 早くも一つ目を願ってしまったヌケサクの前に、確かな美女が現れる。

 ただし、それは左半分だけ美女で、右半分はオッサンだった。


「うわ、きもっ! なにこれ?」

『ドクターヘルッお許し下さいぃぃぃ!』

「なんか謝ってるけど?」


 フィーオが指差して気持ち悪がっているが、俺もこれは直視したくない。

 だがヌケサク的には「いや、これイケる方です」と乗り気だ。

 まぁそりゃ左半分に限れば美女だけどよ。


「シカシ、ヘルム……兜……衝撃的ダ、流石ダ」

『残り二つも願うが良い』

「ねぇねぇ、私も何かお願いして良い?」

「一ツダケダゾ。三ツ目ヲ叶エラタラ、食ワレルカラナ」

『~♪』


 口笛吹いて誤魔化しているジンに、フィーオは色々と思考を巡らせているようだ。

 そして、素敵なアイデアを思いついたようで、ニコニコと話し出す。


「最新の技術と、一つのセンスが、丁度いい感じにバランスしてるモノの最終章遊びたいなぁ」

『駄目だ……その願いは私の予算を遥かに超えている』

「全十二章って発表した時、次の雑誌で『三までは出す』って言ったのに、バックレ無いでぇ!」


 俺の胸で泣き出すフィーオを支えてやる。

 この慟哭、いつか届くと良いな。


「じゃあ海外版のアノ3Dで良いや」

『容易き願いだ』


 キャッキャと喜びながら、フィーオが二画面ある玩具でカーゲームを遊び出す。

 色々と騙されてるなぁ。流石、中途半端な叶え方。本質は正しいんだが……。


「残リ一ツカ。モウ片付ケルカ」

「え? 勿体無くないっすか、兄貴ッ。なにか願い事して下さいよ」

「オマエ、俺ノ言ッタコト何モ聞イテナイノナ」


 器用にも左半分だけのキスマークを付けたヌケサクが、俺に「さぁさぁ」と促す。


「ジャア、俺ノ分モオマエガ叶エテ良イヨ」

「マジっすか! よぉーし、何を願っちゃおうかなぁ」


 暫く腕を組んでの長考を解くと、ヌケサクは口を開いた。


「家族の幸せ……かな」

「ヤメロヨ、胸ガ痛クナルヨウナ願イ」

『そういうのは誰かに願うんじゃなく、自分で掴み取るモノだろうっ!』


 俺と魔神から同時にクレームを入れられて、再考を促させる。

 しかしヌケサクの意思は固いようで、断固として願いを変えない。


『仕方無い。では叶えてやろう』

「デモ、ソレ叶エタラ、ヌケサク食ウンダロ?」

『それは勿論。それが私の習性だからな』

「ジャア、家族不幸ニナルジャナイカ」

『あっ……』


 幾ら叶うのは中途半端だとしても、願いを裏切ってはいけない。

 それを出来ないからこその強力な超能力である。


『あわわっ。じゃ、じゃあやはり違う願いを』

「貴様が言い出したのだっ。嫌だと言うのかっ、カメオォ!」

『ジュンです』

「小ぃさな事にこだわってちゃあ……いかんぜよっ」

『さいで』


 アワアワし出した魔神への追求を、ヌケサクは決して止めない。

 そう、ジンを倒すのに刃物は要らない。矛盾した願いを言えば良い。


『あーもう、ジン対策が蔓延り過ぎっ。マジ野蛮。夢も浪漫も千夜一夜の物語も無いっ』

「有名税ダナ。諦メロ」


 魔神は溜め息をついて、ランプごと空に浮かび上がった。

 そして、また何処かの骨董品置き場に飛んでいこうとする。


「行くなよ、ジュン! お前は俺の家族を幸せにするんだろぉっ」

『もう……幸せさ。腹いっぱいだ』

「イヤ、満腹ハ関係無イダロ」

『じゃあ……彼の願いは、私の力を遥かに超えている』

「ちょっと待て、それ酷過ぎる言い分だろ、おい」


 ヌケサクの抗議を聞き流し、魔神は新たな地へと飛び去った。

 同時に美女オッサンと、フィーオの玩具の映像も消える。


「あっ、消えちゃったよー。せっかく遊べたのになぁ」

「まぁまぁ、この茶色い変換アダプタを使えば、海外版もこのように」

「……持ってるなら先に教えてよ。願い事、損しちゃった」

「えっ、これ俺が悪いんすかね」


 見る見る内に、整頓されていた物置が、再び取り出された品々で散らかっていく。

 整頓しても整頓しても、こうなるんだよな。趣味の骨董品って。

 どうせ片付かないなら、俺も遊んでしまおう。


 俺は溜め息を吐いて、XE1と書かれたアナログジョイパッドを手に持つのだった。



第十四話:完

魔法のランプって子供の頃は純粋に欲しかったんですけど、

大人になるにつれて、印象が喪黒福造化していくんですよね……。

タダより高い物はないっ。


それでは、楽しんで頂けたなら幸いです。ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ