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第十話(前):水汲みに行ってみよう

 雨水を貯める水瓶の破損に気付いたのは、中身が空っぽになってからだった。

 川の水を汲んで来て、蒸留すれば飲用の水は生産出来る。

 だから当面の問題としては『誰が川の水を汲んでくるか』という話だ。


「マルコー、喉が渇いたよっ」


 エルフ少女のフィーオが小屋の中から俺に怒鳴る。


「このままじゃ喉が渇いて死んじゃう。時局は切迫してるんだよ」


「ふんごー(なのに相も変わらず、割れた水瓶へ花を手向けているとは)」


 花なんて手向けてねぇよ。

 フィーオに続いて声を上げた二人のオーク、ピッグとポークが水瓶の影から現れた。


「ブヒヒィ(その唯一の未練、この師みずから断ち切ってやるわっ)」


 誰が師匠だ。

 ピッグは握り合わせた両拳を高く振り上げる。


「ブヒヒィ(オールテガ・エクスキューション!)」


 水瓶をガシャーンと叩き割るピッグ。


「ふんごー(パーフェクッ)」


「オーマイゴッド……」


「ブヒヒィ(国に帰るんだな。オマエの家族もガイルだろう……)」


 箒みたいな髪型のヌケサクが粉々に砕けた水瓶を前に、落涙して拳を地面に落とす。

 うむ、よしよし。つまりお前等、死にたいんだな。


「全員整列セヨ」


「「「合点承知ッ」」」


 揃った三人を順番にアッパーカットで吹っ飛ばしていく。

 その度に「車」「田」「飛びぃぃぃ」と悲鳴を上げる。

 やがて「ドシャアッ」と自分で叫びながら、地面へ逆さに突き刺さった。

 殴られる時もいちいち煩い連中である。


 オーク二人と人間のヌケサク。合わせて三人、元野盗の三馬鹿連中である。

 困った事に、いつの間にやら森の居候として居直っている始末だ。


「で、そいつらを殴っちゃったら、誰が水を汲みに行くのー?」


 小屋の入り口から「まさか私じゃ無いわよね?」とジト目で俺を睨むフィーオ。

 そりゃあ、もちろん決まっている。


「コノ無人ノ小屋デ永遠ニ、サラバフィーオヨ」


「逃げるな、アホマルコ」



 * * *



 俺は木製の大樽を転がしながら、川へと向かっている。

 その横でフィーオがふくれっ面しながら、彼女でも押せる小さな樽を転がしていた。


「なんで私まで……もう面倒くさいー」


「仕方無イダロ、手ガ足リナイノダ」


「そりゃアンタが考え無しに、あの子らを倒しちゃったからでしょ」


 事実なだけに、それを言われたら何も反論出来ない。

 だが水が足りないのは一大事だ。いずれにせよフィーオにも手伝って貰わねば困る。


「それにしても、どうして水瓶が欠けたのかしら?」


「ウム。自然ト壊レル物デハ無イノダガ」


「案外、あの三人が原因だったりして」


 それを誤魔化す為に、ああやって馬鹿騒ぎで証拠隠滅か。ありうる話だ。

 とかく、何をしでかすか分からない連中である。


「シカシ瓶ヲ壊スナンテ、ヨッポドノ事情ダゾ」


「うーん。ハートな欠片集めとか」


「ムシロ集メタ奴ニ倒サレル方ダロ、オーク族ダシ」


『じゃあ小さなメダル集めの方じゃないですか?』


 そう言って、ユニコーンが会話に加わってくる。


「あー、壺投げギミック。アレなんで実装されたんだろう」


「一番ツッコミ所ハ『便利ボタン』デ『壺投ゲ』スル事ダナ」


『つまり、勇者は親切心で割ってるのでしょう』


「「「アッハッハ」」」」


 ……。

 なんか一本角の生えてる白馬が、混ざってる気がするな。


「ナンダ、オマエ」


「そこ気にしちゃうの、マルコ? 登場シーン、ガン無視だと思ってたのに、私」


『タイミングを外し、ボケの機先を制す。遅れてるなぁ、オークのツッコミはよぉ』


 なぜか一角獣とフィーオが俺を「空気読めない奴」な視線で見てくる。

 そういう問題じゃないからな、お前等。


「コノ近辺ニ、ユニコーンナド生息シテイナイ。何故ココニ現レタ」


『そりゃ、純情な乙女の気配を感じれば一目散ですよ』


「乙女って……恥ずかしいから、皆には内緒だよ」


『なにこの娘の濁ったソウルジェム。魔女りそうで怖い』


 フィーオが恐ろしい怒りの表情で、ユニコーンに文字通り馬乗りとなる。


『やめてよ、僕は穢れ無き乙女以外を乗せない主義なの。大迷惑ー』


「まだ3分の1も私の純情は見せてないわよ。訂正して私を乗せなさいっ」


『僕には……乗れませぇぇぇんっ!』


 言いながらも、背中から振り落とす気配は無い。

 まぁユニコーンならではのユーモアかもな。


「デ、実際ノ所、何故コノ森ニ?」


『まぁ乙女のスメルを感じて通り掛かったら、道に迷ったのが正解です』


「スメルッテ、オマエナ……」


『え、スメルを詳しく知りたいですって? 仕方ないなぁ。それは月一の』


「殺すっ、この変態ユニコーンだけは、絶対に殺す」


 やはり恐ろしい表情で、フィーオがユニコーンの首を絞め始める。

 このままでは話が進まん。俺は無理やりに二人を引き剥がした。


『で、遭難した僕は夜中、手近な馬小屋に赴きましてね』


「ホゥ」


『そこの水瓶から水分補給した所、角が刺さった程度で穴が空きまして』


「ホホゥ」


『仕方無く川辺まで向かう所なんですよ。全く困った物です』


「ホホホゥ、ナルホド』


 俺はフィーオをユニコーンの背中に乗せて、首を絞めさせた。

 もだえ苦しむ一角獣を無視し、俺は樽をゴロゴロと転がしていく。


「ほんと殺したくなってきたんだけど、このクソ馬」


「川マデ我慢シロ。俺モ手伝ッテヤルカラ」


 性格に難アリでも、フィーオの乗る馬が手に入ったのはありがたい。

 こうなったら散々使い倒して、ボロ雑巾みたいに捨ててやろう。


『もっと優しくしないと振り落としちゃうよ。青い子のソウルジェムみたいに』


 それはそれでボロ雑巾だな。



 * * *



 川辺に辿り着くと、周囲の気配が妙な事にすぐ気付いた。

 どこからも鳥の鳴き声がしない。そして、川には小魚一匹も居ないのだ。

 フィーオとユニコーンは呑気に水浴びしているが、俺は慎重に周囲を見回した。

 樽を川岸で簡単に固定し、そのまま森の気配を探る。


「ねぇマルコ、冷たくって気持ちいいよ。ちょっとくらい遊ぼう?」


『いつもマルコは一人きり。川の水汲んで寝るだけですね』


 コイツ川に叩き込んでやろうかと思った瞬間、俺が川に飛び込んだ。

 一瞬前まで居た足元が、猛烈な勢いで爆発する。


「どうしたのよ、マルコッ!」


 俺は川から顔を出しつつ「下がってろ」と声を上げる。

 ユニコーンがフィーオを背中に乗せたまま、森の木々に隠れた。


「コレハ、ファイアーボールッ」


「その通りだ」


 スッと木陰から現れて川に入って来るソレは、フードで顔を隠したローブの男。

 アレは、フィーオを狙っていたエルフ狩りの魔術師っ。


「貴様、マダコノ森ニ居タカ」


 俺は下流に立つ魔術師に対し、上流に位置したままゆっくりと中央に移動する。

 少しでも水深の深い所で戦う為だ。


「無論。あのエルフを売り飛ばすまではな」


「何故アノ子ヲ狙ウ? 他ノ奴デモ構ワンダロウ」


「族長の娘だ、価値が違うんだよ。俺は何をしてでも……」


 魔術師が腕を振り上げる。


「大金が要るんだっ」


「ソウカイッ」


 再び川に潜る。その水面で広がる火炎の渦。

 潜ったまま奴に近付いても、恐らくは何かの罠を仕掛けているだろう。

 俺はあえて水面から浮上し、顔を出す


「そうやっていつまで粘れる、糞オーク」


「フン。貴様ノ魔力ガ尽キルマデダ、糞魔術師」


 俺の言葉を聞いて、ソイツはゲラゲラと笑う。

 ローブの前を外すと、その内側には魔力を封じた魔晶石が幾つも掛けられていた。


「来いよ糞オーク。魔力の貯蔵は充分だぜ?」


 想定以上の、圧倒的な物量差。

 絶望的な状況となったが、俺は静かに答える。


「……俺ノ名ハ、マルコ、ダ」


 右拳を固く握って、俺は構えた。

今回はバトル話、前編後編の二部構成です。

対魔力の無いオークが、如何に魔術師と立ちまわるのか。


戦いは『12時投稿予定』の後半に続きます。

……編集間に合うかしらん。(白目)

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