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てんしさまのすむところ-刹那の大空-  作者: 霧景
一章 欠片≠偉大な力
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 階下の騒がしさで目を覚ましたのは、夜になった頃だった。何だ随分寝てしまっていたようだ。カーテンは開きっぱなしで僅かな月明かりが窓から注いでいる。額の上には何か冷たいものが置いてある。だけれどそれが何かを確認するのも億劫で、俺は月明かりがぼんやりと照らす天井を見つめていた。

 もしかすると悪化してしまったのかもしれない。……明日は玲と陸上部の見学に行こうと約束してたのに休むことになったら嫌だなぁ……。

 そんな事を考えていると下の声から甲高い女児の声が聞こえてくる。この家に女児なんてものはいない。勿論訪ねて来るような親戚も含めて。ああ、いや……今は居候の天使様がいるんだった……って、アイツまさか母さんに見つかりやがったのか!?

 勢いよくベッドから跳ね起きて、ガンガンと痛む頭を押さえながら部屋を出て階段を下りる。こういうとき、部屋が二階の一番奥にあるのが恨めしい。元気な時は部屋が一階にあるのは絶対に勘弁して欲しいけれど。

 一歩、また一歩。階段を下りてリビングに近づくにつれて、良い匂いが漂ってくる。……もう晩御飯も出来てるのか……。俺は相当眠りこけてたんだな……。

 壁に手をついて重たい体を支えながら歩く。次第にステッラの騒ぐ声が大きくなってきた。それに混じってルチの声まで聞こえてくる。外は真っ暗なのに何でルチがいるんだ……? 母さんが晩御飯も食べていって、何て誘ったのか? それにしてはルチが随分騒いでいる気がするな……。これは、幻聴かな。

 そう考えながらやっとの思いでリビングを覗き込めばそこではルチとステッラが大喧嘩を繰り広げていた。思わず額を押さえる。ついに幻覚まで見えてきやがった。


 「あ、アオちゃん、大丈夫ですか!?」


 どうやら俺に気付いたらしいルチが声を上げて駆け寄ってくる。そうして俺の顔を覗きこんで、その小さな体で俺を支えて歩き出す。体格的にも無理はあったはずなのだが、俺は無事にソファまで誘導されていた。

 その後ルチは俺をソファに突き飛ばして横にした後、ステッラとの口論に戻っていく。……もう少し優しく扱ってもらいたかった。言いはしないけどさ。

 なんだか親子みたいだなぁ、そんな風に考えながら口論をしてるルチとステッラを眺める。ほら髪色的にもさ。濃さは違うといってもどっちも金髪だし。

 とりあえず支えられた時点で幻覚を見ていたのではないということは分かったけれど、頭がぼんやりとして状況を理解できない。何でルチがいるんだろう……母さん達はどこへ?


 「何言ってるんですか、晩御飯はラーメンに決まっています!」

 「嫌なの、ふ菓子が食べたいの!」


 ステッラよ、それは晩御飯とは言わない。BGM代わりの喧嘩に心の中でツッコミを入れながら俺は母さんの姿を探してキッチンへと視線をやる。そこにはあわただしく動き回る人の姿が見て取れる。

 ただ、母さんにしては長身だ。

 となると料理をしてるやつは限られるな……。長男だろうか、そう思ったが今日は長男はバイトで遅いはずだ。そうしてベージュのカーディガンのよく似合う幼馴染の姿を漸く受け入れることにする。なんでこいつらがいるんだよ、訳わかんねぇ。


「おや、起きていたのですか。もう少しで夕飯の用意出来ますから、お待ちくださいね」


 にっこりと微笑んで玲がキッチンから顔を覗かせる。ああ、ルチがいるから猫かぶりなのね……大変そうなこって。そんなことより状況を説明してくれ。

 未だに晩御飯について熱い討論を続けている馬鹿二人は頼りにしない。むっと頬を膨らませてふ菓子のよさを主張するステッラと、それに反論してラーメンのよさを語るルチ。なんだかもうガキの言い合いにしか見えない。

 誰でも良いんであの馬鹿二人黙らせてくれないっすかね。甲高い声が頭に響く。

 玲がテキパキとテーブルを片付け始めても口論は落ち着くどころかヒートアップしていく。普段なら微笑ましいなぁなんてシカトを決め込む余裕もあるんだろうが今日は違う。頭がガンガン痛むし、妙な寒気がする。静かにしてくれと言葉にすることすら億劫で仕方がない。

 そう考えているとふわりと何かがかけられた。ふわりと漂うのは仄かに甘い香りだ。どうやら玲が自分のブレザーを俺にかけてくれたらしい。その気使いには感謝したいが、それよりも先に口論を止めてくれ……。


 「貴方たち、少し静かにしてはいかがですか? 葵くん辛そうにしていますから。それとも、貴方たちの晩御飯ふ菓子入りラーメンにしてやりましょうか?」


 俺の前に仁王立ちして玲が言う。どうやら俺の願いは通じたようである。玲の表情は俺からは見えないけれど、きっと目が笑ってないんだろうなぁ。

 それでもステッラとルチの声がやまない。……何かこいつら俺の友人グループの連中に似てる気がしてきた。周りのことなんてお構いなしな感じとか。普段なら楽しいけどこういう時はほんとうに迷惑だよな。

 不意にダンッと低い音が響く。玲が思いっきり床を踏みつけた音だ。見えてないはずの友人の引きつった表情が頭に浮ぶ。話聞いてもらえねーから不機嫌なように見せてんだろうなぁ、ルチ涙目になってる。

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