Ⅱ
ぼんやりと天井を見つめているとノックの音。入っていいと言えば少し遠慮気味にルチが立っていた。
玲は俺の母さんと何か世間話をしているから、後で来るらしい。なんでまぁ、そんな事を、そう思いながらも口には出さないで置く。
「で、ルチ。どうした?」
ぽいっと座布団を放り投げて、ルチが座ったのを確認した後、俺はベッドに座ってそう問いかける。
しばらく何かを考えるような動作をした後にルチは小さな声で「なんだかアオちゃん調子が悪そうだったから気になって……」と言った。なるほど、心配してきてくれたのか、そう考えるとなんだか嬉しくなった。
不思議なものだ、心配してもらえるだけでこんなに嬉しいなんて。
小さく笑ったところで、フッとステッラが俺の横に腰を下ろした。ルチが一瞬不服そうな表情をしたがあえて触れないでおく。
とりあえずルチを安心させよう、そう考えたところで動きを止める。
調子が悪いなんていえば無駄に心配をかけてしまうだろうか。どうするべきなのだろう、そう考えて首をかしげた。しばらく黙り込んでいればルチが心配そうに顔を覗き込んでくる。
ハッとして、自分でも分かるぐらいに歪な笑みを浮かべる。
「ちょっとダルイだけ。大したことねーよ」
ダルイ、その言葉を聞いてルチが僅かに顔をしかめる。ああ、失敗した、そう考えて深くため息をつく。それでもルチは安心したように笑って見せる。
「でも良かったです。倒れたりするほどじゃなくて。天使の力に選ばれたと聞かされてましたしその偉大なる力に中てられたんじゃないかって」
……ホントこいつはいい奴だなぁ、なんて考えて俺は小さく笑う。
「でも、欠片は必ずしも偉大な力、って言うわけじゃないの」
今まで黙って話を聞いているだけだったステッラが、いかにも複雑そうな表情を浮かべて呟く。その言葉に俺は思わず首をかしげた。
偉大な力ではない……? 天使が使うような力なのに? そんなこといわれたところで納得は出来ない。人よりも遥か上の存在の力。それを偉大な力と言わずになんと言うのだろうか。
キョトンとする俺とは対照的になにやら冷静なのはルチだった。さほど驚いても無いような顔で言葉を放っている。
「……理解が出来ないので説明してください」
ちょっと冷静すぎやしないだろうか。こいつも俺と同じく何も知らない部類の人間のはずなのに。なんだか自分は知っているけれど知らない人間が居るのだから説明しろとでも促しているように思えて……。
あくまで冷静に問うルチにステッラは少し考えるように首を傾げて見せた。そうして少しの間黙り込んだあと、ゆっくりと口を開く。
「えっとね……欠片って言うのは“役割”に合った人物が居てやっとまともに動くものなの。欠片単体ではそこまで大きな力は発揮できないの」
ということは欠片単体じゃただの玩具も同然ってことだろうか? そう考えて首を傾げるとステッラは否定するかのように首を振った。
「うんとね……玩具というよりは巨大な爆弾に近いと思うの。単体だといつ爆発しても可笑しくない力の方向性が定まらない爆弾。それを偉大なる力っていうにはあまりにも制御が出来ていないの」
何だそれ危険物もいいところじゃねぇか……。薬も過ぎれば毒となるってのと似たようなもんなのかなぁ。その元がどんなにいいものでも過ぎれば害となるって。
そんな風に考えていればステッラが苦笑い交じりに頷いてみせる。