Ⅰ
気がつけばステッラと出会ってから二週間が過ぎていた。この天使はいかにも当然だというかのように俺の家に出入りしている。……こいつ俺の親には見えたりしないよな? ルチにも見えたのだから案外油断は出来ないのかもしれない。
外出禁止にしてやりたい気持ちもあるが、そんな事をすれば欠片探しとやらにも支障が出てしまうのだろうかと考えては口に出せずにいる。
いざとなったら気のせいだって言えるよな? と言うよりさっさと事情を説明してしまってもいいのかもしれない。ステッラが親に見えていない場合は俺が頭が少々残念な子、なんていう烙印を押されてしまうかもしれないのだが。
そこまで考えた俺は思考を止め、小さくため息をついて、ベッドに倒れこむ。ここ何日か体調が優れないのだ。ストレスだろうか? そう考えていたりもしたが何かが違う気がする。
友人に相談してみたどころでどうせ返ってくる言葉は疲れてるんじゃないか、なんていうことだろうか。あぁ、そういえば今日はルチを置いて帰ってきてしまったな、そんな風にとりとめも無く考え事をしていた。
なんというか、ぼんやりとしていると考えたくも無いことが頭に浮かんでくるんだ。重病かもしれない。
「おーい、アオ兄ー、ルチ兄と白い人が遊びにきたの!」
空気の入れ替えにと開けたまま放置していた窓からステッラが飛び込んできて声を上げる。ルチと、白い人? 思い当たる人物を探しながら窓から外を窺えば、うな垂れているルチと、よく知った友人の姿。
友人、月城 玲は人よりも随分色素の薄い男だった。日本人離れした整った顔に深い海のような瞳。そして黒髪というには随分色の薄い灰の髪に、白い肌。
肩よりも少し長い位の髪はふわりと波打っていて、やや釣り目気味の目はそれでもその印象をきつく感じさせない。かけている黒縁の眼鏡は一つのアクセントのようになっている。
間違いなく、美人に分類されるその男は、ステッラと出合ったその日、黄色い声を引き連れて階段へと消えていったその人である。
俺やそのほかの友人以外の人間がいる環境下では愛想も性格もいいからな。……実際のところはとても残念な性格をしていることを付き合いの長い俺はよく知っている。
そうして普段の玲を知っている俺は玲が騒がれているのを見るたびに思うのだ。
これが知らぬが仏と言う奴かと。
ふと玲が顔を上げた。俺と目が合えばふわりと笑って手を振ってくる。ああ、ルチがいるから猫かぶりモードなのね……。
玲の様子に気付いたらしいルチも顔を上げて俺の姿を捉えたらしい。今にも泣きそうな顔をしていた。
……置いてかれて落ち込んでるのかな。だとしたら悪いことしたかも。
「ルチ、どうした? ついでに玲も」
窓から身を乗り出してできるだけ大きな声で言ってやれば、ルチはパッと明るい笑みを浮かべた。無視されると思っていたのかもしれない。
玲の方は静かに手に持っていた紙袋を持ち上げて微笑を浮べた。そういえば俺アイツに漫画貸したんだっけ。それを返しにきたってことだな。
その横でルチが戸惑ったようにしていたので、家に入れと手招きをしてやる。意味を察したのかどうか、ルチはこくんと頷くと玲とともに姿を消した。玄関に入ったのだろうな、そう考えて窓から顔を引っ込め、再びベッドに寝転がる。とりあえず軽く話して、ルチと玲を帰らせた後、さっさと寝よう……。