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てんしさまのすむところ-刹那の大空-  作者: 霧景
序章 落ちた天使と、力の欠片
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<said Aoi>


 チャイムが鳴り響いて、今日最後の授業が終わりを迎える。教師に言われて号令をかけてやれば、つい先ほどまで死に掛けていた面々は待ってましたとばかりに立ち上がり、いそいそと帰りの用意を始める。

 苦笑いを浮かべながらも俺は小さく伸びをしてため息を付く。

 高校に入学して早二週間。どうにかこうにか今までと違う生活に慣れてきたころである。帰りのショートホームルームも終えた我がクラスの面々は、蜘蛛の子を散らすかの如く教室から飛び出していく。

 入り口付近で俺の様子を窺っているらしい友人集団に軽く手を振って帰るように伝えながら俺はため息を吐いた。本当なら一緒に帰りたいんだけど、留学生の面倒を見なきゃいけないのだ。

 俺の目の前の席。そこに座ったやや小柄な少年。長い白金の髪は下のほうで一つに纏められている。本人が言うには願掛けらしいのだが、本当に効果があるのかは俺にとって眉唾ものである。まぁ本人は本気で信じているらしいので俺も何も言わなかった。

 どんな願い事をしたのかも聞いていない。そういうのって他言しないって言うのが絶対条件だし、口にすることによって逆効果になることも有るらしいから。本気でやっていることに水を差すほど俺は無粋ではない。

 ……数日前に床屋の前で睨めっこ状態になっていた時は流石に切ればいいのに、と思ったけれど。


 「アオちゃん? どうかしましたか?」


 心底不思議そうに俺の顔を覗きこむ留学生、ルチアーノ・クローチェ。呼び名はルチ。三年間をこっちの国で過ごすことになった留学生だ。本当に留学生なのか疑ってしまうぐらいに日本語が達者なコイツの面倒を俺が見ることになっている。

 とは言うものの、俺はホストファミリーとかそういう類の奴ではない。留学生には留学生専用の寮があるしな、この学校。俺の役目は向こうとの違いで戸惑うであろうルチの学校内でのサポートだ。

 何で俺がそんな面倒なことを押し付けられているかと言えば、俺が特殊な入試形態を利用して入学した生徒だから。まぁ推薦入学生徒のようなもんだ。

 で、アオちゃんというのは俺のこと。俺の名前、櫻井サクライ アオイからとってアオ。そんなありきたりなあだ名をこの留学生は酷く気に入ったらしく、いつの間にかシレッとそう呼んでいた。俺も名前を略してルチって呼んでるからお互い様だろうけど。


 「別に。さてと、今日はどっかいきたいとこあんのか?」

 「うーんと、ゲーセン、っていうの行ってみたいです。クラスの人が楽しそうに話してて」


 俺の問いかけにルチは明るく笑って答える。既に帰る用意は万端らしく、すくっと立ち上がって俺の周りをグルグルと回り始めた。……落ち着きの無いやつめ。

 ぐるりと教室の中を見渡す。もう既に数人の女子が談笑するだけになっていた。……これは気まずい。さっさと外に出てしまおう。

 大急ぎで残りの荷物を鞄に詰め込んで立ち上がる。そして廊下に出ようとしたところでそれが起こった。

 黄色い声。その声に驚いて思わずドアの目の前で動きを止めてから俺はため息を吐く。またアイツか……。相変わらず人気者をやっているようだ。


 「あはは、有難う。でもごめんね、僕急いでるから、また今度声をかけてください」


 柔らかな声。それと共に女子達の黄色い声を引き連れて歩いていく、酷く色素の薄い少年。特殊な入試問題でも一般の入試問題でもトップの成績を収めた少年。今の時点で彼が学年主席になるのは確実だろうと囁かれているのを知っている。

 見た目もよくて頭もいい、そして人当たりも穏やか……そんなわけで彼は中学のころから人気だった。時々黄色い声に混じって、縋るような野太い声を引き連れていることもあるほどだ。美人って怖い。

 そんな事を考えながらドアの向こうを眺めていると、チラリと彼の綺麗な青い瞳がこちらを見た。そうして彼は通りがかり様にフッと表情を緩めて軽く手を振ってくる。苦笑いを浮かべながら手を振り替えしてやれば、彼は足を速めてそそくさと廊下の奥へと消えていった。


 「あの人、凄い沢山人を引き連れてましたね」

 「ああ、そうだな。アイツ本人は騒がれんの好きじゃないけど……ま、お気の毒様ってな」

 「仲、良いんですか」


 ドアの向こうを通り過ぎていった集団を呆然と見つめていたルチが呟く。綺麗な金の瞳は彼が消えていった廊下の奥へと向けられている。

 そんなルチに言葉を返せば、今度はその瞳が俺に向けられる。そうして吐かれた言葉。そこには単純な疑問以外の“何か”が有るような気がした。


 「ああ、一応、小学からの付き合い。機会があれば紹介してやるよ」

 「はい! 期待して待ってますね」


 ルチが笑う。

 きっと自分に近い容姿を持ったアイツに興味を持ったのだろう、という俺の考えは当たったようだった。身長には天と地ほどの差が有るけれど、二人とも色素の薄い、どこか日本人離れした容姿をしているから。

 そういえばアイツもこの前ルチのことを気にするような発言をしていたっけ。そう考えて俺はクスリと笑った。


 「アオちゃん? 何を笑っているのですか?」

 「いや、お前とアイツならきっと仲良くできるだろうと思ってな。さぁ、早く行こうぜ。時間が勿体無い」


 軽く笑って歩き出す。そうすればルチも何も言わず俺の後についてくる。

 さぁ、今日はゲーセンと、ほかはどこに連れて行ってやろうかな。

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