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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

現世でもう1度

作者: 平野とまる

 勢いで書きました。

 少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。

 俺には過去の記憶がある。

 いや、それが本当に過去の記憶かどうかなど確認する術はないのだが、あまりにもリアルだし辻褄があっているので俺は前世以前の記憶だと信じていたりする。


 ただ、そこは所謂今俺が暮らしている現代日本とは掛け離れた、所謂ファンタジーの世界で、しかも俺はそこで勇者などやっていたのだ。

 うん、もし他人に話したら馬鹿にされるどころか正気を疑われるだろう。

 だから、今まで誰にも話した事はないんだがな。


 そして、なるべく学校などでは考えないようにしていたのだが……、転入生を見てその思いは消し飛んだ。

 彼女は間違いなく勇者をやっていた時の恋人で、最大の宿敵でもあった魔王の生まれ変わり。

 だと思う。


 確信は持っているのだが、果たして彼女が俺と同じように過去の記憶を持っているのかは不明だし。

 仮に持っていても最終的に殺し合いを演じた俺達だ。

 お互い相手の親しい人物達を亡き者にしていて、最後壮絶な相打ちをした時は半ば憎んでいたと言ってもいい状態だった。


 あの憎しみは運命に対してだし、俺は生まれ変わってすら魔王を愛してしまっている程の感情を持っていたようだが、それが彼女にも当てはまるかはまた別問題だし。

 とすると、どうやって親しくなるか。

 いや、そもそも嫌われていないかどうか不安に思う。


 その射抜くような視線は昔と変わらないけど……、俺を見ても冷めたような目のままですぐ逸らされてしまったし。

 あ、でも凝視しちゃっているから変に思われなくて助かったと思うべきか?


 くそー、どうしたら良いか分かんねーぞ。


 でも、今までもし再会できたらと考えて全力で努力をしてきたが、本当に良かったと思う。

 ぶっちゃけ高校に入ってからますますよってくる女が増えて、これ以上は止めようかと悩んでいただけにタイミング的にも助かった。


 うん、俺の気持ちは決まっている。

 全力で口説いて、全力で共に幸せになれるように尽力するのみだな。


 よーっし、やる気が出てきた。

 俺はやってやるぜ!




「ああ、勇者、久しぶり」


 意を決して話し掛けた返答がこれだ。

 つい黙り込んでしまったのも仕方がないだろう。


「お、覚えてたのか?」


「まぁね。

 と言うか、君は相変わらずと言うか、人を見つめる癖は死んでも直らなかったんだね」


 俺は緊張していると言うのに、のほほんと口にする魔王。

 でも、悔しさは不思議と湧かなかった。


「いや、それは直ったぞ」


「へー、じゃぁなんでずっと私を見つめているの?」


「好きだからに決まっているじゃないか!」


 興味なさそうな声色にも負けずそう返すと、丁度飲んでいた苺ミルクを吐き出す魔王。

 そのまま咳き込んだせいか、真っ赤な顔で俺を睨む。


「何それ、冗談なら止めて」


「冗談じゃない。

 そりゃ今世の君の事は詳しく知らないが、この気持ちは嘘じゃないし。

 だから、別に付き合ってとは言わないが、君を知りたいと思うのは許してくれないか?」


 俺の言葉に黙り込む魔王。

 いや、魔王と言うのも最早おかしな話だな。

 宮部みやべ 悠美ゆうみが今世の名前だったか。

 うん、本当は悠美と呼びたいが、先ずは宮部と呼ぶ事にしよう。


「ばっかじゃない。

 前世と今の私は別人よ?

 失礼だと思わないの」


「思わないね。

 好きになるきっかけなだけだし、だからこそ俺は宮部の事を知りたいと思ったんだ」


「自分勝手な人。

 昔はあんなに優しかったのにね」


 吐き捨てるような宮部の言葉に、にっこりと微笑んでみせる。


「俺は前世の俺を軽蔑しているよ。

 何せ誰も幸せにできず、あまつさえ好きな人を手にかけるなんてね。

 だからこそ、今世では好きな人も周りも皆幸せにしてみせるさ」


「本当に傲慢ね。

 私の幸せは私が決めるわ」


「はは、それは間違いない。

 いや、言い方が悪かったね。

 誰からも祝福されて、そして皆で幸せになっていきたいって思ってんだよ」


 思いのまま言葉を重ねる俺。

 だが、彼女には響かなかったのか、ぷいっと顔を背けられてしまう。

 まぁ、それも当然だな。

 俺だって前世の俺が好きとか言われたら……不愉快だ。


 うん、当たり前だがこれからちゃんと彼女を見て、そして改めて自分の気持ちを確かめないとな。

 その事を肝に命じつつ、彼女と仲良くなる算段を立てるのだった。





「本当に飽きない男ね。

 こんな可愛げのない女にこんなにまとわりつくなんて」


「俺にとっちゃ世界一可愛い女の子だよ」


 出会って早数ヶ月。

 彼女のいい場所を幾つも見つけた。

 前世と同じような場所もあったけど、違いも沢山あって、その全てが愛おしい。


「本当に口の減らない。

 じゃぁ、どこに惚れたか言ってみてよ」


「クールなようで実は情に深いところとか、少し褒められただけで照れてしまってついつい憎まれ口を言ってしまうところとか。

 それで相手を傷つけた時に自分も落ち込んでしまうところとか。

 何気ない優しさを持っているところとか、強がって絶対に弱音を吐かないところとか。

 こうやって俺がまとわりついているのに、何だかんだ邪険に扱わないところとか」


「ま、待って!

 もう十分よ」


「えー、まだ全然語れてないんだけどなー。

 ともかく、そう言う全てをひっくるめて、上手く言えないけど悠美が欲しいよ」


 俺の言葉に真っ赤になる悠美。

 睨みつけているけど、全然怖くない。

 俺が怖い事はただ1つ、彼女に嫌われてしまう事だけど、今までの付き合いから本当に嫌っている訳ではないのはもう知っている。


 本当に嫌いなら、そもそもこんなに近くに寄らせてくれないからな。

 それを思うだけで、例え好かれていなかったとしても、報われる気持ちだ。


 ぶっちゃけだ、彼女が幸せになってくれるなら俺じゃなくたって良いと今は思っている。

 ただ、その相手が俺だと更に幸せだって話なだけで。

 いや、多分彼女に恋人なんてできりゃ嫉妬で狂いそうだけど……、それは今の俺では分からない。


 幸い彼女に恋人どころか好きな人はいなさそうだからな。


「……なるわ、きっと」


 っと、考え事をしていたせいで、悠美が何を言ったのか聞き取れなかった。

 小さな呟きだったとは言えとんだ失敗だぜ。


「ごめん、もう1度言ってくれないか?」


 そう聞くと、しばらく躊躇する悠美。

 そして、何かを決意したように俺からは視線を逸しているものの口を開いた。


「本当の私を知ったら嫌いになるわって言ったの」


「ふーん、じゃぁそれを教えてよ」


 その言葉を口にした瞬間睨まれ、そして手の平を俺に向けて――え? 火?


 目の前で起こる摩訶不思議な現象。

 驚いて固まってしまう。


「1目見た時に分かったわ。

 貴方は能力者じゃないって」


「すっげー! 悠美!

 え、なにこれこの世界でも魔法使えるの?

 ってか、炎か。

 似合っているよ!」


 何やら重苦しい口調で言っていたけど、感激しているのを先ずは伝えないとと思って、申し訳ないが言葉を遮ってそう口にする。

 すると目を見開く悠美。


「お、驚かないの?」


「何を今更。

 前世で散々やりあったじゃん」


「だ、だってこの世界じゃ異常な事だよ?

 気持ち悪くないの」


「全く気持ち悪くないね。

 と言うか、羨ましい!

 あー、でもその力を見て騒ぎ出す馬鹿が居るかもしれないのか。

 大丈夫、絶対俺が守ってみせるから!

 いや、そりゃおこがましいな。

 うん、2人の秘密って事だね」


 感情のままの言葉を告げると、何故か泣き出してしまう悠美。

 慌てて抱き締めて頭を撫でて……しまった!

 この間感極まって抱きしめた時ぶん殴られたんだった。

 また殴られるのは嫌だなー。


 そう思っていると、抱きしめ返してくれて……。

 えっと、これってお持ち帰りして良いのかな?


「嬉しい、ありがとう。

 でも、私達は住む世界が違うの」


「何言っているの?

 大丈夫、そのくらいで嫌いになんてならないさ」


「違うの、そう言う事じゃなくて!」


「ひゃっはー! 見つけたで炎使いぃ!」


 折角のいい雰囲気に窓ガラスを割って入ってきた馬鹿が1名。

 そのままケタケタ笑いながら言葉を重ねていく。


「ひひひ、お前身の程知らずにも能力者以外に惚れた男が居たんだなー。

 ひゃっはー、これは良い情報だぜ。

 けけけ、兄ちゃん、もうお前長生き出来ないぜ」


「か、彼には手を出さないで!」


「うるせぇ!

 テメーらの組織がずっと邪魔しやがって!

 その恨み晴らしうぐはっ」


 うるさく喚いていいた男が頭を抑えてうずくまる。

 なんかすぐに視線を外して悠美と言い争いをしていたけど、ひたすら不愉快でこちらを見ていない事を良い事に背後に移動して、んで思いっきり机でぶん殴った。

 だが、どうやらまだうごけるようなんで何度もぶん殴る。

 悠美の敵は俺の敵。

 殺しはしないが、ボコボコにはしてやるぜ。


「ゆ、勇者?」


「ああ、ごめんね悠美。

 この邪魔者すぐ片付けるからさ。

 ったく、いい雰囲気の時に邪魔しやがって!」


「ごめぐっ……お、おねがぁっ……や、やめっ」


「まだ喋れるかおらぁ!」


 机を振り上げすぐに振り下ろす。

 それを何度も繰り返す。

 うん、静かになったな。


「ふん、これに懲りたら二度と手を出すんじゃないぐあぁっ」


 机を放り捨て蹲った奴に言い捨てようとしたら、何かが俺の体に当たり痛みが全身を駆け抜ける。


「勇者ー!」


「この何も使えない無能者が!

 俺様の風の味うごぉっ」


「いてーだろこのバカ!

 何をしやがったか知らねーが、もう許さねー!」


 マヌケにも立ち上がってくれたので、血まみれな体を無理やり動かして鳩尾に蹴りを入れる。

 ったく、タフにも程があるだろう。

 そして、意識を刈り取る為にそのままこめかみを蹴り抜き、動かなくなったそいつの服を剥いで、それで拘束する。


「っしゃー、これでいいか」


「ゆ、勇者!

 そんな事よりお前傷が!」


「なーに、こんなの大した事ないって」


 とりあえずざっと見た感じ、そこそこ深い傷もあるけど命に別状はなさそうだ。

 うん、全く問題ないね。

 寧ろ悠美が無傷だから、それだけで十分ってもんだ。


「あああ、私は回復系の能力は使えないんだぞ。

 どうするんだ」


「あー、まぁほっときゃ治るって。

 俺としちゃ悠美に傷が付かなくて良かったよ」


 その言葉に黙る悠美。

 どうしたんだろうと見つめていると、重々しく口を開く。


「すまない、巻き込んでしまった。

 巻き込みたくなんてなかったのに……」


 悔しそうに唇を噛む悠美。

 ああもう、気にする事なんてないのに。


「いや、寧ろ巻き込まれるのは大歓迎さ。

 ってか、こんな奴らに悠美は狙われてたんだな。

 うん、細かい事は分からないけど……、俺じゃ力になれない?」


 俺の言葉にしばらく迷った後、首を縦に振る悠美。


「そっかぁ、じゃぁもっと鍛えなきゃな」


「違う、能力者じゃない勇者を巻き込めない」


「どうして?

 だってそんなもんなくても俺こいつ倒せたよ?」


 俺の言葉に黙る悠美。

 だから、更に言葉を重ねていく。


「思うんだけどさ、能力って単純に腕力が強いとかの延長じゃないのかな。

 それに、普通に銃とか戦車とかミサイルとかあるじゃん。

 あんまり思い込み過ぎるのは良くないって」


「で、でも。

 私達は化物だぞ?」


 悠美の叫びについ目を丸くしてしまう。

 そして、すぐに笑い飛ばす。


「何を言っているんだが、悠美が化物だって? こんな優しい奴が化物なら人類は化物だらけになっちまうぞ」


「いや、だって……、怖くないか?」


「うーん、それって銃を持っているから怖いと何が違うの?

 俺上手く言えないんだけど、結局心の持ちようじゃない?

 だからさ、俺は悠美を化物だなんて思わないし、大変な事に巻き込まれているようだから力になりたいんだ」


 再び瞳を揺らす悠美。

 そりゃ悩むよな。

 仮にだ、俺が逆の立場なら絶対悠美巻き込まないようにするだろうし……、いや、本当に上手く巻き込まれて良かったよ。

 今心からそう思う。


「きっと……迷惑掛けるよ?」


「悠美になら寧ろ掛けて欲しい」


「私、炎とか扱えちゃうよ?」


「前世じゃもっといっぱい使えてたじゃん。

 今更炎くらい大した事ないよ」


「私、前世と違うよ?」


「あれー、伝わってなかったのかな?

 俺、最初の時以外で悠美の事魔王って言った事ってさ、話の流れ以外であった?」


 黙り込む悠美。

 うん、本当は抱きしめたいけど、未だ血が出てるしなー。

 残念無念。


「勇者は卑怯だ。

 折角諦めようとしているのに、諦めさせてくれないんだもん」


「そりゃぁ、諦められたら俺は困るぞ?

 つーか、一刻も早く俺に惚れてくれると嬉しい」


「もう惚れてるよ! バカ!」


「マジ!? やったー!

 って、あら? 視界が狭くなるー」


「ああ、勇者!」


 とても遠くに温かさを感じられるのものの、そのまま意識が遠のいて行く。

 何てなさ……け……ない……。





「いやー、本当に君はタフだね。

 まぁ、上層部の許可も出たし、これから宜しく」


「お願いします!」


 結論から言えば、なんか俺の功績が認められて悠美の仲間になれたらしい。

 しっかし、政府お抱えの能力者軍団とか、悠美凄いな!

 って褒めたら、なんか可愛らしく照れてくれたけど。


 うん、目を覚ました瞬間は異常によそよそしくされちゃったけど、愛を囁きまくったのは正解だな。

 今ではかなりデレてくれたし、今後は結婚の事ももっと真剣に考えなきゃな。

 稼ぎは必要だし家と家との繋がりだって大切だし、やる事は目白押しだ。

 それに、能力者関係の事も全力を尽くさないとな。

 悠美の柔肌に傷が付くとか、世界の損失だ。


 これからの上司となった人と会話を終え、悠美の下へと急ぐ。

 事情から悠美のパートナーになれたし。

 へへ、学校でも仕事でもプライベートでも常に一緒とは、何て天国何だろう。

 色々規則はあるけど、俺にとっちゃ全部些事だったしな。


「あっ、勇者、もういいの?」


 やっと引き出せた自然な笑顔に、ついつい顔がにやけてしまう。

 くそっ、悠美には格好いい俺だけを見せたいんだが、中々上手くいかないな。


「おう、これから宜しくな」


「うん、宜しくね」


「あっ、それで1つ頼みたい事があるんだ」


「ほんと! 何でも聞くから何でも言ってね!」


 何て危うい事を言うのだろうか、この子は。

 っても、それだけ信頼してくれているって事なんだろうな。

 素直に嬉しいぜ。


 まっ、俺が怪我した事も気にしていたみたいだし、丁度良かったな。


「おう、今後は勇者じゃなくて、今の俺の名前を呼んでくれないか?」


 何と大それた願いだろうか。

 自分ではそう思うが、果たして悠美にとってはどうなのだろうか。

 それを知る術はなく、しばらくぽかんとした表情を浮かべた後、満面の笑みで頷いてくれる悠美。


「うん、お安い御用だよ、優樹ゆうき君」


 ああ、名前を呼ばれるってこんなに幸せなんだな。

 その喜びを噛み締めつつ、つかの間の平和を堪能するのだった。

 息抜きも兼ねて勢いで書きましたが、いかがでしたでしょうか?

 好評ならいつものパターンですが、連載しても良いかもしれませんね。

 まぁ、その前に今ある多数の連載を完結させろと言う話ですが。


 でも、色々案はあるのですよねー。

 他にも悪役令嬢じゃない乙女ゲーとか、純愛物とか書いてみたいところですし。

 今作は現代ファンタジーでイチャイチャするのを書きたい! となって書きましたが。

 果てさて、どうだったでしょうか?

 いえ、イチャイチャはこれからが本番って感じですけど……。


 ご意見ご感想など頂ければ、とっても嬉しいのです!


 それでは、最後までご閲覧頂き誠にありがとうございます。

 少しでも楽しんで頂けたのでしたら、とても嬉しいです。

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