セディーとニクス3
短編連作って連載小説に組みなおした方がいいのかしら?
誤字修正しました。
「なぁ、セディーよ。そろそろ妾を離してたもれ。」
「いやぁ。」
「嫌ではないわ。そうギュッと尾を握られては、痛うはないが熱うて敵わぬ。」
「いや!」
右手で握りしめておったのが、さらに引き寄せられ両腕に抱き込まれてしもうた。
失敗じゃ。
余計に身動きがとれぬわ。
「セディーよ。妾がここにいては、皆がおぬしの世話を焼けぬぞ。」
そこいらの蛇どもよりは敬うてくれてはおるが、蛇という形がどうしても受け入れられぬ者達が多いことは、妾も理解しておる。
おなごは特にな。
この子の母親はまだしも、奥を手伝う女衆は妾がこのようにぴたりと幼子に寄り添うていては、手を出せまいに。
「いいの!」
「ほんに困った子じゃ。」
こんな風に駄々を捏ねるとは珍しい。
「ニクスこまっちゃう?ぼく、きらいになっちゃった?」
随分と飛躍するではないか。嫌いなぞと言うておらぬに。
そうしている間にも、こちらの返事も待たず瞳は涙でいっぱいになっておる。
「泣くでないぞ。セディーが嫌いなぞ何時言うたか。妾は何事にも縛られることの無い精霊ぞ。嫌ならとうに此処にはおらぬわ。」
「いっちゃやだー。やだー。」
斯様にべそをかかれては、どうしようもない。
泣く子と天には勝てぬと申すしの。
「だから泣くなと言うておろう。どこへも行かぬ。」
「ニクスはここね。いっしょね。」
ちろりと鼻先を舐めると、幼子はくすぐったそうにきゅっと目を瞑った。
「一緒じゃ。目が覚めるまで傍におる故、少し眠るがよかろう。」
耳元で囁けば、うん。と小さく頷き、一息のうちに眠りに落ちた。
水滴がするりと氷嚢の表をすべり、額に乗せられた布に染みこんでいく。
涙の跡を残す睫毛。上気した頬。体内の熱を吐き出すように、小さく開けられた口。
顔を見に寄った妾を離そうとせぬのは、夕刻から上がりだした熱と少し席を立った母親の不在に心細くなっているからであろう。
妾は治癒の力は持たぬ。今出来るのは、氷を溶かさぬようにすることのみじゃ。
『熱が高いのは、体が中で悪いものを燃やしているからだ』とシルウァが言うに、熱を下げるような勝手もできぬ。
人は弱く難しい。
何やら話し声が近づいて来るが、薬師とやらが着いたのであろうか。
人の病は人が診るが一番良い。強すぎる力は、害にしかならぬゆえ。
「セディーの目が覚める頃、枕元にでもおればよかろうな。」
白い蛇の形をした青獣は緩んだ腕から抜け出すと、そう独りごちてナイトテーブルの上でとぐろを巻いた。
本来のことわざは「泣く子と地頭には勝てぬ」です。