一話 上
視界が暗転し、次の瞬間には法介は草原に棒立ちになっていた。いきなり変わった景色に目を瞬かせる。
くるぶし程度の高さの青々とした草が視界一面に広がり、吹き抜ける風が草原を海原のように揺らしている。遠くに目を向けるとちょうど地平線の向こうが白みはじめていて、まだ空には星明かりが薄くチラホラと見えていた。
背後には腰ぐらいの高さの木の柵でぐるりと囲まれた村。木造平屋が多く、洋風の造りで、人が住んでいる気配はしたがまだ寝静まっているようだった。そして正面には短文が表示されたボード。
『メニューウィンドウはフィンガースナップで開く事ができます。 参考になった/参考にならなかった』
(フィンガースナップ? デコピン……じゃないな。指パッチンか)
短文のボードを閉じ、色々と試す。デコピンをしても開かなかったが、指パッチンをするとメニューウィンドウなる新しいボードが開いた。
法介はメニューウィンドウを弄る前にまずは自分の体を確認した。
「すげっ、ホントにアバターになってる」
無地の白Tシャツに紺のハーフパンツ姿の法介――――ハイロウは、感嘆の声を漏らしながら自分の手や足や顔をべたべたと触ってアバターの検分をする。鏡が無いため顔の変化は分からなかったが、右膝にあった古傷は綺麗さっぱり無くなっていて、就寝前に深爪してしまった右手の親指の爪も丁度良い長さになっている。手足が心なしか長くなっているのも感覚的に分かった。手足の骨を引っ張って伸ばしたような感覚で、違和感はあるが行動に支障は無さそうだった。
アバターの検分を一通り終え、メニューウィンドウに目を移す。メニューウィンドウは縦にしたA4の紙程度の大きさで、目線の高さに浮いている。画面の左半分にアバターの全体像が表示されていて、右側にはメニューがずらずらと載っていた。全部で十六項目ある。
一見して目を引いたのはその内の三つだった。
「game:00/1/1 04:21:04」
「real:11/06/1 02:05:16」
「残時間19:38:56」
と表示されており、表示されている時間が刻一刻と変化している。時計だろう。しかし進み方がおかしい。gameが四秒すすむ毎にrealが一秒進み、残時間が一秒減っている。
(四倍……だと!?)
愕然とした。表示通りに意味を捉えれば、ゲーム内に四時間が現実での一時間という事になる。革新的だとか革命的だとかそんなチャチなもんじゃない。間違いなくノーベル賞レベルだ。そんなものを実体験しているという事実に興奮する。一生をゲーム内で過ごせば人生四倍だ。点滴暮らしでリアルの体はミイラもかくやというガリガリ具合になりそうだが。
ひとしきり妄想を膨らませてから我にかえり、ざっと項目をチェックした。
名前はハイロウ。職業、無職。状態異常にはかかっていない。BBSと地図は白紙。赤のHP・青のMP・黄のスタミナゲージは満タン。コミュニティは選択できず、ログアウトはうっかり弄ってログアウトしてしまったら目も当てられないので触らないでおく。オプションにはまたズラッと項目が並んでいたので手隙の時にでも見る事にして後回し。
最後にスキルを見る。スキルには「基礎スキル」「技能スキル」「魔法スキル」の三種類があり、内二つは真っ白で、表示があるのは「基礎スキル」だけだった。
【筋力】 1.0
【防御力】1.0
【敏捷】 1.0
【抵抗力】1.0
【知力】 1.0
「おお……見事に没個性」
表示されている数字を見てハイロウは呟いた。いかにも初期値といったステータスだ。ここからスキルポイントを割り振るのか、とタッチしてみたり音声入力ができないか試してみたが、特に反応は示さなかった。
(レベルアップしないとダメなのか? というかレベル表示も経験値表示も無いような……)
考えても分からず、面倒臭い事は後回しにしてハイロウはメニューウィンドウを閉じた。ハイロウは新作のゲームを買うととりあえず説明書を読まずにフィーリングで遊び、詰まったら説明書を読むタイプである。いきなりゴチャゴチャと仕様説明を一気に頭に押し込むより、一通り遊んで概要を掴んでからの方が覚え易いというのが持論だ。
大きく伸びをして気合を入れ、柵の切れ目にある木製のアーチをくぐって村の中に入った。
朝の冷たい空気の中、舗装されていない土の道を歩く人間達は金赤青緑白と色とりどりの髪をしていた。顔立ちは西洋系だ。その内に銀髪で赤青オッドアイ、高身長、中性的な美形の人間もいて、トラウマを深々と抉られたハイロウは胃がキリキリと痛みはじめ、急いで目を逸らした。
とりあえずゲーム定番の情報収集をしてみようと、水桶を運んでいたNPCと思われる赤毛ショートの少女に話しかけてみる。村人風の服に前掛けをした、十二歳ぐらいの活発そうな女の子だ。
「えー、こんにちは?」
「ようこそ旅人さん。ここはプレイリータウンです」
少女は立ち止まり、機械的にかくんと首を回してハイロウの顔に視線を固定し、無表情の棒読みで言った。現実世界と全く変わらない、微細な部分まで作りこまれた容姿でロボット的な動きをされ、若干引く。
「あ、こういう典型的なNPCなのか」
「ようこそ旅人さん。ここはプレイリータウンです」
ハイロウの呟きに反応したのか、同じ台詞を抑揚の無い声で繰り返す赤毛の少女。薄気味悪い。
「うわぁ……情報収集は無理っぽいな」
「できますよ?」
「は?」
突然少女の動きが滑らかになり、口調も柔らかになった。よいしょ、と水桶を抱え直してウインクしてくる。唖然とするハイロウ。
「ごめんなさい、少しからかっただけです。普通にしゃべれますよー。プレイヤーさんですよね?」
少女はアハハと笑って聞いてきた。
「あ、ああ、そうだけど」
出会って早々冗句をかました超高度なAIに驚嘆すればいいのか、メタな発言に突っ込めばいいのか。戸惑うハイロウに少女は畳み掛けてきた。
「ならこの村ははじめてですよね。村の案内しましょうか? もちろん御代はいただきますけど、今なら宿屋の紹介もしてたったの5c! お買い得ですよっ!」
お買い得らしい。身を乗り出してぐいぐい押してくる元気な少女に思わず一歩下がった。
「5c、っていうとどれぐらいなんだ? 5cって金の事?」
「あらら、そこからですか。大丈夫です。そういう所の解説も入れて5c! 5cでここまでしてくれるNPC、私以外にいませんよ? 逃しちゃっていいんですか~?」
少女はカモと見たのか意地悪な顔をしてハイロウの顔を見上げ、売り込んできた。現実のセールスマンと同じようなトークをされた事で少し頭が冷える。
5cで案内をしてくれるNPCは自分以外いないと言っているが、これまでに感じた運営? のお茶目さからしてNPCでも嘘ぐらい余裕で吐きそうだった。5cはボッタクリかも知れないとハイロウは警戒する。少女は悩むハイロウをしばらくじっと見上げてから、興味を無くしたように身を引いて踵を返した。
「あ、いいんですよ別に自力で村の探索しても。貴重なログイン時間を無駄にする事になりますけど、それも楽しみ方の一つですし? 私も暇じゃないですからもう行きますね」
「ま、待った待った! それでいい! 5cでいい! 案内頼む!」
反射的に引き止めてからしまったと後悔する。案の定振り返った少女は満面の笑みを顔に浮かべていた。
「まいど~!」
「畜生……」
「まあまあ、損はさせないですから。5cはほんとに良心価格ですよ?」
ケティと名乗った少女は慰めるように言った。
「……で、5cってどれぐらいなんだ?」
「1cがヒャクエンです。100cで1s、10sで1g」
「メタ過ぎだろ。なんで日本の通貨知ってんだよ」
「いえ、運営から聞かれたらこう答えろって言われててですね。私も意味はわかんないです。ヒャクエンってなんですか?」
むしろもっとメタになった、という台詞を飲み込んだ。NPCがNPCと名乗るわ、プレイヤーをプレイヤーと呼ぶわ、運営に言われた発言をするわで、もうハイロウはそういうものだと諦めた。ハイロウはNPCではなくエヌピーシー人という人種であると見なす事にした。相手はゲームキャラだという固定観念を持ち続けるよりもその方が気が楽だったのだ。
ケティとハイロウはアイテムウィンドウを開き、互いに名前を入力して相手を指定し、金の取引をした。初期資金だった5sが4s95cになる。ケティは5c増えた自分の所持金表示を見て嬉しそうにしていた。
「じゃ、案内しますねー。とりあえず主な施設だけ。何か興味のあるものを言ってくれればそのあたりの施設紹介しますけど?」
ケティは先導して歩き出しながら肩越しに振り返って聞いた。
「いや、特に無いな。というかこのゲームのジャンルが分からない。何をすればいいのかさっぱりだ」
「NPCにゲームのジャンルを聞くなんて……ハイロウさんってばだいたーん!」
ケティはキャッ、と身を捩った。
「そういう事は後五年してからやれ。NPCが歳とるか知らんけど。で、どうなんだ?」
「現実シミュレーションだと思えばいいと思いますよ。バトルしても良し、ロールプレイしても良し、農耕しても良し、恋愛しても良し、シューティングしても良し、本を読み漁っても良し。お好きにどうぞ。でも殺人とか泥棒とかそーいう事するのは普通に犯罪ですからやめて下さいね」
「犯罪犯すとどうなる?」
「もちろん豚箱逝きです。ゲーム内の、ですけど。はーい、右手に見えますのがー、防具屋でございまーす」
意味深な表情で気になる台詞を言ったケティはコロッと調子を変えて明るく言った。
二人は広場の入り口に来ていた。円形の広場で、中心に水を噴き上げて淡い虹を作る小さな噴水があり、広場をぐるりと囲むように様々な建物が並んでいた。人通りも比較的多く、忙しなく買い物客が行き交っている。
ケティの示した場所には煙突がついた石造りの店があった。店の壁と地面の境には雑草が生えていて、あまり外装に気を使っていないのが見て取れた。軒先に下げられた盾が描かれた看板も色が剥げて傾いている。
「えー、防具屋はですね、防具を売買できます。武器は防具屋の隣にある、あの剣の看板が出てる店ですね。あそこです。武器屋は武器を売買できます。武器屋では防具を扱いませんし、防具屋では武器を扱わないので注意して下さいねー」
「ふーん……何かオススメの武器ある?」
「そーですね、無難に棍棒じゃないですか? もしくは木刀。振り回すだけでいいですし。いきなり剣使えって言われても困るでしょう?」
「システムの動作補助とかないのか」
「甘ったれるんじゃねーです。そんな都合の良いものありません。棍棒は安いので30cぐらいですね。気が向いたらどうぞー」
30cと言えば三千円だ。修学旅行に行った先で売っている木刀のようなものだろう。ハイロウは一応心に留めておいた。
広場をぐるりと回りながら施設の説明を受けていく。
「あれが毛皮骨肉店。モンスターの素材の売買をしています。軒先の熊の剥製が目印ですね。そっちのあれは道具屋さん。マジックアイテムから爪楊枝まで、だいたいの小物は揃います。端にあるのが書店。魔導書からお料理特集まで色々売ってますね。店主のお爺ちゃんがよくおまけしてくれるので好きです。その反対側にあるのは酒場です。お母さんに近づいちゃダメって言われてるので良く分からないです。夜になると酔っ払いが湧くのでうるさいですね。その隣が料理屋さん。お母さんはここで料理の修行したらしいです。あれは病院。病気を治してくれます。HP回復もしてくれますね。どっちも有料ですけど。あの大きな白い建物は神殿。死ぬとNPCもプレイヤーもここで復活します。こんな所ですか」
「NPCも死ぬのかよ」
「え、当たり前でしょ?」
ケティは心底不思議そうに言った。
「当たり前というか……まあ……うん」
アイテムウィンドウも開いていたし、死ぬし、復活する。NPCはほとんどプレイヤーと変わらないようだ。「ここは××の村です」だの「おーすみらいのチャンピオン!」だのしか言わない半オブジェクトではないのだから、死に、復活するというのも一応理解できる。
村の主要施設は広場に集まっていたため、二人は広場を一通り巡ってから宿屋へ移動した。広場から伸びている東西の太い道を逸れて小道に入っていく。ハイロウはNPCとすれ違うたびにじろじろ見られて落ち着かなかった。
「……なんかめっちゃ見られてるんだけど。なにこれ」
「プレイヤーを始めて見るからじゃないですか? 今日がサービス開始ですし」
「ほんとにメタだな」
ハイロウは呆れ返った。ここまで好き勝手喋るNPCも珍しい。ゲームの雰囲気をぶち壊す発言を連発しているこのNPCなら、と、突っ込んだ質問をしてみる事にした。
「この世界は一体なんなんだ?」
「夢ですよ。夢の世界です。ハイロウさんが見てるただの夢です」
ケティはキッパリ言い切った。これが「ただの夢」とか……ねーよ……と思いながらハイロウは別の聞き方をする。
「寝てる間に意識だけが平行世界に転移してるとか?」
「平行世界! あはははは、そんな漫画や映画じゃないんですから。ハイロウさんはロマンチストなんですねー」
笑われた。
「ケティって中の人いるのか?」
「中の人?」
「つまり、あれだ、操作してる人。ケティはAIなのか運営の社員が操作してるアバターなのか」
「『えーあい』ってなんだか分かりませんけど、私は自分の意思で動いてますよ。みんなそうです。多分。他の人が何考えてるかなんてわかりませんけど」
(AIなのか……いや、そういうキャラ作りをしてるだけで中の人がいる可能性もあるな。まあどちらでも同じ事か)
聞いた意味なかったな、と反省しつつ質問を重ねていく。
「NPCにとって運営ってなんなんだ?」
「……造物主? ですかねぇ」
「造物主、ねえ」
「この世界は全部運営が造ってるんですからそうなんじゃないですか? 時々あれしろこれしろって指示が来る以外放任です。モンスター襲撃イベントの時は殺意湧きますけど、豊作イベントの時は拝み倒します」
「ふーん。運営ってどこの会社か分かるか?」
ハイロウは有名なゲーム会社や大企業の名前を挙げ連ねたが、ケティは心当たりは無いと言った。
「多分二人以上のグループだと思いますけど」
「興味なさそうだな」
「この世界で生きてれば現実どうこうなんて関係無いですからね」
「なるほど、もっともだ」
ハイロウはこの世界の世界設定を大体把握した。プレイヤーがNPCをゲームの世界の住人と認識しているように、NPCもプレイヤーを現実の世界に住人と認識している。ゲーム的なシステムが導入されているだけで、この世界は現実とほとんど変わらないのだ。一体どれほど高度な技術が使用されているのか想像もつかない。
「となると餓死したり病死したりもするのか」
「おー、ハイロウさんも分かってきたじゃないですか。餓死したくなかったら食事をしなければいけません。風邪をひきたくなければ屋根の下で暖かくして寝なければいけません。寝ないと睡眠不足になりますし。そのための宿屋です。はい着きましたよー、ここです」
ケティは立ち止まった。ハイロウは正面の二階家を見上げる。ベッドの上に半端に擬人化されたパンが腰掛けている奇妙な看板が下がっていて、日本語で「ハンナの宿屋」と書かれていた。二階にある小さなベランダには植木鉢が置かれていて、もっさりと葉を茂らせている。
ケティに続いて宿屋に入ると、そこは酒場のようになっていた。丸テーブルと椅子が数組置いてあり、奥には階段が見える。ケティはぱたぱたとカウンターに駆けて行った。
「おかーさーんっ! カモがきたよ!」
「そういう言い方はするんじゃないといったでしょうが!」
「痛っ」
カウンターの下から顔を出した恰幅の良いおばさんがケティの頭を小突いた。ケティと同じ赤毛で、頭に三角巾をして、丸々と出っ張った腹にエプロンをかけている。おばさんはハイロウに目を留めるとえくぼを作ってにっこり笑った。
「ようこそハンナの宿屋へ。私が女将のハンナさ。娘がすまないね」
「いえ……」
のっそりとカウンターから出てきたハンナを見て圧倒された。まるで熊のようだ。ハイロウはひょろ長いが、ハンナは横にも縦にも長い。怒らせたら手に持った帳簿の一撃で壁に染みにされそうな迫力がある。
「ほー、プレイヤーかい。ウチはプレイヤーの宿泊も歓迎だよ」
「はあ……あれ、なんでプレイヤーって分かったんですか?」
「頭の上を三秒見るとマーカーが出るのさ。NPCが黄色、プレイヤーが緑、モンスターが赤。分かり易いだろ? で、何日泊まる? 素泊まりで一泊30c、連泊するなら安くしとくよ。食事付きなら更に値引きしよう」
ハイロウは頭の中で計算した。所持金が4s95cだから、泊まるだけなら十六日は連泊できる。しかし一食5cと考えて三食15c、購入予定の武器代も入れるとそう長くは泊まれない。
「……とりあえず朝食と夕食付けて五日で」
「はいはい、40cの五日で2sね。1s90cに負けとくよ」
ハンナとハイロウはアイテムウィンドウを出して相手の名前を入力し、取引する。所持金は3s5cになった。ゲームを始めて二時間もしない内に所持金が五分の三になってしまった。近いうちに金を稼ぐ必要がある。
「朝食は今食べるかい?」
「いえ、今お腹空いてないんで」
「そりゃ空腹は感じないさ。プレイヤーだからね。ログインしてから何も食べてないなら今食べといた方がいいよ」
「ならお願いします」
「はいよ。そこの席で待ってな」
ハンナはのっしのっしとカウンターの裏へ消えた。ハイロウはテーブルに着き、朝食ができるまでもう一度メニューウィンドウを見ている事にした。
どれを見ようかざっと見ているとBBSが更新されていたのでそれにする。スレッドが一件だけ立っていた。
【雑談】(16)
1 名前:テスト:11/06/1 02:14:14 ID:0a0ghP5q
あ
2 名前:テスト:11/06/1 02:15:08 ID:0a0ghP5q
ログインしてるの俺だけ?
3 名前:(・ω・):11/06/1 02:15:36 ID:th1DWlmc
俺もいるぞー
色々言いたい事はあるが一番重要なのはこれだろう
このゲームはTSし放題
4 名前:テスト:11/06/1 02:15:59 ID:0a0ghP5q
おお人いた。ネカマ乙
じゃねーよもっと別にあるだろ。なんなのこのゲーム? 国家の陰謀? つーかこれゲームなの?
5 名前:(・ω・):11/06/1 02:19:52 ID:th1DWlmc
NPCが色々話してくれた。夢と夢を繋いだオンラインゲーム的なアレらしい。
色々話してくれたってか話し過ぎなぐらい話してくれる。なんなのこのNPC
6 名前:最初異世界召喚かと思った:11/06/1 02:26:08 ID:ww81hUTx
NPCすげぇな。絶対中の人いるだろこれ
NPCのスカート捲ったら腹パンもらって悲鳴上げられた。危うくムショ逝きだよ
白でした
7 名前:(・ω・):11/06/1 02:26:33 ID:th1DWlmc
チッ! 逝けばよかったのに
上着まではいけるっぽいな。パンツは脱げない
8 名前:テスト:11/06/1 02:28:12 ID:0a0ghP5q
オプションでロック解除すればパンツも脱げる。詳しくはメニューのオプション→18禁ロック
俺は二度と解除しねえ
そこまで読んでオプションから18禁ロックを開いた。18禁ロックはOFF表示になっている。ONにした場合の注意書きがあったので、そこに目を通す。
【ONにした場合】
・ONにしたプレイヤー同士で性行為が可能です
・アルコールを摂取すると酩酊感を感じるようになります
・インナーの脱着が可能になります
・触手系・淫魔系モンスターなどとの戦闘での制限が解除されます
・出血時に流血のエフェクトが付きます
・急性アルコール中毒によって死亡するようになります
・触手系・淫魔系モンスターなどとの戦闘に敗北すると二~三時間の陵辱イベントが発生します
・陵辱イベント中はログアウトできません
・男性プレイヤーがオーク(♂)に敗北するといった、同性の場合でも陵辱イベントが発生します
・新しい世界の扉が開いても運営は一切責任を取りません
・痛覚や飢餓を現実と同等に感じるようになります
・ゲーム時間で24時間の間18禁ロックの操作ができなくなります
ハイロウは顔を真っ青にして尻を押さえながらOFFのままにしておく事を誓った。尻Assな展開は御免こうむる。
落ち着かない気持ちで尻をもぞもぞさせていると、ケティが盆に乗せてパンとスープと水を運んできた。
「へいオマチー」
「ども。聞きたい事あるんだけどいいか?」
「いいですよ、暇ですし」
ケティはハイロウの対面の席に座り、退屈そうに頬杖を突いた。ハイロウはカチカチのパンを千切ってスープに浸しながら聞いた。
「プレイヤーの金策っていうとやっぱクエスト?」
「クエスト?」
「あれだ、手紙運んだり、指定されたモンスター倒したり、NPCの悩み事を解決したり、そういうやつ」
「そんな節操無く色々やるつもりなんですか? 今時なんでも屋なんて流行りませんよ。手紙は郵便屋さんが運びますし、モンスターはモンスターハンターが退治しますし、自分の悩みを親しくも無いプレイヤーに相談するNPCなんていません」
「…………」
もっとも過ぎてグゥの音も出ない。現実的に考えれば確かに一人の人間がドラゴンを倒したり手紙を運んだり薬草摘みに行ったりするなんて訳がわからない。プログラマーが畑を耕したり、大工が漁に出たりしないのと同じである。スープを吸って柔らかくなったパンを食べながら続けて尋ねる。
「じゃあどうやって稼ぐのがいいんだ」
「働けばいいじゃないですか。ハイロウさん、今プー太郎でしょ? 就職すればいいんですよ」
「プー太郎って……まあそうだけどさ。ジョブチェンジか、ようやくゲームっぽくなってきたな」
ここまでやった事と言えば、金を払って村を案内してもらい、金を払って宿屋に泊まり、金を払って食事をしているだけである。現実でもできる事ばかりだ。
「……ん? なんか違うな。就職? ジョブチェンジではなく? 就職する時に金が貰えるって事か?」
「就職は就職です。働いて、給料を貰う。それ以外に何かあるんですか?」
「盗賊とか弓使いとか、ジョブに就いてスキルを覚えるアレだよ」
「は? 盗賊が職業ってなんですかそれ。ただの犯罪者じゃないですか。弓使いって職業じゃなくて特技でしょ?」
「…………」
またしてもグゥの音も出ない。ケティが頭が可哀想な人を見るような目になっている事に気付いて慌てて弁解する。
「いや、現実のゲームだとそういう仕様なんだよ。職業がどんなものかぐらい分かってる」
「ならいいんですけど。就職すれば職業スキルを習得できるってトコは合ってますし……あっ、ハイロウさんに警告です! 就職は慎重に! 転職や退職はできるだけしないようにして下さい!」
「なんで? 器用貧乏な弱いキャラに育つとか?」
「や、そんな事はないんですけど。むしろ色々スキル覚えて使い勝手良くなると思いますよ」
「ならいいじゃないか」
首を傾げるハイロウにケティは教え諭すように言った。
「そこじゃなくて。んーと、ハイロウさんが工房の親方さんだとするでしょ?」
「はあ」
「新しく見習いが入ってきて、見習い教育するじゃないですか」
「するなあ」
「一年ぐらいして手塩にかけて育てた見習いも仕事を覚えて使い物になるようになってきた」
「そうだな」
「そこで『スキル覚えたし辞めます(笑)』なあんて言って退職されたら?」
「ぶち殺す。……なるほど」
「そういう事です。あと風の噂だとコロコロ職業変えるとブラックリストに載ってどこにも就職できなくなるとかなんとか」
「うわぁ……」
「就職は人生の最大の山場ですからねー。職選びは慎重に、です」
「嫌になるぐらいリアル仕様だな。……リアル仕様か。やっぱNPCにも職業ってあるのか?」
「そりゃありますよ。私は『宿屋従業員』です。一応おかーさんから給料貰ってるんですよ? 一ヶ月10cですけど」
ハイロウはケティの半月分の給料で村の案内と宿の紹介をしてもらった事になる。元が小遣い程度なのでそれほどボられた訳でもないが。
ハイロウはパンとスープを食べ終え人心地ついた。薄い塩味の野菜スープはそこそこ美味しく、小さめに切られたキャベツと人参とブロッコリーに暖かいスープの味が染み込み、腹の底をじんわりと暖めてくれる気がした。満腹感は感じなかったが。
お冷に口をつけながら最後の質問をする。
「何かオススメの職業ある? 拘束時間が短くて楽で儲かるやつ」
「労働ナメてんですか? あとそのへんは私よりもおかーさんに聞いた方がいいと思います」
ケティは空になった食器を盆に乗せてカウンター裏に戻っていった。