第3話 冒険者ギルド
桜花。
たびたび名があがっていたそれはクロエがゲーム時代に領主を務めていた領地の名前である。ただしこの領地は<NameLess>が部隊として人数が肥大化してしまい大和帝国の帝都に存在していた部隊のホームからでは他国や魔物との大規模戦争の際に前線まで行くのに時間がかかってしまうという問題点が浮き彫りになった段階で初めてクロエが領地を取り、そこをホームとして活用しようと言い出したのが始まりである。
領主システム自体はゲーム中期あたりから実装していたためクロエが桜花を作ろうと考えたのはゲームオープンから10年の歳月がたった日であり随分と後発組みであった。
そのおかげか、はたまた弊害かクロエが領主として収める土地はアルカディア大陸の中でも帝都に近い比較的安全な沿岸付近ではなく、魔物との戦闘が多い内陸を国から渡されてしまったのは仕方ないことであろう。
内陸に存在する領地自体は他の名だたる部隊がそれぞれ統治していたのだが、その部隊のほとんどが中規模か小規模の部隊であった。
国側から領地が渡される際にその領地の広さを決定付ける要素として部隊員の数とその部隊の実績が加味され渡されるのだが、その領地をもらう段階で既に部隊<NameLess>の所属人数は7000を超えていた。そして部隊長であるクロエだけでなく各幹部達ですら公式で行われる武道大会で決勝トーナメントに残るほどの猛者を抱えているのである。そうなってしまうと必然として<NameLess>へと渡される領地の広さは膨大なものとなってしまい、既に存在している領地と領地の間の小さい領地を渡してお茶を濁すなどということが出来ず、結果として<NameLess>へと渡された土地はこの小さな丘がある草原の一角、魔物との戦闘が激しく行われる最前線であったのだ。
しかし最前線の領地などは魔物の侵攻によりあっけなく陥落してしまい、領地どころか保管していたアイテムなども全てロストしてしまうという危険性が常に付きまとう。そのため大規模部隊が最前線に大規模な領地を持ってもアイテムロストや自分の購入した家がロストしてはしまってはたまったものではないとして部隊員以外のプレイヤーは寄り付かないのではないかと危惧されていた。そして部隊員以外のプレイヤーが寄り付かないということは税収をほとんど集める事も出来ずにその領地を維持する事が困難という事をさしていた。その様な理由があり最前線の領地の運営は部隊員達でもなんとか領地を維持できるであろう中規模部隊が主となっていた。
しかし何事にも例外はつきものである、通常の適当に人数をかき集め大規模となった部隊は部隊長などが初心者や動きのぎこちない初級者や中級者などの教育を隅々まで行えず、更には戦争時の連携や指示系統なども滅茶苦茶であったりして総じてそこまで強くない部隊となるのが慣例であった。しかし<NameLess>は少し趣が違っていた。
元々クロエと汚っさんことシロが初心者を育成するために始めた部隊であり、既にこの部隊発足から12年もの歳月が過ぎていた。まだ小規模程度の部隊であった時はクロエやシロが手ずからきっちりと初心者教育を行い上達させていっていたのだ。評判もそこそこ高くなり他の中規模部隊との横つながりも増え初心者にお勧めの部隊としてしばしば<NameLess>の名があがるようになったのは必然であろう。
そして中規模部隊から大規模部隊へと変わっていったのはクロエとシロが公式武道大会で名を残すようになってからであった。その段階で既に初心者育成部隊とは名ばかりのガチ部隊などと呼ばれて居たのだがクロエとシロの強さに引かれ中級者やもっと強くなりたい上級者が<NameLess>へと流れてくることとなった。
結果として12年の歳月をかけて出来上がった<NameLess>は比類なき強さを持つ大規模部隊となったのである。
そしてそんな大規模部隊が狩りがしやすく戦争も起こりやすい前線に領地を取得したというのだ、そんなうまい話をおいて置くプレイヤーなど早々いるものではなかった。
結果として今までの風習の大規模部隊による最前線の領地はすぐに陥落するというものは<NameLess>によって打ち壊されるのであった。そして<NameLess>が常駐している比較的安全な前線基地として桜花は次々にプレイヤーの入植者があり税収も膨れ上がり規模がどんどんでかくなっていった。
かくして出来上がった桜花であるが3000年経過した現在もその規模は衰えることなく多くの人々が暮らす国となっているようである。
そして長々と説明をしておき何が言いたいかというと―――
「いつまでこの長蛇の列に並んでいればいいんだああああああああああ!!」
唐突に古代語による叫びをあげたクロエに周囲の並んでいる人々がおかしい人物を見るかのごとく視線をぶつけてくるも、それを無視してクロエは尚も古代語で話を続ける。
「なーにが楽しくて自分の統治していた領地にこんな時間をかけて入らないとならんのじゃボケェ!」
そういいたくなるのも仕方の無いことであろう、既に桜花へと移住を希望する民や商売に来た商人の商隊、またはどこかの村から来たのか質素な格好をしたヒトなどが長蛇の列を作り12時間以上もの長い長い時を待ちぼうけとして無為に過ごしていたのだから。
「こんなことなら<ハイド>使って不法侵入か、<ハイジャンプ>を使って外壁を飛び越えて入ってしまえばよかった」
桜花をぐるりと囲む堀と15mにも及ぶ外壁を眺めながらそのような物騒なことを言い出すクロエであった。
「やるなら1人でやってくださいよ、俺は付き合わないんで」
呆れつつそう答えるシロであったが視線を玉藻とフリアエへと向け声をかける。
「それにしても2人とも俺とクロ先輩に付き合わないで先に入ってしまえばよかったのに」
「いいえ大丈夫ですわ、お兄様と一緒に居られるのであればこの程度苦痛でもなんでもありませんわ」
「私も大丈夫ですよ、今日は気候も安定していますしね」
フリアエは言わずもがなここ桜花に住んでいるのでギルドカードを見せれば最大1人まではそのギルドカード所持者の責任のもと、この様な長蛇の列に並ぶ事無く住民用の検問所から入る事が出来たのである。もっともクロエと共に居たいという理由で彼女もまたこの長蛇の列に並んでいるのであるが。
そこでふと先ほどから横で暇すぎるだのぶつくさと言っていたクロエであったが何かを思い出したのか手を叩きながらシロ達の方を見やる。
「そうだフリアエ、お前冒険者ギルドとやらに所属してるんだよな?」
「はい、そうですけど?」
そういい首を傾げるフリアエ。
「ならちょっとお前のギルドカードとやらを見せてもらえないか?」
「それぐらいならお安い御用ですわ」
腰に下げていたポーチ状の中をごそごそと手を入れて探してるかのような動きの後フリアエの手に握られて出てきたのはゲーム時代のステータスカードにひどく酷似したカードであった。
「じゃあ遠慮なく見させていただくとするか」
「どうぞどうぞ」
そういい差し出されたカードを受け取り視線をそちらへと向ける。クロエの背後からはシロが同じようにカードを覗くように見やっていた。そしてそこに表示されていたのは―――
名前:フリアエ
種族:龍人
職業:戦士
ランク:B-
というたった4行だけの文字列であった。
「なんだ? ギルドカードってこれだけしか表示されないのか?」
「名前と種族と、このランクってのは冒険者ギルドのランクですか?」
次々質問をしていくクロエとシロであったがそれぞれに丁寧にフリアエは答えていく。
「ランクはシロさんが仰るとおりギルドのランクですわ。カードに表示されている情報が少ない理由は、最低限この4つを表示していないと身分証として使えないからですわ」
「ほう? ていうことはこれ以上表示することも出来るということか?」
出来ますわ、といいクロエの手からカードを返してもらい何かしらカードの表面をこするかのように指を動かすフリアエ。そして数秒の後またクロエへとカードを差し出しながら言葉を付け足した。
「お兄様とシロさんだけにしか見せませんので情報は漏らさないで頂きたいですわ」
「了解、まぁ誰かの情報をむやみやたらに流す程人が出来てないわけではないさ」
そういいカードへと視線を走らせるとそこには情報量の増えたカードが存在していた。
名前:フリアエ
種族:龍人
職業:戦士
ランク:B-
-ステータス-
レベル:540
攻撃:S+
防御:S-
魔力:A+
魔防:A
敏捷:A+
-装備-
武器:なし
防具:質素なワンピース E+
:冒険者のポーチ B-
-称号-
桜花の守護龍
「ほう、ステータスとか現在の装備まで見えるのか。これで全表示なのか?」
「そうなりますわ」
そういいながらカードをクロエから受け取りまたポーチへと仕舞い込む。
「冒険者のポーチとやらはその腰のポーチですよね?」
「えぇ、冒険者の階級ごとに配布されるポーチでして空間魔術が刻まれていて決められた用量までどんな大きさのものでも入れることが出来るすごいポーチですわ」
軽く件の冒険者のポーチを叩きつつ答えるフリアエ。
「魔術ってのも気になるが重要な事を聞いたあとにするか」
そういい一拍置きフリアエへと質問を投げかける。
「この表示されていなかった数値とかはギルドに把握されていたりするのか?」
「とんでもない! もし把握されるような自体があるのでしたら私は登録したりしませんわ」
「何か拙いことでもあるのか?」
「拙いどころではありませんわ」
そしてフリアエの口から語られたのは現在の冒険者のレベルや自分の身についての事であった。
現在冒険者として生活しているヒトはかなりの数が存在しているがほとんどのヒトはクロエやシロの足元にも及ばないレベルだと語られた。
そして何より称号が問題である、自分が龍人という事は知れ渡っているが桜花を守護している白龍がフリアエであるとは公言していない。なによりそんな事が公になると面倒ごとが回ってきかねないとフリアエは言葉を漏らした。
「うーむ、それなら確かにギルド登録するのも危険だな。現在レベルを公言しているヒトで一番レベルが高いのが350という事もあるならなお更に」
「そうなりますわ」
そういい神妙な顔で頷くフリアエ。
「あれ? でも公言していないだけでフリアエみたいに高レベルも存在している可能性もあるのでは?」
「可能性としてはなくもないですわ、ですがほとんどありえないはずですわ」
「ほう? 何故だ?」
「理由は簡単ですわ、レベルを上げるには軍人の方々が行っていた用に大量の魔物やヒトの討伐をしなくてはいけないからですわ」
なるほどなとクロエとシロは納得して引き下がる。もし自分達のようにヒトや魔物を多く殺していた場合否が応でも名前が知れ渡るのは回避できないであろうと判断した。
そしてその様に話している間に随分と列が進み次がクロエ達の番という所まで来ていたのでこの話を一旦やめ桜花へと入ってしまおうとクロエはシロ達へと告げるのであった。
◇◆◇
検問では特に何事も無く滞在書を発行してもらい滞りなく桜花へと入国することが出来た。
もっとも入国料として1人頭銀貨1枚を求められ、無一文なクロエ達一行はフリアエにお金を借りる事となったのは余談であろう。
跳ね橋を渡りそのまま城下町へと入ったクロエ達一行は中央に存在している城から四方へと伸びている大通りの南大通りへと足を踏み入れ、そこでクロエとシロは足を止め感嘆のため息を漏らすのであった。
「すっげぇな……俺が領主してた時もプレイヤーが結構居て賑わっていたけどあの時存在していたAIが人間を完全に模倣出来ていたらこんな感じだったのかね」
「いやぁ、ここまでの活気は見込めなかったと思いますよ」
そういい2人して眺める南大通りはまさに祭りのような状態となっていた。
軍を出すときにモタモタしないようにと4つの門へと伸びる4つの中央通はかなりの広さを確保した設計にしていたのだが、現在この桜花ではその中央通りの真ん中に出店や流れてきた商人などが露店を開き随分と賑やかな体をしていた。
「今の桜花はいつもこんな感じなのか?」
「ここ数百年はずっとこんな感じですわ、治安がいいという事もあって人々が寄り付きやすいのだと思いますわ」
もっとも今日は週に一度のバザーの日なのでそれもあると思いますわと言われ周囲を歩いている民衆へと目を向ければ誰もが目を輝かせハキハキとした動きで働いていたり買い物をしていたりとかなりの活気であった。
「バザーね、いやはや後で回ってみますかね」
「それは名案ですわ、お金は私がおごりますわなんて言うとお兄様に怒られそうなので貸しにしておきますわ」
そういい楽しそうに笑っているフリアエの頭を軽く撫でクロエ達は中央に存在する城の方へと向かっていくのであった。
冒険者ギルドの総本部と聞いていたのでさぞや立派な建物なのだろうと思っていたクロエであったが、目の前までフリアエに案内されてたどり着いたそこはそこまで立派な建物ではなかった。
「というか、これがギルドの本部なのか?」
「その通りですわ」
「間違いありませんよ」
そう2人にお墨付きをもらった建物は一言で表すなら少し大きめな2階建ての酒場であった。もっとも昼間は定職屋もかねているのか立てかけてある看板には今日のメニューなどと書かれていた。
「まぁ中に入ればわかるか」
そういい中に入っていくクロエ達であった。
ギルド本部の中は確かに酒場のような店作りになっていた。立ちながらお酒や食べ物を食べれる丸テーブルや空いた酒樽を利用した机とその周りに置いてある椅子代わりの丸太などがあり、まさにファンタジーの中に出てくるような酒場となっていた。
現在も数人が丸テーブルで談笑していたりなにやら壁際にある張り紙が大量に張られている掲示板らしきものを眺めているヒトなど多数存在していた。
恐らくこの集会所のような場所を利用して依頼を一緒に受けるパートナーなどを探したり話を持ちかけたりしているのだろうと容易に想像出来た。
そして辺りを眺めていたクロエとシロであったが、いい加減ここへ入ってきてから注がれていた探られるような視線と玉藻へと集まる情欲の視線が鬱陶しくなってきた段階でふいにエプロンドレスを着ているウェイターらしき猫耳と猫尻尾を生やした猫人族の女性がフリアエへと声をかけてきた。
「にゃ? フリアエじゃないかにゃ。にゃにか依頼でも受けに来たのかにゃ?」
「あらカッツェお久しぶりですわ。ちなみに依頼を受けに来たわけではありませんわ、今日はお兄様達をギルド登録してもらうために案内してきただけですわ」
そう答えるとカッツェと呼ばれた猫人族の女性は耳をピンと伸ばし興味深々にフリアエへと話を振る。
「にゃにゃ! フリアエが男の人に対してそんにゃに心を開いているなんて驚きにゃ! 御2人とはどんにゃ関係なのにゃ」
「はいはい、今度暇な時にでも教えて差し上げますわ。今は仕事をしてくださいな」
フリアエはカッツェの肩を掴みそのまま後ろを向かせ、背中を押して横合いにあった階段の方へと連れて行く。
それを終始眺めていただけのクロエ達であったが、カッツェが現れた段階で自分達へと集まっていた視線は全て霧散したためフリアエが階段へと向かった段階でお互いに視線を交わしあいフリアエとカッツェの後を追っていくのであった。
2階へとあがってみると1階の大衆酒場のようであった作りとはがらりと変わり、そこには銀行を思わせるカウンターが存在していた。それぞれ10個ほど存在しているカウンターには4人の帯剣している冒険者らしきヒト達が何やらギルド職員と思しきヒトと会話や物品を見せていた。
「おお、2階にあがると一気に冒険者ギルドっぽくなるな」
「本当ですねー、年甲斐もなくわくわくしてきますよ」
そういいながら眺めていた2人であったが、後ろから玉藻が声をかけてくる。
「見とれている所申し訳ありませんが、フリアエが呼んでいますよ?」
「お兄様ーこっちへ来てくださいまし」
その声に誘われそちらを見ると先ほどエプロンドレスを着てウェイターをやっていたカッツェがそのままの格好でカウンターの職員側の席へと座っていた。
「なんだ、君はウェイターじゃなかったのか。それとさっきはありがとうな」
そう話しかけながら自分達へと集まっていた視線を散らしてくれた事への感謝を述べる。
「にゃははー、実は生粋のギルド職員でもにゃいんですにゃ。お手伝いみたいにゃものですにゃ。それとさっきのはギルド所属の馬鹿どもがご迷惑をおかけしたのにゃ」
そう照れるように答えるカッツェであったが雰囲気を改め職員の顔つきになりクロエ達へと話を続ける。
「にゃ、当冒険者ギルドへようこそにゃ。ギルド職員のカッツェと申しますにゃ」
「俺はクロエ、こっちはシロに玉藻だ」
「よろしくお願いしますにゃ」
そう頭を下げながらいうカッツェである。そして顔をあげてからギルドの説明へと入るのであった。
「今日は3人ともギルド登録という事でいいのかにゃ?」
「ああ、そのつもりで頼む」
「了解にゃ。ではギルドについての説明をさせてもらうにゃ。ギルドとは簡単に言ってしまうと民間からの依頼にゃどを仲介して冒険者へと紹介する組織にゃ」
そういい一拍置き続きを話し始める。
「通常であれば城下町に住むヒトが依頼をする場合にゃと、大げさにゃ表現をすると龍の討伐をしてほしいとするにゃ。普通のヒトにゃと龍にゃんて到底討伐できないにゃ、そして討伐できるヒトもまた少ないにゃ。そんな依頼を効率よく宛がうのが我々ギルドという組織なのにゃ。数多くある依頼を一箇所で管理することで餅は餅屋という感じで効率よく雑多にゃ依頼を消化する事が出来るのにゃ。そして我々ギルドは紹介手数料として若干のお金を貰って依頼者は問題を解決してくれる冒険者が見つかり冒険者はお金が手に入る。まさにWIN-WINの関係なのにゃー」
そして今度はカッツェが何やらカウンターの引き出しをごそごそとやりだし右上にでかでかとBという判子が押されている一枚の羊皮紙を机の上へと置く。
「これは?」
「これが依頼書にゃ、丁度フリアエが受けれる程度の依頼にゃよ」
そういい手元に出された依頼書とやらには、街道添いに出没するオーク20体の討伐。依頼ランク:B。討伐証明部位:右耳。報酬:金貨5枚。と書かれていた。
「一応我々ギルドも信頼というものが大切になってくるにゃ、そこで重要になってくるのがこれにゃ」
依頼ランク:B。と表記されている部分を指でなぞりながら話を続ける。
「ギルド創立以来から情報収集し続けて魔物の討伐ランクというものを格付けしたのにゃ、これは自分の実力以上の敵と遭遇しにくくするためと依頼の達成率を上げる為の処置にゃ。いくら仲介するだけの組織であっても無差別に依頼を冒険者に受けさせていようものにゃら冒険者は次々に死んでしまうにゃ。そして依頼もほとんど完遂されなくなってしまうにゃ。結果としてはギルドの信頼失墜だけじゃにゃく国も傾いてしまう恐れもあるのにゃ」
確かに冒険者ギルドの発足の原因が国が処理しきれなくなった雑多な依頼の対処であったはずだと思い出しながらクロエは頷く。
「にゃにゃ。フリアエ、カード貸してもらってもいいかにゃ?」
「貴女、自分のがあるでしょうに」
「見られるのが恥ずかしいのにゃ」
しょうがないですわねといいつつまたカードをポーチから取り出すフリアエ、そして4行しか表示されていないカードのランクと書かれた部分を指差しカッツェは説明を再開する。
「にゃ、これがギルドランクにゃ。フリアエだとB-にゃのでこのオーク討伐は受けることが出来るって仕組みになってるのにゃー。ちにゃみにランクはF-から始まってE、D、C、B、A、Sと続き最上位のExでおしまいの22段階評価なのにゃ。もっとも現在にゃとA-のヴァレッツっていうエルフの男が最高位なのにゃー」
「ランクをすぐに上げる方法はあったりしないのか?」
「基本的にないのにゃ、何事もコツコツとやるのが重要にゃのよ。もっとも突発的にゃ戦争や魔物の侵攻にゃどで活躍するとその限りではにゃいのだどにゃ」
戦争というフレーズを聞きクロエはそれについても訪ねるべきか一瞬逡巡するもシロがその考えを引き継いで問いかける。
「冒険者の戦争への従軍義務などはあるのですか?」
「にゃ、お兄さんいい所に気がつくにゃ。もし滞在している国が他の国との戦争を初めてそれに巻き込まれた場合は従軍するもしにゃいも選択出来るのにゃ。依頼として近場のギルドへと傭兵募集がかけられるのにゃ。それを受けるも受けないも本人次第ってことだにゃ。」
なるほど、と頷きシロはまた後ろへと引き下がりクロエに主導権を渡す。
「国家間の戦争の加担は自由って事だな。じゃあ魔物の大侵攻などの場合はどうなるんだ?」
「にゃにゃ、渋いお兄さんもいい感してるにゃ。ヒヨッコの冒険者じゃなかなか気づかないものにゃー」
そういい何やら興味津々度合いが増した瞳でフリアエとクロエ達を交互に見るカッツェであったが、質問への回答をする。
「国家間の戦争じゃにゃく魔物からの侵攻だった場合は冒険者はその場に残って民間人が逃げる時間を身を挺してその国の騎士団と共に稼いでもらうのにゃ。一応ランクによって補給や後方援護、前線維持にゃど割り振られるんにゃけど基本的にその国にいる冒険者は全員防衛に参加する義務を負うのにゃ」
「まぁ魔物倒して冒険者をやっているんだそれぐらいはして当然ってことだな」
「そういう事にゃよ」
あらかたの説明が終わったのか出されていた依頼書を仕舞いフリアエのカードを彼女へと返す。そして今度は何やら記入欄が存在している羊皮紙を3枚取り出して羽ペンとインク壷を取り出すカッツェである。
「にゃ、一応冒険者ギルドについての説明は終わりにゃ。何か質問はあるかにゃ?」
「差し迫って今聞いておくべき事はないな」
「右に同じですね」
「私も大丈夫ですよ」
そう答える3人に、うんうんと頷き3枚の羊皮紙をカッツェは彼らの前に差し出す。
「それにゃら、この羊皮紙に名前と職業と種族を書いてほしいのにゃ。そうしてもらえば晴れてギルド登録完了にゃ」
文字が書けないようにゃら代筆するにゃという言葉を聞きながらもクロエはシロと玉藻へと視線を向ける。そしてアイコンタクトを交え羊皮紙へとすらすらと文字を書いていく。
「にゃー、クロエさんにシロさんにタマモさんですにゃ。職業は戦士、戦士、妖術師。種族がタマモさんが妖狐族にゃね、クロエさんとシロさんのこれはなんて読むにゃ? というか御2人さんは人族じゃないのかにゃ?」
「なに、これは古い言葉で人族って意味さ。俺らはこれでいいのさ」
そうですね、というシロとクロエの書いていた紙の種族欄、そこには軍人と日本語で書かれた文字が墨のにじみを残して存在を主張していたのであった。
誤字・脱字、不明な点やアドバイス等ございましたらお願い致します。