第2話 再会
妖狐族の里を出てからというもののクロエ達3人は一路桜花へと向け旅を続けていた。
特にこれといって障害となるものもなく国へと近づくにつれLvの下がる魔物達もクロエ達に近づくことがなくなり旅路はすこぶる快適なものであった。
「それにしても本当に何もないな」
「何だかんだでここまで来ると魔物の数も減りますし、それにこんな見晴らしのいい平原じゃ襲ってきようがありませんよ」
周囲へと視線を向けつつ返事を返すシロ、その視線の先に広がるのはまさに地平線まで存在する緑色のカーペットのような草原であった。
「ですが、あと少しで桜花の領内に届くはずです。もう少しの辛抱ですよ」
「だといいがな。それと里ではすっかり面倒見てもらってたおかげで問題はなかったが桜花に入る際に検問で引っかかったりしないだろうな」
「そういえば俺達は身分を証明するものが何もありませんからね」
あと、お金もありませんねと苦笑を浮かべつつ玉藻へと聞くクロエとシロである。
「冒険者などですとギルドが発行したカードを見せることで身分証明としてますが、その様なものが無い人でも手続きを踏めば問題なく通れると思いますよ」
「問題ないならいい。しかしやはり魔物が闊歩する異世界、冒険者ギルドなんてのも存在するんだな」
「まぁそこら辺はテンプレですよね。ゲーム時代にはありませんでしたけど」
「そりゃそうだろうさ、あの頃のクエストは全部わざわざ俺らプレイヤーがクエストを持ってるNPCを訪ねて受注してたんだからな」
自分が知らない単語がいくつかあり首を傾げつつも大雑把には何を話しているのかを理解したのか玉藻がその話を引き取る。
「そうですね、クロエ様達軍人の皆さんが消失してしまった為、混迷期を抜けてから各国は民衆の間で起こるトラブルや魔物の問題を騎士団が解決していたのですが圧倒的に人手不足だったようでして細々とした問題が数多く出てしまったみたいですね。そこで導入されたのが冒険者のシステムらしいです」
騎士団に入団することが適わなかった人や、騎士団のような物に属することに抵抗がある人などに報酬を餌として雑多な依頼をまわし始めたのが始まりであり、ここアルカディア大陸の調査を行うための体のいい捨て駒としても使われたのが冒険者であった。
もっとも現在ではプレイヤーであった軍人ほどの数が居ないにしても各国の騎士団の数よりも多い冒険者が存在し、小は庭の草むしりから大は竜の討伐までこなす存在となっているとのことであった。
「割れ窓理論だな、小さい問題も放置すると、いつ大事になるかわかったもんじゃないからな」
「そうですねー、それは置いておくにしても俺達はどうしますか。身分証はあったほうが便利なはずですし」
「身元不明だからな、いくら調べても出自はバレないだろうが……うーむ」
そういクロエは腕を組みつつ思案顔になる。
「何か問題があるのでしょうか?」
「いやなに、その冒険者に登録することで俺達の足枷になりかねない事がないものかと思ってな」
元の世界に帰ろうなどと考えているわけではないが、こちらの世界で一生を過ごすとなると過度に目立ってしまうといろいろな事に巻き込まれかねないと考えた。
「確かに王族やらに目をつけられるのは拙いですが、冒険者ごときに目を向けるものですかね?」
「俺達はいろんな意味で特殊だから無いと言えないからな、まぁ何事もほどほどにってことだな。日銭も稼がにゃならんし」
「では、とりあえずの目標は冒険者ギルドで登録を行うって事にしておきますか」
そう結論付け話を終わろうとするもクロエはまだ玉藻へと問いかける。
「冒険者ギルドとやらは桜花にもあるのか?」
「あるといいますか、桜花が冒険者ギルドの発祥の地となっていますね。現在桜花に本部が存在しています」
「そうなのか、なら問題はないな」
「では、引き続きゆっくりと桜花を目指して行くとしましょうか」
そういい桜花へとゆっくり進行していくクロエ達一行であった。
◆◇◆
「それにしてもあんな事になるとは思わなんだ」
「いや、割とありかもしれませんよそれも」
魔物との戦闘も無いためただただ駄弁りながら桜花への道程を消化していくクロエ達一行であったが、その変化は唐突に訪れた。
「まさか、それが許されるのは……」
かなりの速度で歩きながらの会話であったため、唐突に会話を打ち切り足も止めてその場で周囲を警戒するクロエはシロと玉藻の目にはおかしく映った。
そしてたまらずシロはクロエへと問いかける。
「どうしたんですか? 唐突に」
その返事もすぐ返すことはせずになおも周囲へと警戒をしていたクロエであったが、そのまま警戒を緩めずにシロへと返事をする。
「どうしたもなにも、お前は警告音が鳴ってないのか?」
ここでクロエが言っている警告音とはゲーム時代の頃に戦闘中魔物だけでなく人の魔法使いも使うことの出来たホーミングする魔法のターゲットにされている時に鳴る警告音の事であった。
「警告音? ロックされるにしろ敵が居ませんよ敵……が?」
そういい呆れつつ<索敵>を展開するシロであったが展開した瞬間こそマップ内にはクロエ達3人しか表示されていなかったもののすぐに北西位置に味方表示の青点が出現した。
「味方? そんな馬鹿な。ていうか凄まじい勢いでこっちにきてますよ!」
話している最中にもその青点はこちらへと凄まじい勢いで迫ってきていた。しかし前方を見やってもそれらしき姿が見えることはなかった。
そこで話についていけてなかった玉藻であったが、そんな彼女が空を指しポツリと呟いた。
「彼女がこちらに気がついたみたいですね」
「彼女? ってあれ龍じゃないか」
こちらへと凄まじい勢いで近づいてきているのは黒龍ファブニルほどでかくは無いものの40mは超えているのではないかという程の純白の龍がそのでかい翼を羽ばたかせこちらへと突っ込んできている。
「でも味方表示ですよ、あの彼女とやらは」
「しかもあれ白龍だよな……」
そんな話をしている間にも件の白龍はどんどんこちらへと近づいてきてその全貌をより鮮明にするのであった。
そして白龍は勢いを弱めることなくずんずんこちらへと高度も下げ滑空してくる。
「ってあちらさん、俺達を目指しているのか? またどうしぬぐぇああああぁぁぁぁぁ……」
そのクロエの言葉は最後まで告げられることはなく、速度をまったく落とすこともせずに突っ込んできていた白龍はクロエに衝突する寸前に光り輝き40m以上あった巨体は160cm前後の人型となり無防備に眺めていたクロエの腹へと頭突きをかまし慣性の法則にのっとりクロエを巻き込みつつ後方へとお兄様ぁぁあああああという声がドップラー効果を伴いぶっ飛んでいくのであった。
凄まじい勢いで衝突されてぶっ飛んでいったクロエの元へとシロと玉藻は特に急ぐわけでもなく先ほどの白龍が何者なのかの説明を聞きつつ向かっていた。
「てことはあのデカイ白龍はあのちっこかったフリアエなんですか」
クロエが使役していた時のフリアエはクロエの周りをふよふよと飛んでいるだけの30cm程度の本当に小さい龍であったのだ。
「そうですね、久々にあの龍体を見ましたがフリアエで間違いありませんよ」
クロエが草原を滑って泥を巻きあげて吹っ飛んでいったおかげで方向は<索敵>で調べるまでもなく一目瞭然なのでそのような会話をしつつクロエの元へと近づいていく。
「3000年の時とはすごいものだなぁ……」
そう変な所で関心していたシロであったが遠目にもクロエの姿が見えるようになり若干歩く速度を上げるのであった。
クロエの側へとたどり着くと、そこにはこちらに渡ってから髭を綺麗に剃る事が出来ない事などの理由からそこそこいい感じな顎髭を蓄えた30近いガタイのいいおっさんに綺麗な銀髪の髪をツインテールにまとめた齢18歳前後に見える少女が胸に顔を埋めお兄様お兄様と連呼しているひどく冒涜的な場面であった。
若干白い視線を混ぜつつ既に衝突のダメージから復帰し体を起こしているクロエへとシロは声をかける。
「クロ先輩その状態、はたから見ると通報ものですよ……」
「あのなぁ……」
そう呆れ返った声で返事をしつつも自分へと抱きつきまるで子供が泣き付いているかのような状態となっている目の前の少女の背中を優しく撫でる様に叩く。
「まぁそんな事よりもそこでひたすらお兄様連呼してる彼女どうやらあの小さかったフリアエらしいですよ」
「なんとなくそうじゃないかとは思っていたが……何故にお兄様なんだろうな」
「さぁ? 本人に聞くしかないと思いますよ」
そして件のフリアエが落ち着くまでクロエは少女の背中を擦り続けるのであった。
いかほどの時間が経ったであろうか、ようやくクロエの身から体をどかしクロエ達と相対するように立っているフリアエはそれは美しい容貌であった。
身長は160cm程度であり玉藻よりは小さいが綺麗な長い銀髪を頭の後ろでツインテールにまとめ、瞳は龍種によく見られる黄色の綺麗な瞳であった。
「さて、落ち着いたみたいだな?」
「はい……」
そういい尚も瞳には涙を浮かべつつクロエへと視線を向けているフリアエである。それに若干の気まずさを覚え視線をそらしつつも話を続ける。
「ゴホンッ。でだ君が言っているお兄様ってのは俺で間違いないのか?」
その言葉に反応しフリアエは言葉を荒げ反応する。
「当然ですわ! 私がお兄様を間違えるわけがありません!」
身を乗り出し今にもクロエに抱きつきそうなほど近づきつつ叫ぶ。
「お、おう……」
「いやー随分と慕われてますねクロ先輩」
たじたじになりつつも答えているクロエを見やり笑いを堪えつつ言うシロであった。
その様子を微笑ましいものを見るかのように眺めていた玉藻がクロエへと助け舟をだす。
「ほら、フリアエ、クロエ様が困っていますよ。とりあえず離れて落ち着きなさい」
「ようやくお兄様と合えたんですよ!? 玉藻お姉様は半年以上前に出会ったかもしれませんけど私は今3000年ぶりの再会なんです!」
諌める様に言ったのが拙かったのかフリアエは玉藻へも食って掛かるように言葉を荒げる。しかしそれも長く続く事はなかった。
「ほら、話が進まんからいい加減にしろ」
そういい軽くフリアエの頭へとチョップをクロエが入れハッとなり落ち着きを取り戻すのであった。
「も、申し訳ありませんお兄様。せっかくの再開に醜態をさらしてしまいました」
頭をもたげつつ答えるフリアエの頭をチョップした手でそのまま撫でるように動かすのであった。それが効果覿面したのか冷静さを取り戻したフリアエへとクロエは質問を投げかける。
「さて、じゃあ始めに本当にお前はあの子龍だったフリアエなのか?」
「はい、玉藻お姉様と共にお兄様に使役されていたのが私です」
「あの頃は人化出来てなかったが何で今は出来ているんだ?」
「それはですね……」
そう言い続けられる説明は玉藻の時と大体同じ内容となっていた。事の発端は全てクロエ達軍人が消失してから起こった事であるという。
「んー、これは本格的に調べてみる必要があるかもしれませんね」
「まぁ追い追い考えるとしようか」
そういいシロは1人考えるように思考の海へと沈んでいくのを横目で確認するクロエ。
「考える事はシロにでも任せておけばいいか、じゃあ次だ。何故に俺の呼称がお兄様なんだ?」
その質問に帰ってきた声は非常に嬉々としたものであった。
「お兄様はお兄様です! 私がまだまだ小さい子供の頃からの見続けていた背はまさにお兄様でした!」
「あーなんだ、まぁそれでいいか。で、お前はこれからどうするんだ?」
後ろで考えを巡らせていた筈のシロが噴出したので頭をはたきつつ問う。
「当然お兄様に付いて行きますわ! ダメと言われても付いて行きます!」
何を当たり前の事を聞いているのかと言わんばかりの表情で言われたためこれはもうどうしようもないかと諦めるクロエであった。
「まぁ拒否する理由もないし問題ないか」
そういいフリアエの頭を軽く叩くように撫でながらどこか寂しそうにクロエはぽつりと漏らすのであった。
「お前達が言っているご主人様のクロエと俺は別の存在かもしれないんだがな……」
その寂しげな声を聞いたのはクロエの後ろで痛がるふりをしていたシロだけであった。
◆◇◆
そこからフリアエも入れた4人での旅が始まったが特に何かあるという事もなく桜花への道程を消化していく。
元々桜花はゲーム時代ですら大和帝国の前線基地として使われていた都市である。その様な所へ大陸中央部から向かってきたのでは道も整備されているわけもなく、商隊どころか冒険者とも盗賊とも出くわす事無くひたすら道を歩くだけとなっていた。
しかし歩けば当然のごとく道程は消化されるため現在では既に桜花領には入っていて、今登っている小高い丘を越えれば桜花の城と城下町を一望出来るというところまで来ていた。
「いやーしかしここの丘も懐かしいな」
「しょっちゅう魔物の侵攻を受けてましたからねー、こことか月1ペースで焼け野原と死体の山になってましたからね」
そう話しながら進んでいるこの丘も現在では緑豊かであり花々が咲き乱れる綺麗な丘となっていた。
比較的見晴らしのいい丘と平原であるため戦争時や魔物の侵攻時などではここで迎撃するのがかなり有効となっていた。もっともゲーム時代ではクロエが領主をしているため無条件で大規模部隊のNLが参戦してくるため、よっぽどの大部隊で自信があるか、よっぽどの大間抜け以外攻め入ってくる事はなかったのだが。
「ここの丘はクロエ様達が消えてから魔物の侵攻もほとんど及んでいませんからね、フリアエが守護していたおかげでここ一帯は今では魔物どころか盗賊も寄り付きません」
「おーそうなのか、俺達の子孫といい桜花といい本当にありがとうなフリアエ」
そういいフリアエの頭をかき回すように撫でると彼女は気持ちよさそうな顔になりつつ答える。
「お兄様が帰られる所をお守りしていたまでです。それ以外はあくまでもついでです、ついで」
「それでも3000年もの時ここを守り続けたのは賞賛に値するさ」
そしていよいよ丘も登りきるかという所でそれは見えてきた。
クロエとシロにとっては見慣れてはいるがゲームであった時とは天と地ほどの圧倒的な解像度の違いをさめざめと見せつけ、玉藻にとっては懐かしき情景となり、フリアエにとっては帰る場所として映ったそれは、10万人以上もの人口がいる城下町や中央に聳え立つ本丸が見える日本古来にあったとされる総構えの城郭都市がそこに存在していたのであった。
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