第4話 戦闘狂の実力
「で? クロ先輩何をやらかすんですか?」
「そこ、やらかすとか人聞きの悪い事を言わない」
そういいつつも優しい目でこちらを見ている玉藻の指示に従い、このお屋敷にある武道場へとクロエ達一行は向かっていた。
「なに、少し試したい事があるんだよ。念のため再度確認しておくが、玉藻のレベルはLv550で葛葉だっけ? がLv280なんだな?」
「それであっていますよ」
「よし、なら多分大丈夫だろう」
「いや、何が大丈夫なんですか」
シロの言葉に見ればすぐわかるさと答え、クロエはなおも武道場へと足を進める。そして武道場前までたどり着きその扉を勢いよく開けるのであった。
武道場の中には朝早い時間の現在も稽古中なのであろう複数名の妖狐族が練習用の薙刀や刀を使い自由乱打を行っていた。そして練習中であった彼らであるが武道場へと入ってきた人物が玉藻だという事に気がつき稽古を中断し膝をついての最敬礼を行おうとするも、玉藻が何事かを言いその状態を止めさせるのであった。
「そういえば聞いていなかったが玉藻達が使ってる言語は妖狐族だけの言語か?」
「いいえ違いますよ。現在では種族限定の言語はもうほとんどありません。集落近くの国が使っている言語を使うのが慣例ですね。私達ですと桜花や帝国があった場所に存在している国々が用いているロキス語です」
「それだと話せないのもあれですし、玉藻さんにご教授願うしかないですかね」
「そうなるな、明日から頼めるか?」
「お安い御用ですよ」
そういい朗らかに笑う玉藻であったが武道場へ何をしにきたのかをクロエへとたずねる。
「ああ、少し俺達の限界を把握しておこうかと思ってな」
「あれ? てことは俺と戦うんですか?」
「そうする予定だが、その前に2、3確認したいこともある。玉藻、葛葉に俺を斬り付けるように言ってもらっていいか?」
そう唐突に物騒な事をのたまうクロエに玉藻は慌てて問い返す。
「そ、それは危険すぎます。いくらクロエ様と言え葛葉は既にLv280に達しているんですよ!」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと伝えてくれ。あと周りの奴らもどけたほうがいいかもな危ないし」
それを聞き渋々ながらも玉藻は葛葉へとその事を話し、稽古中であった妖狐族にも中央を空けてくれと伝える。
そしてものの3分で武道場の至る所に点在していた稽古用の巻藁や青竹などが撤去され稽古していた妖狐族達は壁際に寄り、見学者モードへと移っていた。
「さーてと、葛葉こっちきてくれ」
そういい葛葉へと手招きをするクロエ。玉藻の話を聞き、これから何をするかはわかっているがそれでも訝しげな表情のままクロエの前へと歩み寄る。
「んじゃ斬りつけてくれ」
と、唐突にクロエは両手を前に出し抜刀するどころか隙だらけの状態でだらけるのであった。
それを見て葛葉は言葉はわからずとも困惑するばかりで、どうしていいのかわからずに玉藻へと助けを求める視線を向けるのであった。
「クロエ様、その……葛葉がすごく困惑しています。本当に斬りつけて大丈夫なんですか?」
「まだ心配してるのか、大丈夫だぞ。ほら」
そう言い、手を前に持っていき葛葉を挑発するかのごとく手を動かす。
その様子にイラっと着たのか定かではないが、葛葉は佩いていた刀を抜刀し大上段へと構え静止する。
それを見たクロエが再度挑発するように両手をだらりと下げ手のひらを葛葉へ見せる形となる。そしてそれを合図にして葛葉がクロエへと掛け声を出しながら全力で斬りかかった。
「ハァァァアアアア!!」
するとどうであろう、葛葉の刀がそのままクロエの左肩から袈裟切りに切り裂くのではないかと思われた斬撃がクロエの身に纏う黒衣装備に触れるか触れないかの場所で止まっているのであった。
「やっぱりこうなるのか。しっかし……おーこわいこわい」
そういいながら肩をすくめつつ、呆然と刀を握ったまま固まっている葛葉の頭を優しく撫でるかの様に叩き、クロエは玉藻とシロの元へと戻るのであった。
◆◇◆
「なんだ、レジストの確認ですか」
「おうよ、流石にこればっかりはレベルが低くないと出来ないからな。シロは論外にしても玉藻で試すのも危ないしな」
そう言いながらクロエはこちらへと歩いてくる。
レジスト。それは<アルカディア>がダイブゲームであった時に高レベルに達したプレイヤーが無駄な戦闘を行わないために設定されていたシステムであった。
現在でこそ<威圧感>や<隠蔽>などの接敵しにくくなるパッシブスキルが存在しているが、開始数年それらのパッシブスキルはまだ存在していなかった。
するとどうなるであろうか、討伐クエストなどの依頼を受けたプレイヤーはその魔物が存在している生息地域まで最寄りの町から徒歩で移動しなければならない。そしてその過程で必ず起きてしまうのが低レベルの魔物との戦闘である。
この<アルカディア>、初期の段階ではプレイヤー間の装備の強さが段違いにならないようにと調整をされていた。そしてそれは戦争を行う魔物にも適応されるわけでありどんなに低レベルの魔物でも、ある程度はプレイヤーへとダメージが通るように設定されていた。
そしてその中を長距離移動するとなると必然としてプレイヤーのHPは削られる事となる。そして狩り用に買っておいた回復ポットを消費するという本末転倒な事が起こってしまう。
その様な事にならないようにと導入されていたシステムがレジストであった。
レジストはそのキャラクターの装備やレベルなどを数値化し、こちらへと攻撃してきた魔物や対象者の数値と比較して圧倒的に勝っていた場合レジストによってダメージを負わないようにと設定されていた。
「素の状態だと約Lv300ぐらいの敵まではレジストの影響で攻撃が通らないと見るべきか」
「まぁゲームの頃と同じならそれぐらいが妥当ですね」
「なにやらよくわからない単語が出ていますが、今のはその黒衣のおかげという事ですか?」
「概ねそうなるな、多分マッパだとLv70がいいところだろ」
「まぁそうなりますわな」
そう肩をすくめながらシロがクロエへと尋ねる。
「で、クロ先輩。俺との模擬戦どうします?」
「んーそれなんだが、よく考えたらさすがにお前の聖剣で斬られたら死んでしまう」
その言葉にシロは呆れ顔をしつつも言葉を返す。
「んなもんクロ先輩の黒刀だって同じじゃないですか」
「相打ちしました、2人共死にましたじゃ洒落にならんわな」
模擬刀で戦ってもこちらの世界での限界値を見ることは叶わないとわかっているためどうするべきかと悩む二人であった。そんな2人に玉藻から提案が入る。
「それでしたら私と……いえ、私と葛葉のペアとの戦闘などどうでしょうか?」
「葛葉はちょっと危険な気がするが……そうだな戦ってない方が2人にバフでもかければいいか」
素のままの葛葉や玉藻との戦闘では怪我をさせてしまいかねないとの事で、戦っていない余裕のある方が2人へとバフといざとなった時の回復を行えばいいと判断して頷くクロエである。もっとも玉藻の考えでは自分と葛葉のペアとクロエとシロのペアでの戦闘を想定していたわけであったが。
「そうですね、限界が見たいのであればそれでいいのかもしれないっすね」
「うっし決定、じゃあ俺からやるからシロ端の方でバフと回復してやってくれ。ついでに開始の合図な」
「大方の予想通り自分が一番にやるつもりでしたか、まぁいいですよ今回は譲ります」
そう言いながらもシロは装備を療法師の白ローブへと変貌させながら壁際へと寄っていく。
「んじゃ2人の準備が整い次第やるとしましょうぜ」
「わかりました、では私の装備を持ってこさせます」
と、葛葉への説明と一緒に装備を持ってこさせるために近くの妖狐族へとロキス語で話しかける玉藻と葛葉、また玉藻の話を聞いて騒がしくなってきた外野を眺めつつ1人中央ですごく楽しそうに笑っているクロエと、それをしょうがない人だと苦笑を浮かべつつ眺めているシロであった。
◆◇◆
武道場中央にて対峙するクロエと玉藻、葛葉。そんな2人へと今更ながらにクロエが問いかける。
「そういえば葛葉の戦闘スタイルは刀装備の戦士っぽいけど玉藻はどうするんだ? 妖孤の時は爪と炎系の魔法だったよな?」
「妖孤の時はその戦闘スタイルでしたが、今では手足を自由に使えますので魔法を使いつつの刀での戦闘が主になりますね。あと葛葉への剣術指導は私が行いましたので恐らく並大抵の人には劣らないと思います」
ちなみに爪での戦闘も出来ますけどね、といいながら横にどけてあった青竹の側まで行き右手を引っかくような形で青竹へと振りぬく。すると土台に設置されていた竹は綺麗に4本の筋が浮かびあがり4つに別れ崩れていくのであった。
「おっそろしい切れ味してるなぁ……」
そういいつつもその光景を楽しそうに眺めているクロエであった。
「じゃあ玉藻さんも葛葉ちゃんも戦士って事ならバフはインクリース系列でいいかな?」
確認の意味も込めて2人へとシロが聞くが、聞かれた本人達はきょとんとしたまま首を傾げるだけに終わった。
「その、先ほどからクロエ様とシロさんが仰っているバフというものがわからないのですが」
「あー、そうかゲームじゃないんだったな……戦闘補助魔法の事だよ」
クロエと2人での行動だった時はゲーム用語でも会話できていたが、ここがゲームではなく現実だと思い出させられシロは言葉に詰まりつつも説明を行う。
「ここで言っているのは<インクリースアタック>、<インクリースシールド>、<インクリースガード>、<インクリースラッシュ>の4つでそれぞれ攻撃補助、魔法防御補助、防御補助、速度補助になるね」
ここでシロがあげている補助は全て高レベルで取得出来るバフでありその数値の上がり方も尋常ではないのだがそれを玉藻が知る由もない。
「そうですね、私はシールドとガードを掛けていただければ。葛葉には全てでお願いします。」
「了解。じゃあそこで動かないでいてね」
そういいシロが詠唱に入りそれぞれの補助を玉藻と葛葉へとかけていく。
「すごい……まるで別人の様に感じます」
自分の淡く光る体を眺めながら玉藻が感嘆のため息を漏らす。葛葉もまたいつも自分の体ではないかのように感じたのか驚いた感じで自分の体とシロとを交互に眺めていた。
「んじゃまぁ戦闘時間は補助の切れる5分でいいですかね? クロ先輩」
「それだけあれば大丈夫だろう」
そういい既に腰を深く落とし、佩いている黒刀の柄へと手を持っていき更には攻撃先を読まれないためにと視線を無限遠へと向け臨戦態勢へと移っていたクロエが答える。
「じゃあそういうわけで、2人とも準備いいですか?」
その声に反応し玉藻、葛葉両名はハッとシロを見やり、次いで既に臨戦態勢に入っているクロエを見やり己も戦意を高ぶらせていく。
「では、さっき玉藻さんが切ったこの青竹を投げますんで、落ちたら戦闘開始の合図ということで。ちなみに危険と思ったら止めに入りますんで」
青竹を拾い手で遊びながら注意事項を述べるシロ。そして一拍ののちに青竹がシロの手から離れ放物線を描き地面へと落ちていく。
青竹が地面へと接し、鈍い音を立てながらクロエ対玉藻、葛葉タッグの戦闘の火蓋が切って落とされたのであった。
最初に凄まじい勢いで飛び出してきたのは以外にも玉藻ではなく葛葉であった。
「イヤアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛!!」
掛け声と共に銀色に輝く葛葉の刀の剣先が補助魔法の影響もあり凄まじい勢いでクロエの左目へと突き刺すように繰り出される。
その攻撃はクロエと己の実力の差を知った上での殺す気で放った一撃であったが
「フンッ!」
クロエの間合いへと入った瞬間に居合術で放たれる抜き打ちの一の太刀により、その突きはあっさりと逸らされる。そして神速の二の太刀により葛葉へと逆袈裟切りを加えようとした所でクロエは唐突に横合いへと転がるようにして回避運動を行う。
「えっ!?」
そこには葛葉の突進の影に隠れクロエの背後へと回っていた玉藻がクロエの背へと斬りかかろうとしていた。しかしクロエの回避によりその攻撃はやめざる終えなくなる。
「そんなっ! どうして今のがっ」
「甘いぞ!」
そういい玉藻と葛葉両方へと当たるように回避運動の慣性で足元を切り払う。
しかしその斬撃は両者の足を捕らえる事が出来ず僅かに葛葉の袴の裾を切り裂くだけに終わる。そしてそのままクロエは葛葉へ追撃をかけるわけではなく切り払いを避けた後、自分の背後を取ろうと動いていた玉藻のこめかみへと突き繰り出す。
「シッ!」
玉藻はクロエの動きから死角となっているであろう場所へと移動しながら背後を取ろうとしていたためその不意の突きに対処が遅れる。
しかしその突きもまたギリギリの所で首を動かし、かわされてしまう。それを想定して放った一撃であったのかそのまま突きからの打ち下ろしを行う。
それもまた玉藻はギリギリで刀を差し込み防ぐ。そのまま鍔迫り合いへと持っていこうと玉藻は刀へと力を加えるがクロエがそうはさせてはくれなかった。
押し返そうと加えられる玉藻の力に逆らわずそのまま刀を横へとそらす。そしてそのまま玉藻と体を入れ替えるようにして位置を変える。
するとどうであろう、鍔迫り合いを行ったら背後から斬りかかろうとしていた葛葉は玉藻へと攻撃が当たってしまうため先ほどの玉藻と同じく攻撃をやめざる終えなくなってしまう。そしてそれを見届ける間も無くクロエは更に2人との距離を取るように後ろへと下がるのであった。
「流石に後の先に固執すると分が悪いな、こっちから打ち合いに持っていかせてもらうぞ!」
そして今度はクロエからの攻撃が始まる。身を低く下げ凄まじいスピードで葛葉へと疾走しながら下段からの切り上げ攻撃を行う。それをかろうじて葛葉は刀で受け止めるものの今度はクロエの回し蹴りが彼女の腹部へと痛打となる。
攻撃手段は黒刀のみと思っていた葛葉はクロエの回し蹴りをもろにもらってしまい武道場の壁へ吹っ飛ばされ、そのままぶつかる。鈍い音と共に葛葉の肺から空気が漏れ、そしてそこでそのまま倒れこみ起き上がってこれなくなってしまった。
それを最期まで見る事なく今度は玉藻へとクロエは切りかかる。そしてそれを迎え撃つ玉藻。
1合2合と刀と刀同士がぶつかり合い、火花が散る中クロエは玉藻へと語りかける。
「ハッハッハ! 楽しいなぁ! おい!」
「えぇ、本当にっ!」
両者共に激しく打ち合いながらも笑い声を上げつつの戦闘は一種の演舞のようにも思われた。しかしその拮抗していた打ち合いも次第に均衡が崩れていく。
最初こそ突きからの打ち下ろし、足払いや刀の柄を使った殴打などその全てを玉藻は防ぎ、また受け流していたがそれはほんの数秒だけであった。
クロエの攻撃は熾烈を極めその剣速もまた1合ごとに速くなっていく。そして玉藻の剣捌きよりも先に根をあげたのは玉藻の使用していた刀であった。
玉藻の持つ刀もまた通常の刀とは違い名匠によって作られたものであり、通常であれば刀の戦闘ではやらないようなこのような激しい打ち合いにも耐えていた。しかし相手をしていたクロエの黒刀では分が悪すぎた。
20合も打ち合ったであろうか、その時それが起こった。クロエの黒刀による幹竹割りを玉藻は刀を頭上まで上げ受け止める、そこで初めて玉藻の刀に刃こぼれが起こる。そしてその欠けた破片が玉藻の頬をかすり一筋に血を垂らす。
「くっ!」
「まだまだあ! まだまだ上げるぞ!」
そこから更に速くなるクロエの剣速にたまらず玉藻は防戦一方へと追い込まれる。これ以上クロエの黒刀を自分の刀で受け止めては折れてしまうと考えた玉藻はひたすらにクロエの斬撃を受け流す。しかしそれでも刃こぼれを止めることは適わずに玉藻はどんどん後ろに押し込まれていくことになる。
またここまでくると受け流すだけではクロエの全ての攻撃を防御することが出来ずに腕や足に刀がかすり桜色の着物に赤い斑模様が目立つようになってくる。
しかし、そのままやられてしまう玉藻ではなかった。クロエの左から右へと斬りつける横薙ぎを大げさにバックステップで回避する。それを見逃すクロエではなく当然のごとく追撃をかけるのであるが、そこでクロエへと異変が起こる。
玉藻とクロエが居た中間地点に透明な壁――<スクラゥル>による簡易結界――が張られているのであった。
クロエがハッとなり足元を見るとそこには足を斬られ流れ出ている血で形成されたであろう陣が存在した。クロエの猛攻を受け流しつつ足で書き上げていたのであろうその強かさは驚嘆にあたいするものであった。
しかし<スクラゥル>程度で作成された結界程度クロエにとっては紙も同然のものでありすぐさま黒刀により結界が一刀両断される。しかし玉藻にとってはその一瞬の時間稼ぎで事は十分足りるのであった。
「すみませんクロエ様。剣術のみで相手をしようなどとは思い上がりも甚だしかったようです」
そういい玉藻の身の回りに展開されている炎の渦を眺めつつもクロエは楽しそうな顔をやめることはない。
「そうだ! それでいい! 全力でかかってこいっ!!」
「いかせてもらいます!! <煉獄>!」
玉藻を中心に渦巻いていた炎の竜はその掛け声と共にクロエへと殺到していく。そしてその炎が完全にクロエを包みきった時妖狐族の見学者達はみな一様に玉藻の勝利を確信したのであったが、ただ1人クロエの友人にして後輩のシロだけは別の意味で焦っていた。
「これはまずいぞ、クロ先輩がガチで殺しにかかりかねんっ!」
そういいクロエの安否を気遣う素振りなどついぞ見せずに何故か玉藻の元へと庇う様にシロは自身の装備を光に包ませながら飛び出す。
そしてそれはそんな時に起こった。
「ハァァアアアア!!」
裂帛の気合と共に黒刀による幾度も斬撃の音が聞こえ、今までクロエが居た場所を中心にクロエを取り巻いていた炎の竜は爆散してしまう。そしてそこに残るは多少頬を煤けさせてはいるが無傷のクロエであった。
スキル<ウィンドスラッシュ>。戦士職の最上位に位置するスキルの1つであり敵の使用した魔法を剣速により発生する暴風により無効化するスキルである。それを使い玉藻の<煉獄>を打ち消したクロエであったがその瞳には狂喜と言っていいほどの色が存在していた。そして<ウィンドスラッシュ>により<煉獄>無効化されると見るやすぐさまクロエは黒刀を鞘へと戻し、まるで鞘を抱えるかのような体勢で身を低くする。
そのままクロエは敵との距離を瞬時に縮めるスキル<ストライク>を使い、かなり離れていた玉藻との距離を一瞬にして自分の間合いへと持っていく。その一瞬に意表を付かれつつも玉藻は防御のために刀を出すもののクロエから繰り出される神速の居合術の一の太刀により刀を中程から折られてしまう。そして返しの二の太刀で玉藻の首へと吸い込まれていくかに思われた黒刀は、玉藻とクロエの間に体を割り込ませたシロの装備する身を隠すほどの大盾により間一髪防がれるのであった。
◆◇◆
「あ、あぶねぇ……イージスがひび割れてますよ」
そういいつつシロは自分を守ってくれた身を隠すほどの大盾を眺める。そこにはクロエの黒刀によってつけられた傷が存在していた。もっともその傷もすぐに修復され傷1つ無い綺麗な銀の大盾へと戻っていたが。
「ていうかクロ先輩、トリップしすぎです。身内を殺す気ですか」
そういいながら大盾と身の丈以上の長さを持つ大槍を光の粒子に包ませて消しているシロが非難するような視線を向けつつ話しかけてくる。
「す、すまん。玉藻が予想以上に強かったもんで8割位までギアをあげちまった」
「それにしたって<ストライク>からの居合術なんて滅多にしないじゃないですか」
シロにしかられ縮こまっているクロエであったが、玉藻の身にはクロエの言葉を聞き戦慄が走っていた。
最初こそ2対1で始めて、最期など自分の最強の魔法を使ったにも係わらず10割の本気をださせていなかった。そして何より自分がLv550にも達し更に補助魔法までかけてもらっていたにも係わらず防戦一方となってしまった事に驚愕していた。いくらクロエであろうと3000年も経験をつんだ自分が相手ではきついものがあるだろうと思っていただけにその自信を粉々に砕くどころの話ではなかった。
「これだからクロ先輩と戦いたくないんですよ」
「勘弁してくれよ、もうお前ぐらいしか互角に戦ってくれる人がいないってのに」
シロの愚痴にクロエが謝り通していたがそれを無視する形で玉藻はクロエの前で跪きクロエへと決心した心のうちを告げるのであった。
「クロエ様、この度の戦闘で私がいかに未熟か思い知りました。またクロエ様を主と仰ぎ修行をつませてもらえないでしょうか」
その言葉にクロエとシロは玉藻へと視線を向けるとそこには足元に血溜まりを作りつつ膝を突いている玉藻が目に入り、玉藻の先ほどの言葉への返事を後回しにし、慌てて治療を開始するクロエとシロであった。
誤字・脱字、不明な点やアドバイス等ございましたらお願い致します。