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−無い物ねだり−

「あの頃、携帯が あったら 私たちは 何か 変わっていたかなぁ」


「どうかな?」


そっけない 彼の返事に 私は 焦り 話題を共通の友達や お互いの家族の近況に 切り替えた。


尊は あの頃と 同じで 寡黙だ。


高校生の頃、 彼は 彼女の私より 頑張るべき 野球を取った。


高校が 離れて淋しい思いをしていた 私は 彼を 待ち、応援することが できなかった。


甘酸っぱい 高校生の 頃の思い出・・・。



また 大人になって 再会するなんて 思いもしなかった。



彼をこんなに近くで見るのは 何年ぶりだろう。色白で 切れ長の瞳、すっと通った鼻筋 変わらない。

綺麗な 顔だ。


また 恋をしてしまいそうになる・・・。



「そろそろ時間だね」


彼は 携帯を見て 言った。

私たちは一緒に喫茶店を出た。

「うん。久しぶりに話せてよかった。怪我 早く治してね」


「ありがとう。 じゃあ」

「じゃあ」



尊にとって 私は どんな存在なんだろう?



私は 昔から 無い物ねだりだ。


幸せな 家庭を持っていながら まだ ほかに 絶対手に入らないようなものが欲しくなる。


今の私にとって、それが 彼なのかもしれないが 所詮無理だ。




絶対に 連絡をとることのない 彼の携帯番号を知ることが できただけでも 満足。



そして 彼の番号を

『前沢さん』

と 登録した。



私たちは なぜまた 出会って しまったの だろう・・・・。


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