−二人をつなぐもの−
尊は 急いで 仕事に戻って行った。
私は 緊張が 抑えられずにいる。
奈緒子は 彼が 私の元カレだ と 同僚たちに話していた。
みんなが ニヤニヤして 聞いてくる。
「どんな話したの?」
「彼 独身?」「何年ぶり?」「何で別れたの?」
「まだ 好きだったりするの?」
どれにも 正直に 答えるわけにはいかない。
私が 独身なら 少しは違った だろうが。
「あ、 さっきの前沢さんに 保険証渡すの忘れてた。」
事務の子が 言った。
「問診表に 携帯番号書いてあるから 電話してみようかな?」
「それなら あんた 電話しなさいよ。」
奈緒子が 私に 彼の書いた 問診表 を渡した。
「いいですか〜?お願いします。」
事務の子も ニヤニヤしながら いう。
結局、私は 昼休み 彼の携帯に 電話することになった。
「もしもし・・」
知らない番号からの電話に 彼の声も 小さい。
「あの 斎藤です。あ、旧姓 美月 栞 です。」
「美月さん? なんで 携帯番号を・・」
「あの、うちの病院に前沢くん 保険証忘れてたよ・・・」
「あっ!」
「ごめんね。問診表に携帯番号しか 書いてなかったから」
「そうだった・・」
「どうしようか。保険証」
「今 昼休み?」
「うん」
「オレも。どこかで 会えるかな?」
私たちは 近くの 喫茶店で 待ち合わせをした。
作業着とナース服の二人に 周囲は 好奇の一瞥を向けた。
罪悪感を 感じる・・・
「ごめんね。仕事に戻らないといけないって 急いで いたんだ・・」
「ううん。 はい 保険証」
「サンキュー。・・そっか、 子供が もう小学生になるんだ。」
「老ける はずよ」
「あんま 変わってないよ」
「うそばっかり。だって 15年ぶりくらいだよ」
「もう そんなに経つんだね」
「前沢くん 結婚したって うわさ聞いたけど。たしか私が 結婚するより前に」
「ああ。いろいろあってね・・・」
彼は 口ごもり、窓の外を見つめた。
「私、まだ 時々 前沢くんの 夢を見るの。 まだ坊主頭で 学生服 着てる」
彼は 少し微笑んだ。




