8話 水かけ合戦
水が頭からかかり俺の服をびしょ濡れにする。噴水を中心に初級水魔法で水をかけ合う人々、魔法が使えない子供は大きなバケツで水を周囲に撒く。
「オリエン…透けてる…」
「そっか……」
エリアスが赤面しながらそう言うが俺は無の境地にいた。その間にも知らない人から水をかけられ…そして俺に水をかけた人も誰かに水をかけられる。
なんだこの地獄絵図は、俺は何も知らずに来たことを深く後悔した。
◇◇◇◇
「オリエン!!早く起きろよ!!パーフェスト祭始まってるぞ!!」
エリックが俺の身体を揺さぶる。薄目を開けるとカーテンからこぼれる日差しが目に染みた。
「っ…あぁ祭りな…祭り…」
昨日のマチルダちゃんとの衝撃の出会いで思考から消えていたが、俺達はパーフェスト祭の為に来たのだ。本当にすっかり忘れていた。
「グレイデンさんにも呼ばれてるし、早く行こうぜ!!」
「は…グレイデン??」
なんのことだ…と思ったがそういえばアルシア王国の教会で働いているから顔見せに来てくれと言っていた気がする。
「え、オリエン…グレイデンに会いに行くの…?」
エリアスも顔を顰める、エリアスは俺がグレイデンに押し倒されてるところを見て、完璧に彼奴を信頼していないのだ。それでいい、エリアスもエリックのように騙されていたら俺の胃が痛くなる。
「行かねぇよ」
「えっ、なんでだよ!!!」
エリックは驚いているが当たり前だ、あんな奴の場所にノコノコ行くわけがない。そんなことするよりも今日は静かに過ごそう。
マチルダちゃんに接近出来ないとわかった以上俺は不本意だがパーフェスト祭を楽しむしかないのだから。
「じゃあ俺一人で行くからな!!」
「そうしてくれ」
「薄情だなぁ…!」
なんでエリックはここまでグレイデンに懐いているのだろうか、謎だ。
「そんなことより祭りもう始まってるんだろ?行こうぜー」
朝の準備を済ますと俺は話を逸らすために二人に笑いかけた。
「うんっ…!」
エリアスもパーフェスト祭の為なら外に出てくれるようで良かった、しつこく誘った甲斐がある。まだぶつくさ言っているエリックをほおって俺は扉へと向かった。
「早くしないとおいてくぞー」
「あ、おい!!待てよ!!!」
エリックに呼び止められ仕方がないから待ってやると、エリックは雨具のカッパを持ち出した。
そんなもの何処から…
「これ持ってくだろ?」
「はぁ?」
外を見れば快晴、全くもって必要ない様に思える。
小雨でも雨具を使わないエリックが何を急に…
「必要ないだろ」
適当にそう返すとエリックは目を大きくして笑った。
「お前…そっち派か!!!」
いやどっち派だよ。
「いいぜ!!俺も付き合う!!!」
何を言ってるんだ本当に……まぁエリックが変なのはいつものことだ、気にしないでいいだろうーーー。
そして今に至るというわけだ。本当にそう思っていた俺をぶん殴りたい。
まさかこんな水をかけ合う意味のわからない祭りだなんて誰が想定できるか…ていうかエリックもちゃんと説明しろよ……!!!
後悔しても意味はない。ちなみにそんなエリックはというと、誰よりもはしゃいで水をかけ回っている。本当に楽しそうで結構なことだ。エリアスは俺の隣で雨具を着ている。
いや…エリアス知ってたのかよ…教えてくれればいいじゃないか…もしかしてこの世界の常識?知らねぇよそんなの。
「えーい!!」
知らない子供がまた俺に水魔法をぶっ放す、朝急いで着替えた服がびしょ濡れだ。肌に服がこべりついて気持ち悪い。
「何度も何度も何度も!!!調子のんなよガキ!!!!!」
そして俺はキレた
日本のお祭りみたいに花火やら、屋台やらを楽しむつもりだったのにっ…こんなっこんなのってないだろ……。海外みたいなっ………いやどちらかと言えば海外みたいなもんかここ…。
ええぇい知るか!!!
俺は怒りに任せて手のひらに魔力を集めた
「【水よ】!!!」
そしてそのまま初級水魔法を俺に何度も何度も水をかけてきたガキにぶつける。
すると子供はびしょ濡れになりキャッキャッと笑った。
「オリエン…お願いだから前隠して……」
エリアスは俺に自分の着ている暗めの赤色のフードが付いたマントを押し付けた。
「えっいいのか?」
「い、いいからっ!!!」
雨具を着ているからそう簡単に髪や目は見えないだろうが、なんだか申し訳ない…。あ、好感度下げるためには図々しいくらいが丁度いいか…!
「じゃあ借りるわ!!サンキュー!!」
マントを羽織る間にもエリアスは何故か耳まで真っ赤にして俺の方を向かない。いつもは穴が開く勢いで見てくるのに不思議だ。
あ、体調が悪いのか…?それは困る。これからエリアスは、すすり泣く天使ことマチルダちゃんに手を差し伸べるのだから。
「調子悪いのか?」
目の前に立って顔を持ち上げる。するとやっぱり顔は赤いし、少し額が熱い。俺ほどではないが水にかかって風邪でもひいたのかもしれない。
「え、オリエンっ!!まっ…ちゃんと前までしめて!!」
「わっ」
そう言うとエリアスはマントをキュッと閉めてきた。
本当にどうしたんだエリアス……
その後暫く水かけ大会は続いたが、俺は吹っ切れてかなりの数の人数をずぶ濡れにした、ザマァみろだ!
あとから聞いたがパーフェストは水を好むらしく、そこから水を掛け合うという祭りが始まったらし。
いや、そこは水大事にしろよ。
「ふー!!濡れた濡れた!!」
エリックは髪も服も最初以外ほとんど躱した俺と比べ物にならないほど濡れて俺達のもとに戻った。その濡れ具合は流石中心部でずっと駆け回っていただけはある。
「濡れすぎだろ…」
「早く服変えないとね…」
エリアスもそれを苦い顔で見ている
「そうだな!!この後は出店と花火もあるしな!!」
あ、そこは日本みたいなんだ。
「服の替えなんて持ってきてないぞ?」
エリックが、行く前からパーフェスト祭の事は全部任せろと胸を張っていたから正直何が何だかわからないまま来てしまった。まぁ…あんなに自信満々だったから大丈夫だとは思うが。
「………あ」
「は?」
「忘れてた」
……………………………。
いや、俺が悪い、此奴に任せすぎた俺が悪いのだ…そう、任せた俺が悪い…うん。
「えっ、僕自分の着替えしか持ってきてない…どうしよう」
エリアスが戸惑っている。
あぁ、エリアスは持ってきてるんだ…そうだよなぁこれ常識ぽいもんな…。ごめんなぁポンコツ二人組で。
「まぁ、何とかなるだろ!!」
エリックが笑い飛ばすが俺もエリックも髪が肌につくぐらい濡れている、普通にこのまま出店に行けるわけがない。
「あっ、グレイデンさんの所行ってみるか?困ったら来てとも言ってたし!」
エリックは少し考えると手を叩いた。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやそんな行くわけが……
◇
「やぁ、オリエンとエリック」
司祭姿の胡散臭いグレイデンが目を細めて笑う
はい、教会来ちゃいました。背に腹は代えられない。
「まさかそんな濡れて来るとは思わなかったよ」
「俺も来るとは思わなかった」
あの後エリアスは一度宿に戻り、俺達はそのまま教会に直行した。普通なら遠慮もするがグレイデンなら遠慮は要らないだろう。
「助けてくれ!!グレイデンさん!!!」
あぁ、元気だなぁエリック。
「いいよぉ、ちょっと待ってて?」
そう言うと俺達は教会の中まで案内された。中は当たり前だがギフトの付与式のまんまで、パーフェスト像を囲むように高そうな木材の長椅子が置かれている。俺達は特にすることもなく適当な椅子に座って待っていた。そして一応なのかわからないがエリックはパーフェスト像に手を合わせていた。
この世界ではそれが常識なのだ。人間は皆女神パーフェストによって支えられている、無神論者なんて誰一人いない。
俺はパーフェスト嫌いだけど。
『女神を嫌うなんてあってはならないぞ』
その時、頭の中に直接あの忌々しい女の声が流れてきた。
「うわっ」
急なことに身体が思わず飛び跳ねる。
「どうしたんだ?」
「なんでも…」
エリックの様子を見るに、俺にしか聞こえていないらしい。
『オリエン、久しぶりだな』
(……やっぱり聞き間違いじゃない、パーフェストか?)
『うむ、その通りだ』
心で念じれば返答が返ってくる、心の声が聞こえるようだ。
(いきなりなんだよ…)
『お主がいたから話しかけただけだ。どうだ、好感度は順調に50をキープしているか?』
(あ〜…あはは好感度なぁ…)
一応毎日冷たい態度をとってみたり、俺の雑用を任せたりしているのだが…一向に好感度は変わらない。その事がバレたら何か言われそうだから俺は適当に誤魔化した。
『それで誤魔化せていると思っているのか』
…誤魔化せていなかった。
(いやぁ…まぁ少し高いかもな…)
『どのくらいだ?お主は私のミスでこの世界に来てしまったわけだし、特別に助言してやる』
(…100)
『は?』
(100…です)
パーフェストはそれを聞くと少しの間黙りこくった。
いや…まぁわかる、俺も吃驚してるもん。
『…ふざけておるのか?』
(いや?)
『お主に授けた好感度メーターは恋愛ゲームをするための物ではなかった筈だが』
(あ、パーフェストて恋愛ゲーム知ってるんだ)
『ふざけておるのか?』
(すみません)
「おまたせー、冷えちゃうでしょ?早いとこ着替えちゃいな」
目を瞑っていたせいで全く気づかなかったが、俺とパーフェストが話している間にグレイデンが服一式を持って来ていた。手渡されたのはタオルと修道服。
「サンキュ…てこれ…シスターが着てるやつ??」
「ごめんねー、エリックのサイズはギリギリあったんだけどさ…オリエンまだ小さいじゃん?大きさが合うのこれぐらいしか無かったぁ」
………顔に全く悪気がない、それどころか楽しんでいるように見える。
流石にこれは無理!!恥ずかしい過ぎる、着れるわけがない。
(女神様…助けてぇ)
『お主身長は幾つだ』
(え…?140だけど…)
『この教会には140センチなら男の修道服があるはずだぞ?』
は??
「なぁなぁ、グレイデンくん…本当にないのか?
俺140センチだぜ?」
「うーん、ないね!」
口角をピクピクさせて睨むといい笑顔でグレイデンは言い放った。
こいつ…嘘つきやがって!!
(女神様この司祭最悪ですよ助けてください)
『…こういう時だけ女神様か?残念だが簡単に女神は人と話せない、グレイデンが渡す気がないなら無理だ。我慢しろ』
お願いしてもパーフェストはそういい切る。やはり此奴はクソ女神だ。
「ほら、あっちの部屋で着替えてきな?」
グレイデンがニヤニヤと笑いながら指差すのは倉庫だ。
「はーい!!」
エリックは修道服を見てかっこいいと喜んでいるが俺は最悪な気分だ。
なんで女装しなきゃいけないんだよ…
しかし、服を一式揃えるほどの金は持ってきていないし、他にあてもない俺は前をずんずん進むエリックの後ろを泣く泣く付いていった。
「やべー!かっけー!!」
倉庫に着くやいなや、エリックはすぐさま着替え、自分の姿にはしゃいでいた。
俺はその隙に着替えを終わらせたのだが…やっぱり女物、スースーするし人前に出たくない。
元の服が乾くまでは宿で毛布にくるまろう…
「おお!シスターみてぇ!!」
エリックが全く嬉しくないことを無邪気に言った。こんな姿もしマチルダちゃんに見られたら死ねる。
「ははは…」
せめてあまり濡れなかったエリアスのマントを羽織っていこう…少し変な格好にはなるがやむを得ない。
「可愛いな!」
「は…はは」
無自覚に俺を傷つけるのはやめてくれっ…というか見ないでくれ…恥だから!!
頭に血が渦巻くのを感じる。
「俺はもうグレイデンに会わずに帰るわ…」
倉庫のドアに手をかけて俺は息を吐いた。
「体調でも悪いのか?」
「そうそう、そんなとこ」
答えるとエリックの顔色が変わる。
「大丈夫なのか!?やっぱり雨具を持ってきてれば…」
エリックは罪悪感から俯く。やめてほしい、嘘をついたことに良心がずきずきと痛む。
「大丈夫だって、寝てればなおる……っ」
話しながら扉を開けると日差しが倉庫の中に入ってきた。しかし、俺の前にある大きな影が日差しを邪魔する。
「ははっ二人とも似合ってるね」
その影を落としたのはグレイデンだ。
グレイデンが変態でちょっと引いてる
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