5話 離したくなくなった
「グレイデン、緊張しすぎないで、どんなギフトを貰っても貴方は私たちの大切な息子よ」
「あぁ、そうだ気負いすぎないようにな」
父と母が俺の頭を馬鹿みたいに撫でる。それが俺はどうしようもなく嬉しくて「うん!」なんて大きな声で返事をした。
俺の人生が最悪になったのは10歳の頃だ。ギフトの授与式、俺はそこで【パーフェクトヒール】を手に入れてしまった。
パーフェクトとつく魔法は全て天才級魔法、特にギフトにつくならばそれは女神から愛された者のみに渡される限られたギフト。そのせいで俺はあの時から神の代行人になってしまった。
人助けとかどうでもいい、俺は普通に生きられればそれでよかったのに、この力がそれを否定する。来る日も来る日も人を治癒して、治癒して、治癒して…気づけば俺は10歳にして、女神の申し子なんてクソみたいな呼ばれ方をされていた。
「さすがグレイデン様です」
その頃だろうか、両親が俺に敬語を使い始めたのは。どんなギフトでも俺は息子じゃなかったのかよ
嘘つき。嘘つきは嫌いだ。
その時、俺は怒る気にもなれなかった。なんか、全部どうでも良くなって偽物の自分を作るようになった。誰にでも優しくて口調も荒くない、本当の神みたいな気持ち悪い奴。両親はそれを喜んでたけど、もうそんなのどうでもよかった。
ゴミな人生でも死ぬ気にはなれなくて、ただこの人生を消費し続けるクソみたいな日々がこれからも続くんだと俺は諦めた。
数カ月経てば何故か女神パーフェストの司祭を押し付けられた。その時は無性に腹が立った。腸が煮えくり返るという程でもない、でも何かを殴りたい気分だ。
また知らねぇ奴の怪我を治しに行った時丁度いい奴を見つけた。黒髪、黒目の子供、俺と同じように多分ゴミみたいな人生歩んでそうな奴。俺は衝動的に名前も知らない5歳くらいの子供を殴った。そして髪を掴んで地面に擦り付け
「綺麗な茶色にしてやるよ
髪も目もな」
と言い放った。正直楽しくはなかった、どれだけ殴っても、暴言を吐いても、苛々はおさまらない。それどころか自分が惨めでさらにそれは増幅する。もう飽きたし帰ろうかと思った、その時彼奴は来た。
それは綺麗な赤髪が揺れて温かい日の匂いがする太陽みたいな子供。
「お前ら邪魔なんだけど」
俺はそいつに一瞬目を奪われた、自信に満ち溢れた目、少し癖のある赤髪、それは女神に本当に愛された人間何だろうと思わせるには十分なものだった。
「あ、エリアス…だっけ?何してんの」
しかし、その目はすぐに俺が地面に擦り付けていた子供に視線を移した。何故か胸が重くなる、何故かはわからない。餓鬼だった俺はそれを怒りだと勘違いした。
「お前子供虐めて楽しいのかよ、情けねぇな」
それにその後に嘲笑われて苛ついたのは確かだ。だけど俺は戦闘に関してはからっきし駄目、簡単に背中を燃やされて退散する羽目になった。自分でもダサいと思う、何とか近くに湖に走り助かったが、それでも火傷した。火傷がヒリヒリと水に当たり痛い、だがそれは不快じゃなかった。逆に自分を喜ばせたのだ。
久しぶりにあんな鋭い目を向けられた。人に攻撃された。俺を人としか思っていない奴に出会った。
そんな興奮が心臓を高鳴らせる。元々あった鬱憤もいつの間にか消えていた。不思議な子供だ、その顔を見てるだけ息が荒くなる。
じんじん痛む背中の火傷を治す気にもなれずに、俺はそこで、黒髪、黒目の子供を引っ張って何処かに消えていくそいつを見つめていた。
「いーなー、彼奴」
それから俺はこの村に住むことにした。クソ田舎で不便なことしかないけど、それでも赤髪の子供にまた会えるかもしれないと思ったから。健気なこったと思う。でもまた会えるその日まで俺はこの村を離れる気にはなれなかった。
一応それでも俺は、僧侶様、司祭様として働いていた、馬鹿みたいに「さすがです僧侶様」「グレイデン様助けてください」て、ほんとすぐ騙される頭が弱い奴らばっか。
本当…うんざりする
5年の月日が経っても全然赤髪には会えないし、田舎すぎて不便だし、もう帰ろうかと思っていたその時、一つの依頼が入った。
「息子が肋骨を骨折した助けてください」
よくある依頼だ。またかとうんざりしたが一つ気になる点があった。その家は俺と赤髪が初めて会った場所に近い。もしかしたら、会えるかもしれない。
俺は確証のないそんな妄想だけでニヤリと口角が上がった。まだ諦めきれていなかったらしい、それがわかった俺は他の依頼そっちのけでその家に向かった。
肋骨の折れた子供の名前はオリエン、猪の魔物に突進されたのが怪我の原因。普通なら骨どころか死んでてもおかしくないが、かなり頑丈な子だ。その依頼をした人の家は少し大きい木造の二階建て、他の家と比べて少し裕福といったところだろうか。この家に赤髪の子がいるかもしれない、そんな胸の高鳴りでまた笑みがこぼれる。これでは変人だ、俺は直ぐに偽物の自分になりドアを叩いた。
扉から出てきたのは依頼主であるオリエンという子供の母マリー。期待し過ぎているせいか、赤髪の子と顔がにている気がする。
マリーは俺に頭を軽く下げると二階に案内した。階段が軋む音が自分の心臓を早くさせる、やっと、やっと会えるかもしれない…あの少年に。
「この部屋です」
マリーがゆっくり扉を開く。少しずつその部屋が視界に飛び込む、立てかけられた剣、あまり使われてなさそうな本棚
「グレイデンさん、この子です」
そして…赤髪の少年。
「っ…!」
俺は夢にも見た再会に目を見開いた。エメラルドグリーンのつり目も、少し癖のある赤髪も、少し日焼けした肌も、全部そのままで少年…いやオリエンはそこにいた。直ぐにでも話したいが、怪しまれたら面倒だ。だから、俺は命が危ないと嘘をつき、子供と母親を外に出そうとした。
しかし
「なんで…?」
黒髪の少年、名前は確かエリアスだったか…それが俺を睨んだ。笑みがこぼれそうになる、多分エリアスは俺の顔を覚えていない。それでもオリエンの為か敵意を向けてくるエリアスは可愛く思えた。睨まれるのは久しぶりだからだろうか、でも今はオリエンと喋りたいんだ邪魔しないでほしい。
「集中するためさ」
そう言うとマリーも馬鹿そうな子供とそれを信じてエリアスを連れて扉の外に出た。
「それでは息子をお願いします!」
そう言うマリーに手を振ると扉が閉まり部屋にはオリエンと俺だけになった。オリエンは俺を睨み警戒心を剥き出しにしている、それに血液が沸騰するのを感じた。
「あの黒髪まだ友達なの?」
まずは友人の話でもして今でも爪を立ててきそうなオリエンを落ち着かせよう。そう思って話すとオリエンは
「エリアスを知ってるのか…?会ったことはないと思うけど」
と警戒を強める、背中の毛を逆立てる猫みたいで可愛い。オリエンまで俺のことを忘れてしまったらしい、俺は1日も忘れたことがないのに。
「はは、言ったろ?顔は覚えたからな、って」
少し凛々しくなっているかも知れないが、あの頃とあまり変わっていない顔を軽く叩く。頬が柔らかくて、もっと触りたかったが警戒心がもっと高くなりそうだからやめた。
「もったいぶるなよ、何がいいたいんだ」
オリエンは俺の手を払うと大きな目を細めた。悲しいことに、とぼけているわけではないらしい。
「本当に覚えてないんだ、俺の背中燃やしたくせにさぁ、加害者は忘れるってほんとなんだなぁ」
そうしくしくと泣くふりをするとオリエンは腕を組んで考え始めた。でも忘れられてるって思うとちょっと嬉しい自分もいる。
なんか…俺変態かもしれない。
そう思っていたらオリエンが何か閃いたのか手を叩いた。
「お前、あの時とクズか」
「あ、やっと思い出してくれた?」
思い出されても嬉しくて頬を緩ませる。あの時のクズ呼ばわりは多分エリアスのことを殴ったからだろう。
そんな俺をただのクズとしてしか見ていないオリエンに聞きたいことがある。
「なぁ、俺世界一の僧侶なんだけど、どう思う?」
これは確認だ。ただこのことを知らないから、俺をクズとして見ているだけかもしれない。俺を知らないこと自体は珍しいけど、偶にいる。そいつらは俺が正体を明かせばみんないきなりペコペコしだすんだけどね。
オリエンは、どうだろう…凄いとか、尊敬するとか、言われた殴るかもしれない…。でもそんな心配いらなかった
「クズが僧侶とか笑わせんな」
瞬間、血流が速くなるのを肌で感じ、笑って吐息が漏れる。自分の顔だし見えないけど、多分顔が赤くなってる。
あぁ、そうだよなぁ、オリエンはそうじゃないよな
流石俺の求めていた人っ!!
『好感度+8 現在の好感度71』
「そっかぁ、はは」
オリエンは興奮する俺を見て顔を歪め、心底気持ち悪い、そんな目で俺を見てくる。
「いきなりなんだよ…」
やばい…やばいかもしれない、これ以上興奮させないでくれっオリエン!!勃起しそうだ!!
「はは、5年ぶりにそんな態度されたよぉ。誰も彼も僧侶様、僧侶様、馬鹿の一つ覚えみたいに言ってきてうんざりしてたんだ」
どうにか声の震えを抑えて言う。すると、また一層オリエンの顔が歪む。軽蔑の目だ、凄く帰ってほしそう。ぞくぞくする、俺初めてだよ、治癒しに来て帰ってほしそうな顔されたの…。
『好感度+2 現在の好感度75』
「そんな顔しないでくれよオリエン、嬉しくなるだろ?」
あぁ…もう勃起した…下を見ればズボンがテントを張っている、この歳で不能になりかけてたのが笑えてくる。
いや、俺は決してそんな好意をオリエンに向けてるんじゃない。これは嬉しさから興奮して勃ってしまっただけだ。
そう生理的現象だ
「お前の変態趣味に付き合わせんな!!もう怪我とかどうでもいいから帰れ、まじで」
『好感度+3 現在の好感度78』
っ………断じて違う、はず。
俺は一応僧侶、オリエンに聞きたいこともあったが今日の目的は治癒。そう、そうなんだ、だからこのまま帰るわけには行かない。
「ごめんごめん、怪我はちゃーんと治してあげるよ
お金も貰ってるしね」
いつも通り仮面を付けようとするが上手くいかない、ニヤケと合わさり変な笑いをしているかもしれない。深呼吸し気持ちを落ち着かせると、オリエンの服に手を伸ばす。確か怪我した場所は肋骨そして、腹から胸にかけて痣が広がっているとのことだ。早く治してやろうと善意で服をめくろうとした
しかしオリエンに手を叩かれてしまった。
まぁ、さっきまでの俺を考えれば、当たり前の反応だ。頑張って小さい体で睨んでいて、懐かない猫みたいでやっぱり可愛い。
「あれ、もしかしてオリエン照れ屋?怪我の具合見るだけだって」
煽ってやるとオリエンはキッと俺を睨んだ。やっぱ猫みたいだ。
「っ、手早く終わらせろよ!!」
「は〜い」
案外素直に手を引っ込めオリエンは目をぎゅっと瞑った。健気な姿に悪戯心が湧き薄い腹を指でなぞる、するとオリエンの肩がビクリと上がった。
「はは、ビクッとした、かわいー」
怒られると思ったが反応は返ってこない、我慢することに決めたようだ。
俺は日焼けしていない白い肌をゆっくりと触り肋骨の確認と痣を見る。可哀想になるほど痣は痛々しく白い肌にくっきりと残っていた。
実は確認しなくても相手の地肌に触れていればそれで良かったりするけど…からかうと面白い反応をするからつい虐めてしまう。今もぷるぷると震える様は可愛らしい。
でも思っていたよりも酷い怪我だ、俺は痣にそっと手をあていつも通りギフトを発動した。
「【パーフェクトヒール】」
俺のギフトは本当に凄いんだろう、ひいていく怪我を見ながらボーっとそう思う。肌も、筋肉も、骨も、内臓も、簡単に治してしまう。今回も簡単に怪我は完治した。別に人助けを絶対したくないわけではない、ただそれを崇高だとか、神のお力とか、言われるのが気持ち悪いだけだ。
みんな病気を、怪我を、治すと「流石ですグレイデン様ー」て、手を合わせる。本当吐き気がする。でもオリエンならそんな事はしないだろう、きっと感謝のかの字もなく俺にまた噛み付くんだ
「はい!終わり!」
痣のあった場所を叩くとオリエンは自分の体を捻って目を大きくさせた。もしかしたら俺の力に感心してるのかもしれない。
「世界一の僧侶だけはあるな…さんきゅ」
おぉ、と小さく感嘆の声を漏らすとオリエンは俺の目を見てそう言った。
っ……………あれ?感謝されちゃった…
いや、それにも驚いたけど、そんなことよりも感謝されても気持ち悪くない。
なんでだろ…?
いつも、いつも、されてきたはずだ、尊敬されて、それで崇拝されてきたはず…。それが気持ち悪かったそのはずなのに何故…
「…尊敬しちゃう?」
自分で何を聞いてるのかわからない。でも俺だって不思議なんだ、オリエンと他の奴らで何が違うのか。
「…あぁ、そうだな、さっきまではあんな事言ってたが…普通に…、そのグレイデンのおかげだし…ありがと」
オリエンに手を握られて、真っすぐに言われる。
あぁ、これは確かに違うわ。何が違うかそれは簡単にわかった、オリエンは俺を見てる。
「俺」だけに感謝してる
他の奴らみたいに俺の「力」に感謝してるんじゃない、だから感謝はあれど尊敬も崇拝も感じさせない。俺をただのグレイデンとして見てる。
『好感度+10 現在の好感度88』
瞬間俺はオリエンに覆い被さった。何をしたいとかではない、ただ離したくなくなったのだ。
「オリエン」
俺に押し倒されたオリエンは口をハクハクさせて驚いている。それを見たらその口をふさいでしまいたくなった。宙ぶらりになっていた教会のネックレスのチャームがオリエンの首に着地する。
俺なんかよりもよく似合っている、後であげようかな。そんなどうでもいいことが頭を過ったその瞬間
「っ…エ、エリアス!!!!」
オリエンが叫んだ。
鼓膜に響きギョッとした。その瞬間、エリアスは扉を蹴破る勢いで開けると、俺に手をかざした。
あー、今回は駄目そうだ
「【リーフ】」
長いのに最後まで読んでくれてありがとうございます!!
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