26話 謝罪
「何で僕を裏切ったの」
「っ…エリアス?」
そこは真っ暗な洞窟の中、俺は暗闇を彷徨っていると子供の頃のエリアスに出会う。
「痛いよ、オリエン」
そのエリアスはぼろぼろで、俺が手をあげた場所全てに傷跡が残っているようだ。
「ごめっ…」
「酷い酷い酷い酷い酷い酷い酷い」
「あっ…」
エリアスは頭を抱えてぐんぐんと大きくなり、大人の姿まで大きくなると、俺の肩を掴んだ。俺はそれに罪悪感と恐怖から震えが止まらない。
「こんなことするな……死ね。」
「っあ」
そこで目を覚ました。背中には冷や汗がびっしょりで、心臓がドクドクと煩い。起き上がって辺りを見渡せばもう日が出ていた。
この夢は最近毎日見る夢だ。最初は子供の頃のエリアスが立っているだけだった。しかし、次第に夢の長さは増えていき、今となっては殺される寸前まで見るようになってしまった。
これは死ぬまでのカウントダウンなのだろう。
まぁ、パーフェストにそう言っても、そんなわけないと一蹴されてしまったのだが。考えすぎなのだろうか。
「あと何日で魔王討伐なんだろ」
漫画では楽しく旅をして仲間を作ってから魔王討伐をしていたからまだまだ時間がかかると思うが…少し嫌な予感がする。
「考えすぎだよな、パーフェスト」
『…………』
「パーフェストさん?」
『…今エリアスたちは魔王城にいるぞ』
「………嘘だろ」
◇◇◇◇
「エリアスっ…今よ!!」
マチルダは咆哮の後に大剣を魔王城を守る幹部に突き刺す。
「【パーフェクトファイヤー】」
十分に魔力を奪い取ったエリアスは無慈悲に骸骨の骨を灰へと変えた。
「これで残るは魔王だけですわね!!」
「怪我があるならニーナの所に来てなのです!!」
「怪我はないわ、ありがとうニーナ」
マチルダはそう言うとニーナの頭を撫でる。すると、彼女は嬉しそうに尻尾をゆっくり揺らした。
「…行くか」
水魔法を自分の口に運ぶとエリアスはそう言った。
「いよいよね」
マチルダも息を整え大剣を背負い直す。それに続いてニーナもアリスも魔王がいるであろう部屋を睨んだ。
ダンジョンのボス部屋の扉のように、荘厳で大きな扉の前でエリアスは手をかざした。
「壊すか」
普通のダンジョンなら簡単に開くがここは魔王城そんな簡単に開くはずがない。そう思い手に魔力を込める。しかし、扉は誰も触れていないのに勝手に地面を擦って開き始めた。
「我の城を何度も何度も壊すでない…」
それから低く反響する声がそう咎めた。魔王の部屋から聴こえる声、間違いなくそれは魔王本人の声だ。
「これは…ご丁寧にありがとうございますわ」
煽るようにアリスは言うと、華美な魔法の杖を振った。
◇◇◇◇
「オリエンどうしたの?顔色悪いよ」
「いや…なんでもない…」
エリックとグレイデンに挟まれながら最後になるかもしれない朝食を食べるがどうに上手く喉を通らない。自分は死んでもいいと言っても、やはり怖いものは怖いのだ。
「寝不足なのか?」
「…大丈夫だって」
この二人には俺が好感度50以下になったからエリアスに殺されるということは言っていない。心配をかけたくなかったのと、俺を守ると言ってエリアスと対峙する可能性が万が一にもあるのが怖いからだ。
「今日は依頼受けるのやめておくか?」
「今日の依頼…なんだったけ?」
自分で受けたはずだが最近寝不足のせいか、憶えていない。だから、聞くとエリックはさらに心配を顔に滲ませた。
「ダンジョン最高層の攻略だろ?」
「…まじか」
やはり漫画の世界、運命は定まっているのだろうか?
いや、まだ分からない。
「ダンジョンの名前は…?」
最後、オリエンがエリアスによって殺されるシーン、それはとあるダンジョン内で起こった。最後に魔力と体力を奪われて、地に伏せたままダンジョンの高層に置いてかれるという、かなりエグい死に方をしていた。
そのダンジョン名前は……
「確か…カルマダンジョンだったはずだけど」
……カルマダンジョン、悲しいことに名前も依頼内容も一致している。なるほど、今日オレは死ぬのか。運命に抗ってみるのもいいが…魔王を倒したエリアスには俺から直接話したいことがある。許されたいとか、謝りたいとかそういうのじゃない。ただ本当の虐めていた理由がエリアスの中で最後まで「嫌いだから」になるのが嫌なだけだ。
「…今日は無理かも、悪いな」
「大丈夫に決まってるだろ!今日は少しでも寝て過ごせ!!」
「そうだね、怪我や病気じゃないと俺でも治せないし…。」
この二人には本当に最後まで迷惑をかける。
本当…最初から最後まで…。いや、そんなこともないか、最初は迷惑かけられてばっかだった気がする。まぁ、それでもやっぱ…
「ありがとな」
俺はそう言って二人を抱きしめた。
『…エリアスが魔王を討伐したぞ』
その瞬間聞き覚えのある声がまた俺の中で響いた。
(…そうか、良かった良かった。これで世界の平和とみんなの命は保たれる訳だな)
『…オリエン、我も今の曲がった物語がどう終着するかはわからない。それでも逃げたほうが命が助かる可能性は高いはずだ』
(なんだよ心配してくれんのか)
『…お主は死ぬべき人間ではない』
(そりゃどーも)
ポンコツクソ女神も実は良いやつなのかもしれない、最後にそう思いながら俺は二人の抱擁を解いた。二人は驚きと照れで混ざり合った顔をしていてなんだか笑えた。
「じゃあ依頼受注のキャンセルして来るな!」
そして二人に手を振ると食堂の外に走り出した。勿論ギルドは通り過ぎる、エリアスに会うにはやっぱりカルマダンジョンに行くのが手っ取り早い。
久しぶりに見るエリアスはどんな風になっているだろうか。漫画で見たままの闇があるが優しい、ダークヒーローのようになってるのだろうか、どちらにせよ俺に向ける視線は冷たいものだろうけど。
宿の前で一度立ち止まると俺はまだまだまだ太陽が登ったばかりの空を見上げた。
◇◇◇◇
「我は人間やただの動物を魔族や魔物に変えて操っていたのだ。お主たちが殺した者は元人間だ!!!」
魔王は二足歩行の肥えたカエルのようで恐怖心は全く無く戦いが始まったが、魔王なだけあってどれだけ魔力を奪おうとも、体力を奪おうとも、なんともないように戦いを繰り広げた。そして、こっちが少し優勢になった時に魔王はケタケタと笑いながらそう叫んだ。どうりで魔族がギフトを持っていたわけだ。
ニーナやアリス、マチルダの表情が曇る。これはまずい。元とはいえ人を殺したという罪悪感から動きが鈍くなるかもしれない。
魔王の姑息な手段に舌打ちをする。やはり魔王もそれが目的だったらしく魔族のみが使える闇魔法で一番動揺したニーナに黒い炎を放った。マチルダがそれに気づきニーナを庇ったおかげで何とかなったが当たっていた死んでいただろう。
「本当、羨ましくなるな。その魔法」
俺の使う基礎魔法は上級ともなればかなり強いが、それでもここまでの破壊力はない。その証拠に何度もそれを当てられた魔王は今もピンピンしている。
「ハッハッハッハッ!!下等な人間には使えん闇魔法だからな!!!」
そう笑うと口の中が見えて、粘膜がドロドロと垂れるのが見えた。
「…きも」
そう言葉を零すと魔王は額に血管を浮かび上がらせ、俺にその闇魔法を何発も何発も放ってきた。
「エリアス様!!」
アリスが叫ぶが彼女の脚にも酷い怪我がある。ニーナが動揺している今、俺にヘイトが向くのが一番良いだろう。
「殺す!殺す!殺す!!!」
魔族と言えば魔物と違って理性があることが特徴のはずだが、今の魔王にそれは全く感じられない。魔法の強さで押し切っている脳筋だ。
「奪うか…」
【rob】魔法を奪えるとは思っていないがそれでも手をかざす。今の状況で魔王に勝つにはそれしかない。
「殺す!殺す!ころ…っ!!!」
その瞬間、魔王の手から魔法陣が消え、闇魔法が俺を襲うことは無くなった。まさかと思い、ステータを開けば【闇魔法】と欄に書かれている。
「…俺も大概チートだな」
魔法が使えなくなった魔王が何度も何度も手を振るうがやはり闇魔法はもう魔王に応えることはない。
「じゃあ、そろそろ死ね【闇魔法⋮パーフェクトファイヤー】」
魔力も体力もできる限り奪い取り、それら全てをこの魔法に注ぎ込んだ。俺から放たれたそれは巨大な魔王の身体を飲み込み、そのまま灰すら残らずに存在を丸ごと消してしまった。
「ついにやったのね…」
マチルダがそう声を漏らすが、顔は曇っている。人間を殺していたことが気がかりなのだろうか。
「あぁ、全て終わった。帰ろう」
ニーナやアリスの頭をそう言って撫でれば二人とも何とか元気になった。昔オリエンにしてもらうと俺も元気になれたことを思い出す。
早くオリエンに会いに行きたい。アルシア王国に入ればいいのだが…。
◇◇◇◇
それは魔王討伐を伝えるために帰還している途中のことだ。近くのカルマダンジョンで高層の魔物が暴れ回り、そのせいで低層の魔物が外に出て村にまで被害が来ているという事で、何故かたまたま帰還途中の勇者パーティーである俺達が行くことになってしまった。しかし、俺以外は疲れも溜まっているし、精神的ストレスもかなりかかっている。だからまだまだ戦える俺一人で行くことにした。三人には先にアルシア王国に帰還してもらう。この村まで来れば、アルシア王国にそのままワープ出来るから俺がいなくても危険は無いだろう。
カルマダンジョン付近は確かに外には低層の魔物がいたり、低層には中層の魔物がいたり、異常が起きていることはすぐにわかった。
「何があったんだ…」
高層のボスと冒険者の戦いにダンジョンが揺れているわけでも無さそうだ。
まぁ、このくらいのダンジョンなら何があっても大丈夫だろう。そう心乱されることないと思っていた。
しかし、高層につくとその考えはバラバラに消えていった、それこそ灰すら残らずに。何故なら高層で魔物を食い止め、戦っていた冒険者はオリエンだったからだ。
「オリエンっ…」
オリエンは白いライオンのような魔物に囲まれていた。魔力を見る限り一匹一匹がA級はあるのは確実、今回のダンジョン騒ぎの理由は彼奴が発生したことによるものだろう。
オリエンは大きな怪我はしていないが、かなり疲労が溜まっているようで息が浅い。
「【闇魔法⋮パーフェクトリーフ】」
俺は瞬時にギフトでライオン共の魔力を奪うと、魔王から奪った魔法でドス黒い木を出し、オリエン以外の魔物を縛り付け、突き刺した。
「っ…?」
突然のことに驚いたようでオリエンは目を見開いている。そんなオリエンを見ていると頬が綻んだ。
やっと、やっと奪い返せる。もう邪魔な奴らは何処にもいない。もし嫌がったら、縛り付けてでも…
「エリアスっ!!!」
そう思っていた思考はそう発したあとのオリエンの行動で全てパーになった。
オリエンの匂いが久しぶりにする。それが頭の中の思考を鈍らせた。
「っあ、悪い…」
しかし俺に抱き着いた後、直ぐにオリエンは手を離した。俺はそれが嫌で目を細める。
「あの…エリアスに言いたいことがあるんだ」
そう俺を見つめるオリエンの顔は真剣で、嫌な思い出を思い出させる。追放の時も、俺を拒否する時もいつもこんなふうに真剣に俺を見つめていたせいだ。だから、それ以上言葉を聞きたくない。俺はオリエンをそのまま押し倒した。案の定オリエンは驚きで言葉を失った。
そう、そうやって話さないでくれ…
「っ…まって、まだ殺さないでくれっ…」
オリエンは顔を青くして訴えた。俺がオリエンを殺すわけないのに、酷い勘違いだ。
それでも今までの仕返しとばかりに何も言わずにただオリエンの首元に顔を埋める。ずっと、ずっと、欲しかった体温がそこにはあった。
「っ…」
オリエンは肉食獣に組み敷かれる草食動物のようにぷるぷると震えていてそれが可愛くてついにニヤけてしまいそうになる。しかし、オリエンの首にいつもかけてあるグレイデンのネックレスが見えて苛立った。本当に心が狭くなってしまったと自分でも思う。しかし、どうしてもそれが嫌で服に隠れていたそれを軽く引っ張った。
「っやめ!!」
オリエンがそれを止めるのが尚苛立たせる。しかし、引っ張った後にネックレスに付いていたものは女神のチャームではなかった。
「は……」
声が漏れる、当たり前だ。だってそこについていたのは馬鹿な俺がオリエンにプレゼントしようとした指輪そのものなのだから。
「なんだよ、これ…」
オリエンは昔それを捨てたと俺に確かに言っていた。でもオリエンがいまつけている指輪は紛れもなく俺が選んだ指輪。意味がわからない。
俺のことが嫌いなんだろ?気持ち悪いんだろ?
「…これは」
オリエンは俺の手からそれを奪うと目に涙を浮かべた。別に泣かせたかったわけじゃないのに。
「なぁ、オリエン…俺のことが嫌いなんだろ?」
◇◇◇◇
どうしてこうなってしまったのだろう。俺はただエリアスに説明をしようとしただけなのに。
死ぬ前に一度は身につけたいという欲求に負けて、ネックレスのチャームがわりに隠して付けてきた指輪。それを俺は震える手で握りしめた。
自分は壊しておいて馬鹿のようだが、エリアスがいつこれを壊してしまうか考えると涙が溢れる。しかし、エリアスはその後俺に震えた言葉で言った。俺のことが嫌いなんだろ、と。
正直嫌いなはずがない。大好きだ、でもそんなこと言ってしまっていいのだろうか。ただの命乞いだと思われる気もする。
「どうなんだよ…」
そういうエリアスの顔は酷く辛そうで、ここで嘘をつくとは駄目な気がした。
「…好き。大好きだよ」
そう言ってエリアスを抱きしめる。久しぶりに本心が言えたことが嬉しくて涙を止めることが出来ない。そのせいでエリアスの肩を濡らしてしまう。
「…っ嘘だ」
しかし、エリアスはやはり俺を信じることはなかった。俺がしてきたことを考えれば当たり前だ。
「嘘じゃない…でも信じなくていい。ずっとずっと悪かった…ごめんっ」
エリアスにそう言うと地面に二粒の雫が落ちた。そして、次の瞬間エリアスから抱擁が返される。久しぶりのエリアスの体温は昔と何も変わっていなかった。
次のはなしで最終話です!!最後まで読んでくれてありがとうございました!!




