21話 追放
「オリエンー今日も依頼受けないのかぁ」
エリックが朝から俺の後ろを付きまわる。まだ依頼を受けなくなって三日目なのだが、耐え性がない。それに今日は世界と俺にとって大事な日なのだから静かにしてほしい。
「…今日は一人で依頼受けてみたらどうだ?」
「えー、一人つまんねぇよ!」
一つ案を出してもエリックは首を縦に振らない。今日は特にエリックがいないほうが俺にとっては都合が良いんだがそうはいかないようだ。
「あ、エリアス誘うか!」
聞いた瞬間俺の中で時が止まる。
「エリアスは…やめたほうがいいんじゃないか。寝不足みたいだし」
そして、適当な嘘をついた。するとエリックは「えー」と顔を歪ませる。
「最近付き合い悪いと思ったら、夜何かしてんのか?」
「どうだろうな」
「ちぇー仕方がないし…一人で行こうかなぁ」
なんとかエリックがエリアスを誘わない方向に話が進みほっとする。息をふっと吹くと俺はエリックの背中を叩いた。
「じゃあ今日はその金で奢ってくれよ」
「それはずるいだろ!!」
エリックは目を見開き大袈裟にムッとする。しかし「いつも奢ってやってるだろ」と言えばバツの悪そうな顔をして、口を開いた。
「わかった…でも食いすぎるなよ!!」
「…おう」
そう俺に言い放っとエリックは足早に廊下を走った。冒険者ギルドへ言って依頼を受注するためだろう。立ち去るエリックの顔を見れば不満げだが口元は笑っている、多分夜に食べる物でも考えているのだろう。
「どうせなら久しぶりにみんな呼んで食べようぜ!!」
手を振るとエリックはそう笑顔を零した。エリックが角を曲がったところで手が力なく落ちる。
「みんなで、か…」
俺もみんなと飯が食べたい。でもそれはもう一生叶わない願いだろう。何故なら俺は今日エリアスをこのパーティーから追放するのだから。
漫画では確かパーティー全員が揃っているところとで追放を言い渡していたが、マチルダちゃんやグレイデンならともかく、俺とエリアスが喧嘩したくらいにしか思っていないエリックの目の前で宣告するのは酷だ。エリックがいない今がチャンスだが特にアクションを起こさずに普通に言えばいいだけなのだろうか…よく分からない。
『普通に告げればよい。もう好感度は50をきっているからな』
考えているとパーフェストが話しかけてきた。また虐めながら言わなくちゃいけないと思っていたから嬉しい誤算だ。しかし、それだと疑問もある。
(本当か…?エリアスって追放された恨みで覚醒するんだろ?サッパリ言ったら恨み減るんじゃねぇの?)
『問題無い。厳密に言えば追放された恨みだけで覚醒するわけではないからな』
(へー…)
また漫画をしっかり読んでいなかったせいで弊害が出てしまった。俺はエリアスの最初の覚醒シーンなんて全く覚えていない。
ほんと前世の俺はマチルダちゃんしか見てなかったんだな…
それがどうしてこんな感情をエリアスに向けるようになってしまったのだろうか、考えてみるがそれに意味はない。
「じゃあ、行くか」
考えるのをやめると俺はエリアスの部屋へ足を進めた。これで行くのは最後になるだろう嫌な思い出しかない部屋、そこからは珍しく音が聞こえる、人の声だ。しかし、エリアスの声ではなく柔らかな声
「マチルダちゃん…?」
声の主であろう人の名前がつい口から零れる。よく耳を澄ますと、どうやらエリアスと話をしているようだった。
一度触ったドアノブから手を離す。誰もいない所でエリアスに追放を言い渡そうと思っていたからだ。しかし、少し考えてまた手を伸ばす、逆に好都合かもしれないのだ。漫画でエリアスが追放されたとき、マチルダちゃんも一人だけエリアスを庇って、一緒にパーティーから抜けた。つまりマチルダちゃんも一緒にいる今こそ追放するベストタイミングというわけだ。
マチルダちゃんもきっと俺なんかがいるパーティーよりも、エリアスと一緒に新しい仲間を作ったほうが幸せだろう。
いっそのことエリックやグレイデンもエリアスについて行ったほうが幸せになれるだろうし、一緒に行かせるかと頭の中で過ったが、物語が捻れるのが目に見えたので流石に無理そうだ。現実逃避のように頭に浮かぶあれこれを自分の頬を叩き真っ白にする。そして、ドアノブを回した。
「オリエン…」
扉が開いて俺が無遠慮に入ってきたことにすぐに気づいたのはマチルダちゃんだった。エリアスはというとただ下を見つめていて感情が読み取れない。
「どうかしたの?」
そんなエリアスの代わりにマチルダちゃんは椅子から立ち上がると俺に問いかけた。
「あぁ、エリアスに伝えることがある」
「伝えること…?」
マチルダちゃんは嫌な予感がしたのか声を震わせる。俺がエリアスに散々してきた事をマチルダちゃんは少なからず知っている、きっと今から虐めが始まるとでも思ったのだろう。
『マチルダがギフトを発動させたぞ』
その時いつも通りパーフェストが俺にそう伝える。逆に今はギフトを使ってくれていたほうが都合が良い、だから俺は心の中でもエリアスを嫌いなように演技し、まだ光を反射させない目で下を俯くエリアスの前に立った。
「エリアス、お前をパーティーから追放する。」
そして言い放つ。エリアスはピクリとも体を震わせずに目を伏せるだけだった。しかしマチルダちゃんは対照的に目を広げ驚愕する。
「どういう意味…」
「そのまんまの意味だよ。エリアスはこれから俺らと関わるなそういうこと」
マチルダちゃんの動揺を抑えることなく俺はエリアスに冷たく睨む。そしてもう用はないと直ぐにその場を離れようとした。
「待ってっ…流石にそんなことってないわ」
しかし、マチルダちゃんに手を掴まれてしまう。流石に傍観は出来なかったらしい。
「そんなにそいつが可哀想なら付いてけばいいだろ」
俺はそう言ってマチルダちゃんの手を振り払った。俺のことを信じてくれていたマチルダちゃんにも酷いことをしてしまって胸が痛む。でもここで突き離さなければ、もしかしたらマチルダちゃんがこのパーティーに残ってしまうかもしれない。念には念を入れなければならないのだ。
「じゃあな」
そう二人に言い残すと、俺はエリアスの香りがする部屋から足音を鳴らして外に出た。これで次に会う時は最後、エリアスが俺を殺すときだろう。
「まって」
マチルダちゃんの制止の声を背中で聞きくと俺はそれを扉で閉じ込めた。
(おわった…)
俺の人生で一番しなければならなかったことはどうにか終わった。これからは普通に過ごせる。でも、グレイデンは何故か俺を信じ続けているがエリックには嫌われてしまうかもしれない、子供の頃からずっと一緒だったエリアスにもエリックにも嫌われてまうのは悲しい。だけど死なれるよりかはマシだ。
俺はそう自分を慰めながら今度は自分の部屋の扉を開けた。部屋には太陽の光で立ち込めていて、どうにも居心地が悪い、衝動的にカーテンを閉めるとベッドにそのまま雪崩込んだ。
「…最低だな」
今までしてきたことを思いながら自分を責め立てる。そうでもしなければ誰かに縋ってしまいそうだから。しかし、そんなことをしても弱い俺はベッドから起き上がって棚に手を伸ばしてしまった。そこには手のひらサイズの小さな箱がポツンとしまわれている。それに手を伸ばし開ければ真っ赤に輝く宝石がカーテンから漏れ出る光を反射した。この指輪はエリアスが俺にくれようとしてた物だ。持っているのは危険だが捨てることはできずにずっと棚の奥にしまっていた。指輪をケースから取ると指にはめてみるが、自分の指じゃその光には見劣りしてしまう。ぼーとそれを見つめるとまた視界がぼやけた。
最後まで読んでくれてありがとう御座います!!!




